クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
467 / 499
第15部

幕間一 見据える者

しおりを挟む
「……なかなかどうして」

 暗い室内で、男は呟く。

「見ごたえのある試合だったな」

 指と足を組んで、ソファに座ったゴドーの呟きだ。

「お前も、そう思わないか?」

 ゴドーは、おもむろに首だけを振り向かせた。
 そこには静かに佇む一人の男がいた。

「……は」

 ――《九妖星》の一角。
 《金妖星》ラゴウ=ホオヅキが、小さく頭を垂れた。

「未熟ではありますが、確かな才を感じました。特に髪の長い少女の方には――」

 ラゴウは視線を舞台に移した。
 そこには銀髪の少女と抱き合う、長い髪の少女がいる。

「あの盾を両断した闘技。二つの刃を絶妙のタイミングで重ね合わせなければ、あの威力にはなりません。あの見極めは、実に見事なものでした」

 そこで苦笑を浮かべる。

「ただ、その後、使用しなかったのは、技の威力に尻込みしたようでもありますが」

「ははっ、それは仕方がないだろう」

 ゴドーは笑う。

「サーシャちゃんはアリシアちゃんの親友だからな。あの威力を見ては、流石に使う訳にはいかないさ。それにしても」

 舞台に見やり、ゴドーはニマニマとあごを擦った。

「アリシアちゃんは、本当に若い頃のシノーラちゃんにそっくりだ。その才も、その美貌もな。実はな、学生時代、俺もシノーラちゃんを狙っていた時があってな。まあ、結果的に諦めたのだが……」

「……そうなのですか?」

 ラゴウは少し意外そうな顔をした。

「主君が狙った女性を諦めるなど珍しい」

「俺とて、たまには退くさ」

 ゴドーは、苦笑を浮かべた。

「あの頃、ガハルドとシノーラちゃんは、よくぶつかり合っていたが、俺とアランの目からすれば、あいつが本気でシノーラちゃんに惚れていたのは丸分かりだったしな。親友の惚れた女を奪うことだけは俺にも出来んさ」

 数瞬の沈黙。

「…………………は?」

 ラゴウは、目を見開いて驚いた。

「……今、なんと言った? ヌシのそのような台詞は、初めて聞いた気がするぞ」

 と、つい、主君と知り合った頃の調子で呟いてしまったラゴウは「これは失礼しました」と、コホンと喉を鳴らした。
 耳ざとくそれを聞いたゴドーは、ソファの背もたれに両肘をかけつつ、

「お前はもっと砕けてもいいと思うぞ。他の《妖星》のようにな」

「いえ。吾輩は御身に忠誠を誓った身ですから」

「本当に頑固だな。お前は。だが、それにしても」

 そこでゴドーは皮肉気に笑った。

「お前が思わず素になるぐらい驚く台詞だったのか? 俺はそこまで節操なしか?」

「今さら、何を仰られるのです」

 口調こそ元に戻したが、ラゴウは当然のように告げた。

「主君が女よりも友情を選ぶなど、吾輩以外の《九妖星》。そして奥方さまたちや、姫がお聞きすれば発熱を疑いましょう」

「……えらい言われようだな、おい。まあ、構わんが、それよりも」

 ゴドーはまじまじと舞台の二人の少女を見据えた。
 そして「むむ」と唸る。

「やはり惜しいな」

 天井を見上げて、嘆息する。

「二人とも、実に素晴らしい美貌だ。こうやって見ると系統は違うが、二人ともスタイルがとても美しい。特にサーシャちゃんのおっぱいには俺も目を奪われたぞ。操手衣ハンドラースーツ。あれは実に良いものだ」

 パシン、と額を打つ。

「後で、こっそりセド=ボーガン殿に感謝状でも贈るか。ともあれ、あの衣服スーツのおかげで改めてサーシャちゃんたちの魅力を確認したぞ」

 そこで、ブツブツと呟き始める。

「惜しい。実に惜しいな。あの男にくれてやるぐらいなら、いっそ俺が奪ってしまうか? 年もギリギリ俺の守備範囲には入っているしな。しかし、アリシアちゃんの方はシノーラちゃんにそっくりすぎる……いや、シノーラちゃん本人はガハルドにくれてやったのだし、娘の方なら……。サーシャちゃんの方も実に素晴らしい。今回の件が上手くいけば、アランの奴も独り身でなくなるしな。なら、あの子が嫁いでも――」

 あごに手を置き、一拍おいて。

「いっそ、二人とも俺が幸せにしてやるか」

 その呟きに対し、

「……主君は、やはり主君ですな」

 ラゴウは、呆れるように嘆息した。

「ですが、あの少女たちは、主君が親友とお呼びになられている方々のご息女たちなのでしょう。冗談はほどほどにされた方がよいかと」

「まあ、そうなんだが、だからこそ、俺は結構真剣に悩んでいるんだぞ?」

 と、振り向いて告げる主君から視線を外し、ラゴウは再び舞台を見やった。

「……サーシャ=フラム」

 ポツリ、と勝者の名を呟く。

「彼女は闘技の基礎がしっかりと出来ています。攻防のバランスも良く、ここぞという攻めの見極めも大したものです。そして」

 ラゴウは眉をひそめた。

「ミランシャ=ハウルが別格なのは言うまでもありませんが、レナという女。彼女も相当なものです。一回戦では全く底を見せることはなかった」

「……手強いな」

 ゴドーが神妙な声で呟く。ラゴウは「はい」と頷いた。

「どちらも、最上位と呼んでもいいほどの格上。サーシャ=フラムでさえ、あの娘にしてみれば格上の相手でしょう」

「………そうだな」

 ゴドーは手で瞳を覆った。

「分かってはいたが、困難な試合ばかりになりそうだ」

「確実にそうなるでしょうな」

 ラゴウは、視線を遠くして語る。

「悔やまれるのは時間の無さです。せめて、後五日もあれば、仕上がりもまた違っていたのですが……」

「結局、を教えたのか?」

 ゴドーが尋ねる。ラゴウは「はい」と答えた。

「吾輩も不本意でしたが、この短期間で《黄道法》の闘技の基礎も知らない者を一流以上に仕込むには、に頼らざるを得ませんでした」

「……そうか」

 ゴドーは珍しく渋面を浮かべた。

「出来れば、それは避けたかったんだがな」

「申し訳ありません」

 ラゴウは、深々と頭を下げた。

「すべては吾輩の力不足です」

「いや、無茶を言ったのは俺の方だ」

 ゴドーは、かぶりを振った。

「いくらお前でも無謀だっただろう。ましてや、お前にとっても初めての試みだっただろうしな。むしろよくやってくれた。それに――」

 そこで、少し皮肉気に笑う。

「考えようによっては、案外都合がいいのかもしれんしな。アランとの酒の席でもセッティングしてやれば、後は勢いで……」

 と、呟いたところで歓声が鳴った。
 見ると、二つの門から、第二試合の選手が出てくるところだった。
 一人はこの国の王女。
 年の頃は十四、五ぐらいか。
 髪で瞳を隠しているが、美しい顔立ちをしており、そのプロポーションは年齢離れしている。将来的には、サーシャやオトハにも劣らないであろう素晴らしい逸材だ。
 異国への留学経験があるらしく、彼女は闘技も会得しているようだ。
 一回戦の試合では、トリッキーな闘技を披露していた。
 彼女もまた格上の敵と言えよう。

 そしてもう一人は――。

「……『よくやった』。その言葉が吾輩に相応しいかどうかは」

 ラゴウは、静かな声で告げる。

「すべては、この一戦で分かるでしょう」

「……そうか」

 ゴドーも静かに答えた。
 舞台には二機の鎧機兵が現れた。司会者の紹介が轟き、観客は熱狂する。
 その声を伴奏に、二人の男が沈黙して見据える。

 そうして――。

「さあ、シェーラ君」

 ゴドーは呟いた。

「見せてもらうぞ。君の愛の底力をな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...