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第15部
第四章 反逆の騎士①
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――ふう。
愛機の中で、シェーラ=フォクスは小さく息を吐いた。
感触を確かめるように操縦棍を強く握る。
彼女の愛機・《パルティーナ》。
分類としては、軽装型の騎士タイプ。装甲の色は紫だ。
シェーラの髪を彷彿されるような飾りが頭部にあるのが印象的な鎧機兵であり、反りの入った、とても長く、刃が分厚い剣――長尺刀のみを装備した機体だった。
恒力値は五千二百ジン。本大会においては第四位の出力になる。
騎士団内でも間違いなく上位だ。フォクス家の財力で手に入れた鎧機兵だった。
この国においてなら、最強クラスと呼んでもいい機体だろう。
それが今や、とても頼りなく感じる。
(いえ。頼りないのはシェーラの方ですか……)
シェーラは視線を前に向けた。
そこにいるのは山吹色の機体。鉄球を装備した鎧機兵だ。
機体名は《クルスス》。
シェーラにとっては、将来の主君とも言える王女殿下の愛機だ。
その恒力値は《パルティーナ》をも上回る五千九百ジンとのことだ。
(致命的な差ではありません。問題は――)
シェーラはグッと唇を噛みしめた。
二機は、静かに対峙していた。
『――臆するな』
不意に、男性の声がシェーラの脳裏に響く。
『戦う前から臆していては勝敗以前の問題だ。心を制して観察せよ。たとえ、格上相手でも必ず隙はあるものだ』
(……先生)
シェーラは再び小さく息を吐いた。
師事したのはたった四日間。
けれど、彼はシェーラが最強と信じる操手だった。
――あの夜。
アランの友人を名乗る男性に付き添っていたのが、彼だった。
アランの友人――ゴドー叔父さま(そう呼べと言われた)の従者。ゴドー叔父さまは彼にシェーラを鍛えるように命じたのだ。
シェーラとしては、どうして知り合ったばかりの男に師事しなければならないのかと不満だったが、翌日、アラン叔父さまにも、ゴドー叔父さまが友人であるということを確認したので、付き合い程度のつもりで受けた。
しかし、受けて唖然とした。
フォクス家の庭園で訓練を受けようと思ったのだが、ここでは狭いと言われて、場所を『ラフィルの森』に変更した。
そうして、そこで見た彼の愛機。
それは、完全に別格の機体だった。
――その姿も、その恒力値においてもだ。
まるで神話の中の怪物を彷彿させるような威容。
もはや、異形であるとさえ呼んでもいい鎧機兵だった。
シェーラは、そんな怪物の師事を受けた。
《黄道法》の基礎から、みっちりと鍛えられたのだ。
出会った時から、師はまるで武人のような雰囲気を持つ人だと感じていたが、まさにその通りの性格だった。指導に関しては鬼そのものである。
特に鎧機兵での模擬戦など、嵐を前にして立ち向かっているような気分だった。
武器を振るうだけで大地が粉砕されて、木々が宙に飛んでいくのだ。
ほとんど冗談のような光景だった。
恐らく彼は、ゴドー叔父さまの従者であると同時に護衛者でもあるのだろう。
しかし、それでも師の力は度を越している。
その気になれば一機で騎士団を壊滅できるのではないかと思うような実力だった。
――果たして、師は何者なのか?
そして、そんな彼を従えるゴドー叔父さまは一体……?
そんな疑問を抱いたが、ともあれ、師のおかげで、シェーラの実力はたった四日で飛躍的に伸びた。今ではいくつかの闘技も使えるぐらいだ。
だが、それでも――。
『ヌシが勝ち抜ける可能性は低い』
師は告げる。
『ヌシには才覚がある。それだけにこの手段を伝えることは吾輩としては不本意だ。出来ることならば勧めたくはない。だが、主命に全力を尽くさぬのは吾輩の矜持に関わる。ゆえに、ヌシにこの手段を教えよう』
そうして、師はある手段を教えてくれた。
(……先生)
シェーラは双眸を細めて、王女殿下の機体を見据える。
(シェーラは必ず勝ちます。たとえ、どんなリスクを背負っても。アラン叔父さまと結ばれるために。そして先生の師事に報いるために)
覚悟を決める。
『……王女殿下』
シェーラは、未来の主君に声をかけた。
『殿下に刃を向ける不敬。何卒お許しください』
『き、気にしないで、ください。これは試合です、から』
鈴が鳴るような可憐な声で、王女殿下が答える。
その声を聞けば、騎士たち――特に男性騎士は無条件で守りたくなるに違いない。
シェーラも、かなり庇護欲が刺激された。
しかし、王女殿下は間違いなく強者なのだ。
恐らく全騎士団の中でも、勝てる者がいないぐらいの。
シェーラは気を引き締め直した。
『お心遣い、感謝いたします。殿下』
――すうっと。
《パルティーナ》が長尺刀を上段に構えた。
『殿下のお心遣いに恥じぬよう、私も全力を尽くす所存です』
『は、はい』
対する《クルスス》は、鉄球の柄を強く握りしめた。
『わ、私も頑張り、ます。ま、負けませんから』
気弱で知られる王女さまが、おどおどしながらも必勝宣言をする。
その声には強い意志を感じた。
どうやら王女殿下にも負けられない理由があるようだ。
だが、それはシェーラとて同じことだ。
『では、王女殿下』
『は、はい!』
二機が、静かに重心を落とした。
『いざ尋常に』
『しょ、勝負、です!』
言って、《クルスス》が腕を勢いよく上げた。
――第二回戦・第二試合。
遂に、その火蓋が切って落とされた。
愛機の中で、シェーラ=フォクスは小さく息を吐いた。
感触を確かめるように操縦棍を強く握る。
彼女の愛機・《パルティーナ》。
分類としては、軽装型の騎士タイプ。装甲の色は紫だ。
シェーラの髪を彷彿されるような飾りが頭部にあるのが印象的な鎧機兵であり、反りの入った、とても長く、刃が分厚い剣――長尺刀のみを装備した機体だった。
恒力値は五千二百ジン。本大会においては第四位の出力になる。
騎士団内でも間違いなく上位だ。フォクス家の財力で手に入れた鎧機兵だった。
この国においてなら、最強クラスと呼んでもいい機体だろう。
それが今や、とても頼りなく感じる。
(いえ。頼りないのはシェーラの方ですか……)
シェーラは視線を前に向けた。
そこにいるのは山吹色の機体。鉄球を装備した鎧機兵だ。
機体名は《クルスス》。
シェーラにとっては、将来の主君とも言える王女殿下の愛機だ。
その恒力値は《パルティーナ》をも上回る五千九百ジンとのことだ。
(致命的な差ではありません。問題は――)
シェーラはグッと唇を噛みしめた。
二機は、静かに対峙していた。
『――臆するな』
不意に、男性の声がシェーラの脳裏に響く。
『戦う前から臆していては勝敗以前の問題だ。心を制して観察せよ。たとえ、格上相手でも必ず隙はあるものだ』
(……先生)
シェーラは再び小さく息を吐いた。
師事したのはたった四日間。
けれど、彼はシェーラが最強と信じる操手だった。
――あの夜。
アランの友人を名乗る男性に付き添っていたのが、彼だった。
アランの友人――ゴドー叔父さま(そう呼べと言われた)の従者。ゴドー叔父さまは彼にシェーラを鍛えるように命じたのだ。
シェーラとしては、どうして知り合ったばかりの男に師事しなければならないのかと不満だったが、翌日、アラン叔父さまにも、ゴドー叔父さまが友人であるということを確認したので、付き合い程度のつもりで受けた。
しかし、受けて唖然とした。
フォクス家の庭園で訓練を受けようと思ったのだが、ここでは狭いと言われて、場所を『ラフィルの森』に変更した。
そうして、そこで見た彼の愛機。
それは、完全に別格の機体だった。
――その姿も、その恒力値においてもだ。
まるで神話の中の怪物を彷彿させるような威容。
もはや、異形であるとさえ呼んでもいい鎧機兵だった。
シェーラは、そんな怪物の師事を受けた。
《黄道法》の基礎から、みっちりと鍛えられたのだ。
出会った時から、師はまるで武人のような雰囲気を持つ人だと感じていたが、まさにその通りの性格だった。指導に関しては鬼そのものである。
特に鎧機兵での模擬戦など、嵐を前にして立ち向かっているような気分だった。
武器を振るうだけで大地が粉砕されて、木々が宙に飛んでいくのだ。
ほとんど冗談のような光景だった。
恐らく彼は、ゴドー叔父さまの従者であると同時に護衛者でもあるのだろう。
しかし、それでも師の力は度を越している。
その気になれば一機で騎士団を壊滅できるのではないかと思うような実力だった。
――果たして、師は何者なのか?
そして、そんな彼を従えるゴドー叔父さまは一体……?
そんな疑問を抱いたが、ともあれ、師のおかげで、シェーラの実力はたった四日で飛躍的に伸びた。今ではいくつかの闘技も使えるぐらいだ。
だが、それでも――。
『ヌシが勝ち抜ける可能性は低い』
師は告げる。
『ヌシには才覚がある。それだけにこの手段を伝えることは吾輩としては不本意だ。出来ることならば勧めたくはない。だが、主命に全力を尽くさぬのは吾輩の矜持に関わる。ゆえに、ヌシにこの手段を教えよう』
そうして、師はある手段を教えてくれた。
(……先生)
シェーラは双眸を細めて、王女殿下の機体を見据える。
(シェーラは必ず勝ちます。たとえ、どんなリスクを背負っても。アラン叔父さまと結ばれるために。そして先生の師事に報いるために)
覚悟を決める。
『……王女殿下』
シェーラは、未来の主君に声をかけた。
『殿下に刃を向ける不敬。何卒お許しください』
『き、気にしないで、ください。これは試合です、から』
鈴が鳴るような可憐な声で、王女殿下が答える。
その声を聞けば、騎士たち――特に男性騎士は無条件で守りたくなるに違いない。
シェーラも、かなり庇護欲が刺激された。
しかし、王女殿下は間違いなく強者なのだ。
恐らく全騎士団の中でも、勝てる者がいないぐらいの。
シェーラは気を引き締め直した。
『お心遣い、感謝いたします。殿下』
――すうっと。
《パルティーナ》が長尺刀を上段に構えた。
『殿下のお心遣いに恥じぬよう、私も全力を尽くす所存です』
『は、はい』
対する《クルスス》は、鉄球の柄を強く握りしめた。
『わ、私も頑張り、ます。ま、負けませんから』
気弱で知られる王女さまが、おどおどしながらも必勝宣言をする。
その声には強い意志を感じた。
どうやら王女殿下にも負けられない理由があるようだ。
だが、それはシェーラとて同じことだ。
『では、王女殿下』
『は、はい!』
二機が、静かに重心を落とした。
『いざ尋常に』
『しょ、勝負、です!』
言って、《クルスス》が腕を勢いよく上げた。
――第二回戦・第二試合。
遂に、その火蓋が切って落とされた。
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