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第3部
第一章 お妃さまたちのお稽古②
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『……う~ん』
呻き声が響く。
『なかなか、いい候補者がいないんスよ』
次いで、少し気落ちしたような呟きが続いた。
そこは真刃の私室。
現在、家人たちは全員、訓練場にいるため、ここには誰もいない。
ただ、その代わりに、机に置かれたスマホを中心に、無数の鬼火が浮いていた。
その数はおよそ百三十。誰かに見られたら、かなりギョッとする光景だ。
このすべてが、従霊たち。
長こそ不在だが、今日は定例の従霊会議の日だった。
従霊たちは語る。
『……まあ、そうですの?』
『ふむ。それは困りましたな』
『けど、ある程度はしゃあねえだろ。探してんのは、エルナちゃんたちクラスなんだぜ。そうそういねえだろうし』
『しかし、長は漆妃まで考えておられる。肆妃で躓いていては困るぞ』
女性に男性。中には老人の声まで。
世代や性別を越えた、様々な声が続く。
『肆妃の対象年齢は、十六歳から二十代後半までだったよね。だったら、高校や大学だけに拘らず、社会人とかも対象にしたらどうかな?』
少年の声の鬼火が告げると、スマホが電気を散らして、雷光で造られた羊の顔が浮かび上がる。
デフォルメ化された雷の羊。従霊の一体である金羊だ。
『社会人っスか? う~ん、それも考えてはいるんスけど……』
金羊が渋面(?)を浮かべた。
『金羊兄さんが悩むのも分かるよ。本来、引導師って、どこかの家か組織に所属しているものだし。ましてや社会人でエルナちゃんクラスの才能でしょう? 社会人だと期待の新戦力って立場だし、そんな人だと、すでに逆ハーレムを築いてる場合もありそうだし……』
少女の声の鬼火が呟く。
『流石に、男付きを旦那の妃にすんのはなあ……』
『む。何よそれ。女は貞操を守れってこと? 処女以外は認めない気?』
『そんな心情的な話じゃねえよ。個人的には、恋愛は自由だと思ってるよ』
『ふむふむ。寝取り寝取られは、今や引導師の文化ですしな』
『そんな文化的な話でもねえよ。男付きだとしがらみが多いだろ? つうか社会人もだ。歳を食うほどにしがらみは多くなるんだぜ。紫子嬢ちゃんや、エルナ嬢ちゃんたちみてえに、全部引き換えにしてでも、旦那を選ぶ女なんてレアなんだぞ。結局、百年前の「あの女」も旦那よりも立場の方を選んだじゃねえか』
『……確かにそうっすね』
金羊は嘆息した。
『……改めて申し上げますわ。皆さん』
その時、澄んだ女性の声が響く。
普段はペーパーナイフに宿る古参の従霊である刃鳥だ。
鬼火たちは刃鳥に注目した。
『え? なに? 刃鳥姉』
『壱妃から参妃までのお人柄は、わたくしもよく存じあげています』
一拍おいて、
『彼女たちならば、真刃さまの素性を知っても受け入れることでしょう。しかしながら、それは、彼女たちには、まだ背負うモノが少ないからということもありますわ』
『……そうですな』
『おう。俺もそれを気にしてんだわ』
『ならば、肆妃の候補としては、主に見合うだけの器量に魂力の量。加え、しがらみが少ない娘が良いのか……』
次々と零れる嘆息した声。
金羊は『う~ん』と唸った。
『ハードル高いっスよねェ』
ある意味、エルナたちは奇跡の出会いだったのかもしれない。
『ねえ、金羊』
女性の声で、鬼火の一体が声を掛ける。
『まるっきり候補がいないの?』
『……少なくとも』
一拍おいて、嘆息しつつ、
『近隣の高校や大学にはいないっスね』
金羊はそう続けて、自分が得た情報を各従霊に送った。
従霊たちの意識に、全身を映した容姿の下に、簡単な素性と性格説明、年齢と魂力に系譜術。第一段階、第二段階の隷者の数や、備考を併記した映像が浮かび上がる。
従霊たちは、しばしその情報を確認した。
『あっ、この子、魂力が172もあるよ! けど、うわあ、まだ十六歳なのに第二段階の隷者が十一人って……』
『けど、その子が魂力ではTOPだよな。180越えが一人もいねえぞ……』
『かなたちゃんが195。エルナちゃんと刀歌ちゃんに至っては200越えだし、エルナちゃんたちって意外と黄金世代なのかな?』
『う~ん、ざっと見たところ、魂力は平均で140ぐらいか。大正時代に比べると、かなり上昇しているが、主の妃としてはもの足りんなあ』
『真刃さまも、妃を増やすことには乗り気じゃなさそうだしね。エルナちゃんたちを受け入れただけでも凄いくらい。残り四人は厳正に見出さないといけないよね』
『そう考えると、やっぱ性格も重要だよな。ご主人は何だかんだで古い人間だからな。明治生まれで大正育ちだけあって。しっかりしてて性格の良い子を紹介してえよな』
『そうだね。あと、真刃さまって庇護欲がかなり強いしね。かなたちゃんみたいな感じの子の方が好みかも』
そんな感じの呟きが続く。
従霊たちは、しばし議論を交わしていたが、
『どうっスか? 推しになる子はいたっスか?』
金羊がそう尋ねると、全員が沈黙した。
やはり、従霊たちのお眼鏡に叶う候補者はいなかったようだ。
『近隣では候補者はいなかった……ということですわね』
刃鳥が、結論を呟いた。
沈黙が続く。と、
『あのさ、とりあえず捜査範囲をもっと広げようよ』
従霊の一体が言った。
『他県ぐらいまで広げたら、流石に一人ぐらいはいるでしょう?』
『う~ん。そうっスねェ』
結構な労力に、金羊は肩を落とした。
『とりあえず地道に頑張ってみるっス』
『ふふ、まあ、金羊よ。そう焦ることもあるまい』
老人の声の従霊が告げる。
『幸いにも、すでに妃は三人もおるのだからな』
『ええ。そうですわ』
刃鳥が、柔らかな声で同意した。
『肆妃の選出は、多少時間がかかっても良いでしょう』
そこで、ふふっと笑って続けた。
『そう。今は壱妃さまたちに、親睦を深めてもらうことにしましょう』
呻き声が響く。
『なかなか、いい候補者がいないんスよ』
次いで、少し気落ちしたような呟きが続いた。
そこは真刃の私室。
現在、家人たちは全員、訓練場にいるため、ここには誰もいない。
ただ、その代わりに、机に置かれたスマホを中心に、無数の鬼火が浮いていた。
その数はおよそ百三十。誰かに見られたら、かなりギョッとする光景だ。
このすべてが、従霊たち。
長こそ不在だが、今日は定例の従霊会議の日だった。
従霊たちは語る。
『……まあ、そうですの?』
『ふむ。それは困りましたな』
『けど、ある程度はしゃあねえだろ。探してんのは、エルナちゃんたちクラスなんだぜ。そうそういねえだろうし』
『しかし、長は漆妃まで考えておられる。肆妃で躓いていては困るぞ』
女性に男性。中には老人の声まで。
世代や性別を越えた、様々な声が続く。
『肆妃の対象年齢は、十六歳から二十代後半までだったよね。だったら、高校や大学だけに拘らず、社会人とかも対象にしたらどうかな?』
少年の声の鬼火が告げると、スマホが電気を散らして、雷光で造られた羊の顔が浮かび上がる。
デフォルメ化された雷の羊。従霊の一体である金羊だ。
『社会人っスか? う~ん、それも考えてはいるんスけど……』
金羊が渋面(?)を浮かべた。
『金羊兄さんが悩むのも分かるよ。本来、引導師って、どこかの家か組織に所属しているものだし。ましてや社会人でエルナちゃんクラスの才能でしょう? 社会人だと期待の新戦力って立場だし、そんな人だと、すでに逆ハーレムを築いてる場合もありそうだし……』
少女の声の鬼火が呟く。
『流石に、男付きを旦那の妃にすんのはなあ……』
『む。何よそれ。女は貞操を守れってこと? 処女以外は認めない気?』
『そんな心情的な話じゃねえよ。個人的には、恋愛は自由だと思ってるよ』
『ふむふむ。寝取り寝取られは、今や引導師の文化ですしな』
『そんな文化的な話でもねえよ。男付きだとしがらみが多いだろ? つうか社会人もだ。歳を食うほどにしがらみは多くなるんだぜ。紫子嬢ちゃんや、エルナ嬢ちゃんたちみてえに、全部引き換えにしてでも、旦那を選ぶ女なんてレアなんだぞ。結局、百年前の「あの女」も旦那よりも立場の方を選んだじゃねえか』
『……確かにそうっすね』
金羊は嘆息した。
『……改めて申し上げますわ。皆さん』
その時、澄んだ女性の声が響く。
普段はペーパーナイフに宿る古参の従霊である刃鳥だ。
鬼火たちは刃鳥に注目した。
『え? なに? 刃鳥姉』
『壱妃から参妃までのお人柄は、わたくしもよく存じあげています』
一拍おいて、
『彼女たちならば、真刃さまの素性を知っても受け入れることでしょう。しかしながら、それは、彼女たちには、まだ背負うモノが少ないからということもありますわ』
『……そうですな』
『おう。俺もそれを気にしてんだわ』
『ならば、肆妃の候補としては、主に見合うだけの器量に魂力の量。加え、しがらみが少ない娘が良いのか……』
次々と零れる嘆息した声。
金羊は『う~ん』と唸った。
『ハードル高いっスよねェ』
ある意味、エルナたちは奇跡の出会いだったのかもしれない。
『ねえ、金羊』
女性の声で、鬼火の一体が声を掛ける。
『まるっきり候補がいないの?』
『……少なくとも』
一拍おいて、嘆息しつつ、
『近隣の高校や大学にはいないっスね』
金羊はそう続けて、自分が得た情報を各従霊に送った。
従霊たちの意識に、全身を映した容姿の下に、簡単な素性と性格説明、年齢と魂力に系譜術。第一段階、第二段階の隷者の数や、備考を併記した映像が浮かび上がる。
従霊たちは、しばしその情報を確認した。
『あっ、この子、魂力が172もあるよ! けど、うわあ、まだ十六歳なのに第二段階の隷者が十一人って……』
『けど、その子が魂力ではTOPだよな。180越えが一人もいねえぞ……』
『かなたちゃんが195。エルナちゃんと刀歌ちゃんに至っては200越えだし、エルナちゃんたちって意外と黄金世代なのかな?』
『う~ん、ざっと見たところ、魂力は平均で140ぐらいか。大正時代に比べると、かなり上昇しているが、主の妃としてはもの足りんなあ』
『真刃さまも、妃を増やすことには乗り気じゃなさそうだしね。エルナちゃんたちを受け入れただけでも凄いくらい。残り四人は厳正に見出さないといけないよね』
『そう考えると、やっぱ性格も重要だよな。ご主人は何だかんだで古い人間だからな。明治生まれで大正育ちだけあって。しっかりしてて性格の良い子を紹介してえよな』
『そうだね。あと、真刃さまって庇護欲がかなり強いしね。かなたちゃんみたいな感じの子の方が好みかも』
そんな感じの呟きが続く。
従霊たちは、しばし議論を交わしていたが、
『どうっスか? 推しになる子はいたっスか?』
金羊がそう尋ねると、全員が沈黙した。
やはり、従霊たちのお眼鏡に叶う候補者はいなかったようだ。
『近隣では候補者はいなかった……ということですわね』
刃鳥が、結論を呟いた。
沈黙が続く。と、
『あのさ、とりあえず捜査範囲をもっと広げようよ』
従霊の一体が言った。
『他県ぐらいまで広げたら、流石に一人ぐらいはいるでしょう?』
『う~ん。そうっスねェ』
結構な労力に、金羊は肩を落とした。
『とりあえず地道に頑張ってみるっス』
『ふふ、まあ、金羊よ。そう焦ることもあるまい』
老人の声の従霊が告げる。
『幸いにも、すでに妃は三人もおるのだからな』
『ええ。そうですわ』
刃鳥が、柔らかな声で同意した。
『肆妃の選出は、多少時間がかかっても良いでしょう』
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『そう。今は壱妃さまたちに、親睦を深めてもらうことにしましょう』
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