骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第5部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第1部

第四章 強欲なる者たち③

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「……ふむ」

 同じ夜。杜ノ宮かなたの自宅。
 古い一軒家の寝室にて、ベッドに腰をかけたゴーシュは双眸を細めた。
 手に持つのは、かなたのスマホだ。

「……骸鬼王の館か」

 大門から送られたメールのタイトルには、そう記されていた。

「《千怪万妖骸鬼センカイバンヨウガイキノ王》。かつて帝都を壊滅寸前にまで追い込んだという、伝説級の怪物の眷属が棲む館か。危険度カテゴリーはA。ふん、あの食えない教師め。大家の当主をドサクサに紛れて有効活用するつもりだな」

 言って、ゴーシュはスマホを放り投げた。
 ぱしっと両手で受け取ったのは、部屋の隅で待機していたかなただ。

「しかも、お前とエルナも同行させろとはな。奴としては俺たちを引率に利用して、未熟なお前たちにA級の体験をさせてやりたいといったところか。俺とお前。あの男とエルナ。先に館の核となる我霊を始末した方が勝者ということらしい」

 そう告げるが、かなたは無言だった。
 以前にも増して人形じみてきたな、と思いつつ、ゴーシュは身につけていた白いスーツの上着を脱いだ。床に放り捨て、次いでシャツの方も脱ぐ。上半身が裸になった。スーツの上からでも分かっていたことだが、異様なまでに鍛え上げられた肉体である。
 ゴーシュは、ムン、と力を込め、バンプアップした上腕二頭筋に目をやり、

「流石は俺の肉体。今日も絶好調のようだ。さて」

 かなたを一瞥して告げる。

「何をしている? お前も早く脱げ」

「…………」

「景品だから、あの男に遠慮して、俺がお前に手を出さないとでも思っていたのか?」

 ゴーシュは言い放つ。

「お前は俺の道具だ。早く主人を喜ばせろ」

 かなたは顔を上げた。そして「……はい」と告げて頷いた。
 まず制服のスカートから取り外す。革の鞘に収まったハサミを太股から外す。次いで腰を屈めて、すっと黒いタイツも脱いだ。
 続けて上着を。黒い下着だけの姿になった後は、それさえも取り外す。一分も経たない内にかなたは首のチョーカーだけを除いて一糸纏わぬ姿になっていた。

「……ほう」

 粉雪のごとくきめ細かい肌。
 未成熟の少女とは思えないほどに凹凸のある肢体のライン。
 傷一つないかなたの裸体を凝視し、ゴーシュはニヤリと笑う。

「大輪の花だったお前の母に比べれば、流石にまだ蕾だな。だが、それでも想像以上の美しさだ。これを今から蹂躙できると思うと、存外興奮するぞ」

 喜色満面でそう呟き、「こっちに来い」と、かなたに命じる。
 かなたは抑揚なく「はい」と答えて、ゆっくりと歩き出す。
 そして、ゴーシュの前で止まった。

「……どれどれ」

 ゴーシュはおもむろに、かなたの胸元へと手を伸ばした。
 ――が、そこで。

「…………」

 どうしてか眉をしかめる。ゴーシュは手を伸ばしたまま、動きを止めた。
 しばしの沈黙。それは、二十秒、三十秒と続く。
 そして、

「……ふん」

 不意に、ゴーシュは自嘲気味に口角を崩した。

「止めだ。お前に手を出すのは止めた」

「……ご当主さま?」

 かなたは、わずかに眉をひそめた。すると、ゴーシュは自分の足の上に肘を乗せて、

「ここでお前に手を出せば、どうしてもあの男との遺恨となるからな。やはり、男は初物が好きなものだ。もちろん、寝取るのは良いものだぞ。とても良いものなのだが、無垢を自分色に染め上げるのも存外楽しいものだしな。俺も最近経験したばかりだ」

 まあ、あいつは相当な跳ねっ返り娘でもあったがな。
 と、自身のろくでもない経験談を語りつつ、かなたに目をやった。

「さて。今回の《魂結びの儀》。勝敗に関係なく、お前は奴にくれてやるつもりだ」

 ゴーシュの顔が、少し真剣なものに変わる。

「……それは、どういうことでしょうか?」

 自分の裸体を隠そうともせず、かなたが尋ねてくる。
 ゴーシュは「ふん」と鼻を鳴らした。

「わずかな時間、相対しただけで分かったぞ。あの男は強い。下手をすれば、俺と互角か。あれほどの引導師はお前の父以来だぞ」

「……恐縮です」無表情のまま、かなたが言う。ゴーシュは皮肉気に笑った。

「お前の父は、どうにも世渡りが下手すぎた。あの実力ならば、大家相手に《魂結びの儀》など挑まずともやりようはあったはずなのにな。まあ、それは今さらか」

 一拍置いて。

「ともあれ、奴は強い。俺の腹心にもなれるほどの器だ。出来ることなら、奴とは決闘後も信頼関係を築きたい。となれば、身内に加えるのが定石なんだが、隷者相手にエルナを――妹をくれてやるのは、俺の沽券に関わる。だからこそのお前なんだ」

 ゴーシュは、かなたの裸体を再度まじまじと観察する。
 その間も少女は無反応だった。やはり裸体を隠そうともしない。

「ふむ。これならば『贈呈品』として充分だろう」

 ゴーシュは、ニヤリと笑った。

「奴のお気に入りであるお前をくれてやれば、エルナを取り上げられても少しは奴の溜飲も下がるだろう。そしてお前は奴の子を孕め。出来れば娘をな」

「……娘、ですか?」

 わずかに眉をひそめるかなたに、ゴーシュは「そうだ」と満足げに頷く。

「お前の娘を、お前の代わりとして俺が貰うことにしよう。なに。二十年ぐらい待つさ。それぐらいなら俺もまだまだ現役だろうしな。その自信もあるぞ。そして、お前の娘に俺の子を産ませるんだ。そうすれば、俺が認めた二人の男の血がフォスター家に宿る」

 ゴーシュは大きく両腕を開いた。

「フォスター家の未来は安泰だということさ」

「…………」

 かなたは再び無言になった。
 いつしか腹部の前辺りで組んでいた指が、わずかに震える。
 まるで感情の名残が抵抗するように。だが、それでも――。

「返事はどうした?」

「……はい」

 やはり、かなたが断ることはなかった。

「承知致しました。ご当主さま」
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