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第9部
第三章 「それはアウトだ――ッ!」②
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ガラララ、と車輪の音を立てて乗合馬車が去っていく。
そこはクライン工房近くの停留場。
周囲一帯には農家と田畑。遠目には都市の外壁が見える。もはや見慣れた光景だ。サーシャ達五人の騎士候補生達はいつものようにその場所に訪れていた。
そして誰ともなしに歩き出す。目的地は当然クライン工房だ。
「しかしよぉ」
両腕を後頭部で組んだエドワードがおもむろに口を開いた。
「こうも毎日街外れまで来てると、そろそろ馬車代も馬鹿になんねえよな」
それからアリシアの方に目をやり、
「なあ、エイシス。お前の家から馬車は出ねえの?」
「なに当たり前のように馬車代をたかろうとしてるのよ」
アリシアはジト目でエドワードを睨み付けた。
「専用の馬車なんて用意できないわよ。うちの父親、そこら辺厳しいし。そもそもあなたは別に毎日アッシュさんの所に行かなくてもいいじゃない」
「何言ってんだよ」
するとエドワードは不機嫌な声で言い返した。
「行かなきゃユーリィさんに会えねえじゃねえか。俺はな、毎日一度はユーリィさんの顔をみなきゃあ死んじまうんだよ」
「…………」
何よそれ。
普段ならそうツッコむアリシアなのだが、その時は沈黙した。
――そう。ツッコミなど入れられるはずもない。何故なら彼女が毎日クライン工房に通う理由も対象が違うだけで全く同じ理由だったからだ。
するとその時、自分も同じ立場であると自覚したのか、ルカがクスクスと笑い、サーシャが笑顔を固めたまま顔を背けた。彼女の顔は少し赤らんでいた。
何気に五人中四人が同じ理由で行動しているのである。
ただロックだけは「……はぁ」と深々と溜息をついていた。
彼だけは特段クライン工房に用がある訳ではなかった。想いを寄せるアリシアと行動を共にしたいから付いてきているのだ。
しかし、惚れた女が自分とは別の男の元に足繁く通うことに毎日同行するのは精神を削られる状況だった。果たしてこれは一体いつまで続くのだろうか……?
(何故俺はこんな苦行を……)
思わずそう考えてしまうロックだった。
「けどマジな話。馬車代、どうにかなんねえかな」
と、友人が落ち込むのもよそにエドワードが言葉を続けた。
「結構キツいんだよ。いっそ《アルゴス》で通うってもの手か」
と言う呟きに、落ち込んでいても反射的にロックがツッコミを入れる。
「いやエドよ。毎日五機の鎧機兵が並んで街中を闊歩するのか? どこに戦場に向かうつもりだ。流石に第三騎士団に注意されるぞ」
「う~ん、やっぱそうなるか」
気落ちするエドワードに、アリシアも顎に指を当てて告げる。
「まあ、アッシュさんやオトハさんみたいに馬を購入する手もあるけど、馬は馬で維持費はかかるわよ」
「うん。それは逆にお金がかかるよ。計算したことあるし」
と、これはサーシャの台詞。アッシュの弟子である彼女は他の四人と違って講習などでも出費があるため、そういった計算をすでに検討済みだった。
「結局、乗合馬車が一番安いよ。切り詰めてやるしかないと思うよ」
と、密かに切り詰めてまでアッシュの元に通い続けるサーシャが言う。
「う~ん、やっぱ切り詰めるしかねえのか」
両腕を組んで唸るエドワード。
何故か頻繁に鎧機兵を壊される彼としてはなかなかキツい課題だった。
と、その時、
「あ、あの……」
オルタナを肩に乗せたルカが初めて言葉を発した。
「よろしければ、馬車、作りましょうか?」
そして平然ととんでもないことを告げる。
一同は唖然とした。
「「「………………………え?」」」
全員に注目され、「ひ、ひゥ」とルカは引くがそれでも説明を続けた。
「ちょ、ちょっと前に、お師匠さまと造ったの。お師匠さまが『馬のいない馬車は画期的です』って言って。それで、《星導石》を組み込んで馬がいなくても走ることに成功したんだけど、そのままお蔵入りになって……」
「それって凄い物に聞こえるけど、なんでお蔵入りになったの?」
アリシアがそう尋ねた。
すると、ルカは少し気まずそうな表情を見せて。
「元々お師匠さまの移動用に造ったの。けど、よくよく考えたらお師匠さまは家から滅多に出ないから。使う機会がほとんどなくて……」
「……造った後に需要がないことに気付いたのか」
ロックが呆れたように呟く。
ルカは顔を真っ赤にして俯いた。
「け、けどスゲえじゃねえか! マジで造ってくれんの!」
「は、はい」
エドワードの食いつきぶりに、ルカが少し怯えながらもコクコク頷く。
「お金は少しかかるけど、廃馬車とかを利用すれば……」
「おおっ! マジか!」
俄然乗り気になるエドワード。
他のメンバーも互いに顔を見合わせて。
「確かに面白そうね」「うん。馬のいない馬車かぁ」「うむ。まあ、実際に費用がどれぐらいかかりそうなのかが課題か」
と、足を進めながら会話を交わす。
「まあ、とにかく」
そしてリーダーであるアリシアが言葉を締めた。
「もうじき到着よ。馬車を造る話はアッシュさんにも相談しましょう」
そう言って、前を指差した。
彼女達の目的地。クライン工房はもうそこまで見えていた――。
そこはクライン工房近くの停留場。
周囲一帯には農家と田畑。遠目には都市の外壁が見える。もはや見慣れた光景だ。サーシャ達五人の騎士候補生達はいつものようにその場所に訪れていた。
そして誰ともなしに歩き出す。目的地は当然クライン工房だ。
「しかしよぉ」
両腕を後頭部で組んだエドワードがおもむろに口を開いた。
「こうも毎日街外れまで来てると、そろそろ馬車代も馬鹿になんねえよな」
それからアリシアの方に目をやり、
「なあ、エイシス。お前の家から馬車は出ねえの?」
「なに当たり前のように馬車代をたかろうとしてるのよ」
アリシアはジト目でエドワードを睨み付けた。
「専用の馬車なんて用意できないわよ。うちの父親、そこら辺厳しいし。そもそもあなたは別に毎日アッシュさんの所に行かなくてもいいじゃない」
「何言ってんだよ」
するとエドワードは不機嫌な声で言い返した。
「行かなきゃユーリィさんに会えねえじゃねえか。俺はな、毎日一度はユーリィさんの顔をみなきゃあ死んじまうんだよ」
「…………」
何よそれ。
普段ならそうツッコむアリシアなのだが、その時は沈黙した。
――そう。ツッコミなど入れられるはずもない。何故なら彼女が毎日クライン工房に通う理由も対象が違うだけで全く同じ理由だったからだ。
するとその時、自分も同じ立場であると自覚したのか、ルカがクスクスと笑い、サーシャが笑顔を固めたまま顔を背けた。彼女の顔は少し赤らんでいた。
何気に五人中四人が同じ理由で行動しているのである。
ただロックだけは「……はぁ」と深々と溜息をついていた。
彼だけは特段クライン工房に用がある訳ではなかった。想いを寄せるアリシアと行動を共にしたいから付いてきているのだ。
しかし、惚れた女が自分とは別の男の元に足繁く通うことに毎日同行するのは精神を削られる状況だった。果たしてこれは一体いつまで続くのだろうか……?
(何故俺はこんな苦行を……)
思わずそう考えてしまうロックだった。
「けどマジな話。馬車代、どうにかなんねえかな」
と、友人が落ち込むのもよそにエドワードが言葉を続けた。
「結構キツいんだよ。いっそ《アルゴス》で通うってもの手か」
と言う呟きに、落ち込んでいても反射的にロックがツッコミを入れる。
「いやエドよ。毎日五機の鎧機兵が並んで街中を闊歩するのか? どこに戦場に向かうつもりだ。流石に第三騎士団に注意されるぞ」
「う~ん、やっぱそうなるか」
気落ちするエドワードに、アリシアも顎に指を当てて告げる。
「まあ、アッシュさんやオトハさんみたいに馬を購入する手もあるけど、馬は馬で維持費はかかるわよ」
「うん。それは逆にお金がかかるよ。計算したことあるし」
と、これはサーシャの台詞。アッシュの弟子である彼女は他の四人と違って講習などでも出費があるため、そういった計算をすでに検討済みだった。
「結局、乗合馬車が一番安いよ。切り詰めてやるしかないと思うよ」
と、密かに切り詰めてまでアッシュの元に通い続けるサーシャが言う。
「う~ん、やっぱ切り詰めるしかねえのか」
両腕を組んで唸るエドワード。
何故か頻繁に鎧機兵を壊される彼としてはなかなかキツい課題だった。
と、その時、
「あ、あの……」
オルタナを肩に乗せたルカが初めて言葉を発した。
「よろしければ、馬車、作りましょうか?」
そして平然ととんでもないことを告げる。
一同は唖然とした。
「「「………………………え?」」」
全員に注目され、「ひ、ひゥ」とルカは引くがそれでも説明を続けた。
「ちょ、ちょっと前に、お師匠さまと造ったの。お師匠さまが『馬のいない馬車は画期的です』って言って。それで、《星導石》を組み込んで馬がいなくても走ることに成功したんだけど、そのままお蔵入りになって……」
「それって凄い物に聞こえるけど、なんでお蔵入りになったの?」
アリシアがそう尋ねた。
すると、ルカは少し気まずそうな表情を見せて。
「元々お師匠さまの移動用に造ったの。けど、よくよく考えたらお師匠さまは家から滅多に出ないから。使う機会がほとんどなくて……」
「……造った後に需要がないことに気付いたのか」
ロックが呆れたように呟く。
ルカは顔を真っ赤にして俯いた。
「け、けどスゲえじゃねえか! マジで造ってくれんの!」
「は、はい」
エドワードの食いつきぶりに、ルカが少し怯えながらもコクコク頷く。
「お金は少しかかるけど、廃馬車とかを利用すれば……」
「おおっ! マジか!」
俄然乗り気になるエドワード。
他のメンバーも互いに顔を見合わせて。
「確かに面白そうね」「うん。馬のいない馬車かぁ」「うむ。まあ、実際に費用がどれぐらいかかりそうなのかが課題か」
と、足を進めながら会話を交わす。
「まあ、とにかく」
そしてリーダーであるアリシアが言葉を締めた。
「もうじき到着よ。馬車を造る話はアッシュさんにも相談しましょう」
そう言って、前を指差した。
彼女達の目的地。クライン工房はもうそこまで見えていた――。
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