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第7部
第四章 働くお嬢さま②
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蒼い空に鳥が舞う。
風が肌に突き刺さる寒さの中で。
巨大な河を見つめてイアン=ディーンは一人、港で佇んでいた。
そこはハウル家の私設港。眼の前には、これからイアンと彼の部下達が乗る予定の鉄甲船が停泊している。
「……この家に仕えて早や十年か」
イアンはポツリと呟く。
彼は皇国にある孤児院出身だった。特に身寄りもなく、ハウル家を後見人に、黒犬兵団の一員として幼い頃から厳しい訓練を受けた。
そして才と努力を以て今の地位を手に入れたのだ。
「だが、所詮、私は多少牙が鋭い『犬』にすぎないのか」
イアンは『裏』の世界に生きる人間だ。
弱ければ生きていけない非常な世界。当然ではあるが力には執着している。
少しでも強くなれるよう死に物狂いで修練を積んできたが、強くなるほど同時に自分の才能の限界もよく分かるようになってきた。
特に、あの《星》の名を持つ男に出会って思い知らされた。
多少なりとも腕に自信があった自分が、本当は無能であったことを。
「……化け物め」
イアンはあの怪物を思い出し、舌打ちする。
どれほど修練を積んでも『獅子』には勝てない。
今さら言われるまでもない。それはイアンの方がよく理解していた。
あれは、もはや人間の手に負えるレベルではなかった。
「……凡人には決して辿りつけない怪物の領域か」
おもむろに、イアンはズボンのポケットから小さな筒を取り出した。
そして、じっと手の平の中を見つめる。
手の中に収まるこれは、極めて特殊な道具だった。
いわゆる切り札――いや、禁断の実か。
手にしてから今日この日まで、ずっと使うことを躊躇っていた道具だ。
今回の任務。もしかすると何かの啓示なのかもしれない。
迷い続けた彼の背中を押したのは、果たして神か悪魔なのか。
イアンは、手の平の中の細い筒をグッと握りしめた。
「これは覚悟の決め時なのか」
ザザザザ……。
波の音が港に響く。
イアンの独白はその音に紛れて、静かに消えた。
◆
「毎度ありがとうございます!」
街中に元気よく響く澄んだ声。
時刻は二時半ごろ。ミランシャは満面の笑みを浮かべて挨拶をしていた。
その身体に纏うのは白いつなぎ。彼女の背中には、リボンで装飾された真円の赤枠の中に、ハンマーの図柄が刻印された金色の鐘の紋章が刺繍されている。
それはクライン工房の工房章だった。
しかし、ミランシャはクライン工房の従業員ではない。
彼女のつなぎの工房章には、とりあえず縫いつけたような一文がある。
「お預かりしたお荷物、確かにお届けしました!」
ぺこり、とミランシャが頭を下げた。
そこは鉱山街グランゾ。アティス王国が擁する鉱山街の一つであり、王都ラズンから馬を使って三日はかかる距離にある都市だった。
その一角。とある宿屋の前。
帳簿を片手に立つミランシャの傍らには、巨大な取っ手の付いたコンテナと、胸部装甲を開いた《鳳火》。そしてエプロン姿の男性――宿屋の主人の姿があった。
「いやいや、こっちこそいつも助かるよミランシャちゃん」
と、宿屋の主人がにこやかに笑う。
彼の隣には野菜や肉類を詰め込んだ、固い紙製の箱が置いてある。
「なにせここは王都から遠いからね。しかも周辺は鉱山ばっかりだし、新鮮な肉や野菜は本当にありがたいよ」
言って、受け取った商品をポンポンと叩く。
それから佇む《鳳火》に目をやり、「ううむ」と感嘆の声を上げた。
「しかし凄いねぇ。空飛ぶ鎧機兵か。外国にはこんな機体もあるのか」
店主の眼差しは興味津々だ。
長年、客商売をしている彼も鳥型の機体は見たこともなかった。
ましてやそれを操るのが見目麗しい美女ともなれば、興味は尽きない。
「まあ、この子は特別製ですから」
言って、ミランシャは《鳳火》の装甲を愛しそうに撫でた。何だかんだ言っても育ちの良い彼女のその仕種は、まるで飼い猫を愛でる深窓の令嬢のようだった。
「ははっ、そっか。特別か」
その様子を横目で見つつ、店主が腕を組んで笑う。
「まあ、ミランシャちゃんの噂を聞いた時は、正直眉唾ものだったもんなあ」
王都ラズンには空を飛ぶ運送屋がいる。
そんな噂を客から聞いた時は「はあ?」と馬鹿にしたものだ。
とは言え、その運送屋が怖ろしく運搬が速いということ自体は事実らしいので、興味本位で依頼してみたのだが、本気で驚いた。
てっきり走行に特化した鎧機兵が来るのかと思ったら、本当に空を飛んできたのだ。
蒼い大空を舞う『鋼鉄の鳥』を目の当たりにした時は、もはや驚きを通り越して、肝まで冷えたぐらいだ。
「あの時は本当にビビったよ」
うんうん、と腕を組んで首肯する店主。
ミランシャは「あはは」と笑った。
――そう。これこそがミランシャの秘策だった。
飛行能力を有する《鳳火》の特性を生かしきった商売。
すなわち、空飛ぶ運送業である。
現在、クライン工房の一角に拠点を間借りして、食材から鉱材まで、あらゆる運搬を引き受けている。開業して二週間。操手が明るい性格の美人という事と、尋常ではない運搬速度から、すでに王都ではかなり有名になっていた。
「ではアタシはそろそろ失礼しますね。またのご愛顧を!」
「ああ、またよろしく頼むよ。ミランシャちゃん」
にこやかに笑って、そう依頼する宿の店主。
対し、ミランシャも満面の笑みで返して、
「うん! ありがとう! あっ! それと、アタシの(家主の)旦那の店もよろしくお願いしますね!」
と、アッシュの店を宣伝(?)しつつ、ビシッと親指を立てる。
そして数秒後、《鳳火》はコンテナを両足で掴み、悠々と飛び立っていった。
ほぼ思いつきと勢いだけで開業したミランシャの『店』。
ハウル特急便は、今日も繁盛していた。
「ああ、そう言えば、師匠って結婚したんだってな」
場所は変わり王都ラズン。
闘技場の一角。出場する鎧機兵のメンテナンスを行う広い一室にて。
「いいよなあ。あんな綺麗な嫁さんがいるなんて」
年の頃は二十代後半だろうか。
闘技場の選手であるその青年は頭をかきつつ、ふうっと嘆息する。
「あの赤い髪なんてすっげえ綺麗でさ。正直羨ましいよ」
「……ん?」
その台詞に、騎士型の鎧機兵に乗って機能をチェックしていたアッシュは、傍に立つ青年を一瞥し、首を傾げた。
「いや、赤い髪ってミランシャのことか? あいつは俺の嫁じゃねえぞ」
「……え? そうなのか?」
目を丸くする青年。
「おし。異常なし。これで大丈夫だ」
そうこうしている内に、アッシュは作業を終えた。
それから機体からひょいと降りて、
「あいつは俺の友人だよ。ちょいとトラブルがあってさ。今はうちの工房にいるけど……なんでそんな噂が流れてんだ?」
と、不思議そうに首を傾げて尋ねる。
対し、選手の青年も首を傾げて、
「いや、ミランシャちゃん自身がそう言ってるって話だぞ。違うのか?」
「ははっ、なんだそりゃ。きっと何かの聞きまちがいだろ」
アッシュは一笑に付した。
そういえば、オトハが同居を開始した頃も、ご近所の人達やクライン工房の訪問客にアッシュの嫁だと誤解されたものだ。
若い男女が一つ屋根の下で暮らせば、そんな噂が立つのも仕方がない事か。
(まっ、噂もいずれ飽きが来んだろ)
と、アッシュは内心で苦笑しつつ楽観視する。
まさか、ミランシャ自身があえて誤解を加速させるようなことを言いふらしているとは全く考えないアッシュだった。
「ともあれ、ミランシャは俺の嫁じゃねえよ」
と、気負いすることもなくアッシュは断言する。
「ふ~ん、そうだったのか」
ここまで堂々と宣言されると、選手の青年も疑う余地もなかった。
何よりこれは、彼にとって思わぬ朗報だ。
「だったらさ。師匠」
青年はまじまじとアッシュを見つめて尋ねる。
「俺がミランシャちゃんをデートとかに誘ってもいいかい?」
なにせあれほどの美女なのだ。
フリーだと言うのならば、当然声はかけてみたい。
グッと両の拳を握りしめる青年は、かなり意気込んでいた。
すると、アッシュはあごに手を置き、
「それは別に構わねえが、あいつは昔から浮いた噂とか聞かねえからなぁ」
と、ぽつりと呟いた。
実はこれは正確ではない。皇国ではアッシュとオトハとミランシャの三人の三角関係の噂が立っているのだが、アッシュがそのことを知らないだけだった。
「まあ、人懐っこい性格はしてるが、きっとガードは固いぞ」
なので、そんな呑気な台詞を笑って宣う。
対し、青年の方は、
「おお……そうなのか。そいつはますます好みだ」
と、何か琴線に触れたのか、俄然闘志を燃やしていた。
その様子を見やり、アッシュは一瞬だけ真面目な顔をした。
「はは、やる気だな。まあ、本気の想いなら口出しはしねえが、あいつは俺の友人なんだ。もし泣かせたりしたら容赦なく塵にすっからな」
「お、おう……。了解だ」
少したじろぎながら青年は了承する。
ちなみに、結果としてこの青年は速攻で振られることになるのだが、アッシュの身内に甘い性格はここでも発揮されていた。
「さて、何にせよメンテナンスはOKだ。今日の試合、頑張れよ」
「おう! 期待していてくれ師匠!」
青年は左手で右の力瘤をパンと叩いた。
アッシュはふっと笑みを浮かべて「おう。頑張れよ」ともう一度青年にエールを送り、工具箱を片手に部屋を退出した。
そして一人、煉瓦の壁で囲まれた闘技場の通路を歩き、
「いやあ、それにしてもミランシャの奴、商才あんなぁ」
すでに運送屋として名を知られる友人に賞賛を贈る。
ただ、それと同時に徐々に広まりつつある『流れ星師匠の嫁』の噂。
日毎に危機感を募らせている女性陣がいることなど露も知らず、とにかく呑気に構えるアッシュであった。
風が肌に突き刺さる寒さの中で。
巨大な河を見つめてイアン=ディーンは一人、港で佇んでいた。
そこはハウル家の私設港。眼の前には、これからイアンと彼の部下達が乗る予定の鉄甲船が停泊している。
「……この家に仕えて早や十年か」
イアンはポツリと呟く。
彼は皇国にある孤児院出身だった。特に身寄りもなく、ハウル家を後見人に、黒犬兵団の一員として幼い頃から厳しい訓練を受けた。
そして才と努力を以て今の地位を手に入れたのだ。
「だが、所詮、私は多少牙が鋭い『犬』にすぎないのか」
イアンは『裏』の世界に生きる人間だ。
弱ければ生きていけない非常な世界。当然ではあるが力には執着している。
少しでも強くなれるよう死に物狂いで修練を積んできたが、強くなるほど同時に自分の才能の限界もよく分かるようになってきた。
特に、あの《星》の名を持つ男に出会って思い知らされた。
多少なりとも腕に自信があった自分が、本当は無能であったことを。
「……化け物め」
イアンはあの怪物を思い出し、舌打ちする。
どれほど修練を積んでも『獅子』には勝てない。
今さら言われるまでもない。それはイアンの方がよく理解していた。
あれは、もはや人間の手に負えるレベルではなかった。
「……凡人には決して辿りつけない怪物の領域か」
おもむろに、イアンはズボンのポケットから小さな筒を取り出した。
そして、じっと手の平の中を見つめる。
手の中に収まるこれは、極めて特殊な道具だった。
いわゆる切り札――いや、禁断の実か。
手にしてから今日この日まで、ずっと使うことを躊躇っていた道具だ。
今回の任務。もしかすると何かの啓示なのかもしれない。
迷い続けた彼の背中を押したのは、果たして神か悪魔なのか。
イアンは、手の平の中の細い筒をグッと握りしめた。
「これは覚悟の決め時なのか」
ザザザザ……。
波の音が港に響く。
イアンの独白はその音に紛れて、静かに消えた。
◆
「毎度ありがとうございます!」
街中に元気よく響く澄んだ声。
時刻は二時半ごろ。ミランシャは満面の笑みを浮かべて挨拶をしていた。
その身体に纏うのは白いつなぎ。彼女の背中には、リボンで装飾された真円の赤枠の中に、ハンマーの図柄が刻印された金色の鐘の紋章が刺繍されている。
それはクライン工房の工房章だった。
しかし、ミランシャはクライン工房の従業員ではない。
彼女のつなぎの工房章には、とりあえず縫いつけたような一文がある。
「お預かりしたお荷物、確かにお届けしました!」
ぺこり、とミランシャが頭を下げた。
そこは鉱山街グランゾ。アティス王国が擁する鉱山街の一つであり、王都ラズンから馬を使って三日はかかる距離にある都市だった。
その一角。とある宿屋の前。
帳簿を片手に立つミランシャの傍らには、巨大な取っ手の付いたコンテナと、胸部装甲を開いた《鳳火》。そしてエプロン姿の男性――宿屋の主人の姿があった。
「いやいや、こっちこそいつも助かるよミランシャちゃん」
と、宿屋の主人がにこやかに笑う。
彼の隣には野菜や肉類を詰め込んだ、固い紙製の箱が置いてある。
「なにせここは王都から遠いからね。しかも周辺は鉱山ばっかりだし、新鮮な肉や野菜は本当にありがたいよ」
言って、受け取った商品をポンポンと叩く。
それから佇む《鳳火》に目をやり、「ううむ」と感嘆の声を上げた。
「しかし凄いねぇ。空飛ぶ鎧機兵か。外国にはこんな機体もあるのか」
店主の眼差しは興味津々だ。
長年、客商売をしている彼も鳥型の機体は見たこともなかった。
ましてやそれを操るのが見目麗しい美女ともなれば、興味は尽きない。
「まあ、この子は特別製ですから」
言って、ミランシャは《鳳火》の装甲を愛しそうに撫でた。何だかんだ言っても育ちの良い彼女のその仕種は、まるで飼い猫を愛でる深窓の令嬢のようだった。
「ははっ、そっか。特別か」
その様子を横目で見つつ、店主が腕を組んで笑う。
「まあ、ミランシャちゃんの噂を聞いた時は、正直眉唾ものだったもんなあ」
王都ラズンには空を飛ぶ運送屋がいる。
そんな噂を客から聞いた時は「はあ?」と馬鹿にしたものだ。
とは言え、その運送屋が怖ろしく運搬が速いということ自体は事実らしいので、興味本位で依頼してみたのだが、本気で驚いた。
てっきり走行に特化した鎧機兵が来るのかと思ったら、本当に空を飛んできたのだ。
蒼い大空を舞う『鋼鉄の鳥』を目の当たりにした時は、もはや驚きを通り越して、肝まで冷えたぐらいだ。
「あの時は本当にビビったよ」
うんうん、と腕を組んで首肯する店主。
ミランシャは「あはは」と笑った。
――そう。これこそがミランシャの秘策だった。
飛行能力を有する《鳳火》の特性を生かしきった商売。
すなわち、空飛ぶ運送業である。
現在、クライン工房の一角に拠点を間借りして、食材から鉱材まで、あらゆる運搬を引き受けている。開業して二週間。操手が明るい性格の美人という事と、尋常ではない運搬速度から、すでに王都ではかなり有名になっていた。
「ではアタシはそろそろ失礼しますね。またのご愛顧を!」
「ああ、またよろしく頼むよ。ミランシャちゃん」
にこやかに笑って、そう依頼する宿の店主。
対し、ミランシャも満面の笑みで返して、
「うん! ありがとう! あっ! それと、アタシの(家主の)旦那の店もよろしくお願いしますね!」
と、アッシュの店を宣伝(?)しつつ、ビシッと親指を立てる。
そして数秒後、《鳳火》はコンテナを両足で掴み、悠々と飛び立っていった。
ほぼ思いつきと勢いだけで開業したミランシャの『店』。
ハウル特急便は、今日も繁盛していた。
「ああ、そう言えば、師匠って結婚したんだってな」
場所は変わり王都ラズン。
闘技場の一角。出場する鎧機兵のメンテナンスを行う広い一室にて。
「いいよなあ。あんな綺麗な嫁さんがいるなんて」
年の頃は二十代後半だろうか。
闘技場の選手であるその青年は頭をかきつつ、ふうっと嘆息する。
「あの赤い髪なんてすっげえ綺麗でさ。正直羨ましいよ」
「……ん?」
その台詞に、騎士型の鎧機兵に乗って機能をチェックしていたアッシュは、傍に立つ青年を一瞥し、首を傾げた。
「いや、赤い髪ってミランシャのことか? あいつは俺の嫁じゃねえぞ」
「……え? そうなのか?」
目を丸くする青年。
「おし。異常なし。これで大丈夫だ」
そうこうしている内に、アッシュは作業を終えた。
それから機体からひょいと降りて、
「あいつは俺の友人だよ。ちょいとトラブルがあってさ。今はうちの工房にいるけど……なんでそんな噂が流れてんだ?」
と、不思議そうに首を傾げて尋ねる。
対し、選手の青年も首を傾げて、
「いや、ミランシャちゃん自身がそう言ってるって話だぞ。違うのか?」
「ははっ、なんだそりゃ。きっと何かの聞きまちがいだろ」
アッシュは一笑に付した。
そういえば、オトハが同居を開始した頃も、ご近所の人達やクライン工房の訪問客にアッシュの嫁だと誤解されたものだ。
若い男女が一つ屋根の下で暮らせば、そんな噂が立つのも仕方がない事か。
(まっ、噂もいずれ飽きが来んだろ)
と、アッシュは内心で苦笑しつつ楽観視する。
まさか、ミランシャ自身があえて誤解を加速させるようなことを言いふらしているとは全く考えないアッシュだった。
「ともあれ、ミランシャは俺の嫁じゃねえよ」
と、気負いすることもなくアッシュは断言する。
「ふ~ん、そうだったのか」
ここまで堂々と宣言されると、選手の青年も疑う余地もなかった。
何よりこれは、彼にとって思わぬ朗報だ。
「だったらさ。師匠」
青年はまじまじとアッシュを見つめて尋ねる。
「俺がミランシャちゃんをデートとかに誘ってもいいかい?」
なにせあれほどの美女なのだ。
フリーだと言うのならば、当然声はかけてみたい。
グッと両の拳を握りしめる青年は、かなり意気込んでいた。
すると、アッシュはあごに手を置き、
「それは別に構わねえが、あいつは昔から浮いた噂とか聞かねえからなぁ」
と、ぽつりと呟いた。
実はこれは正確ではない。皇国ではアッシュとオトハとミランシャの三人の三角関係の噂が立っているのだが、アッシュがそのことを知らないだけだった。
「まあ、人懐っこい性格はしてるが、きっとガードは固いぞ」
なので、そんな呑気な台詞を笑って宣う。
対し、青年の方は、
「おお……そうなのか。そいつはますます好みだ」
と、何か琴線に触れたのか、俄然闘志を燃やしていた。
その様子を見やり、アッシュは一瞬だけ真面目な顔をした。
「はは、やる気だな。まあ、本気の想いなら口出しはしねえが、あいつは俺の友人なんだ。もし泣かせたりしたら容赦なく塵にすっからな」
「お、おう……。了解だ」
少したじろぎながら青年は了承する。
ちなみに、結果としてこの青年は速攻で振られることになるのだが、アッシュの身内に甘い性格はここでも発揮されていた。
「さて、何にせよメンテナンスはOKだ。今日の試合、頑張れよ」
「おう! 期待していてくれ師匠!」
青年は左手で右の力瘤をパンと叩いた。
アッシュはふっと笑みを浮かべて「おう。頑張れよ」ともう一度青年にエールを送り、工具箱を片手に部屋を退出した。
そして一人、煉瓦の壁で囲まれた闘技場の通路を歩き、
「いやあ、それにしてもミランシャの奴、商才あんなぁ」
すでに運送屋として名を知られる友人に賞賛を贈る。
ただ、それと同時に徐々に広まりつつある『流れ星師匠の嫁』の噂。
日毎に危機感を募らせている女性陣がいることなど露も知らず、とにかく呑気に構えるアッシュであった。
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