骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第5部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第3部

第一章 お妃さまたちのお稽古②

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『……う~ん』

 呻き声が響く。

『なかなか、いい候補者がいないんスよ』

 次いで、少し気落ちしたような呟きが続いた。
 そこは真刃の私室。
 現在、家人たちは全員、訓練場にいるため、ここには誰もいない。
 ただ、その代わりに、机に置かれたスマホを中心に、無数の鬼火が浮いていた。
 その数はおよそ百三十。誰かに見られたら、かなりギョッとする光景だ。
 このすべてが、従霊たち。
 長こそ不在だが、今日は定例の従霊会議の日だった。
 従霊たちは語る。

『……まあ、そうですの?』

『ふむ。それは困りましたな』

『けど、ある程度はしゃあねえだろ。探してんのは、エルナちゃんたちクラスなんだぜ。そうそういねえだろうし』

『しかし、長は漆妃まで考えておられる。肆妃で躓いていては困るぞ』

 女性に男性。中には老人の声まで。
 世代や性別を越えた、様々な声が続く。

『肆妃の対象年齢は、十六歳から二十代後半までだったよね。だったら、高校や大学だけに拘らず、社会人とかも対象にしたらどうかな?』
 少年の声の鬼火が告げると、スマホが電気を散らして、雷光で造られた羊の顔が浮かび上がる。
 デフォルメ化された雷の羊。従霊の一体である金羊だ。

『社会人っスか? う~ん、それも考えてはいるんスけど……』

 金羊が渋面(?)を浮かべた。

『金羊兄さんが悩むのも分かるよ。本来、引導師ボーダーって、どこかの家か組織に所属しているものだし。ましてや社会人でエルナちゃんクラスの才能でしょう? 社会人だと期待の新戦力って立場だし、そんな人だと、すでに逆ハーレムを築いてる場合もありそうだし……』

 少女の声の鬼火が呟く。

『流石に、男付きを旦那の妃にすんのはなあ……』

『む。何よそれ。女は貞操を守れってこと? 処女以外は認めない気?』

『そんな心情的な話じゃねえよ。個人的には、恋愛は自由だと思ってるよ』

『ふむふむ。寝取り寝取られは、今や引導師の文化ですしな』

『そんな文化的な話でもねえよ。男付きだとしがらみが多いだろ? つうか社会人もだ。歳を食うほどにしがらみは多くなるんだぜ。紫子嬢ちゃんや、エルナ嬢ちゃんたちみてえに、全部引き換えにしてでも、旦那を選ぶ女なんてレアなんだぞ。結局、百年前の「あの女」も旦那よりも立場の方を選んだじゃねえか』

『……確かにそうっすね』

 金羊は嘆息した。

『……改めて申し上げますわ。皆さん』

 その時、澄んだ女性の声が響く。
 普段はペーパーナイフに宿る古参の従霊である刃鳥だ。
 鬼火たちは刃鳥に注目した。

『え? なに? 刃鳥ねえ

『壱妃から参妃までのお人柄は、わたくしもよく存じあげています』

 一拍おいて、

『彼女たちならば、真刃さまの素性を知っても受け入れることでしょう。しかしながら、それは、彼女たちには、まだ背負うモノが少ないからということもありますわ』

『……そうですな』

『おう。俺もそれを気にしてんだわ』

『ならば、肆妃の候補としては、主に見合うだけの器量に魂力の量。加え、しがらみが少ない娘が良いのか……』

 次々と零れる嘆息した声。
 金羊は『う~ん』と唸った。

『ハードル高いっスよねェ』

 ある意味、エルナたちは奇跡の出会いだったのかもしれない。

『ねえ、金羊』

 女性の声で、鬼火の一体が声を掛ける。

『まるっきり候補がいないの?』

『……少なくとも』

 一拍おいて、嘆息しつつ、

『近隣の高校や大学にはいないっスね』

 金羊はそう続けて、自分が得た情報を各従霊に送った。
 従霊たちの意識に、全身を映した容姿の下に、簡単な素性と性格説明、年齢と魂力に系譜術。第一段階、第二段階の隷者の数や、備考を併記した映像が浮かび上がる。
 従霊たちは、しばしその情報を確認した。

『あっ、この子、魂力が172もあるよ! けど、うわあ、まだ十六歳なのに第二段階エッチありきの隷者が十一人って……』

『けど、その子が魂力ではTOPだよな。180越えが一人もいねえぞ……』

『かなたちゃんが195。エルナちゃんと刀歌ちゃんに至っては200越えだし、エルナちゃんたちって意外と黄金世代なのかな?』

『う~ん、ざっと見たところ、魂力は平均で140ぐらいか。大正時代に比べると、かなり上昇しているが、主の妃としてはもの足りんなあ』

『真刃さまも、妃を増やすことには乗り気じゃなさそうだしね。エルナちゃんたちを受け入れただけでも凄いくらい。残り四人は厳正に見出さないといけないよね』

『そう考えると、やっぱ性格も重要だよな。ご主人は何だかんだで古い人間だからな。明治生まれで大正育ちだけあって。しっかりしてて性格の良い子を紹介してえよな』

『そうだね。あと、真刃さまって庇護欲がかなり強いしね。かなたちゃんみたいな感じの子の方が好みかも』

 そんな感じの呟きが続く。
 従霊たちは、しばし議論を交わしていたが、

『どうっスか? 推しになる子はいたっスか?』

 金羊がそう尋ねると、全員が沈黙した。
 やはり、従霊たちのお眼鏡に叶う候補者はいなかったようだ。

『近隣では候補者はいなかった……ということですわね』

 刃鳥が、結論を呟いた。
 沈黙が続く。と、

『あのさ、とりあえず捜査範囲をもっと広げようよ』

 従霊の一体が言った。

『他県ぐらいまで広げたら、流石に一人ぐらいはいるでしょう?』

『う~ん。そうっスねェ』

 結構な労力に、金羊は肩を落とした。

『とりあえず地道に頑張ってみるっス』

『ふふ、まあ、金羊よ。そう焦ることもあるまい』

 老人の声の従霊が告げる。

『幸いにも、すでに妃は三人もおるのだからな』

『ええ。そうですわ』

 刃鳥が、柔らかな声で同意した。

『肆妃の選出は、多少時間がかかっても良いでしょう』

 そこで、ふふっと笑って続けた。

『そう。今は壱妃さまたちに、親睦を深めてもらうことにしましょう』
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