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第10部(外伝)
第二章 ファイティングなメイドさん②
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「……ああン?」
顎髭の男は眉間にしわを寄せた。
「俺らが阿呆だと?」
余りにも分かりやすい罵倒。直球すぎて看過も出来ない。
顎髭の男はメイドを睨み付けた。
「言ってくれるじゃねえか。メイドの嬢ちゃんよ」
「言うも何もその通りでしょう」
しかし大男の威圧を前にしても彼女が怯むことはない。
ただ、冷めた眼差しで淡々と返す。
「この少年の村が危機的状況にあるのは分かるでしょうに。別にリスクを背負ってまで依頼を受けろとは言いません。ですが仕事を正式に受けた訳でもないのに違約金はやりすぎです。もしここで彼からそのお金を奪ったりしたら――」
そこで彼女は嘆息した。
「恐らく彼は傭兵団を雇えなくなります。騎士団が間に合わなかった場合、最悪、村は滅びることになるでしょう。あなた方の酒代の代償に、です」
「……む」
顎髭の男は眉をしかめた。メイドはさらに言葉を続ける。
「だから阿呆なのです。相手の立場を思いやれば、すぐに思いつくようなことが全く理解できていない。ここであなたが彼のお金を奪えば、間接的に一つの村が滅ぶ可能性があると考えないのですか?」
「………ぐぐぐ」
顎髭の男は呻くことしか出来なかった。
周囲の傭兵達やマスターも正論に苦笑を浮かべている。《猛虎団》の面々は気まずげな表情を見せていた。
「退きなさい」
女性は言う。
「あなたも傭兵団の団長ならばそれぐらいの度量はあるでしょう。それとも酒代欲しさに一つの村を滅ぼしますか?」
顎髭の男はギリと歯を鳴らした。
しばしの逡巡。が、ややあってボリボリと頭をかき、
「ああ! 分かったよ! くそ! ほら受け取りやがれ!」
そう告げて、手に持っていた布袋を女性に押しつけた。
女性は「賢明な判断、ありがとうございます」と言って頭を垂れた。
それから受け取った布袋を未だ腰をつく少年に渡した。
少年は目をパチパチと瞬かせて、
「あ、あの、ありがとうございます」
「いえ。お気になさらず。これでもっと強い傭兵団を当たってください」
と言って、微笑む女性だったが、
「……おい。待ちな。嬢ちゃん」
そのやり取りに過敏に反応する者がいた。ふて腐れた様子で仲間の元に戻ろうとしていた顎髭の男だ。
「流石にそいつは聞き捨てならねえぞ。俺らが弱いって聞こえるぜ」
先程以上のドスの利いた声。女性は初めてハッとした表情をした。
「いえ。そういう訳では――」
と、訂正をしようとするが今さら遅かった。
顎髭の男はグッと拳を固め、女性の前に掲げた。
「なあ、お嬢ちゃんよ」
男は双眸を細めて告げる。
「そこまで言うのなら、俺と一戦やってみるか? 俺の強さを証明してやるよ」
「はあ!? お、おい! あんた、なに言ってんだよ!?」
何やら怪しい流れになってきた。
どうして通りすがりのメイドさんが傭兵に喧嘩を売られなければならないのか。
この騒動の当事者である少年は、恩人である女性の危機に青ざめた。
「うるせえ。小僧には関係ねえことだ。黙ってな」
しかし、顎髭の男は少年を一瞥もせず切り捨てた。女性は嘆息し、
「私はただのメイドです。戦うことは出来ません」
「おいおい。そいつは俺を舐めすぎだぞ。嬢ちゃん」
顎髭の男は皮肉気に笑う。
「嬢ちゃんが一般人じゃねえのは見てりゃあ分かるさ。相手の力量を見抜くのは傭兵にとって一番重要なスキルなんだぜ」
そこまで言ったところで、顎髭をさする。
そして男は表情を真剣なものに改めた。
「なぁお嬢ちゃんよ。俺の見立てじゃあ、あんたはガチの訓練も受けたことがあるよな? 自分が強えと自覚があるからこそさっきの台詞もうっかり出たんだろ」
だからこそ聞き流せなかった。
ただのメイドなら所詮は素人の戯れ言と笑い飛ばせるが、相手が玄人だと分かる以上、聞き流しては傭兵としての沽券に関わる。
「小僧の件に関しては確かに俺の方が大人げなかった。悪かったよ。けどよ、それで俺らの実力を決めつけられんのは話が別だ」
「………………」
女性は沈黙していた。
周囲に目をやると顎髭の男の仲間達は勿論、誰一人笑っていない。ただ一人マスターだけは渋面を浮かべた顔を片手で押さえていた。
誰も止めに入る様子もない。大なり小なり全員が不快に思っているのだろう。特に《猛虎団》の面々には露骨に苛立ちを見せる者達もいる。
女性は内心で失敗したと反省する。
明らかに失言だった。相手を思いやれと言っておきながら、顎髭の男のみならず彼らの矜恃まで不用意に傷つけてしまった。
「申し訳ありません。無礼なことを言いました。しかし謝罪の気持ちはありますが、それだけではもうダメなのでしょうね」
「まあな」顎髭の男は嘆息した。「俺らにとって実力にケチを付けられるのだけは死活問題だ。こればっかは舐められる訳にはいかねえし、退くことも出来ねえ」
女性は真っ直ぐ顎髭の男の瞳を見据えた。
そして「仕方がありませんね」と呟いてサックを床に降ろした。
「俺の名はバルカスだ。家名はねえ。嬢ちゃんはなんて名前だ?」
と、尋ねる男――バルカスに対し、メイド服の女性はスカートの裾をたくし上げて一礼する。そして、
「――シャルロット=スコラです。以後お見知りおきを」
初めて彼女は名乗りを上げるのであった。
顎髭の男は眉間にしわを寄せた。
「俺らが阿呆だと?」
余りにも分かりやすい罵倒。直球すぎて看過も出来ない。
顎髭の男はメイドを睨み付けた。
「言ってくれるじゃねえか。メイドの嬢ちゃんよ」
「言うも何もその通りでしょう」
しかし大男の威圧を前にしても彼女が怯むことはない。
ただ、冷めた眼差しで淡々と返す。
「この少年の村が危機的状況にあるのは分かるでしょうに。別にリスクを背負ってまで依頼を受けろとは言いません。ですが仕事を正式に受けた訳でもないのに違約金はやりすぎです。もしここで彼からそのお金を奪ったりしたら――」
そこで彼女は嘆息した。
「恐らく彼は傭兵団を雇えなくなります。騎士団が間に合わなかった場合、最悪、村は滅びることになるでしょう。あなた方の酒代の代償に、です」
「……む」
顎髭の男は眉をしかめた。メイドはさらに言葉を続ける。
「だから阿呆なのです。相手の立場を思いやれば、すぐに思いつくようなことが全く理解できていない。ここであなたが彼のお金を奪えば、間接的に一つの村が滅ぶ可能性があると考えないのですか?」
「………ぐぐぐ」
顎髭の男は呻くことしか出来なかった。
周囲の傭兵達やマスターも正論に苦笑を浮かべている。《猛虎団》の面々は気まずげな表情を見せていた。
「退きなさい」
女性は言う。
「あなたも傭兵団の団長ならばそれぐらいの度量はあるでしょう。それとも酒代欲しさに一つの村を滅ぼしますか?」
顎髭の男はギリと歯を鳴らした。
しばしの逡巡。が、ややあってボリボリと頭をかき、
「ああ! 分かったよ! くそ! ほら受け取りやがれ!」
そう告げて、手に持っていた布袋を女性に押しつけた。
女性は「賢明な判断、ありがとうございます」と言って頭を垂れた。
それから受け取った布袋を未だ腰をつく少年に渡した。
少年は目をパチパチと瞬かせて、
「あ、あの、ありがとうございます」
「いえ。お気になさらず。これでもっと強い傭兵団を当たってください」
と言って、微笑む女性だったが、
「……おい。待ちな。嬢ちゃん」
そのやり取りに過敏に反応する者がいた。ふて腐れた様子で仲間の元に戻ろうとしていた顎髭の男だ。
「流石にそいつは聞き捨てならねえぞ。俺らが弱いって聞こえるぜ」
先程以上のドスの利いた声。女性は初めてハッとした表情をした。
「いえ。そういう訳では――」
と、訂正をしようとするが今さら遅かった。
顎髭の男はグッと拳を固め、女性の前に掲げた。
「なあ、お嬢ちゃんよ」
男は双眸を細めて告げる。
「そこまで言うのなら、俺と一戦やってみるか? 俺の強さを証明してやるよ」
「はあ!? お、おい! あんた、なに言ってんだよ!?」
何やら怪しい流れになってきた。
どうして通りすがりのメイドさんが傭兵に喧嘩を売られなければならないのか。
この騒動の当事者である少年は、恩人である女性の危機に青ざめた。
「うるせえ。小僧には関係ねえことだ。黙ってな」
しかし、顎髭の男は少年を一瞥もせず切り捨てた。女性は嘆息し、
「私はただのメイドです。戦うことは出来ません」
「おいおい。そいつは俺を舐めすぎだぞ。嬢ちゃん」
顎髭の男は皮肉気に笑う。
「嬢ちゃんが一般人じゃねえのは見てりゃあ分かるさ。相手の力量を見抜くのは傭兵にとって一番重要なスキルなんだぜ」
そこまで言ったところで、顎髭をさする。
そして男は表情を真剣なものに改めた。
「なぁお嬢ちゃんよ。俺の見立てじゃあ、あんたはガチの訓練も受けたことがあるよな? 自分が強えと自覚があるからこそさっきの台詞もうっかり出たんだろ」
だからこそ聞き流せなかった。
ただのメイドなら所詮は素人の戯れ言と笑い飛ばせるが、相手が玄人だと分かる以上、聞き流しては傭兵としての沽券に関わる。
「小僧の件に関しては確かに俺の方が大人げなかった。悪かったよ。けどよ、それで俺らの実力を決めつけられんのは話が別だ」
「………………」
女性は沈黙していた。
周囲に目をやると顎髭の男の仲間達は勿論、誰一人笑っていない。ただ一人マスターだけは渋面を浮かべた顔を片手で押さえていた。
誰も止めに入る様子もない。大なり小なり全員が不快に思っているのだろう。特に《猛虎団》の面々には露骨に苛立ちを見せる者達もいる。
女性は内心で失敗したと反省する。
明らかに失言だった。相手を思いやれと言っておきながら、顎髭の男のみならず彼らの矜恃まで不用意に傷つけてしまった。
「申し訳ありません。無礼なことを言いました。しかし謝罪の気持ちはありますが、それだけではもうダメなのでしょうね」
「まあな」顎髭の男は嘆息した。「俺らにとって実力にケチを付けられるのだけは死活問題だ。こればっかは舐められる訳にはいかねえし、退くことも出来ねえ」
女性は真っ直ぐ顎髭の男の瞳を見据えた。
そして「仕方がありませんね」と呟いてサックを床に降ろした。
「俺の名はバルカスだ。家名はねえ。嬢ちゃんはなんて名前だ?」
と、尋ねる男――バルカスに対し、メイド服の女性はスカートの裾をたくし上げて一礼する。そして、
「――シャルロット=スコラです。以後お見知りおきを」
初めて彼女は名乗りを上げるのであった。
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