クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第15部

第六章 激戦の準決勝④

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「……レナの奴」

 その時、オトハが、ポツリと呟いた。

「随分と変わった闘技を使うのだな」

「ん? そうなのか?」

 アッシュが、オトハの方に視線を向けた。
 彼女は眼帯を外していた。隠していた瞳――『銀嶺の瞳』が露になっている。
 オトハのみが持つ、恒力を見ることが出来る不思議な瞳だ。

「何か見えたのか? オト?」

 アッシュが尋ねた。
 舞台で戦う二機には、特に変わった様子はない。
 レナの《レッドブロウⅢ》の猛攻に、サーシャの《ホルン》が押されているが、二機が大きな損傷を受けたという訳ではなかった。

「ああ」

 オトハは、大きな胸を支えるように両腕を回して頷く。

「確かに一見変化はない。だが、レナは密かに闘技で攻撃しているのだ」

「そうなの?」

 と、尋ねるのはサクヤだ。
 彼女の目にも、特殊な闘技を使っているようには見えなかった。

「普通に戦っているように見えるけど?」

「うん」ユーリィも頷いた。

「特に損傷もない。何か別の効果があるの?」

「いや、効果というよりも、本来なら損傷を受けるはずのところを、フラムの《ホルン》が相殺している状況だな」

「相殺だって?」アッシュが眉根を寄せる。「どういうことだ? それ」

「……うむ」

 オトハは、双眸を細めた。

「レナはな。先ほどから拳を打ち出すのと同時に、手甲の周囲に粉塵のような恒力の礫を構築させているんだ。それをワンテンポ遅れで《ホルン》に叩きつけている」

「………は?」

 アッシュが目を丸くする。サクヤとユーリィも驚いた顔をした。
 オトハは、感心するように言葉を続ける。

「本来ならば、相手の装甲を徐々に削る闘技なのだろう。しばらくは機体のダメージにも気づかないはずだ。だが……」

 そこで、ふっと口角を崩す。

「残念ながら《ホルン》には《天鎧装》がある。攻撃はすべて相殺されているようだ」

「……いや待て。そいつは……」

 アッシュは顔を強張らせた。
 それから《ホルン》に目をやって。

「うわあ……メットさん、きっと今、気が気でない状況なんだろうな」

「……なに?」

 アッシュの呟きに、オトハは眉をひそめた。

「それはどういう意味だ? クライン」

「……《天鎧装》は連撃に弱いの」

 オトハの問いかけに答えたのは、ユーリィだった。
 彼女は、少し困ったような顔で告げる。

「《天鎧装》は、攻撃を感知すると、自動的に一秒間だけ全身から恒力を放出して防御壁にしているの。一度に放出するのは三百ジンぐらいだから、単発だったなら自動供給ですぐに回復するんだけど……」

 そこまで説明すると、オトハにも分かった。

「……ああ。なるほど。そういうことか」

 思わず、渋面を浮かべる。

「連撃を受け続けると、自動供給が追い付かなくなって、無傷であってもどんどん恒力値が減っていくということだな」

「うん。そう」

 ユーリィが頷く。

「元々、アッシュが思いつきで造った機能だし、欠陥付きなの」

「え? じゃあ、サーシャちゃんの機体って今、どんどん弱体化しているの?」

 サクヤが、パチパチと目を瞬かせて尋ねる。
 アッシュが「……まあな」と、頭をかいて答えた。

「まさか、あの大雑把なレナがこんな隠し技を持っているとはな。あいつも結構慎重になったんだなとは思うが、メットさんとは相性がいいのか悪いのか……」

 言って、微苦笑を浮かべた。

「……? それはいいんじゃないの?」

 ユーリィが、アッシュを見つめて言う。
 アッシュは「う~ん」と唸った。戦闘のプロであるオトハは、アッシュの考えをすぐに察したのか「ああ。なるほどな」と呟いていた。

「……どういうこと?」

 相変わらず、意志の疎通レベルが、すでに熟年夫婦の域に入っている二人に少しだけムッとしつつ、ユーリィが再度尋ねる。
 すると、アッシュは、頬をポリポリとかいて答えた。

「レナは《ホルン》の天敵だってことは確かだ。このまま殴り続けるだけで、いずれ《ホルン》は行動不能に陥ることになる。けど、レナは、まだ《ホルン》の《天鎧装》の具体的な特性までは知らねえんだよ」

「あっ、なるほど。そういうことね」

 ポン、とサクヤが手を打った。

「それってレナの視点だと、自分の闘技が全く効いてないように見えるんだ」

 言って、サクヤは舞台に目をやった。
 《レッドブロウⅢ》と《ホルン》の戦闘力の差は歴然だ。
 明らかに《ホルン》は苦戦している。《レッドブロウⅢ》の猛攻に、何度も拳を長剣や円盾で凌いでいた。危うい場面もあったが、未だ大きな損傷はない。

「あ、そっか……」

 ユーリィもようやく得心がいった。

「本当なら、もっとダメージがあっていいはずなんだ。けど」

 しかし、すぐに小首を傾げて。

「それって《万天図》を起動させていたら、すぐに分かることだと思う」

 攻撃のたびに恒力値が削れていけば、《天鎧装》の特性も察しそうなものだ。
 レナは天然っぽいアホの子だが、それでも現役の、しかも一流の傭兵なのだ。
 装甲は無事であっても、実のところ、効果があることには気付くだろう。

「まあ、確かにそうだよな」

 アッシュは呟く。

「けど、今は一対一の戦闘だ。しかも闘技場だぞ。多分、レナは《万天図》を起動させてねえと思うぞ」

「私もそう思うな。《万天図》は余計な情報も視界に入ることが多い。索敵が必要ない時にわざわざ起動させておくメリットもないしな」

 オトハの意見に、アッシュも頷く。

「そうだよな。多分、今の攻撃は《天鎧装》の防御力を図っているってとこだろう。あの闘技はそろそろ打ち止めにするんじゃねえか?」

 効果がない攻撃を続ける意味もない。
 レナほどの一流の傭兵ならば、すぐに次の対策を練るはずだ。

「今回は運に助けられたな。フラムは」

 オトハが、腕を組んで呟く。

「確かにな。けどよ」

 アッシュは双眸を細めた。

「レナが、メットさんよりも、圧倒的に強ェえってことには変わりねえ。ここから先は運だけじゃあダメだろうな」

 ――ドゴンッッ!
 《レッドブロウⅢ》の拳が《ホルン》の胸部装甲を強打した。
 大きく吹き飛び、両足で火線を引く《ホルン》。
 ふらつきながらも、長剣と円盾を身構える。

(……サーシャ)

 愛弟子の苦戦に、アッシュが静かに腕を組んだ。
 ここがまさに正念場だ。

「頑張れよ。サーシャ」

 アッシュは、小さな声で愛弟子に声援を贈った。
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