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第10部(外伝)
第六章 水晶の都①
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夜の帳が降りる中。
森の奥。月の光が降り注ぐ大きな広場。
今そこには一台の馬車を中心に、三つのテントが張られていた。
虫の声だけが鳴り響く森。
と、その時、不意に馬車の幌から絶叫が上がった。
「――痛ててッ! もっと優しくしてくれよォ!」
《猛虎団》の団長・バルカスの悲鳴だ。
「うるさいね。少し黙りな」
しかし涙目になって訴えるバルカスに、ジェーンが素っ気なく言い返す。
べりっと湿布が彼女の指先によって剥がされた。
「ぎゃあ!?」とバルカスが再度悲鳴を上げる。だがその声もジェーンは気にしない。ただまじまじとバルカスの顔を見つめて……。
「……呆れた回復力だね」
深々と嘆息した。
「ほとんど腫れが引いている。あんたもう三十五だろ? どういう体してんの?」
「ガハハッ、そりゃあ決まってんだろ!」
バルカスは強引にジェーンの腕を掴むと抱き寄せた。
「いつもお前から若さをたっぷり貰ってるからさ。そんじゃあ早速始めようぜ!」
言って、早速自分の上着を脱ぎ始めた。
ジェーンは「……ふう」と溜息をつく。ランタンで照らされた幌には彼女達二人しかいない。入り口はすでにカーテンで閉じられている。最初から準備万端という訳だ。
「本当に今夜もするの? 無駄に体力を消耗するだけじゃない。今回の計画を立てたのはあんたなんだよ?」
「ああ、計画のことは分かってるよ」
「……だったら、ん」
あごを掴むなり唇を塞ぎ、ジェーンを強引に黙らせるバルカス。
「あの小僧はきっと今回の依頼を受ける。恐らく依頼内容は村の護衛ってとこか。《黒蛇》の切り込み隊長は強さ以上に情が深いって話だからな」
「でも……ん」
そこでもう一度キス。先程よりもずっと長い。自分の女の瞳に少しずつ恍惚の光が灯り始めるのを確認しつつ、バルカスはぐふふっと笑う。
「傭兵としてはあまり褒められたもんじゃねえが、奴はそれが許されるほどに強えぇ。だからこそオオクニも自分の娘をくれてやったんだろ」
「……まあ、そうかもね」
肌をやや赤らめてジェーンが呟く。まるで強い酒にでも煽られたような様子だ。
そんな彼女の肩をバルカスはポンと叩いた。
ジェーンはわずかにビクッと震えた。
「それよりもジェーン。早く準備しな。今さら教えることなんてねえだろ?」
「う、うん。もう。そんなに急かさないでよ。分かったから」
素直にそう答えて、ジェーンはバルカスの膝の上に恐る恐る移動した。それから身につけていた虎の毛皮つきの上着をはだける。服はバサリと後ろに落ちた。大きな胸がたゆんっと揺れ、男物のズボンと黒いタンクトップだけを纏った彼女の姿が露わになる。
どうも少し緊張しているのか、ジェーンはそこで熱い吐息を零した。
「……だがしかしよ」
一方、バルカスは独白を続ける。
「今回の依頼は一人だと困難だ。どんなに強くても数の対処はどうしようもねえ。たった一人で村一つを守るには限界があるからな……」
と、そこまで呟いてから、バルカスはジェーンの腰を強引に抱き寄せる。
ジェーンは「あ……」と呟くがほとんど抵抗しない。
バルカスはニヤリと笑う。
「いい子じゃねえか。ジェーン」
言って彼女の短い髪を梳くように撫でてやる。
「う、うるさいね。あたしはもう二十二なんだよ。子供扱いするんじゃないよ」
と、ジェーンは言い返すが、顔は赤く視線も逸らしている。
普段は気丈な彼女だが一度始めるといつも従順だった。情事に対しては意外なぐらい奥手なのだ。彼女のそんな一面を知るのは世界で自分だけだった。
そう考えるとゾクゾクとしてバルカスは彼女の首筋にキスをした。ジェーンはギュッと瞳を閉じて「……ん」と吐息を零した。
「話を戻すが相手はあの面倒すぎる《蜂鬼》だ。ガチの襲撃となれば小僧であっても絶対に限界はやって来る。そこへ颯爽と登場すんのが俺らって訳だ」
ジェーンの腰のラインを手で優しくなぞる。ただそれだけで彼女は「ま、待って」と動揺した声を零して頬を赤く染めていく。
バルカスは上機嫌さを少しも隠さずに、にんまりと笑った。
「問答無用で小僧に加勢してやるのさ。そしてたっぷり恩を売ってからあの小僧をスカウトする。あれだけの実力者をフリーにさせとくなんてもったいねえだろ」
「……それには反対しないけどさ」
ジェーンは一度息を吐いてから、おずおずとバルカスの首に両手を回した。
自分でも辿々しい動きだと思う。
子供扱いするなと意気込んでみたが、実際の仕草はまるで生娘のようだった。これではバルカスの馬鹿が調子に乗るのも仕方がない。
(……なんであたしはこうなんだ)
と、自分自身の不甲斐なさに不満を抱く。
目の前にはバルカスの顔。この男に純潔を奪われたのは十七の時だった。
それから五年。肌を重ねた数はもう数え切れないぐらいなのに性分なのか毎回どうしても緊張してしまう。
こればかりはどうにも慣れないのだ。
こうも慣れないのは、もしかして他の男を知らないせいだろうか?
それとも自分の知る夜の営みは、全部この男から教わったものだからか?
しかし、いくら悩んだところで答えなど出てくるものではない。確実に分かっていることと言えば、興奮気味に鼻を膨らませているバルカスの顔がムカつくことぐらいか。きっとこいつは自分のそんな性分を心から楽しんでいるに違いないから。
(……まあ、そこはもう別にいいけどさ)
ムカつくのは今さらのことだ。それよりも気になるのは計画についてだった。
「けどバルカス。流石に露骨すぎるんじゃないかい? タイミングが良すぎるよ。またあいつの怒りを買わなきゃいいけど」
「まあ、そこはやり方次第だな。なに。そんな芝居がかった真似はしねえよ。計画だからと言って犠牲者をみすみす出す気もねえしな。村がマジでヤバそうな状況なら計画を捨ててでも加勢するつもりだ。要は俺らの本気具合があいつに伝わればいいのさ。むしろ俺が心配してんのは――」
そこでバルカスは珍しく言い淀んだ。
「……どうしたのさ?」ジェーンが小首を傾げる。
「心配してんのはお前のことだ。すまねえ。結局、《蜂鬼》の相手をすることになった」
「…………はあ?」
ジェーンは目を丸くした。
「なに? もしかして本気であたしの心配をしてたの?」
「当たり前だろ」バルカスはぶすっと言う。「お前は俺の《勲章》なんだぞ」
そう告げられてジェーンは少し不快そうに眉根を寄せた。
「……あんた。いい加減、その呼び名は――」
「この肌を」
バルカスはがしっとジェーンの頬に触れる。
虎に爪を突き立てられたような感じにジェーンが息を呑む。
「誰が《蜂鬼》なんぞにくれてやるか。お前は生涯俺のモンだ。俺だけの女なんだ。お前だけは誰にも渡さねえよ」
「あ、あんたは……」
ジェーンは目を見開いた。
――この男はどこまで傲慢なのか。
しかし、悔しくもあるが胸の奥の灯が少し輝いてしまった。
バルカスは二カッと笑った。
「まあ、お前の柔肌を堪能していいのは俺だけってことさ」
「……柔肌っていうのには少し無理があるかもね」
傭兵稼業は過酷だ。ジェーンは美人で若くもあるが、一般女性に比べてあまり肌には自信がなかった。目立たなくとも細かい傷は数え切れないぐらいだ。しかしそんなことはバルカスにとっては些細な事だった。
「ガハハッ! 俺からしてみりゃあ充分柔肌さ! そんじゃあ早速いつもみてえに堪能させてもらおうか!」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ、やっ……」
頬を染めるジェーン。だがバルカスはお構いなしだ。ジェーンに両手を上げさせると自らの手でタンクトップを脱がす。大きな双丘がぶるんと揺れて「おおっ! 相変わらずの眼福だな!」と満足げに笑う。
そして恥じらうジェーンを強く抱き寄せた。「だ、だから待ってバルカス」とジェーンは訴えるが当然待たない。胸板にて押し潰される巨峰の感触を堪能しつつ、自分のものである証を刻むために再び彼女の首筋にキスしようとしたところで、
「――――……」
不意にバルカスは動きを止めた。続けて彼女を少し離して幌の入り口を見やる。表情は真剣なものだった。
「……どうしたの? バルカス?」
ジェーンが訝しんでそう尋ねると、
「……虫の声が止んだ」
ポツリと返す。ジェーンの顔つきも変わった。バルカスから飛び退くと脱いだタンクトップで胸元を隠し、側に置いてあった短剣を手に取る。
「魔獣かい?」
「分からねえ。少し待ってくれ」
言ってバルカスは双眸を閉じた。
全神経を聴覚だけに集中する。そして数秒間ほど「……歯軋り? 獣か?」と一人ブツブツと呟いた後、唐突にカッと目を見開いた。
「――女! いやガキの悲鳴だ!」
そう叫んでバルカスは自分の上着と短剣を拾い上げると、幌から飛び出した。
焚き火を囲んで談笑していた団員達は目を丸くした。
「――出番だ! てめえら!」
バルカスは一喝する。
「敵は獣か魔獣! 森の奥でガキが襲われてる! 助けにいくぞ!」
「「「――っ!」」」
団員達は一瞬目を剥くがその後の行動は早かった。
すぐさま自分の短剣を手に取り立ち上がる。が、バルカスの行動はもっと早い。
「時間がねえ! 俺は先行する! てめえらは鎧機兵を喚んで来い!」
言って、森の奥に向かって走り出していた。
巨躯には似合わない疾走は、まさしく虎を思わせるものだった。
「ああッくそ! 俺のお楽しみを邪魔しやがって!」
バルカスはギシリと歯を鳴らした。
「――夜の森に入り込む馬鹿ガキが! それを襲うくそったれの魔獣が! ぶん殴ってやるから待っていやがれよ!」
そう言い放ちながらも、子供を助けるためにさらに加速するバルカスだった。
森の奥。月の光が降り注ぐ大きな広場。
今そこには一台の馬車を中心に、三つのテントが張られていた。
虫の声だけが鳴り響く森。
と、その時、不意に馬車の幌から絶叫が上がった。
「――痛ててッ! もっと優しくしてくれよォ!」
《猛虎団》の団長・バルカスの悲鳴だ。
「うるさいね。少し黙りな」
しかし涙目になって訴えるバルカスに、ジェーンが素っ気なく言い返す。
べりっと湿布が彼女の指先によって剥がされた。
「ぎゃあ!?」とバルカスが再度悲鳴を上げる。だがその声もジェーンは気にしない。ただまじまじとバルカスの顔を見つめて……。
「……呆れた回復力だね」
深々と嘆息した。
「ほとんど腫れが引いている。あんたもう三十五だろ? どういう体してんの?」
「ガハハッ、そりゃあ決まってんだろ!」
バルカスは強引にジェーンの腕を掴むと抱き寄せた。
「いつもお前から若さをたっぷり貰ってるからさ。そんじゃあ早速始めようぜ!」
言って、早速自分の上着を脱ぎ始めた。
ジェーンは「……ふう」と溜息をつく。ランタンで照らされた幌には彼女達二人しかいない。入り口はすでにカーテンで閉じられている。最初から準備万端という訳だ。
「本当に今夜もするの? 無駄に体力を消耗するだけじゃない。今回の計画を立てたのはあんたなんだよ?」
「ああ、計画のことは分かってるよ」
「……だったら、ん」
あごを掴むなり唇を塞ぎ、ジェーンを強引に黙らせるバルカス。
「あの小僧はきっと今回の依頼を受ける。恐らく依頼内容は村の護衛ってとこか。《黒蛇》の切り込み隊長は強さ以上に情が深いって話だからな」
「でも……ん」
そこでもう一度キス。先程よりもずっと長い。自分の女の瞳に少しずつ恍惚の光が灯り始めるのを確認しつつ、バルカスはぐふふっと笑う。
「傭兵としてはあまり褒められたもんじゃねえが、奴はそれが許されるほどに強えぇ。だからこそオオクニも自分の娘をくれてやったんだろ」
「……まあ、そうかもね」
肌をやや赤らめてジェーンが呟く。まるで強い酒にでも煽られたような様子だ。
そんな彼女の肩をバルカスはポンと叩いた。
ジェーンはわずかにビクッと震えた。
「それよりもジェーン。早く準備しな。今さら教えることなんてねえだろ?」
「う、うん。もう。そんなに急かさないでよ。分かったから」
素直にそう答えて、ジェーンはバルカスの膝の上に恐る恐る移動した。それから身につけていた虎の毛皮つきの上着をはだける。服はバサリと後ろに落ちた。大きな胸がたゆんっと揺れ、男物のズボンと黒いタンクトップだけを纏った彼女の姿が露わになる。
どうも少し緊張しているのか、ジェーンはそこで熱い吐息を零した。
「……だがしかしよ」
一方、バルカスは独白を続ける。
「今回の依頼は一人だと困難だ。どんなに強くても数の対処はどうしようもねえ。たった一人で村一つを守るには限界があるからな……」
と、そこまで呟いてから、バルカスはジェーンの腰を強引に抱き寄せる。
ジェーンは「あ……」と呟くがほとんど抵抗しない。
バルカスはニヤリと笑う。
「いい子じゃねえか。ジェーン」
言って彼女の短い髪を梳くように撫でてやる。
「う、うるさいね。あたしはもう二十二なんだよ。子供扱いするんじゃないよ」
と、ジェーンは言い返すが、顔は赤く視線も逸らしている。
普段は気丈な彼女だが一度始めるといつも従順だった。情事に対しては意外なぐらい奥手なのだ。彼女のそんな一面を知るのは世界で自分だけだった。
そう考えるとゾクゾクとしてバルカスは彼女の首筋にキスをした。ジェーンはギュッと瞳を閉じて「……ん」と吐息を零した。
「話を戻すが相手はあの面倒すぎる《蜂鬼》だ。ガチの襲撃となれば小僧であっても絶対に限界はやって来る。そこへ颯爽と登場すんのが俺らって訳だ」
ジェーンの腰のラインを手で優しくなぞる。ただそれだけで彼女は「ま、待って」と動揺した声を零して頬を赤く染めていく。
バルカスは上機嫌さを少しも隠さずに、にんまりと笑った。
「問答無用で小僧に加勢してやるのさ。そしてたっぷり恩を売ってからあの小僧をスカウトする。あれだけの実力者をフリーにさせとくなんてもったいねえだろ」
「……それには反対しないけどさ」
ジェーンは一度息を吐いてから、おずおずとバルカスの首に両手を回した。
自分でも辿々しい動きだと思う。
子供扱いするなと意気込んでみたが、実際の仕草はまるで生娘のようだった。これではバルカスの馬鹿が調子に乗るのも仕方がない。
(……なんであたしはこうなんだ)
と、自分自身の不甲斐なさに不満を抱く。
目の前にはバルカスの顔。この男に純潔を奪われたのは十七の時だった。
それから五年。肌を重ねた数はもう数え切れないぐらいなのに性分なのか毎回どうしても緊張してしまう。
こればかりはどうにも慣れないのだ。
こうも慣れないのは、もしかして他の男を知らないせいだろうか?
それとも自分の知る夜の営みは、全部この男から教わったものだからか?
しかし、いくら悩んだところで答えなど出てくるものではない。確実に分かっていることと言えば、興奮気味に鼻を膨らませているバルカスの顔がムカつくことぐらいか。きっとこいつは自分のそんな性分を心から楽しんでいるに違いないから。
(……まあ、そこはもう別にいいけどさ)
ムカつくのは今さらのことだ。それよりも気になるのは計画についてだった。
「けどバルカス。流石に露骨すぎるんじゃないかい? タイミングが良すぎるよ。またあいつの怒りを買わなきゃいいけど」
「まあ、そこはやり方次第だな。なに。そんな芝居がかった真似はしねえよ。計画だからと言って犠牲者をみすみす出す気もねえしな。村がマジでヤバそうな状況なら計画を捨ててでも加勢するつもりだ。要は俺らの本気具合があいつに伝わればいいのさ。むしろ俺が心配してんのは――」
そこでバルカスは珍しく言い淀んだ。
「……どうしたのさ?」ジェーンが小首を傾げる。
「心配してんのはお前のことだ。すまねえ。結局、《蜂鬼》の相手をすることになった」
「…………はあ?」
ジェーンは目を丸くした。
「なに? もしかして本気であたしの心配をしてたの?」
「当たり前だろ」バルカスはぶすっと言う。「お前は俺の《勲章》なんだぞ」
そう告げられてジェーンは少し不快そうに眉根を寄せた。
「……あんた。いい加減、その呼び名は――」
「この肌を」
バルカスはがしっとジェーンの頬に触れる。
虎に爪を突き立てられたような感じにジェーンが息を呑む。
「誰が《蜂鬼》なんぞにくれてやるか。お前は生涯俺のモンだ。俺だけの女なんだ。お前だけは誰にも渡さねえよ」
「あ、あんたは……」
ジェーンは目を見開いた。
――この男はどこまで傲慢なのか。
しかし、悔しくもあるが胸の奥の灯が少し輝いてしまった。
バルカスは二カッと笑った。
「まあ、お前の柔肌を堪能していいのは俺だけってことさ」
「……柔肌っていうのには少し無理があるかもね」
傭兵稼業は過酷だ。ジェーンは美人で若くもあるが、一般女性に比べてあまり肌には自信がなかった。目立たなくとも細かい傷は数え切れないぐらいだ。しかしそんなことはバルカスにとっては些細な事だった。
「ガハハッ! 俺からしてみりゃあ充分柔肌さ! そんじゃあ早速いつもみてえに堪能させてもらおうか!」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ、やっ……」
頬を染めるジェーン。だがバルカスはお構いなしだ。ジェーンに両手を上げさせると自らの手でタンクトップを脱がす。大きな双丘がぶるんと揺れて「おおっ! 相変わらずの眼福だな!」と満足げに笑う。
そして恥じらうジェーンを強く抱き寄せた。「だ、だから待ってバルカス」とジェーンは訴えるが当然待たない。胸板にて押し潰される巨峰の感触を堪能しつつ、自分のものである証を刻むために再び彼女の首筋にキスしようとしたところで、
「――――……」
不意にバルカスは動きを止めた。続けて彼女を少し離して幌の入り口を見やる。表情は真剣なものだった。
「……どうしたの? バルカス?」
ジェーンが訝しんでそう尋ねると、
「……虫の声が止んだ」
ポツリと返す。ジェーンの顔つきも変わった。バルカスから飛び退くと脱いだタンクトップで胸元を隠し、側に置いてあった短剣を手に取る。
「魔獣かい?」
「分からねえ。少し待ってくれ」
言ってバルカスは双眸を閉じた。
全神経を聴覚だけに集中する。そして数秒間ほど「……歯軋り? 獣か?」と一人ブツブツと呟いた後、唐突にカッと目を見開いた。
「――女! いやガキの悲鳴だ!」
そう叫んでバルカスは自分の上着と短剣を拾い上げると、幌から飛び出した。
焚き火を囲んで談笑していた団員達は目を丸くした。
「――出番だ! てめえら!」
バルカスは一喝する。
「敵は獣か魔獣! 森の奥でガキが襲われてる! 助けにいくぞ!」
「「「――っ!」」」
団員達は一瞬目を剥くがその後の行動は早かった。
すぐさま自分の短剣を手に取り立ち上がる。が、バルカスの行動はもっと早い。
「時間がねえ! 俺は先行する! てめえらは鎧機兵を喚んで来い!」
言って、森の奥に向かって走り出していた。
巨躯には似合わない疾走は、まさしく虎を思わせるものだった。
「ああッくそ! 俺のお楽しみを邪魔しやがって!」
バルカスはギシリと歯を鳴らした。
「――夜の森に入り込む馬鹿ガキが! それを襲うくそったれの魔獣が! ぶん殴ってやるから待っていやがれよ!」
そう言い放ちながらも、子供を助けるためにさらに加速するバルカスだった。
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