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第9部
第三章 「それはアウトだ――ッ!」③
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「……どうぞ」
そう告げて、片手にトレイを持ったオトハがお茶を作業机の上に置いた。
「うむ。ありがとう。美しいお嬢さん」
シュタッと片手を上げ、ゴドーは礼を言う。
そこはクライン工房の作業場。作業机の前だ。
服装だけで凄まじいレベルの変人オーラが伝わってくる人物ではあるが、とりあえずゴドーを客人と考えたアッシュ達はその場に席を設けたのである。
そのため、現在その場にはパイプ椅子に座るアッシュとユーリィ。丁度今トレイを机に置き、空いた椅子に座ったオトハ。そして早速お茶をすするゴドーと、彼の隣で横になって眠る黒い犬――ランドの姿があった。
「ええっと。ゴホン。あんたは、その、お客さんと考えていいの……でしょうか?」
と、アッシュが中途半端な敬語で会話を切り出した。
どうも直感的に眼前の人物が客であるとは思えなかったのだ。
無論、その直感は的中している。
「うむ。自前の鎧機兵は持っているが、俺は客ではないぞ」
と、お茶をすするのをやめて、机の上に湯呑みを置いたゴドーが言う。
「俺がこの場に馳せ参じたのは旧友の危機を見過ごせなかったからだ」
「は、はあ……」
アッシュは気のない声を出した。
正直、何の話なのか全く分からない。
すると、ゴドーは額に指を当て「やれやれ」とかぶりを振った。
「流石に驚いたぞ。その若さでこれほどのハーレム力を有していようとはな」
そこでアッシュの横でちょこんと座るユーリィを見やり、
「確かに瞠目に値するほどの美少女ではあるが、その子はまだ十代前半ではないか。そんな少女にまで手を出しているとは本当に驚きだ。俺でさえ一番下の嫁は二十四歳だというのに。しかも他の嫁の前で堂々とイチャつくとは恐るべき胆力よ。何よりそれを見られても怒られもしないとは……」
「おいちょっと待て。おっさん。その台詞ツッコミ所が多すぎるぞ。けど、その前にとりあえず言い訳をさせてくれ。頼むから」
そしてアッシュは言い訳を始めた。
まずユーリィは養女であると。少し機嫌を損ねていて宥めていただけだと。
あと、オトハは嫁じゃないことも伝えた。
言いふらされでもすると社会的に死にそうなのでかなり真剣に伝えた。
ただ、アッシュが真剣に否定するほど、ユーリィとオトハの顔からどんどん感情が消えていくのだが、案の定アッシュがそれに気付くことはなかった。
「――ふん。何を馬鹿なことを」
が、そこまで真剣に語ってもゴドーはアッシュの言い訳を鼻で笑った。
「宥めるために抱っこしただと? 愚かしいことを言う。俺の愛娘ちゃんも十五歳になるのだが抱っこなんてしても全然喜ばないぞ。こないだなんて『二度とするな』と、とても冷たい、声で、言われて……」
ゴドーの声は徐々に小さくなっていった。
カウボーイハットを深く被り、肩を盛んに震わせている。そして小さな声で「俺はウザくないぞ。ウザくなんてないんだ」と呟き続けていた。
「お、おい? おっさん?」
流石に心配になってアッシュが声をかける。と、
「う、うむ。まあ、そうだな。百歩譲って先程の光景はそれで納得しよう。だがな!」
ゴドーは眼光を鋭くしてアッシュを睨みつけた。
「本題は別にある! 俺は貴様を見極めに来たのだ!」
「……はあ?」
あまりにも脈略のない宣言にアッシュの目は丸くなった。
一方、もはや当然の行動と言うべきかゴドーは自分の言い分だけを告げてくる。
「きちんと養えるのか! 全員を愛せるのか! 時には連日連戦もあり得るぞ! 向こうから望まれた時はどれほど疲れていても拒否してはならん! 状況に応じては複数同時に相手取れるほどの技量と絶力を身につけよ! そして誰一人不幸にしてはならんぞ! この道は決して願望だけの平坦な道ではないのだ! 貴様の胆力は評価に値するが、それでもなおクリアすべき試練は計りしれないと知れ!」
「え? いや、何の話だ? おっさん?」
ゴドーの迫力に思わず気圧されるアッシュ。
無関係(?)であるオトハ、ユーリィも呆気に取られていた。
すると、ゴドーはガタンと椅子を倒して立ち上がった。
その表情には鬼気迫るモノがあった。
「貴様の将来について語っておるのだ! 心して聞け! さもなくば――」
そして、ゴドーはようやっとここに来た一番の本題を言い放った。
「断じて貴様にガハルドとアランの娘はくれてやらんからな!」
数秒間の間。
「……………………は?」
長い沈黙を破り、アッシュが間の抜けた声を上げた。
が、すぐに――と言うより、ようやく少しだけ状況が見えてきた。
「え? おっさんって、ガハルドのおっさんの知り合いだったのか? いや、けどアランってのは誰のことだ?」
聞き覚えのない名前に眉根を寄せる。と、
「……フラムの父上の名だ。アラン=フラム。確かそう聞いている」
結構動揺した声ではあったが、オトハが教えてくれた。
実は、アッシュはサーシャの父親と会ったことがなかった。
サーシャは結構危険な目に遭いやすい子なので、何度かフラム邸に挨拶には行っているのだが、その度に留守ということで会う機会がなかったのだ。(実際のところはアランの方が意図的に対面を避けているのだが、それはアッシュの知らないことだった)
一方、オトハはあっさりとフラム家の当主と対面する機会があった。同じく面識があるユーリィもコクコク頷いていた。
「そ、そうなのか?」
アッシュは唖然とした声で確認する。
それから目の前で仁王立ちするゴドーに改めて目をやり、
「じゃあ、このおっさんってアリシア達の親父さんの知り合いなのか?」
「――その通りだ!」
アッシュの疑問にはゴドー自らが答えた。
両腕を組み、試練を司る鬼のようにアッシュを睨み据える。
「親友の娘は俺の娘も同然! それに近付く男を見極めるのは当然であろう!」
「いや、えええぇ……」
アッシュは彼にしては非常に珍しい混乱しきった情けない声を上げた。
このおっさんをどう扱えばいいのか分からなくなったのだ。
「さあ、聞かせてもらおうではないか! 貴様の覚悟をな!」
と、ゴドーは相変わらずのテンションに告げてくる。
覚悟と言われても答えようがない。
アッシュは心底困った顔で沈黙するしかなかった。オトハとユーリィの方も困惑して助け船を出すことが出来なかった。
と、その時だった。
「――先生ぇ! 遊びに来ました!」
聞き慣れたとても元気な声が作業場の外から聞こえてきた。
誰の声なのかは言うまでもない。
そうしてぞろぞろと総勢五人の来客が訪れる。
「あれ? どうかしたんですか? アッシュさん?」
「あっ、もしかしてお客さまですか? 先生?」
それはとてもキョトンとした様子で。
まさに今、話題になっていた当人達を含めた一行がやって来たである。
三人の美少女。二人の少年で構成された一行だ。
「む? 来客か?」
その時、ゴドーが後ろを振り向いた。次いで、二人の少年に関しては一瞥もせず華麗にスルーして、まじまじと少女達の姿だけを目やる。
そして数秒後、「これは三人とも実に美しいな……っと、いかんいかん」と呟くと、身だしなみをビシッと整え直してから、おもむろに尋ねた。
「ようこそ。美しいお嬢さん方。君達の名前を教えてくれるかな?」
「いや、その台詞おかしいだろ!? なんであんたが知らねえんだ!?」
こうして、クライン工房にアッシュのツッコミが響くのであった。
そう告げて、片手にトレイを持ったオトハがお茶を作業机の上に置いた。
「うむ。ありがとう。美しいお嬢さん」
シュタッと片手を上げ、ゴドーは礼を言う。
そこはクライン工房の作業場。作業机の前だ。
服装だけで凄まじいレベルの変人オーラが伝わってくる人物ではあるが、とりあえずゴドーを客人と考えたアッシュ達はその場に席を設けたのである。
そのため、現在その場にはパイプ椅子に座るアッシュとユーリィ。丁度今トレイを机に置き、空いた椅子に座ったオトハ。そして早速お茶をすするゴドーと、彼の隣で横になって眠る黒い犬――ランドの姿があった。
「ええっと。ゴホン。あんたは、その、お客さんと考えていいの……でしょうか?」
と、アッシュが中途半端な敬語で会話を切り出した。
どうも直感的に眼前の人物が客であるとは思えなかったのだ。
無論、その直感は的中している。
「うむ。自前の鎧機兵は持っているが、俺は客ではないぞ」
と、お茶をすするのをやめて、机の上に湯呑みを置いたゴドーが言う。
「俺がこの場に馳せ参じたのは旧友の危機を見過ごせなかったからだ」
「は、はあ……」
アッシュは気のない声を出した。
正直、何の話なのか全く分からない。
すると、ゴドーは額に指を当て「やれやれ」とかぶりを振った。
「流石に驚いたぞ。その若さでこれほどのハーレム力を有していようとはな」
そこでアッシュの横でちょこんと座るユーリィを見やり、
「確かに瞠目に値するほどの美少女ではあるが、その子はまだ十代前半ではないか。そんな少女にまで手を出しているとは本当に驚きだ。俺でさえ一番下の嫁は二十四歳だというのに。しかも他の嫁の前で堂々とイチャつくとは恐るべき胆力よ。何よりそれを見られても怒られもしないとは……」
「おいちょっと待て。おっさん。その台詞ツッコミ所が多すぎるぞ。けど、その前にとりあえず言い訳をさせてくれ。頼むから」
そしてアッシュは言い訳を始めた。
まずユーリィは養女であると。少し機嫌を損ねていて宥めていただけだと。
あと、オトハは嫁じゃないことも伝えた。
言いふらされでもすると社会的に死にそうなのでかなり真剣に伝えた。
ただ、アッシュが真剣に否定するほど、ユーリィとオトハの顔からどんどん感情が消えていくのだが、案の定アッシュがそれに気付くことはなかった。
「――ふん。何を馬鹿なことを」
が、そこまで真剣に語ってもゴドーはアッシュの言い訳を鼻で笑った。
「宥めるために抱っこしただと? 愚かしいことを言う。俺の愛娘ちゃんも十五歳になるのだが抱っこなんてしても全然喜ばないぞ。こないだなんて『二度とするな』と、とても冷たい、声で、言われて……」
ゴドーの声は徐々に小さくなっていった。
カウボーイハットを深く被り、肩を盛んに震わせている。そして小さな声で「俺はウザくないぞ。ウザくなんてないんだ」と呟き続けていた。
「お、おい? おっさん?」
流石に心配になってアッシュが声をかける。と、
「う、うむ。まあ、そうだな。百歩譲って先程の光景はそれで納得しよう。だがな!」
ゴドーは眼光を鋭くしてアッシュを睨みつけた。
「本題は別にある! 俺は貴様を見極めに来たのだ!」
「……はあ?」
あまりにも脈略のない宣言にアッシュの目は丸くなった。
一方、もはや当然の行動と言うべきかゴドーは自分の言い分だけを告げてくる。
「きちんと養えるのか! 全員を愛せるのか! 時には連日連戦もあり得るぞ! 向こうから望まれた時はどれほど疲れていても拒否してはならん! 状況に応じては複数同時に相手取れるほどの技量と絶力を身につけよ! そして誰一人不幸にしてはならんぞ! この道は決して願望だけの平坦な道ではないのだ! 貴様の胆力は評価に値するが、それでもなおクリアすべき試練は計りしれないと知れ!」
「え? いや、何の話だ? おっさん?」
ゴドーの迫力に思わず気圧されるアッシュ。
無関係(?)であるオトハ、ユーリィも呆気に取られていた。
すると、ゴドーはガタンと椅子を倒して立ち上がった。
その表情には鬼気迫るモノがあった。
「貴様の将来について語っておるのだ! 心して聞け! さもなくば――」
そして、ゴドーはようやっとここに来た一番の本題を言い放った。
「断じて貴様にガハルドとアランの娘はくれてやらんからな!」
数秒間の間。
「……………………は?」
長い沈黙を破り、アッシュが間の抜けた声を上げた。
が、すぐに――と言うより、ようやく少しだけ状況が見えてきた。
「え? おっさんって、ガハルドのおっさんの知り合いだったのか? いや、けどアランってのは誰のことだ?」
聞き覚えのない名前に眉根を寄せる。と、
「……フラムの父上の名だ。アラン=フラム。確かそう聞いている」
結構動揺した声ではあったが、オトハが教えてくれた。
実は、アッシュはサーシャの父親と会ったことがなかった。
サーシャは結構危険な目に遭いやすい子なので、何度かフラム邸に挨拶には行っているのだが、その度に留守ということで会う機会がなかったのだ。(実際のところはアランの方が意図的に対面を避けているのだが、それはアッシュの知らないことだった)
一方、オトハはあっさりとフラム家の当主と対面する機会があった。同じく面識があるユーリィもコクコク頷いていた。
「そ、そうなのか?」
アッシュは唖然とした声で確認する。
それから目の前で仁王立ちするゴドーに改めて目をやり、
「じゃあ、このおっさんってアリシア達の親父さんの知り合いなのか?」
「――その通りだ!」
アッシュの疑問にはゴドー自らが答えた。
両腕を組み、試練を司る鬼のようにアッシュを睨み据える。
「親友の娘は俺の娘も同然! それに近付く男を見極めるのは当然であろう!」
「いや、えええぇ……」
アッシュは彼にしては非常に珍しい混乱しきった情けない声を上げた。
このおっさんをどう扱えばいいのか分からなくなったのだ。
「さあ、聞かせてもらおうではないか! 貴様の覚悟をな!」
と、ゴドーは相変わらずのテンションに告げてくる。
覚悟と言われても答えようがない。
アッシュは心底困った顔で沈黙するしかなかった。オトハとユーリィの方も困惑して助け船を出すことが出来なかった。
と、その時だった。
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誰の声なのかは言うまでもない。
そうしてぞろぞろと総勢五人の来客が訪れる。
「あれ? どうかしたんですか? アッシュさん?」
「あっ、もしかしてお客さまですか? 先生?」
それはとてもキョトンとした様子で。
まさに今、話題になっていた当人達を含めた一行がやって来たである。
三人の美少女。二人の少年で構成された一行だ。
「む? 来客か?」
その時、ゴドーが後ろを振り向いた。次いで、二人の少年に関しては一瞥もせず華麗にスルーして、まじまじと少女達の姿だけを目やる。
そして数秒後、「これは三人とも実に美しいな……っと、いかんいかん」と呟くと、身だしなみをビシッと整え直してから、おもむろに尋ねた。
「ようこそ。美しいお嬢さん方。君達の名前を教えてくれるかな?」
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