クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第15部

第三章 激闘①

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 ……ゆっくり、と。
 白い鎧機兵は、長剣の切っ先を上げた。
 対峙する鎧機兵の両腕には、反りの入った二本の短剣が握られている。
 分類としては軽装型。
 頭部にある一角獣のような角が印象的な、菫色の鎧を纏った鎧機兵。
 アリシアの愛機・《ユニコス》である。

 《ユニコス》は、双剣を下げたまま構えていない。
 一方、白い鎧機兵――サーシャの《ホルン》は円盾も身構えた。
 盾を前に、長剣を水平に。刺突の構えだ。
 闘技場は静寂に包まれていた。
 大勢の観客が、誰一人声を上げない。
 実況すべき司会者も、二機の動きを静かに見守っていた。
 そして――。
 
 ――ズガンッッ!
 雷音が轟く!

 《ホルン》が《雷歩》で地を蹴り、真っ直ぐ跳躍したのだ。
 その勢いのまま全身で刺突を繰り出す!
 対し、《ユニコス》は、

『――ふっ!』

 右の剣を下段から振るった。
 二つの刃が交差する。
 ――ギィンッッ!
 火花が散った。途端、《ホルン》の突進の軌道が変わる。
 《ユニコス》が剣で方向を逸らしたのである。
 ――ガガガガッ!
 あらぬ方向に飛んだ《ホルン》は両足で地面を削り、勢いを殺した。
 そして竜尾を大きく揺らして、その場で反転。
 しかし、すぐに息を呑む。
 目の前に、左の剣を振り上げる《ユニコス》の姿があったからだ。
 態勢を整え直した一瞬の隙に、間合いを詰めて来たのだ。

『――ッ!』

 咄嗟に《ホルン》は円盾を構えた。
 直後に襲い掛かる強い衝撃。盾と剣の間に再び火花が散った。
 《ホルン》の両膝が沈み込んでいく。
 しかし、それでも斬撃は凌いだ。
 そうして続く、盾と剣による数瞬の拮抗。
 それを破ったのは、《ユニコス》の右の剣だった。
 すっと構えて、横薙ぎを繰り出そうとする――が、

 ――ガンッ!

 その前に《ホルン》が盾を払った。
 《ユニコス》が仰け反り、大きくバランスを崩す。
 刹那、《ホルン》はぐるんと反転した。
 白い竜尾が勢いよくしなり、《ユニコス》に襲い掛かる!
 ――が、 

 ――ズガンッ!
 次の瞬間、《ユニコス》の姿は消えていた。

 咄嗟に《雷歩》を使って後ろに跳躍。竜尾の一撃を回避したのだ。
 白い竜尾を、水中を泳ぐ大魚のように動かして、態勢を整え直す《ホルン》。
 間合いを取り直した二機は、静かに対峙した。

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――ッ!」」」

 そこで初めて大歓声が上がる。
 観客の中には、興奮して立ち上がる者もいた。

『素晴らしい! まさに一進一退の息を呑む攻防です! 《業蛇》討伐の英雄同士! その実力は拮抗するのか!』

 と、司会者も声を張り上げる。
 二機は動くこともなく、互いの様子を窺っていた。
 操縦席で、サーシャは喉を鳴らす。

(アリシア……やっぱり強い)

 攻防としては、ほぼ互角。
 観客の誰の目にもそう映っただろう。
 しかし、それは見かけだけだとサーシャは感じていた。
 サーシャは最初から全力だが、アリシアの方にはまだかなり余力がある。
 初手は様子見。攻めとしては八割といったところか。
 それでようやく互角なのだ。
 一手でも読み間違えれば、瞬殺されていたかもしれない。
 まるで薄氷の上を歩いているような気分だった。
 操縦棍を握る手にも思わず力が籠る。
 緊張を隠せずにいた――。



(……サーシャ)

 一方、アシリアはアリシアで緊張していた。
 蒼い双眸を鋭く細める。
 初手の攻防。
 アリシアとしては、まだ全力ではない。
 サーシャの本気度を確認するため、あえて抑えた攻防だ。
 しかし、それを少し後悔する。
 サーシャの実力は、自分の想像以上だった。
 学校での模擬戦など参考にもならない集中力。
 普段ならば一撃ぐらいは当てられるというのに、すべて凌がれてしまった。
 今日のサーシャは、紛れもない強敵だった。

(探りなんてせずに全力で仕留めるべきだったかもね)

 微かに苦笑を零す。
 今の攻防で、サーシャは警戒するようになるはずだ。
 次は、より手強くなる。
 そう感じていた。

(けど、それが望むことでもあるしね)

 アリシアは不敵な笑みを見せて、グッと操縦棍を握りしめた。
 サーシャは強い。
 強者とのギリギリの攻防は、アリシアも望むところだ。
 そして、自分には十傑としての矜持もある。

(たかが学生の称号。けど、私にとってはそれなりに意味があるものなのよ)

 それは、アリシアの努力の成果だ。
 決して才能だけで得たものではない。自分は天才などではないのだ。

(だから、簡単には負けられないのよ!)

 アリシアは眼光を鋭くした。
 同時に《ユニコス》が大地を蹴った!
 《雷歩》を使った加速。
 双剣を十字に構えて、《ホルン》へと突進する!
 それを《ホルン》は長剣の刀身に左手を添えて、正面から受け止めた。

『――クッ!』

 大きく震える操縦席の中で、サーシャが強く歯を喰いしばる。
 交差する三つの刃。衝撃に互いの剣が軋んだ。
 さらに、

 ――ガガガガガガッ!
 全重量を乗せた《ユニコス》の突進は圧倒的だ。
 《ホルン》は火線を引きながら、後方に押しやられた。

『――《ホルン》ッ!』

 サーシャが愛機の名を呼んだ。
 途端、《ホルン》の両眼が光り、膝を曲げて重心を前に傾けた。
 火線は徐々に弱まり、《ユニコス》の突進は止められる。
 刻まれた線に、もうもうと土煙だけが残った。
 三本の剣を交差させた状態で二機は沈黙。
 ――が、

 ――ガンッ!
 渾身の力で《ホルン》が双剣を払いのけた。
 互いに後方に跳躍する。が、今度は間合いを取ることをしない。
 ほぼ同時に、二機は前へと跳躍した。

 そして――。
 ――ガギィンッッ!
 互いの愛機が、再び剣をぶつけ合う!

『行くわよ! サーシャ!』

『うん! 負けないよ! アリシア!』

 少女たちは叫ぶ。
 ――互いの想いを乗せて。
 今はただ、全力を尽くす時。
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