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第10部(外伝)
幕間二 セレン
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ライクは暗い森の中を走っていた。
木々の隙間を縫うように進む。この森は彼にとっての狩り場。毎日行き交う場所だ。周辺の地形は知り尽くしていた。
キャシーが語った広場も心当たりがある。
「――セレン!」
弓を手に、ライクはさらに急いだ。
愛しい彼女を助けるために。
『……凄い光景ね』
――そう。あの時に交わした約束を果たすために。
時刻は夕刻――。
その日、ライクは勇気を振り絞ってセレンを外壁の上に呼び出した。
目的は彼女に告白するためだ。
ただの幼馴染から恋人に。その一歩を踏み出すためだ。
ライクはガチガチに緊張していた。
勝算は少しぐらいならあると思っている。それぐらいにセレンとは親しい。
だが、それは幼い頃から家族同然に過ごしてきたおかげだとも言える。
家族ゆえに異性として見れない。そう言われて撃沈した友達の姿も見たことがある。ライクも同様に断られてしまう可能性も充分にあった。
(もしそうなったら一週間は立ち直れないよな)
失敗した時のことばかりが脳裏をよぎる。と、
「……凄い光景ね」
外壁の上から村を眺めていたセレンが振り返って笑った。
(………あ)
ライクは緊張も忘れて見惚れてしまった。
夕陽に照らされた彼女の笑顔はとても綺麗だった。
「外壁に上ることなんて滅多にないからこんな綺麗だったなんて知らなかったわ」
言って、セレンは瞳を細めた。
眼下に見えるのは夕陽に染まった街並み。
通い慣れた道や友達とよく行く店舗。見慣れた光景も新しく見える。
「ありがとう。ライク」
セレンは幼馴染に感謝した。
と、その時、不意に気付く。幼馴染の様子が少しおかしい。何やらとても緊張しているようにも見える。
(……………あ)
夕陽の外壁。二人だけの情景。
案外鈍いセレンでも、流石にこの状況がどういうことなのか気付いた。
彼女の白い肌が一気に紅潮していった。
しかし、夕陽に照らされているため、ライクは気付かない。
「あ、あの、セレン、さん……」
「は、はい。何でしょうか。ライク、さん」
二人して何故か敬語になる。
「「………………」」
続けて二人して無言になった。
互いに今の状況をはっきりと理解していた。
だからこそ何も言えずにいた。
しかし、こういった場合、まず勇気を振り絞るのは男の役目だろう。
そもそもここに彼女を呼び出したのはライクの方だ。
「セ、セレン、さん!」
「は、はいっ!」
いきなり声を張り上げたライクに、セレンが背筋を伸ばした。
ライクは意を決し、手を彼女に差し出した。
(い、言うんだ! 俺と付き合ってくださいって言うんだ!)
頭の中はそればかりだった。
そして緊張しつつも遂に台詞が飛び出すのだが――。
「俺と、結婚してください!」
それは色々と段階まで飛ばしてしまったものだった。
「…………え?」
流石にセレンも目を丸くする。
「……へ?」ここに至ってライクも自分の台詞の内容に気付いた。
そしてどんどん青ざめていく。
「い、いや違うんだセレン! 俺は、その、付き合ってくれって言うつもりで――」
と、しどろもどろに言い訳を始めるのだが、セレンは呆れたように頭を振った。
「……ライクは相変わらず慌てん坊さんなのね」
「うっ……」
「あのね。私達はまだ付き合ってもいないのよ。どうしていきなり結婚になるの。全くあなたときたら……」
そこでセレンはいたずらっぽい微笑みを見せた。
「まずは婚約からでしょう?」
「……え」
ライクは唖然とする。が、すぐに顔色を喜びに染めた。
今の彼女の台詞は要するに――。
「い、いいのか! 俺なんかでいいのか! セレン!」
「……もう。ライクってば、自分のことを『なんか』なんて言わないの。それに私はあなたがいいの。ライクじゃなきゃ嫌なの」
言って、セレンはライクの手を取った。
彼女の掌の温もりにライクの顔が赤く染まるが、
「よ、よろしく」
「ふふ、こちらこそよろしくお願いします」
そう告げて二人は手を取り合った。
――が、ライクはそこで気付いた。
付き合うどころか将来まで約束した。
しかし、婚約指輪など当然ながら用意していない。
(ど、どうすれば……)
けれど、ここでどうしても愛の形を証明しておきかった。
ライクは覚悟を決めて、セレンの両肩を掴んだ。
セレンはハッとする。思わず頬が赤らむがそれも数瞬のことだ。
すぐに受け入れて微笑むと、
「……ライク」
愛しい少年の名を呼んでゆっくりと瞳を閉じた。
ライクは微かに喉を鳴らしつつ、自分もまた瞳を閉じた。
そして生まれた時から知っている、誰よりも大切な少女の唇に触れた。
長い口づけを交わす。
夕陽が二人を祝福していた。
「……ライク」
そしてセレンは、再び彼の名を呼ぶと微笑んで告げた。
「二人で幸せになりましょうね」
「――ああ、セレン。二人で幸せになろう!」
そしてライクは駆け抜ける。
「俺が必ず君を守るよ! だから無事でいてくれ! セレン!」
その先に、どんな絶望が待ち受けているのかも知らずに。
木々の隙間を縫うように進む。この森は彼にとっての狩り場。毎日行き交う場所だ。周辺の地形は知り尽くしていた。
キャシーが語った広場も心当たりがある。
「――セレン!」
弓を手に、ライクはさらに急いだ。
愛しい彼女を助けるために。
『……凄い光景ね』
――そう。あの時に交わした約束を果たすために。
時刻は夕刻――。
その日、ライクは勇気を振り絞ってセレンを外壁の上に呼び出した。
目的は彼女に告白するためだ。
ただの幼馴染から恋人に。その一歩を踏み出すためだ。
ライクはガチガチに緊張していた。
勝算は少しぐらいならあると思っている。それぐらいにセレンとは親しい。
だが、それは幼い頃から家族同然に過ごしてきたおかげだとも言える。
家族ゆえに異性として見れない。そう言われて撃沈した友達の姿も見たことがある。ライクも同様に断られてしまう可能性も充分にあった。
(もしそうなったら一週間は立ち直れないよな)
失敗した時のことばかりが脳裏をよぎる。と、
「……凄い光景ね」
外壁の上から村を眺めていたセレンが振り返って笑った。
(………あ)
ライクは緊張も忘れて見惚れてしまった。
夕陽に照らされた彼女の笑顔はとても綺麗だった。
「外壁に上ることなんて滅多にないからこんな綺麗だったなんて知らなかったわ」
言って、セレンは瞳を細めた。
眼下に見えるのは夕陽に染まった街並み。
通い慣れた道や友達とよく行く店舗。見慣れた光景も新しく見える。
「ありがとう。ライク」
セレンは幼馴染に感謝した。
と、その時、不意に気付く。幼馴染の様子が少しおかしい。何やらとても緊張しているようにも見える。
(……………あ)
夕陽の外壁。二人だけの情景。
案外鈍いセレンでも、流石にこの状況がどういうことなのか気付いた。
彼女の白い肌が一気に紅潮していった。
しかし、夕陽に照らされているため、ライクは気付かない。
「あ、あの、セレン、さん……」
「は、はい。何でしょうか。ライク、さん」
二人して何故か敬語になる。
「「………………」」
続けて二人して無言になった。
互いに今の状況をはっきりと理解していた。
だからこそ何も言えずにいた。
しかし、こういった場合、まず勇気を振り絞るのは男の役目だろう。
そもそもここに彼女を呼び出したのはライクの方だ。
「セ、セレン、さん!」
「は、はいっ!」
いきなり声を張り上げたライクに、セレンが背筋を伸ばした。
ライクは意を決し、手を彼女に差し出した。
(い、言うんだ! 俺と付き合ってくださいって言うんだ!)
頭の中はそればかりだった。
そして緊張しつつも遂に台詞が飛び出すのだが――。
「俺と、結婚してください!」
それは色々と段階まで飛ばしてしまったものだった。
「…………え?」
流石にセレンも目を丸くする。
「……へ?」ここに至ってライクも自分の台詞の内容に気付いた。
そしてどんどん青ざめていく。
「い、いや違うんだセレン! 俺は、その、付き合ってくれって言うつもりで――」
と、しどろもどろに言い訳を始めるのだが、セレンは呆れたように頭を振った。
「……ライクは相変わらず慌てん坊さんなのね」
「うっ……」
「あのね。私達はまだ付き合ってもいないのよ。どうしていきなり結婚になるの。全くあなたときたら……」
そこでセレンはいたずらっぽい微笑みを見せた。
「まずは婚約からでしょう?」
「……え」
ライクは唖然とする。が、すぐに顔色を喜びに染めた。
今の彼女の台詞は要するに――。
「い、いいのか! 俺なんかでいいのか! セレン!」
「……もう。ライクってば、自分のことを『なんか』なんて言わないの。それに私はあなたがいいの。ライクじゃなきゃ嫌なの」
言って、セレンはライクの手を取った。
彼女の掌の温もりにライクの顔が赤く染まるが、
「よ、よろしく」
「ふふ、こちらこそよろしくお願いします」
そう告げて二人は手を取り合った。
――が、ライクはそこで気付いた。
付き合うどころか将来まで約束した。
しかし、婚約指輪など当然ながら用意していない。
(ど、どうすれば……)
けれど、ここでどうしても愛の形を証明しておきかった。
ライクは覚悟を決めて、セレンの両肩を掴んだ。
セレンはハッとする。思わず頬が赤らむがそれも数瞬のことだ。
すぐに受け入れて微笑むと、
「……ライク」
愛しい少年の名を呼んでゆっくりと瞳を閉じた。
ライクは微かに喉を鳴らしつつ、自分もまた瞳を閉じた。
そして生まれた時から知っている、誰よりも大切な少女の唇に触れた。
長い口づけを交わす。
夕陽が二人を祝福していた。
「……ライク」
そしてセレンは、再び彼の名を呼ぶと微笑んで告げた。
「二人で幸せになりましょうね」
「――ああ、セレン。二人で幸せになろう!」
そしてライクは駆け抜ける。
「俺が必ず君を守るよ! だから無事でいてくれ! セレン!」
その先に、どんな絶望が待ち受けているのかも知らずに。
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