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第5部

第七章 そしてすべての黒幕は……。④

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 ほとんどの作業員が逃げ出し、大空洞が静まり返る中――。
 最初に沈黙を破ったのは、ガレック=オージスだった。


「……やれやれ、今日は千客万来だな」


 目まぐるしく変わる状況に、ガレックはやれやれと肩をすくめた。
 それから突き刺すような眼差しでアッシュの方を見やり、


「……それにしても黒幕ときたか。アッシュ=クラインよ。その口ぶりだと、お前はこの状況が分かっているのか?」

「……まあな。ここまでキャストが揃えば推測も成り立つさ」


 言って、アッシュは苦笑を零しつつ嘆息した。
 ガレックはすっと目を細め、黒服達は緊張した面持ちに変わる。


「ほう。その推測、ぜひとも聞きてえもんだな」


 とガレックが呟くと同時に、アッシュの腰を掴んでいたユーリィも尋ねてくる。


「ねえ、アッシュ。どういうことなの?」

「……う~ん。そうだなあ」


 仇敵に加え、愛娘にまで問われる状況に、アッシュは気まずげに頭をかいた。
 まあ、ガレックの方はどうでもいいが、ユーリィを無下にはしたくない。
 仕方がなく、アッシュは自分の推測を語り出した。


「え~と、まずそこにいるライザーなんだが」

「えっ? お、俺ですか?」


 いきなり名を出され、ライザーがギョッとした表情を見せる。
 対し、アッシュは不敵な笑みを浮かべて断言した。


「お前と……そう、あと親方もだな。お前らって騎士団の人間なんだろ。この件のもう一人の黒幕――多分だ」

「――なッ!?」


 驚愕の声を上げるライザー。
 その傍らでは、三人の人間が大きな反応を見せていた。
 まずは予想外の名前に、キョトンとするユーリィ。
 続いて感心したような表情を見せるギル=ボーガン。
 そして、実に興味深そうに、あごへと手をやるガレックだ。


「へえ。そいつは面白れえな。あのおっさんが関わってんのか」

「……はあ? なんでてめえがガハルドのおっさんを知ってんだよ?」


 まさか王都で一悶着があったことなど知る由もないアッシュが眉根を寄せる。
 しかし、ガレックの方はニヤニヤと笑うだけで答えようとはしない。


「……おい、ガレック=オージス。てめえ――」


 と、アッシュはさらに問い質そうとしたが、それは大きな声でかき消されてしまった。


「ちょ、ちょっと師匠! それ、いつ分かったんです!?」


 かなり動揺したライザーの声だ。
 アッシュは眉をしかめながら、鎧機兵の中のライザーを見やり、


「いや、いつって訊かれると出会った日からだよ」


 あっけらかんとそう答える。対するライザーは愕然とした。


「で、出会った日って……俺やライガスさんの演技ってそこまで棒だったのか……俺なんか素が出ないように役作りまでして頑張ったのに」

「……そりゃあまたご苦労さん。なるほど、じゃあ今の口調がお前の素ってことか。あとライガスって誰だ? もしかしてそれが親方の名前なのか?」


 初めて聞く名前に首を傾げた後、アッシュは苦笑を浮かべて話を続けた。


「一応言っとくが、お前らの演技は棒じゃなかったよ。それどころか二人とも演劇団に転職できるぞ。演技の方は本当に完璧だった」


 そんなアッシュの絶賛にも、ライザーは眉を寄せるだけだった。


「えっ? じゃ、じゃあ、どうしてバレたんですか?」

「……ああ、それはな」


 そう問われ、アッシュは自分の腰を掴むユーリィの手にそっと触れた。
 そして数秒間、ただ沈黙する。


「……アッシュ?」


 ユーリィが首を傾げる。と、ようやくアッシュは小さく笑って。


「問題は演技に入る前だな。お前にしろ親方にしろ近付きすぎだ。俺は新しい街に来た時はガチで警戒してんだよ。もう習慣になっててな。なのにお前らは二人揃って気配を消して近付いてきただろ? そんな真似が出来る自称一般人と自称職人。胡散臭くて仕方がねえよ」

「はあッ!? そ、それって、舞台に上がる前にボロ出してたってことですか!?」


 アッシュの説明に、ライザーは目を丸くした。
 すると、黙って様子を見ていたギル=ボーガンがくつくつと笑い、


「どうやら演技にばかり気をとられすぎたようだな、チェンバー君。上手くいっていると信じて報告を繰り返していたライガス氏も、さぞかしがっかりすることだろうな」

「……はあ、そうですね」


 愛機の中でがっくりと肩を落とすライザー。
 しかし、まだ聞きたいこともある。


「ですが、何故俺達が団長の部下――まあ、ライガスさんの方は第二騎士団の騎士なんですが、俺達二人がエイシス団長の命令で動いていると分かったんですか?」

「……ん? ああ、それか」


 アッシュは未だ椅子に座ったままのガレックから目を離さず答える。


「最初は、お前らはギル=ボーガンの部下かと思ったんだが、ボーガンに俺を監視する理由はねえし、そもそも俺がグランゾに行ったことさえ知らねえはず。それにお前らは一ヶ月以上前からグランゾにいたって話だしな」


 その時だけ、ちらりとギル=ボーガンを一瞥するアッシュ。
 対する老紳士は苦笑を浮かべるだけだった。


「けど、ライザー達は俺を監視している。一ヶ月前から現地入りしている監視員って何なんだよ? そんなの俺がこの街に来る事が事前に分かってねえと用意できねえだろ」


 そこでアッシュは小さく嘆息する。


「そしてその条件付けだと該当するのは一人だけだ。俺にこの街へ向かう事を勧めた人間しかいねえ。となるとライザー達のボスってのは……」

「アリシアさんのお父さん?」


 と、ユーリィが、アッシュの言葉を継いだ。
 アッシュは苦虫を噛み潰したような表情で「ああ」と頷く。
 一方、ライザーは頬を引きつらせていた。


「けどよ、ライザーのボスが分かっても腑に落ちねえ事がある。この街に来る事はボーガンの協力がなきゃあり得ねえから、おっさん二人がグルなのはすぐに分かった。けどなんでガハルドのおっさんが俺を監視するのかまでは分からなかった」


 そう呟き、アッシュは改めて、沈黙を維持するガレックを睨みつけた。


「結局、ガハルドのおっさんはこいつら《黒陽社》に対する手札カードの一つとしてこの場に俺を連れてきたかったってとこか。ったく。まどろっこしい事すんなよ。ちょっとショックだぞ。それなりに親しいんだから普通に相談して欲しかったぜ」


 と、溜息混じりにアッシュは告げた。
 すると、ライザーは少し疲れたような表情を見せて、


「いえ、一応エイシス団長は最初から師匠に相談しようと考えていたんですよ。今回の対応は完全に身内の中でのゴタゴタからきたものですし……」


 そんなことを呟く。どうやら騎士団内でトラブルがあったようだ。
 と、その時、


「……なるほどな。お前らの事情は大体分かったよ。アッシュ=クライン」


 ずっと椅子に座って沈黙していたガレックがそう呟き、立ち上がった。
 それに合わせ、この場にいる三人の黒服達も彼らの長の傍らに移動する。


「しかし、こっちの事情はまだ分かんな。セド=ボーガン。結局、お前さんは俺らを裏切っていたってことなのか?」


 ガレックは、未だ呆然としていたセド=ボーガンを睨みつけた。


「……え、い、いや」


 セドはふらふらと後ずさり、その場で尻持ちをつく。
 そしてガタガタと歯を震わせ、ガレックから目を離せないでいた。
 まるで森の中で魔獣と出くわした子供のようだ。
 すると、


「それについては私が語ろう」


 子を守る親が現れた。灰色のスーツを着た老紳士――ギル=ボーガンだ。


「……ほう」


 堂々たるその姿に、ガレックの興味はギルに移る。


「そんじゃあ聞かせてもらおうか。ギル=ボーガンさんよ」

「ああ、エイシス殿と私が立てたこの計画。とくと聞くがいい犯罪者よ」


 総髪の男の殺意をものともせず、ギルは淡々と語り始めた。


「すべては今から三ヶ月前。ラッセルで数人の使用人と共に療養していた私の所に、重役の一人が告発してきたことから始まる」

「こ、告発だと!?」


 と、愕然とした声を上げたのは尻持ちをつくセドだった。
 ギルは醜態を晒す息子を一瞥してから話を続ける。


「そう。告発だ。社長であるセドが何やら怪しげな人間と会合しているとな。聞いた時は訝しむばかりの私だったが、告発者の顔は真剣そのもの。その上、いくつかの証拠まで携えていたからな。流石に信じる以外なかった」


 そこで一拍置き、老紳士はふうと嘆息する。


「かなり危険な事態だと感じた私は古くからの知人であるエイシス殿に相談した。エイシス殿は商会を調査してくれたよ。その結果は……言うまでもないな」


 ギルは鋭い眼光でガレックを睨みつける。
 対し、《黒陽社》の支部長は、大きく肩をすくめた。


「正直、一ヶ月程前の時点で息子を含め、お前達を捕えることは出来た。しかし、相手は国外の犯罪組織と聞く。追いつめればどんな暴挙に出るか分からない。そこでエイシス殿は国外の犯罪組織に対し絶大な雷名を持つ義息子むすこの帰国を待とうと言ったのだ」

「……は? ムスコ? 娘の間違いじゃねえのか?」


 と、そこでアッシュが口を挟む。


「話の流れからすると、俺達の帰国を待ったのは分かるけど、なんか微妙に内容が間違ってねえか……って、ユーリィ? どうした?」


 その時、いきなりユーリィが力の限りアッシュの腰を掴んできた。
 アッシュの角度からは見えないが、彼女の顔は青ざめている。


「ア、アッシュ。多分、今のは間違いじゃない」


 ユーリィはそう呟くと、もう一度アッシュの背中に抱きついてきた。
 ――ギュウウゥゥ……。
 と、力いっぱい。
 離すといなくなってしまう。そんな焦燥感が宿った抱きつき方である。


(ア、 アリシアさん……まさか、すでに外堀まで埋め終えているの……?)


 内心では、愕然とそう理解する。


「……? ユ、ユーリィ? どうしたんだ?」


 何故かプルプル震えている愛娘に疑問を抱くが、そんなアッシュ達をよそにギルは静かな声で語り続ける。


「《七星》の雷名は私も知っていたからな。投降を促すには確かにもってこいだ。まあ、その後、第二騎士団と第三騎士団がかなり揉めたため、今回のような回りくどい方法になってしまったが……」


 そう告げると、ギルはアッシュの方へ視線を向けた。


「おかげで私はすっかり悪役だよ。まぁほとんどは見透かされていたようだがね」

「……ああ、やっぱ土地の買い取りってのは、ガハルドのおっさんと一緒になって仕組んだ、ただの口実だったってことか」


 アッシュは脱力する思いで肩を落とした。
 予想はしていたが、今までの苦労が無駄骨のような気がして流石に萎える。


「……ふふ。まあ、そう気を落とさないでくれ、クライン氏。あの工房はきちんと君の手に戻る。だが、今はその前に……チェンバー君。ここからは君に変わろう」

「ええ、そうですね」


 ギルからバトンを受け取り、ライザーの愛機が一歩前に踏み出した。
 黒服達とガレックは無言のまま、視線をライザーの鎧機兵の方へと向ける。


「さて、セド=ボーガン及び、犯罪組織の諸君」


 ライザーは明朗な声で語り始めた。


「私の名はライザー=チェンバー。アティス王国第三騎士団所属の騎士である。現在この鉱山は第二、第三騎士団合同の三個小隊が包囲している。先程逃走した者達もすでに確保されているだろう。私は諸君らに告げる」


 ライザーはガレック達四名と唖然とするセドを順に見やり、


「投降したまえ。この場には協力者として、かの《双金葬守》殿もおられる。諸君らに逃走の余地はない。大人しく投降するのならば身柄の安全は保障しよう」


 騎士として、淡々とそう通告する。
 シン――と空気が張り詰めた。沈黙が数秒間続き、緊張感だけが場を包んだ。
 そして、その緊迫した空気を破ったのは――意外にもアッシュであった。


「……いや、あのなライザー」

「……? どうしました師匠?」


 そう尋ねつつも、ガレック達からは目を離さないライザー。
 その姿勢は見事なものだが、根本的なところでライザーは読み違えているのだ。
 ――いや、この場合、読み違えたのはガハルドとギルなのか。
 やれやれとアッシュは小さく嘆息する。


(まあ、いくら狸親父どもでも、こいつのことまでは予想できるはずもねえか)


 アッシュは視線をガレックの方へと向け、ぼそりと尋ねる。


「おい、ガレック=オージス。てめえ今、どんな気持ちでいる?」

「――ん?」


 唐突なアッシュの問いに、ガレックは気安い口調で答えた。


「そりゃあ、お前との殺し合いの前だ。ワクワクしてるに決まってんだろ」

「……な、なに?」


 と、唖然とした声を上げるのはライザーだ。


「ば、馬鹿な! 話を聞いていないのか! 三個小隊が包囲しているんだぞ!」

「あン? ああ、ちゃんと聞いてたさ。耳は遠くねえからな。にしても、三個小隊って何だよ? がっかりさせんなよ。そこは三騎士団総出で出迎えてくれや」


 すっと懐から儀礼用の短剣を取り出したガレックは、ふてぶてしくそう言い放った。その態度にライザーは表情を険しくし、愛機を一歩前に進ませる。


「貴様……三個小隊がはったりだとでも思っているのか」


 と、苛立ちを見せたその時だった。


『いや、待てライザー。そいつは本気だ。本気で三個小隊ぐらいなら潰すのは訳ねえと思っている。事実そうなるぞ』


 そう告げて、ライザーを止めたのは、アッシュだった。
 いつのまにか《朱天》の胸部装甲は閉じられている。完全に臨戦状態だ。


「し、師匠? しかし三個小隊――総勢百名の部隊ですよ。いくらなんでも……」

『こいつにはそれが出来んだよ。《七星》が一軍に匹敵するって話は知ってるよな? なんでそんな風に呼ばれると思う?』

「……は、はあ……?」


 いきなりの問いにライザーが眉根を寄せると、アッシュは一拍置いて告げた。


『俺は先代の第三座を倒して称号を得た。けど、オトは……当時の第六座は空席だった。そこで慣例に従い、今代の第六座は皇国の建国時代の総戦力相当――鎧機兵三百機を相手にして戦い抜き、《七星》の称号を得たんだよ』

「……は? さ、三百機!? な、何ですか、それは!?」


 あまりにも馬鹿げた話にライザーは唖然とする。
 しかし、それは本題ではない。アッシュは言葉を続ける。


『こいつはそんなオトや同じ称号を持つ俺を殺すためにこの国に来たんだ。見た目は人間だが中身は固有種の魔獣と変わんねえよ』

「おいおい、そいつは誉めてんのか? アッシュ=クライン」


 と、そこでガレックが会話に割り込んできた。その手には儀礼剣がすでに抜かれており、ぺたぺたと自分の頬を刀身で叩いている。
 アッシュ――いや、《朱天》は尾を揺らし、敵を睨みつけた。
 その気になれば、いつでも粉砕できる間合いだ。


『誉めてねえよ。てめえは魔獣並みの単細胞って話だ』

「かかっ、ひっでえな。けどよ、俺は単細胞だが俺の部下は知恵が回んだぜ」

『……ああ、確かにな。正直この展開は覚悟してたよ』


 そう嘆息し、アッシュはちらりとセド=ボーガンに目をやった。
 未だ尻持ちをついた何とも無防備な姿だ。そしてそんな青年に対して――。


「動くなよ。アッシュ=クライン」


 ガレックの部下の三名が投げナイフを構えてセド=ボーガンを狙っていた。


「くッ! しまった! そう来たか!」


 ライザーが舌打ちする。
 その傍らに立つギル=ボーガンも表情にわずかな動揺を見せた。
 この場にいる非戦闘員は三人。
 ユーリィとギルと――セドの三人だ。
 ユーリィは言うまでもなくアッシュが守り、ギルはライザーが守っていた。
 しかし、セドは元々がガレック側なので護衛者などいなかった。


「貴様ら! 仮にも仲間を人質にするのか!」


 ライザーが義憤を滾らせて吠えるが、


「いや、人質ってほどじゃねえよ。ただ俺が準備するまでの時間が欲しくてな」


 抜き身の儀礼剣で手を叩きながら、ガレックが陽気に語る。
 それから部下達を一瞥し、


「やれやれ。こんな早い段階で騎士団に見つかった以上、もう撤退するしかねえよな。けどよ、せめて《七星》の一角でも落としておかねえと社長ボスに言い訳もできねえよ」


 そんなことを愚痴るガレックに、アッシュは《朱天》の中で嘆息した。
 アッシュほどではないが、ガレックの性格を知るユーリィも同じく溜息をつく。


『あのな、ガレック=オージス。てめえ、ただ俺と戦いたいだけでそこまで深く考えてねえだろ。待っててやるから、てめえの機体を呼び出しな』

「――おっ! 何だよ、話が分かるじゃねえかアッシュ=クライン! お前のそういうところ俺は大好きだぜ」

『俺はてめえが大嫌いだがな。さっさとしな』


 ズシンと《朱天》を一歩進ませ、アッシュはガレックを睨みつけた。
 すると、ガレックは楽しげに儀礼剣を放り投げ、パシンと掴み、


「おうおう。分かってるぜ。そんじゃあ――来な! 俺の《火妖星》!」


 召喚器である儀礼剣にそう叫んだ途端、大空洞の地面に光の線が疾走し、転移陣が描かれる。そして、そこから現れたモノは――。


「な、何だこいつは……」「……これはまた……」


 ライザーとギルが呻き声を上げる。セドは声もなく震えていた。
 ただ、その中でアッシュとユーリィは――。


『相変わらず悪趣味なデザインだな』

『うん。センスを疑う』


 と、酷評した。
 すると、ガレックは苦笑を浮かべて、


「容赦ねえなお前らは。けどよ、これこそ悪党用って感じだろ」


 そう嘯くなり、呼び出した愛機に乗り込んだ。
 その機体の印象を一言で言えば『不気味』だった。
 全身が血のような色で染まった機体は、まず完全な人型ではない。
 鋭利な鎧と爪を持つ上半身は一応人型ではあるが、下半身が違う。
 その鎧機兵の下半身は、まるで大樹のような太さを持つ蛇体だったのだ。
 蛇体だけでも全長が十セージル近くもある。まるで魔獣の身体だ。
 そして、さらに不気味なのがその頭部だ。
 それは大口を開けた大蛇を象った兜。その奥には――髑髏の仮面。
 恐らく大蛇に呑み込まれた人間をイメージしたデザインなのだろう。
 この鎧機兵こそが――《火妖星》。
 《黒陽社》が誇る最強の機体。《九妖星》の一角だ。
 大蛇に喰われ、一体化した亡者は、その眼窩を赤く光らせる。


『さて。そんじゃあ、はしゃぐとすっか! アッシュ=クラインよ!』


 主人であるガレックを迎い入れ、《火妖星》がいよいよ動き出した。
 搭乗のため、地面につけていた両の拳を持ち上げ、一体どんな人工筋肉を使っているのか蛇体を唸らせ、上半身を起立させる。


「……やれやれだな」


 その姿を一瞥したアッシュは、静かな声で背中の少女に告げる。


「ユーリィ。怖くねえか?」

「……うん。大丈夫。アッシュは負けないから」

「ああ、そうだな」


 愛娘の声に、アッシュは不敵に笑う。
 そしてアッシュは操縦棍を強く握りしめ、雄々しく吠えた。


『ああ、存分に付き合ってやるよ! ガレック=オージス!』
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