クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第7部

第四章 働くお嬢さま①

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「な、なんで……?」


 そこはクライン工房の一階。作業場ガレージにて。
 ユーリィ=エマリアは、愕然とした表情を浮かべていた。
 隣に立つサーシャやオトハも同様に唖然としている。
 今そこには八人の人間がいた。
 まずは留守番をしていたユーリィ、サーシャ、オトハの三人。
 続いて帰宅した工房の主人であるアッシュ。
 彼について来た客人のアリシア、エドワード、ロックの三人。
 そして最後に、予期せぬ来訪者である――。


「あははっ、久しぶりだね。三人とも」


 と、ミランシャが、頭に手を当てて笑う。


「えっと、さっき、アシュ君が説明してくれたけど、二ヶ月程ここでお世話になることになったからよろしくね」


 そんなことを宣言され、ユーリィ達留守番組は一歩後ずさった。
 どうしてこうなったのか。全くもって理解できない。
 今日は彼女達にとって、とても不満な日だった。
 気落ちするアリシアを見かねて、不本意ながらもアッシュとのデートを認めた。
 ユーリィにしろサーシャにしろ、その事自体はもう割り切っていたのだが、それがどうして同居人――しかも恋敵――が増える結果にへと繋がるのか。
 ミランシャの同行人――何故かいるエドワードとロックや、当人であるアリシアに視線を送るのだが、三人とも上手く答えられないようだった。


「まあ、そういうことだ。色々分からないことは教えてやってくれよ」


 と、アッシュがのほほんと宣った。
 ユーリィ達は、もはや呆然とするしかなかった。
 と、そんな中、


「……おい、ハウル」


 このメンバーの中では、そこそこミランシャとの付き合いが長いオトハが、呆れた果てたような様子で突然の居候に詰め寄った。


「お前な、一体どういうつもりだ。少し不謹慎だぞ。若い女がいくら友人といっても男の家に転がり込むなど……」

「オトハさん、オトハさん」


 と、ユーリィが半眼で紫紺の髪の居候を睨みつけた。


「あなたの頭カラッポなの? 完全に自分のことを棚に上げている。天罰いる?」

「う……」図星すぎてオトハは沈黙した。


 サーシャとアリシアも言葉にはしなかったが、似たような眼差しを向けている。


「……ふう」


 小さく息を吐き出して脱力するユーリィ。何にせよ、オトハが話を切り出してくれたおかげで、彼女は少しだけ冷静さを取り戻した。
 そしておもむろに顔を上げて、


「……状況は分かった。けど、本当に二ヶ月で済むの?」


 と、ユーリィはミランシャにではなく、アッシュに問う。
 クライン工房の主人は、ボリボリと頭をかいた。


「う~ん、そうだな。正直アルフ次第だな。あの爺さんのことだ。あいつがいねえと話し合いにもなんねえだろうし」


 それがアッシュの素直な意見だった。
 結局、アルフレッドを仲裁人に立てる以外、改善案がないのである。


「アルフのことだ。帰国して事情を知ったらすぐに動くだろうし、それを逆算すると二ヶ月ぐらいってのが妥当なところだと思うぞ」

「………そう」


 ユーリィはぶすっとした表情で呻いた。
 確かにその通り。妥当な計算だ。
 不本意ではあるが、ミランシャの祖父の理不尽さはユーリィもよく知っている。
 赤毛女のことは嫌いだが、ここで見捨てるのも後味が悪い。
 ならば、二ヶ月ぐらいなら我慢すべきか。
 ユーリィはしばし悩み続け、ようやく結論を出した。


「分かった。私も同居を認める」

「……エマリア」


 最も反対しそうな少女の同意に、オトハは苦笑を浮かべた。


「エマリアが許可するのなら私が反対する理由がない。そもそも私も居候だからな」


 そう言って彼女もミランシャの同居を受け入れた。


「おう。ありがとな」


 と、彼女達の苦悩や心情には全く気付かずに、アッシュはにこやかに笑った。
 すると、ユーリィがじいっとアッシュを見つめ、


「アッシュ。後で絶対『抱っこ』してもらう」

「……は? ユ、ユーリィ? なんでいきなり? どうしたんだ?」


 突然そんな要求をされ、目を丸くするアッシュ。
 と、今度はオトハがアッシュを睨み、


「クライン。私には何か奢れ。美味いものだぞ」

「へ? なんでオトまで?」


 立て続けの要求にアッシュは唖然とした。
 サーシャとアリシアは「はあ」と溜息をついている。
 その微妙な空気を読んだのか、苦労人のロックが話題を変えた。


「ところで、ミランシャさん」

「ん? 何かなロック君」


 と、ミランシャがロックに視線を向ける。
 他のメンバーも大柄な少年に注目した。


「師匠の所で居候するのはいいですが、生活費などはどうするんですか? もしかして教官のように俺達の学校で働くとか」


 二ヶ月という期間は長い。流石にその期間滞在するのに、残金が少ないないという手持ちの金だけでは持たないだろう。バイトでもしないと生活ができない。
 その期間、アッシュが生活費を代替えする案もあるが、それはユーリィが許可をしないのは目に見えている。働かざる者食うべからずだ。
 クライン工房の懐事情を抑える彼女は、とてもシビアなのである。


「あ、それなら私がうちの父親に頼みましょうか?」


 と、アリシアが提案する。
 元々オトハもアリシアの父の紹介で、今の職についている。
 同じ《七星》であるミランシャならきっと受け入れてくれるだろう。
 アリシアはそう思ったのだが、


「それは無理だぞ」


 その提案をオトハが腕を組んで否定する。


「この馬鹿女は特殊すぎる。教え方も雑で教官には絶対に向かない人間だ」

「まあ、確かにな」


 ミランシャをよく知るアッシュも同意した。


「基本や基礎を重視するアルフに比べて、ミランシャはかなり大雑把だからな。そもそも愛機からして特殊すぎんだろ」

「……ム、二人とも酷くない?」


 同胞二人の酷評に、ミランシャがムッとした表情を見せた。
 が、すぐに頬に手を当て嘆息すると、


「けどまあ、そうかもね」


 自分でも向いていないことを認めた。
 すると、エドワードが「はいはーい!」と手を上げた。


「なら、ウエイトレスとかどうっすか! すっげえ似合いそうっすよ!」


 と、ミランシャの容姿だけを考慮した案を挙げる。
 ちなみにその時エドワードの脳内では、ウエイトレス姿のミランシャ――何故かユーリィの姿も思い浮かんでいた。


「お前なあ……」


 対し、友人であるロックは呆れたように苦笑した。
 だが、エドワードの気持ちも分からなくもない。
 ミランシャは誰もが認める美女だ。ウエイトレス姿もさぞかし似合うだろう。
 正直、ロックも見てみたい気分になった。


「まあ、確かにミランシャさんなら凄く似合いそうね」

「あははっ、きっとそうだね」


 と、アリシア、サーシャもあごに指を当てて想像する。
 しかし、その案に対し、アッシュは残念な表情を浮かべてかぶりを振った。


「いやいや、こいつって案外お嬢なんだぞ。客商売なんてかなり相性が悪くないか? つうか多分無理だろ」

「そうだな。私もそう思う。客を客と思わない気がしてならん。気にくわないことがあれば即座に殴りかかりそうだ」


 オトハも小さく嘆息して、そんなことを言う。
 二人とも変わらずの酷評だった。


「……本当に酷い言い草ね、二人とも」


 ミランシャが半眼で同胞二人を睨みつける。


「……なら、どうするの?」


 と、状況を見守っていたユーリィが、不安を抱いた声でミランシャに尋ねた。
 クライン工房の財布のひもを握る彼女としては、居候が増える事までは許容するが、タダ飯喰らいが増えるのだけは許可できない。
 だが、そんな少女の不安に対し、ミランシャはニコッと笑った。


「大丈夫よ! アタシに秘策があるわ!」


 と、持ち前の明るさを取り戻して堂々と宣言する。
 続けて、ビシッと親指を立てると、


「心配しないで、ユーリィちゃん! 生活費ならバッチリ稼いで見せるわ!」


 自信満々にそう告げて、彼女は満面の笑みを見せるのだった。


「それこそ、十年でも二十年でも、ここで暮らしていけるぐらいね!」

「…………そう」


 洒落にならない台詞を吐くミランシャに別の意味で不安になるユーリィだった。
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