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第3部
幕間一 ダスト・トゥ・ダスト
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時刻は夜八時。
夕日はすでに沈み、星が瞬き始める頃――。
ロックとエドワードは男二人だけで、寂しくホテルのラウンジにいた。
ホテルの一階。食堂も兼ねたこの場所には、宿泊客が自由に休めるよう多くの丸テーブルと椅子が常備されている。そこでアイスコーヒーを注文して彼らは一服していた。
――カラン、と。
軽やかな音が鳴る。
エドワードのグラスの氷の音だ。
ここに居座ってはや二十分。ロックはコーヒーをすでに飲み終えていたが、エドワードは一口もつけていない。グラスの結露だけが量を増していっていた。
ロックはふうと嘆息する。
「……エド。まあ、そう落ち込むな」
そう声をかけるが、エドワードは反応しない。
彼はただテーブルの上に突っ伏している。
ロックは再び嘆息した。
「……エド。まだ初日だ。チャンスはきっとあるさ。だから、初恋で浮かれる気持ちは分かるが、まずはその変なテンションを少し抑えろ。それと師匠に喧嘩を売るのだけはやめろ。次は塵にされるぞ」
「…………」
エドワードは何も言わない。やはり今日の敗北がきいているのだろうか。
ロックは額に手を当て、かぶりを振った。
思い返せば、エドワードは第一声の時から失敗していた。
――そう。すべては『あの日』から始まったのだ。
「お義父さん! 結婚を前提にユーリィさんとお付き合いさせてください!」
それは、とてもよく晴れた日のことだった。
クライン工房前。サーシャとアリシア。それにオトハが揃った状況でエドワードはいきなりそう宣ったのだ。思わずロックは片手で目を覆った。
「…………」
アッシュはただ無言だった。
そして彼の腰には件の少女――ユーリィが怯えるようにしがみついている。
いや、事実怯えていた。小さな身体を小刻みに震わせている。
アッシュは直立不動の姿勢で立つエドワードを一瞥した後、ユーリィに尋ねた。
「なあ、ユーリィ。こいつは一体何だ?」
「し、知らない人……」
そんなことを言うユーリィ。アッシュは続けてサーシャの方へと視線を向けた。
初めて見る師の冷たい眼差しに、サーシャは肩を震わせる。
「サーシャ。こいつは確か、サーシャのチームメイトだったよな」
いつもの愛称さえ呼んでくれない。
ここまで感情のないアッシュの声も初めて聞く。
「え、えっと一応そうです」
サーシャは怯えながらも答えた。
「……そうか。なあ、ユーリィ」
アッシュはユーリィの頭に手を乗せて再び問う。
「こいつはこんなことを言っているが、お前はこいつをどう思ってんだ?」
「し、知らない人……」
ユーリィは全く同じ回答をした。
アッシュは目を細める。ユーリィが怯えているのは一目瞭然だった。
「……そうか」
言って、アッシュはユーリィの頭をポンと叩き、
「悪りいなユーリィ。少しの間だけ離れていてくれ。オト、ユーリィを頼む」
優しくユーリィの背中を押して、オトハの元へと向かわせる。
いきなり頼まれたオトハはオトハでかなり困惑していたのだが愛しい青年の大切な愛娘だ。無下には出来ない。トコトコと歩いてきた少女をギュッと抱きしめる。
それを見届けた後、アッシュはエドワードに視線を戻し、
「おい、ガキ。少しそこで待っていな」
「はいっ! 分かりました! お義父さん!」
「……絶対に待っていろよ」
そう告げるなり、アッシュは返答も待たず工房内へと入っていった。
そして彼の姿が見えなくなった途端、騎士候補生達が騒ぎだす。
「エ、エド! お前一体何を考えているんだ!」
真っ先にロックが愕然とした声を上げる。
「そ、そうよ! っていうか、あなたロリコンだったの!?」
続いてアリシアが少々的外れな意見を。
「オ、オニキス! あなた正気なの!」
そして最後に、サーシャが悲鳴じみた絶叫を上げた。
オトハとユーリィは沈黙している。彼女達はただ青ざめていた。
しかし、エドワードはあっけらかんとしたもので、
「ん? いや、だって師匠はユーリィさんの父親代わりなんだろ? だったら、まずはお義父さんに挨拶すんのは常識じゃねえか」
平然とそう告げる。全員が絶句した。
その時、今まで沈黙していたオトハが、おもむろに口を開いた。
「オニキス……。悪いことは言わん。今すぐ逃げろ」
そこで彼女は一拍置いて喉を鳴らす。
「お前は獅子の尾を踏んだんだ。このままだと……」
と、オトハが、何かを告げようとした瞬間だった。
グウオオオオオオオオオオオッ――!!
突如鳴り響く雄たけび。
さらに、ズシン……ズシン、と巨大な何かが近付いてくる音がする。
それは工房の奥から聞こえてきていた。
「な、なに? 何が起きてるの?」
アリシアが、気丈な彼女らしくない怯えた声をこぼす。
サーシャとロックは、怯えた眼差しで工房の奥を見つめていた。
オトハは「遅かったか」とかぶりを振り、ユーリィはそんな彼女の胸に顔を半分ほど埋めてしがみついている。
ただ、エドワードだけはキョトンとしていた。
そして――遂にそいつは現れた。
室内の闇を切り裂いて出てきたそいつの姿は、一言でいえば「鬼」。
獅子のたてがみのような鋼髪に、四本の角。その巨躯には異形の鎧を纏い、憎き敵を喰らわんとばかりに大きくアギトを開いている。
そして、さらに特筆すべき点は、その真紅の身体だ。
突如現れた「鬼」の身体は、全身が紅く輝いていたのだ。
その異様なまでの姿に、出現した瞬間から思いっきりガンを飛ばされているエドワードはもちろん、全員が硬直した。
「あ、あれって、色は違うけどアッシュさんの《朱天》、よね……?」
と、ようやくアリシアが呟く。
彼女に限らずこの場にいる人間は、普段は武装を外して業務用として使用されているアッシュの愛機の、その本来の姿を知っていた。
しかし、その機体の色は漆黒のはずなのだが、眼前の「鬼」――アッシュの鎧機兵《朱天》の色は何故か真紅色だった。黒い部位などどこにもない。
「う、うん……。確かに《朱天》だと思うけど……どうして色が……?」
騎士候補生達の中ではアッシュとの付き合いが一番長いサーシャが眉を寄せた。
こんな《朱天》の姿は彼女も初めて見る。
すると、唐突にオトハが愕然とした声を上げた。
「ク、クライン!? お前正気か!? 真紅の《朱天》まで持ち出すなんて!?」
何やら事情を知っているそぶりのオトハに騎士候補生達の注目が集まる。
「オ、オトハさん? 何ですか、その真紅の《朱天》って……」
アリシアが呆然と尋ねると、オトハは神妙な声で語りだした。
「クラインの、《朱天》の切り札だ。外部動力炉を全開放した姿。あの真紅は色が変わったのではなく莫大な恒力を溜めこんだせいで機体が赤熱発光しているんだ……」
「せ、赤熱発光って……一応参考までにお聞きしますが、どれぐらいの恒力を?」
ロックが恐々として尋ねる。
すると、オトハは眉をしかめつつ答えた。
「およそ……七万四千ジンだ」
ブフォ、とロックは吹き出した。サーシャとアリシアは言葉もない。
そしてエドワードはドスンと尻もちをついた。
それはあまりにも馬鹿げた数値だった。一般的な鎧機兵は一級品でも恒力値は五千ジン程度だというのに、この紅い機体は――。
しかし、悠長に考えている余裕などエドワードにはなかった。
アッシュの声が不意に響いたからだ。
『またせたなガキ。さあ、塵に還れ』
そして、真紅の《朱天》が腰を抜かしたエドワードに拳を向ける。
もはや話し合いなどない。最初から塵にする気満々だった。
「ま、待てクライン! 流石に塵にするのはやりすぎだ!」
「せ、先生! それはダメです!」
「そ、そうよ! アッシュさん! 正気に返って!」
オトハと、「これはまずい」と思ったサーシャとアリシアが制止をかける。
するとわずかに冷静さを取り戻したのか、一瞬だけ《朱天》の動きが止まった。
しかし、オトハに抱きしめられたままのユーリィが、
「アッシュ。塵っちゃって」
『ん。了解だ。ユーリィ』
「エマリア!? お前、そこまでオニキスが嫌いなのか!? ま、待てクライン! 一応そいつは私の教え子なんだ! だから――や、やめ、《虚空》はやめろ!?」
オトハが必死に制止をかけるが、アッシュは聞く耳を持たない。もう笑えない状況になってきたのを察したロックが慌ててエドワードに呼びかける。
「エド! とりあえず前言撤回しろ! 塵にされるぞ!」
「おおおお、俺はユーリィさんが望むのなら死ねる!」
「エド!? 妹さんが言ったのは害虫の駆除と同じ意味だぞ!?」
恋は盲目とはこういうことか。
ロックが絶句していると、アッシュが淡々と呟いた。
『おし。そいつも了承したな。そんじゃあ……』
「だから待てってクライン!」
ユーリィを離してオトハが《朱天》の前に立ちはだかる。
「ダ、ダメですよ先生!」
「アッシュさん落ち着いて!」
級友の生死の瀬戸際に、サーシャとアリシアもオトハに続いた。
流石に旧友や愛弟子、その親友を薙ぎ払う訳にもいかず《朱天》は逡巡した。
と、まあ、そうこうしている内に《朱天》の活動限界が訪れて――。
結果、どうにかエドワードは命拾いしたのだった。
(……あれは本当にやばかった。教官やフラム達には本当に感謝だな)
回想を終え、ロックがしみじみとそう思う。
ともあれ、今は落ち込んでいるエドワードを励ますべきだろう。
「まあ、温泉にでもつかって明日また頑張ろう」
ロックは苦笑を浮かべてテーブルに頬をつけるエドワードの肩を叩く。
それに対して、エドワードは「ううぅ」と呻き、
「……ロック、お前って本当にいい奴だなあ」
と、告げてから、
「そうだよな。まだ一日目! 明日があるか!」
前向きな笑みを見せて、エドワードは立ちあがった。
そして生ぬるくなったアイスコーヒーを一気に飲み干し、
「んじゃあ、風呂にでも行くか!」
そう言って、エドワードは元気を取り戻すのだった。
まあ、ちなみに。
その時、女子部屋ではユーリィを含めた四人の女性達が、明日いかにしてエドワードを埋めるかを議論し合っていたなど知る由もない少年達であった。
夕日はすでに沈み、星が瞬き始める頃――。
ロックとエドワードは男二人だけで、寂しくホテルのラウンジにいた。
ホテルの一階。食堂も兼ねたこの場所には、宿泊客が自由に休めるよう多くの丸テーブルと椅子が常備されている。そこでアイスコーヒーを注文して彼らは一服していた。
――カラン、と。
軽やかな音が鳴る。
エドワードのグラスの氷の音だ。
ここに居座ってはや二十分。ロックはコーヒーをすでに飲み終えていたが、エドワードは一口もつけていない。グラスの結露だけが量を増していっていた。
ロックはふうと嘆息する。
「……エド。まあ、そう落ち込むな」
そう声をかけるが、エドワードは反応しない。
彼はただテーブルの上に突っ伏している。
ロックは再び嘆息した。
「……エド。まだ初日だ。チャンスはきっとあるさ。だから、初恋で浮かれる気持ちは分かるが、まずはその変なテンションを少し抑えろ。それと師匠に喧嘩を売るのだけはやめろ。次は塵にされるぞ」
「…………」
エドワードは何も言わない。やはり今日の敗北がきいているのだろうか。
ロックは額に手を当て、かぶりを振った。
思い返せば、エドワードは第一声の時から失敗していた。
――そう。すべては『あの日』から始まったのだ。
「お義父さん! 結婚を前提にユーリィさんとお付き合いさせてください!」
それは、とてもよく晴れた日のことだった。
クライン工房前。サーシャとアリシア。それにオトハが揃った状況でエドワードはいきなりそう宣ったのだ。思わずロックは片手で目を覆った。
「…………」
アッシュはただ無言だった。
そして彼の腰には件の少女――ユーリィが怯えるようにしがみついている。
いや、事実怯えていた。小さな身体を小刻みに震わせている。
アッシュは直立不動の姿勢で立つエドワードを一瞥した後、ユーリィに尋ねた。
「なあ、ユーリィ。こいつは一体何だ?」
「し、知らない人……」
そんなことを言うユーリィ。アッシュは続けてサーシャの方へと視線を向けた。
初めて見る師の冷たい眼差しに、サーシャは肩を震わせる。
「サーシャ。こいつは確か、サーシャのチームメイトだったよな」
いつもの愛称さえ呼んでくれない。
ここまで感情のないアッシュの声も初めて聞く。
「え、えっと一応そうです」
サーシャは怯えながらも答えた。
「……そうか。なあ、ユーリィ」
アッシュはユーリィの頭に手を乗せて再び問う。
「こいつはこんなことを言っているが、お前はこいつをどう思ってんだ?」
「し、知らない人……」
ユーリィは全く同じ回答をした。
アッシュは目を細める。ユーリィが怯えているのは一目瞭然だった。
「……そうか」
言って、アッシュはユーリィの頭をポンと叩き、
「悪りいなユーリィ。少しの間だけ離れていてくれ。オト、ユーリィを頼む」
優しくユーリィの背中を押して、オトハの元へと向かわせる。
いきなり頼まれたオトハはオトハでかなり困惑していたのだが愛しい青年の大切な愛娘だ。無下には出来ない。トコトコと歩いてきた少女をギュッと抱きしめる。
それを見届けた後、アッシュはエドワードに視線を戻し、
「おい、ガキ。少しそこで待っていな」
「はいっ! 分かりました! お義父さん!」
「……絶対に待っていろよ」
そう告げるなり、アッシュは返答も待たず工房内へと入っていった。
そして彼の姿が見えなくなった途端、騎士候補生達が騒ぎだす。
「エ、エド! お前一体何を考えているんだ!」
真っ先にロックが愕然とした声を上げる。
「そ、そうよ! っていうか、あなたロリコンだったの!?」
続いてアリシアが少々的外れな意見を。
「オ、オニキス! あなた正気なの!」
そして最後に、サーシャが悲鳴じみた絶叫を上げた。
オトハとユーリィは沈黙している。彼女達はただ青ざめていた。
しかし、エドワードはあっけらかんとしたもので、
「ん? いや、だって師匠はユーリィさんの父親代わりなんだろ? だったら、まずはお義父さんに挨拶すんのは常識じゃねえか」
平然とそう告げる。全員が絶句した。
その時、今まで沈黙していたオトハが、おもむろに口を開いた。
「オニキス……。悪いことは言わん。今すぐ逃げろ」
そこで彼女は一拍置いて喉を鳴らす。
「お前は獅子の尾を踏んだんだ。このままだと……」
と、オトハが、何かを告げようとした瞬間だった。
グウオオオオオオオオオオオッ――!!
突如鳴り響く雄たけび。
さらに、ズシン……ズシン、と巨大な何かが近付いてくる音がする。
それは工房の奥から聞こえてきていた。
「な、なに? 何が起きてるの?」
アリシアが、気丈な彼女らしくない怯えた声をこぼす。
サーシャとロックは、怯えた眼差しで工房の奥を見つめていた。
オトハは「遅かったか」とかぶりを振り、ユーリィはそんな彼女の胸に顔を半分ほど埋めてしがみついている。
ただ、エドワードだけはキョトンとしていた。
そして――遂にそいつは現れた。
室内の闇を切り裂いて出てきたそいつの姿は、一言でいえば「鬼」。
獅子のたてがみのような鋼髪に、四本の角。その巨躯には異形の鎧を纏い、憎き敵を喰らわんとばかりに大きくアギトを開いている。
そして、さらに特筆すべき点は、その真紅の身体だ。
突如現れた「鬼」の身体は、全身が紅く輝いていたのだ。
その異様なまでの姿に、出現した瞬間から思いっきりガンを飛ばされているエドワードはもちろん、全員が硬直した。
「あ、あれって、色は違うけどアッシュさんの《朱天》、よね……?」
と、ようやくアリシアが呟く。
彼女に限らずこの場にいる人間は、普段は武装を外して業務用として使用されているアッシュの愛機の、その本来の姿を知っていた。
しかし、その機体の色は漆黒のはずなのだが、眼前の「鬼」――アッシュの鎧機兵《朱天》の色は何故か真紅色だった。黒い部位などどこにもない。
「う、うん……。確かに《朱天》だと思うけど……どうして色が……?」
騎士候補生達の中ではアッシュとの付き合いが一番長いサーシャが眉を寄せた。
こんな《朱天》の姿は彼女も初めて見る。
すると、唐突にオトハが愕然とした声を上げた。
「ク、クライン!? お前正気か!? 真紅の《朱天》まで持ち出すなんて!?」
何やら事情を知っているそぶりのオトハに騎士候補生達の注目が集まる。
「オ、オトハさん? 何ですか、その真紅の《朱天》って……」
アリシアが呆然と尋ねると、オトハは神妙な声で語りだした。
「クラインの、《朱天》の切り札だ。外部動力炉を全開放した姿。あの真紅は色が変わったのではなく莫大な恒力を溜めこんだせいで機体が赤熱発光しているんだ……」
「せ、赤熱発光って……一応参考までにお聞きしますが、どれぐらいの恒力を?」
ロックが恐々として尋ねる。
すると、オトハは眉をしかめつつ答えた。
「およそ……七万四千ジンだ」
ブフォ、とロックは吹き出した。サーシャとアリシアは言葉もない。
そしてエドワードはドスンと尻もちをついた。
それはあまりにも馬鹿げた数値だった。一般的な鎧機兵は一級品でも恒力値は五千ジン程度だというのに、この紅い機体は――。
しかし、悠長に考えている余裕などエドワードにはなかった。
アッシュの声が不意に響いたからだ。
『またせたなガキ。さあ、塵に還れ』
そして、真紅の《朱天》が腰を抜かしたエドワードに拳を向ける。
もはや話し合いなどない。最初から塵にする気満々だった。
「ま、待てクライン! 流石に塵にするのはやりすぎだ!」
「せ、先生! それはダメです!」
「そ、そうよ! アッシュさん! 正気に返って!」
オトハと、「これはまずい」と思ったサーシャとアリシアが制止をかける。
するとわずかに冷静さを取り戻したのか、一瞬だけ《朱天》の動きが止まった。
しかし、オトハに抱きしめられたままのユーリィが、
「アッシュ。塵っちゃって」
『ん。了解だ。ユーリィ』
「エマリア!? お前、そこまでオニキスが嫌いなのか!? ま、待てクライン! 一応そいつは私の教え子なんだ! だから――や、やめ、《虚空》はやめろ!?」
オトハが必死に制止をかけるが、アッシュは聞く耳を持たない。もう笑えない状況になってきたのを察したロックが慌ててエドワードに呼びかける。
「エド! とりあえず前言撤回しろ! 塵にされるぞ!」
「おおおお、俺はユーリィさんが望むのなら死ねる!」
「エド!? 妹さんが言ったのは害虫の駆除と同じ意味だぞ!?」
恋は盲目とはこういうことか。
ロックが絶句していると、アッシュが淡々と呟いた。
『おし。そいつも了承したな。そんじゃあ……』
「だから待てってクライン!」
ユーリィを離してオトハが《朱天》の前に立ちはだかる。
「ダ、ダメですよ先生!」
「アッシュさん落ち着いて!」
級友の生死の瀬戸際に、サーシャとアリシアもオトハに続いた。
流石に旧友や愛弟子、その親友を薙ぎ払う訳にもいかず《朱天》は逡巡した。
と、まあ、そうこうしている内に《朱天》の活動限界が訪れて――。
結果、どうにかエドワードは命拾いしたのだった。
(……あれは本当にやばかった。教官やフラム達には本当に感謝だな)
回想を終え、ロックがしみじみとそう思う。
ともあれ、今は落ち込んでいるエドワードを励ますべきだろう。
「まあ、温泉にでもつかって明日また頑張ろう」
ロックは苦笑を浮かべてテーブルに頬をつけるエドワードの肩を叩く。
それに対して、エドワードは「ううぅ」と呻き、
「……ロック、お前って本当にいい奴だなあ」
と、告げてから、
「そうだよな。まだ一日目! 明日があるか!」
前向きな笑みを見せて、エドワードは立ちあがった。
そして生ぬるくなったアイスコーヒーを一気に飲み干し、
「んじゃあ、風呂にでも行くか!」
そう言って、エドワードは元気を取り戻すのだった。
まあ、ちなみに。
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