クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
95 / 499
第3部

第七章 開戦④

しおりを挟む
(……やれやれ。私としたことが……)

 カテリーナ=ハリスは少し後悔していた。
 たとえ聞くに堪えないような禁句だらけの暴言を浴びせられたとしても、少々短慮だったかもしれない。そもそもあの少女の言う「おばさん」は的外れだ。
 自分はまだ二十五歳。まだまだ若い。とても若い。むしろボルドと二十歳も離れているため、彼に中々「女」として見てもらえず困っているぐらいだ。
 ……強がりではない。断じて。

(まったく。あんな子供の戯言にムキになるなんて……私も未熟ですね)

 しかし、改めて状況を鑑みると、そこまで悪い判断でもない。
 カテリーナは恒力値を精査する《万天図》を起動させると、眼前で身構える三機の恒力値をちらりと見やる。
 右から順に三千九百ジン。四千五百ジン。そして四千百ジン。
 どの機体も、皇国では精々中級程度の機体だった。

(……私の《羅刹》の恒力値はおよそ二万四千ジン。三機合わせても二倍近い差があるというのに、よく挑む気になりますね)

 これには少し呆れてしまう。カテリーナの愛機・《羅刹》は腹部に二つのA級《星導石》を内蔵した《九妖星》に次ぐ性能を持つ機体だ。
 いくら恒力値だけが戦力を決める訳ではないといっても流石に差がありすぎる。

(ですが好都合。ボルド様なら《七星》が二人相手でも簡単に敗れることなど考えられませんし、何よりここで《金色聖女》を捕えればきっと喜んで下さるはず)

 さらに言えば、人質としても利用できる。
 慌てて援護に向かうよりも、こちらの方が断然効果的だった。
 そう考えを改め、カテリーナは妖艶に笑う。

『ふふっ、ではみなさん。お手合わせといきましょうか』




 一方、アリシア達は緊張していた。
 話を聞く限り、相手の実力は《七星》に次ぐものらしい。オトハの教え子である彼女達に、その凄まじさが分からないはずもない。
 だが、それでも彼女達は騎士候補生なのだ。無法者相手に引く訳にはいかない。
 三機は互いの顔を見合わせた。

『おっしゃああ! いくぜババア!』

 そして最初に気勢を上げたのはエドワードだった。
 愛機・《アルゴス》が真直ぐ槍を突き出して突進する。

『……口の悪い坊やですね』

 カテリーナが不愉快そうに呟く。同時に《羅刹》がレイピアをすっとかざした。
 鋭く光る切っ先は《アルゴス》の右肩に向いている。
 だが、当の《アルゴス》は気にかけない。多少の損傷は元より覚悟の上だ。それにあの細い剣で愛機の装甲を貫けるとも思えなかった。
 エドワードはさらに気炎を吐き、緑色の鎧機兵は刺突を繰り出した。

『くたばれババア!』

『本当に口が悪い。おしおきです』

 と明らかに青筋を浮かべているであろうカテリーナの呟きに《羅刹》が応えた。
 槍の穂先をすり抜けるように躱し、銀の閃光を解き放つ!

『ぐおッ!?』

 エドワードが驚愕の声を上げる。
 大して警戒していなかったレイピアの切っ先が、容易く愛機の装甲を貫いたのだ。肩当てからバチンッと火花が散った。
 困惑しながらも《アルゴス》は大きく後ろへと跳ぶ――が、

『ふふ、遅い。隙だらけですよ』

 《羅刹》のレイピアの切っ先がゆらりと円を描く。
 直後、三つの銀閃が煌めいた。

『う、うわあ!?』

 《アルゴス》の右腕、右膝、そして左大腿部が容赦なく銀閃に貫かれる。
 エドワードは驚愕で目を剥いた。この間合いはレイピアの届く距離ではない。だというのに貫かれたのだ。驚くのも無理もない。
 そして瞬く間に四肢を壊された《アルゴス》は崩れ落ち、ズズンと倒れ込んだ。

『エ、エド!』

 ロックが目を見開いて友人の名を呼ぶ。
 そして彼の愛機・《シアン》が横たわる《アルゴス》に近付こうとする――が、

『ハルトさん、正面から近付いちゃダメ! その女は多分剣から集束させた恒力を撃ち出しているの! 間合いは関係ない。貫かれる!』

 アリシアの《ユニコス》に同乗するユーリィが咄嗟に制止の声を上げた。

『な、なんだと!』

 忠告され、慌てて足を止める《シアン》。しかし、わずかに遅かった。
 カテリーナが笑みをこぼす。

『ふふっ、流石は《双金葬守》の養女ですね。中々の洞察力ですよ《金色聖女》』

 言って、《羅刹》は再び銀閃を煌めかせた。今度は無数の連撃だ。
 ――ガガガガガガガガガガッ!
 轟音が鳴り響き、閃光の嵐が青い鎧機兵に襲いかかる!

『ぐ、ぐおおおおおおおおおおッ!』

 咄嗟に両腕を十字に組んで《シアン》は耐えるが、青い装甲が削ぎ落とされるように砕け、金属片が四方に跳び散っていく。

『……あら。意外と頑丈な機体ですね。重武装の見た目は伊達ではありませんか。では少しばかりペースを上げますね』

 カテリーナは気軽な口調でそう告げると、さらに連撃の数を増やした。
 もはや《シアン》は身動き一つさえ取れない。

『ハ、ハルト!』

 その光景を前にして、アリシアが思わず級友の身を案ずる声を上げた。
 しかし、ロックに答える余裕などあるはずもなかった。
 そして――数秒後、横殴りの銀の豪雨は止んだ。
 同時に《シアン》はズシンと両膝をつく。
 その機体は無残な状態だった。両腕はほぼ原形を留めず、両足も穴だらけだ。意図的に操手の乗る胴体だけは避けたのか、それ以外の部位は無数の矢で射抜かれたような状況だ。当然、戦う力など残っていない。
 《アルゴス》同様、《シアン》もまた地面に倒れ伏すのだった。

『ハ、ハルト! 生きてるの!』

 アリシアが青ざめた顔で声をかけると、青い機体からは『何とか生きているが……すまん。もう動けん』と返ってくる。
 とりあえず級友が無事でホッとするアリシア。
 対し、カテリーナの方は艶然とした笑みを浮かべる。

『ふふっ、これで残るはあなたのその機体だけですね。アリシアさん』

『……クッ!』

 アリシアは舌打ちする。
 エドワードもロックも決して弱くはないのだがあっさり無力化されてしまった。
 正直、見誤っていた。まさかここまで実力差があろうとは――。

(どうする……。私に勝ち目があるとしたら……)

 アリシアは歯を軋ませて思い悩む。
 幾つかの戦術は思いつくが、どれも効果は期待できなさそうだ。

(実力差を鑑みれば、それこそ捨て身ぐらいか……)

 理由は定かではないが、あの女は何故か手加減しているようだ。それならば不意打ちで《雷歩》を使えば勝機はあるかもしれない。
 しかし、その攻撃は、恐らく相打ち覚悟の特攻になる。
 自分一人ならば、それでも躊躇わないのだが……。

「……アリシアさん」

 彼女の腰を掴む少女の声に、アリシアはハッとする。
 少女――ユーリィはさらに言葉を続けた。

「……私は大丈夫。昔はよくアッシュの後ろに掴まっていた」

 そして微かな笑みを浮かべ、

「だから、アリシアさんのしたいことをすればいい」

 と、力強い言葉で背中を押してくれる。
 アリシアは一瞬唖然としていたが、すぐに笑みをこぼした。

「ユーリィちゃん。ちょっと無理するけどいい?」

「うん。覚悟の上」

 言って、少女達は笑い合う。
 そしてアリシアの愛機・《ユニコス》は双剣を身構えた。
 カテリーナがすうっと目を細めた。

『……どうやらまだ足掻くようですね』

 そう呟き、《羅刹》が油断なくレイピアを構える。
 そうして二機の間に緊迫した空気が流れた――その時だった。

『……やれやれ。それは下策だな。エイシス』

『『――ッ!』』

 突如響いたその声に、対峙していた二人は息を呑む。
 続けて、それぞれの愛機が同時に森の奥へと視線を向けた。
 森の奥からは、ズシン……ズシンと足音が響いてくる。
 そして、現れ出てきたのは――。

『察するに《雷歩》で特攻でもする気のようだが、その女には通じないぞ。勝てないと判断した時は迷わず撤退しろと教えていたはずなのだが……』

 それは、鞘に納めた刀を左手に携えた機体だった。
 四角い盾のような肩当てに、大きな円輪の飾りを額につけた兜。腰回りを覆うスカートのような鎧装を持ち、胸部装甲に炎の紋章を描いた紫紺色の鎧機兵。

 その機体の名は《鬼刃》。誉れ高き《七星》の一機。
 アリシア、ユーリィは瞳を輝かせ、カテリーナは初めて表情に緊張を浮かべた。

『未熟者め。だが、弟子達の不始末もまた師の仕事か』

 そう言って、《鬼刃》はすらりと刀を抜く。
 そして、その操手であるオトハ=タチバナは不敵に笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜

昼寝部
ファンタジー
 2XXX年、X月。  俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。  そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。  その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。  俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。  これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。

処理中です...