クライン工房へようこそ!【第15部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第9部

第八章 夜宴②

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 夜の静寂の中、異形の二機は対峙する。
《朱天》がジリジリと間合いを詰めれば、《土妖星》は百足の群れを蠢かし始める。慎重に間合いを計り、互いに初手を警戒していた。
 まさに一触即発の気配だ。

 そして――ようやく動いたのは《土妖星》の方だった。

 カルロスには時間がない。それ故の速攻だ。
 百足の群れが八カ所ほどで収束し、巨大な黒い腕を構成する。次いで指をアギトのように開き、《朱天》へと襲い掛かる!

 ――が、


『陳腐な攻撃だな』


 アッシュは一瞥しただけで脅威の度合いを見切った。
 同時に右腕を振り降ろし、地面に向けて《穿風》を放つ!
 ビキビキビキ――と、石畳に亀裂が走り、土砂が一気に吹き上がった。


『――チイィ!』


 標的が土砂に覆われ、カルロスが舌打ちした。
 やむをえず《土妖星》の黒い腕もくうで止まる。と、その時、研ぎ澄まされたカルロスの直感が警告音を鳴らした。
 咄嗟に黒い腕の二本を引き戻し、右側の防御に回すと、
 ――ズドンッ!
 轟く炸裂音。防御の上からでも《土妖星》の巨体が揺れた。
 ズザザザッと巨躯を支える百足達が蠢いて体勢を立て直すが、間も開けずに胸部装甲に衝撃が走った。


『――ぐううッ!』


 カルロスが呻く。
 揺れる機体の中から見えるのは掌底の構えを取る《朱天》の姿だ。察するに恒力の塊を放つ《穿風》の二連撃を喰らったのだろう。


『舐めるなよ! 《双金葬守》!』


 百足達を倒れる方向に回し、巨体を支える。そして目には目をだ。右腕に恒力を収束させて薙ぎ払うように放出した。
 ――ガガガガガッガガガガガガガッ!
 石畳をめくり上げ、土砂の壁を構築して進む衝撃波。
 並みの鎧機兵ならば粉砕されるような脅威だが、それさえも《朱天》にとっては大した障害ではなかった。
 同じように右腕を振り、《土妖星》の規模を超える衝撃派を放った。
 二つの土砂は正面からぶつかり合って相殺される。だが、威力そのものは《朱天》の方が勝るため、《土妖星》の機体が再び揺れた。


『――クソッ!』


 カルロスは眉間に深いしわを刻み、周囲を警戒した。
 すると、ズズンと機体が大きく沈み込んだ。
 双眸を見開いて《土妖星》の肩辺りを見やると、そこには足をかける《朱天》の姿があった。拳を軽く握りしめている。


【――まずいぞ! カルロス!】


 ランドネフィアが焦りの声を上げた。
 これは完全に必殺の間合いだ。
 もしこのまま頭部にでも一撃を食らえばそれだけで決着がつく。


『足掻け! 《土妖星》!』


 カルロスは叫んだ。同時に無数の百足が刃となって《朱天》に襲い掛かる!
 形振り構わない攻撃。流石にすべてを迎撃するのは困難とみたか、《朱天》は《土妖星》の装甲を蹴って後方に回避した。
 無数の百足が宙空を切り裂き蠢く。
 そうやって、どうにか危機は回避したが……。


(………ぐ)


 ズグン、と心臓が痛む。
 先程より少しキツい痛みだ。
 間隔も心なしか短くなった気がする。やはり自分は不適合者なのか。
 だが、それでもこの戦いだけは――。


(負ける訳にはいかない! リディアのために!)


       ◆


 百足の群れを回避し、ズズンと着地する《朱天》。
 勢いがあまって石畳を削り、後方へと下がる。
 そうして《朱天》と《土妖星》は間合いを取って再び対峙した。
 数瞬の沈黙。


(確かに強えが、やはり借り物の力だな)


 その時、アッシュは冷静に戦況を見定めていた。
 なし崩し的に始まった代理戦。
 だが、対峙する機体そのものは本物の《九妖星》だ。
 だからこそ最大限の警戒をしたのだが、少し探りを入れたところ、手強いことは手強いが詰めが随分と甘い。この程度では本物の《妖星》には届かないだろう。
 反応速度・技量は超一流のようだが、不慣れな機体の性能を手探りで確かめているような印象だ。恐らく敵は《土妖星》の性能の全容が把握し切れていない。


(この程度なら《朱焰》を使うまでもねえな)


 アッシュはそう判断した。
《朱天》の切り札である《朱焰》は、たとえ四本すべてを解放せずともやはり機体に多大な負担がかかるのだ。出来ることなら使用はしたくない。
 何よりこの後、操手がゴドーと入れ変わり、第二戦も考えられる。
 ここは可能な限り、余力は残しておきたいのが本音だった。


(……けどよ)


 アッシュは操縦棍を握りしめて考える。


(もしかしてこれは好機なのか?)


 そんなことも思う。
 本来の操手ではない《九妖星》。現状でも第一級の強敵ではあるが、その力は目に見えて弱体化している。最上位にはほど遠い。
 ならば、ここで粉砕することも可能なはずだ。
 まさにあの男の驕りから発した千載一遇のチャンスとも言える。


(やはり好機か)


 わざわざ語るまでもなく《九妖星》は容易い相手ではない。
 勝敗は常にどう転ぶか分からず、勝利してもただでは済まない難敵だ。
 だがしかし、今ならば――。


「おし。決めたぞ。もう容赦はしねえ」


 アッシュは双眸を細めて宣告する。


「《九妖星》の一機。ここでサクッと墜とさせてもらうぜ」
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