クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第8部

第六章 夜に迷う⑤

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「……少々やりすぎではありませんか?」


 と、ガダル=ベスニアが呟く。


「私は別に彼女を傀儡にしたい訳ではない」


 そして石造りの建造物の屋上から眼下を見やり、


「あそこまで追い詰める必要があるのですか?」


 と、不満げな口調で問う。
 一方、彼の傍らに立つ老紳士――ウォルター=ロッセンは、


「ふふ、なに。これは演出ですよ」


 そう言って口角を崩す。


「他国の技術を、身を持って体験された方が姫殿下の説得も容易でしょう。経験に勝る説得力はない。ベスニア殿もそうでしたでしょう」

「……確かにそうですが」


 なお不満げにガダルは眼下のルカの様子を凝視する。


「彼女は何も知らない。これではただ恐怖を植え付けるだけはないですか?」

「ふふ、だからこそこれは演出なのですよ」


 ウォルターは笑う。


「これは体験だけが目的ではないのです。恐怖を植え付けた所で颯爽と『王子さま』が現れる。あの年頃の少女にとっては垂涎ものの演出だと思いませんか?」


 ガダルは眉根を寄せた。一体この男は何の話をしているのだろうか。
 そして意味深に笑うウォルターを不快そうに睨みつけて。


「……それは一体どういう意味でしょうか?」


 と、率直に問い質した。すると、


「……それについては私から説明いたしましょう」


 不意に新たな声が響いた。
 ウォルターの隣に立っていた、もう一人の人物。ガロンワーズ家の次男であるシャールズ=ガロンワーズが初めて口を開いたのだ。


「この一件を使って彼女の心に入り込むためです。申し訳ありませんが、ロッセン殿には悪役を演じて頂いているのですよ」


 ガダルは鋭い視線をシャールズに向けた。


「心に入り込む? もしやそれは……」


 一拍置いて、神妙な口調で問う。


「ガロンワーズ家は王権を望んでいると? そういう事ですか?」

「…………」


 シャールズは何も答えない。
 代わりに黒いキューブを片手に持つウォルターがくつくつと笑った。
 ガダルは静かに二人を睨みつける。
 今回の計画は、未来の女王たるルカ王女を懐柔するためのものだ。
 恐らく保守派であるアロス王は、兵器の輸出をそう簡単には認めないだろう。だからこそ次代を懐柔することが重要だった。彼女を傀儡にまでする気はないが、少なくとも同志にはなってもらう。それがこの計画の趣旨だった。
 しかし、婚姻を結ぶなどまでは聞いていない。
 確かにガロンワーズ家が王権を握れば、計画はかなりスムーズに進むだろう。元々王家に連なる一族。そのこと自体には反対しない。
 とは言え、それを直前まで秘匿にされるのは流石に不愉快だった。


「……シャールズ殿」


 ガダルは色白な青年を睨みつけた。
 だが、シャールズは何も答えない。ただ静かに眼下を見据えて……。
 ピクリ、と。
 片眉を動かした。
 横に並ぶウォルターも少し眉を上げて「これは……」と呟く。
 二人の様子にガダルは眼下に目をやった。
 すると、そこにはガロンワーズ家の当主――ザイン=ガロンワーズがルカ王女の腕を掴んでいる姿があった。どうやら計画が次の段階に移ったようだ。


「……ザイン殿も共犯か」


 考えてみれば、王女の伴侶ともなれば公爵家の当主でもなければつり合いが取れないだろう。ウォルターの言う『王子さま』役とはザインのことか。


(まったく。若僧どもが好き勝手にしてくれる)


 ガダルは流石に不快感を露わにした。そしてさぞかしほくそ笑んでいるだろうと思い、シャールズの横顔に目をやるが、


(……なに?)


 訝しげに眉根を寄せる。
 何故か、痩身の青年は不快げに顔を歪めていたのだ。
 その奥にいるウォルターは皮肉げに口角を崩していた。
 ガダルは困惑した。どうも二人の様子がおかしい。
 そしてその気持ちを知ってか知らずか、シャールズは小さく呟いた。


「……。兄上」



       ◆



「おいおい、全く容赦がないな!」


 夜の大通りをザインが走る。
 青年の手には少女――ルカの手が引かれていた。
 彼らの上空ではオルタナが飛翔して追従している。


「あ、あの、ザインさん?」


 息を切らせながら、ルカは青年の名を呼ぶ。


「こ、これはどういう、こと、ですか?」

「説明は後でする! 今は走れ!」


 と、ザインは叫んだ。
 その時、ゴウッと風を切って何かが飛来した。
 ザインはルカの手を掴んだまま身体を屈めて地に伏せた。
 直後、人間と比較すると巨大な鉄球がザインの頭上を通過した。
 豪胆で知られるガロンワーズの当主も流石に青ざめる。


「……あの野郎。


 ザインは後方に目をやった。
 そこには十数機の《クルスス》の集団。
 各機がゆっくりと進みつつ、フレイルを身構えているのだ。
 ザインは舌打ちする。


「こいつが相界陣の追憶兵って奴か」

「つ、追憶、兵?」


 ザインの独白をルカが反芻した。


「そ、相界陣って、エルサガの? 転移陣の元になった……」


 と、ルカが呟く。
 彼女も技術者の端くれ。四大技術について名前ぐらいは知っている。
 相界陣とは西方の大陸・エルサガの代表格にされる技術であり、セラ大陸では鎧機兵召喚に用いられる転移陣がその流れを組むと聞いていた。


「じゃ、じゃあ、この世界は……相界陣、なの?」


 言って周囲に目をやる。
 延々と続く大通り。相界陣とは通常の空間に重ね合わせるように類似した空間を造る技術だったはず。ならばこの状況は当てはまる。
 しかし――。


「つ、追憶兵って何?」


 と、ルカはザインに尋ねた。
 相界陣は知っているが、そちらは聞いたことのない名称だった。


「それはだな」ザインはルカの手を引き上げ、再び走り出す。

「この相界陣って奴は、捕縛した対象者の記憶を元に造られるんだよ。追憶兵ってのはその対象者の記憶にある兵器とかを再現した兵士のことだ」


 ルカは大きく目を見開いた。


「そ、そんな技術があるの?」

「まあな。アロンの魔具も相当なもんだが、エルサガも大抵常識外だよな」


 と、ザインは皮肉気に笑う。
 各大陸にとっては鎧機兵も充分異様な存在なのだが、それは棚に上げる。
 何より今はそれどころではない。


「……くそッ!」


 再び襲ってきた鉄球をどうにか回避し、ザインは忌々しげに舌打ちする。
 鉄球はルカを徹底して避けている。明らかに自分だけを狙った攻撃だった。
 最悪の場合、ルカを盾にすれば鉄球の弾幕もマシにはなるだろうが、『貴族』として、何よりも『男』として、か弱い少女を盾にするなど受け入れられなかった。
 それにもしそんなことをすれば、後でにぶちのめされるのは確実だ。


(あいつは本当に女子供に甘いからな)


 ザインは皮肉気に笑う。が、その間も鉄球は次々と打ち出され、時には街灯や石畳を打ち砕いた。このままではいずれ追い詰められる。


(くそッ! 仕方がねえ!)


 ザインは覚悟を決めて懐から懐中時計を取り出した。
 と、同時に無数の鉄球がザイン一人に向かって撃ち出される!
 その瞬間、ザインは叫んだ。


「許せ! 出て来い! 《》!」


 途端、ザインの前で光の線が疾走する。
 眩い光は一瞬で地面に転移陣を描き、その場からは、シルクハットをかぶった紳士を模した鎧機兵――《デュランハート》が召喚された。
 しかし、タイミングがあまりにも悪い……いや、すべては覚悟の上か。
 タキシードを思わす外装は襲い来る鉄球に被弾した。金属片が無残に飛び散り、轟音が響き渡る。《デュランハート》は咄嗟の盾として喚び出されたのだ。


「……え?」その光景に唖然としたのはルカだった。

「な、なんで? この機体って、仮面さんの……」


 と、ルカが呟く内にも、操手のいない《デュランハート》は身構える事も出来ず攻撃を受け続け、遂にはズズンと横に倒れ込んだ。そして全身から白煙を上げる。


「……すまねえ。《デュランハート》」


 ザインは唇を噛みしめる。が、悔やんでいる暇もない。
 障害を排除した《クルスス》の軍団はズシンズシンとザイン達に近付いてくる。
 ザインはルカの手を取り、再び走り出そうとする――が、


「……なに?」


 ふと足を止める。
 いきなり《クルスス》の軍団が一斉に動きを止めたのだ。
 訝しむザインとルカ。しかし、その理由はすぐに分かる。数秒も経たない内に《クルスス》の軍団の間から三人の男達が現れたからだ。
 ルカは大きく目を瞠った。


「ベ、ベスニア大臣? それにシャールズさん?」


 コツコツと石畳を鳴らして近付いてくる三人の内、二人が顔見知りだった。
 最後の一人は会ったことはないが、何か不気味な雰囲気を放つ老紳士だった。


「ふん。ようやく黒幕のお出ましか」


 と、ザインが鼻を鳴らす。
「く、黒幕……?」ルカが唖然とした顔でザインの横顔を見つめた。
 続けてシャールズ達に視線を向ける。と、


「……黒幕とは聞こえが悪いですね」


 病的なまでに色白な青年は皮肉げに笑った。


「かくいう兄上こそこんな場所で一体何をしているのです? 貴方こそ悪だくみでもしていたのではないのですか?」


 と、問い返す弟に「まぁ確かにそうかもな」とザインは口角を歪めて言い放つ。


「お前の悪だくみを潰すための悪だくみだ。ガロンワーズの名を勝手に持ち出し、よからぬ連中とつるむような愚弟を放置など出来ん」

「……な、なん、だと?」


 ザインの台詞に目を剥いたのはガダルだった。


「それはどういうことですか! シャールズ殿!」


 ガダルがシャールズに詰め寄る。


「ガロンワーズ家は協力を申し出てくれたはず! まさか当主を介さず貴方の一存で対応していたということですか!」

「……落ち着いて下さい。ベスニア殿」


 しかし、シャールズは動じない。
 淡々とした声で答える。


「当主の了承は得ております。ただし当代ではなく次代になりますが」

「じ、次代だと……? それはどういう……」


 ガダルは訝しげに眉根を寄せた。


「なに。簡単な話です」


 すると今まで沈黙していたウォルターが語り始める。


「現当主は近々不遇の事故に遭われる。それが確定していました。ともなれば次代の当主は唯一の公爵家。シャールズ殿になると言う事です」

「な、なに!」


 ガダルは目を瞠った。


「ま、まさか、お前達は……」


 そう呟き、顔から血の気が引いた。それは話を聞いていたルカも同様だ。
 要するに今の台詞は――。


「はん」ザインが鼻を鳴らす。

「やっぱりお前らは俺の暗殺を計画していたってことか」


 と、当人がはっきりと告げる。
 それに対し、ウォルターは実に楽しげにくつくつと笑い、シャールズは感情のない能面のような表情を見せていた。


「……兄上」


 そして弟は兄に告げる。


「私は幼き日より貴方を心から尊敬しています。その気持ちは今も変わらない。ですが、私がガロンワーズの当主になるには――いえ」


 そこでシャールズはルカを一瞥する。


「この国の王になるには、貴方がどうしても邪魔なのです」

「お、王……? それって……」


 ぞわりと背筋に悪寒が走り、ルカは両手で身体を隠すようにして後ずさる。王になるには公爵家の当主という地位だけでは叶わない。
 王族と婚姻を結ぶ必要があるのだ。
 すなわち、彼は自分と――。


「や、やだ……」


 と、思わず本音が零れる。
 そんな主人の生理的な嫌悪を感じ取ったのか、オルタナが彼女の肩に止まって「……ウヌ! オマエモ、ロリコンカ!」と威嚇する。
 しかし、シャールズは気にする様子もなく――。


「……私はこの国をベスニア殿同様にこの国の在り様に憂いているのです。今のままではこの国はいつか他国に滅ぼされる。それを危惧しているのです」


 と、自分の意志だけを告げる。が、


「よく言うぜ」


 その台詞に対し、ザインは吐き捨てるように反論する。


「何が憂いているだ。お前はただ王権を手に入れたいだけだろう。将来を案ずるあまり、事を急ぎすぎたベスニア殿とは根本的に違う」

「…………」


 シャールズは兄に視線を向けた。


「お前は昔から国政に強い興味を持っていた。暇さえあればまるで餓えた獣のように知識を貪っていた。俺はお前の勤勉さには感心していたものだ。しかし、それだけの知識を溜めこんだ時、お前はこう思ったんじゃないか?」


 ザインは一拍置いて告げる。


「この知識を思う存分使ってみたいと」


 シャールズは無言だった。ただ真直ぐ兄を見つめている。
 が、それはある意味、兄の言葉が真実だと雄弁に語っていた。


「結局、お前はただこの国を自分の理想のまま操ってみたいんだろう? 王女を手に入れ王になり、思うがままこの国で。それがお前の本音だ。違うかシャールズ」


 ザインの言葉にシャールズは未だ何も答えない。
 兄弟の対峙を前にしてルカは硬直し、ウォルターはまるで芝居でも見物するかのように優雅に構えていた。


「ふ、ふざけるな!」


 そんな中、ようやく事態を察したガダルが吠える。


「国政で遊ぶだと! お前はそんなくだらないことを考えていたのか! 私はっ! 私は真剣に家族の平和な未来を願って――」

「ふむ。少々騒がしいですな」


 と、不意にウォルターが眉をしかめて語る。
 途端、ガダルが立つ場所に黒い空洞が生まれ、彼の姿が地面に消えた。
 その光景を目の当たりにしたルカと――ザインが青ざめる。


「き、貴様!」


 ザインはギロリと老紳士を睨みつけた。


「ベスニア殿をどうした! どこにやった!」

「いえ、どうもこの面白い舞台に茶々を入れられそうでしたからな。彼には少々離れた場所にまで一旦退場して頂きました」


 言って、片手で黒いキューブを弄びながら、ウォルターは一礼する。


「それに、ベスニア殿には貴方の暗殺の主犯という役割がありましてな。それまでは身柄を保証致しますのでご安心を。前当主殿」

「……貴様」ザインは歯を軋ませる。

「そもそも貴様の目的は何なんだ。どうやってシャールズに取り入った」

「ふむ? 私の目的ですか?」


 ウォルターは目を細めてザインを見やる。


「目的と言っても私はただのしがない武器商人です。シャールズ殿と知り合ったのはただの偶然ですな。ただ、実はこの国には昔、苦渋を舐めさせられた男がおりましてな。今回は嫌がらせの意味も兼ねて計画に乗らせて頂いた次第でございます」


 と言って、老紳士は優雅に頭を垂れた。


「……ふん」


 ザインは忌々しげに吐き捨てる。


「要するにただの賑やかしかよ。のくだらねえジジイだな」

「いやはや、それは手厳しい評価ですな」ウォルターはくつくつと笑う。

「ですが確かにそれも事実。私は裏方に徹しましょうか」


 言って、灰色の老紳士は一歩下がった。
 と、それと同時にシャールズが一歩前に進む。


「……兄上」


 そして弟は兄に告げる。


「申し訳ありませんが、ここで死んでください。兄上が生きている限り、私の夢は永遠に叶わないのです」

「……シャールズ」


 兄の呼び掛けに、弟はもう何も答えない。
 すっと後ろに下がり背を向けた。
 コツコツと足音を鳴らし、もう興味がないとばかりに去っていく。
 それと入れ違うように待機していた《クルスス》達が前に進み出す。


「ザ、ザインさん……」


 ルカが怯えた表情でザインの名を呼ぶ。
 このままでは非常にまずい。自分はまだいい。話を聞く限り、今すぐに何かをされる訳ではない。だが、ザインは違う。放っておけばこの青年は殺されてしまう。
 ルカはすっとつなぎの中に手を忍ばせた。
 ここにはハンマーがある。例え無駄であっても知り合い――しかも血縁者が殺される所など黙って見ていられない。


(わ、私が頑張らないと……)


 勇気を振り絞り、ルカが覚悟を決めた――その時だった。


「……おいおい。シャールズよ」


 不意にザインが不敵な笑みを見せたのだ。
 シャールズの足がピタリと止まる。


「随分と一方的な宣告じゃねえか。興味を失った途端、視野から相手が消える。お前の悪い癖だぞ。それに何よりもだ」


 そこで公爵家の当主は肩をすくめた。


「勝利を確信するのが早すぎるぞ。俺には俺の人脈ってのがあるんだぜ」


 と、ザインが意味ありげに告げた直後のことだった。
 ――ビシリッ、と。
 突然、大きな亀裂音が周囲に響いたのは。


「……なに!」


 そこでウォルターが、初めて動揺を見せた。
 シャールズも「何の……音だ?」と訝しげに振り返り、軍隊のように歩を進めていた《クルスス》達も足を止め、ルカはキョロキョロと周囲を見渡した。
 すると、


「……ウム! ルカ! アソコダ!」


 不意にオルタナが上空に飛んで騒ぎ立てる。
 ルカはオルタナが指摘する場所に目をやり、「……え?」と呟く。


「なん、だと……」


 この空間の支配者であるウォルターも、唖然とした表情でその場所を見つめた。
 そこは大通りの公道の中心。何もない空間だ。
 しかし、その宙空に黒い巨大な指が浮かんでいたのだ。
 そして上に四本。下に四本並んでいた指は、ゆっくりと左右に動き始める。
 途端、ビシビシビシッと亀裂音が大きくなった。
 それはまるで重い扉を、強引にこじ開けようとしているようだった。
 事実、ひび割れる音と共に空間には巨大な亀裂が走っていく。それは八本の指の動きに合わせて徐々に広がり……。


「ひ、ひゥ」


 ルカが思わず息を呑む。
 裂けた空間から、いきなり漆黒の鬼が現れたのだ。
 ――いや、正確には鬼ではない。ズズンッと太く長い尾で石畳を打ちつけて、力強く地面を踏みつけるのは一機の鎧機兵だった。
 鋭い牙が並んだ獣のようなアギトに、獅子のたてがみのごとく揺れる白い鋼髪。
 漆黒を基調に金色の縁取りで装飾した鎧装を纏い、額から二本。後頭部から二本。合計四本の真紅の角を生やした異形の機体である。
 その威圧感はまさに圧巻の一言だ。オルタナは「……ヒャア!」と悲鳴を上げて主人の肩に逃げ帰り、ルカは恐怖から身をすくめた。
 ウォルター、シャールズも大きく目を瞠って硬直している。
 が、ザインだけは「ははっ」と笑い、


「おいおい。遅すぎんぞ師匠」


 と、親しげに『鬼』に話しかける。
 すると『鬼』はザインを一瞥して鎧機兵である証明のように胸部装甲ハッチを開いた。
 直後、ルカは目を丸くした。


「……え? か、仮面さん……?」


 ――そう。大きく上に開いた胸部装甲。
 その中の操縦席にいたのは、黒い仮面をかぶったつなぎ姿の青年だった。
 未だ名を知らない――けれど誰よりもルカが頼りにする青年がそこにいたのだ。


「よう。お嬢ちゃん。無事か?」


 言って、青年――アッシュ=クラインはニカッと笑う。
 そして愛機・《朱天》の中から身を乗り出し、ザインの方に視線を向けた。


「一応お前も無事のようだな。流石にしぶとい」

「いやいや、その言い方はひどくねえか? 友達だろ。少しは心配してくれよ」

「お前みたいな奴がそう簡単にくたばるかよ。心配するだけ無駄さ」


 信頼の裏返しのようにそう嘯いて、アッシュは苦笑をこぼした。
 続けて、仮面の青年は周囲を見渡して――目を細める。
 そこには、ルカとザイン以外に、見知らぬ二人の人物と十数機の見覚えのある鎧機兵達がいる。恐らくこれが噂に聞く『追憶兵』なのか。


「まあ、いずれにせよ必要な役者は大体揃っているみてえだな」


 アッシュは不敵に笑う。
 そして再びザインの方に目をやって告げた。


「そんじゃあ、クライマックスと行こうぜ。偉大なる公爵グレイテスト・デューク
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