骸鬼王と、幸福の花嫁たち【第5部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
188 / 205
第5部

第六章 帳が降りて、幕は上がる④

しおりを挟む
「……むむうゥ」

 同じ頃。
 火緋神燦は、別室で頬を膨らませていた。
 首筋で大きなリボンを造る赤いドレスを纏っている。
 彼女はその姿で、ベッドの上で足を伸ばしていた。

「燦ちゃん」

 そんな彼女に、蓬莱月子が声を掛ける。
 彼女もまた着飾っていた。
 真っ白なドレスに、金色の髪には、リボンで造られた大輪の白薔薇を飾ってある。
 可憐な唇に、淡くリップを塗ってあるのも見逃さない。

 その姿は、まるで白き華。
 少し控えめにとお願いしたのに、本気の着飾り方だった。

「……最近、月子、こっそり裏切る」

「……う」

 ジト目でそう告げる燦に、月子は頬を引きつらせた。
 ここは彼女たちの部屋――ではない。
 エルナとかなた、刀歌の部屋だ。
 今回、部屋の予約は、真刃が個室、休暇予定だった山岡も個室。エルナたち三人で一室、そして燦と月子で一室だった。
 この部屋へは、半ば偵察として訪れたのである。
 そして、その流れで行われた例の戦いで、燦たちは敗北してしまった訳だ。

「……まだ拗ねているのですか?」

 そう尋ねてくるのは、弐妃・杜ノ宮かなただった。
 当然ながら、彼女もドレスを纏っている。
 スカートや肩の部位にはレースが入っている黒のドレスだ。

 素直に、綺麗だと思う。
 月子が白き華なら、かなたは、夜空を思わせる黒い華だった。
 唇に薄く紅を引いていることも、妖艶さを演出している。
 エルナもそうだが、今のかなたを見て十五歳だと思う人間はいないだろう。

「月子さんと違い、まだあなたは真刃さまの妃としての自覚が足りないようですね」

 そんなことを告げてくるかなたに、燦はムッとした。
 燦が持つかなたの印象は、エルナのメイドさん的な感じだった。
 実際に、かなたはエルナの従者らしい。
 それなのに、おじさんの妃の一人に選ばれているという話なのである。
 しかも、月子と並ぶほどに、おじさんはかなたに甘かった。
 そこが不満な相手でもあった。

「自覚ならあるよ」

 燦は、不貞腐れた様子でそう返した。

「だから、ここで待っているんじゃない」

「確かにな。お前の性格でこれは少し意外だったな」

 そう告げて、話に加わってきたのは参妃・御影刀歌だった。
 今の彼女の姿を見るたびに、燦はこう思う。

(セーフ! あたし、ナイス判断!)

 五人の中で最も背が高い彼女は、エルナやかなた以上にスタイルが整っている。
 その抜群のプロポーションの上に、今は中華服チャイナドレスを纏っているのだ。
 金糸の鳳雛が刺繍された純白の中華服チャイナドレス。スリットからは白い美脚が覗いている。

 警戒していたまさかのチョイスである。
 しかも、想像以上によく似合っている上に、やはり刀歌も唇に薄く紅を引いていた。
 ちなみにこれは、蝶花が器用にリボンを動かしてしてあげたということは誰も知らない。

 いずれにせよ、醸し出されるのは、圧倒的なまでの大人の色香だ。
 もし、燦が中華服チャイナドレスを選んでいたら、今頃さぞかし落ち込んでいたに違いない。
 まあ、刀歌自身は、かなり恥ずかしそうではあったが。

「ちゃんとルールは守っているのだ。そこは評価してやってもいいだろう」

「……そうですね。確かに、少々言いすぎたかもしれません」

 と、刀歌の言葉に、かなたは頷いた。
 それから、燦へと目をやり、

「すみません。言いすぎてしまいました」

「あ、えっと」

 燦は少し困った顔をした後、

「気にしなくていいよ。あたしも拗ねるなんてちょっと子供だった」

 と、少し大人ぶって返す。それからベッドの上から降りた。

「今回はエルナに譲っただけだもんね。それより刀歌とかなたにはお願いがあるの」

「お願い、ですか?」「……何をだ?」

 自分の方へと注目する二人に、燦は告げた。

「今夜にもエルナとも話そうと思ってるんだけど、かなたの言う通り、あたしは妃として自覚が足りなかったと思う。そろそろ、エルナとも仲良くなろうと思っているの」

「……ほう」「そうなのですか……」

 刀歌とかなたが、それぞれ感嘆の声を零した。
 まさかの燦からの和解の提案だった。
 月子は「燦ちゃん、えらい!」と、パチパチと拍手していた。
 燦は、ふふんと鼻を鳴らすと、赤いドレスの裾を揺らして回転ターンした。

「同じ妃だもん。誰が壱妃になるのかは別問題だけど、あたしたちがいがみ合っても、おじさんが困るだけだもん。大人にならなくちゃ」

「「おお~」」

 今度は声を揃えて感嘆の声を零すかなたと刀歌。

「けどね。妃として対等になる以上、あたしも……ううん。あたしと月子もしておきたいことがあるの」

 続けてそう語る燦に、月子は「あ」とポンと柏手を打った。

「うん。私もしておきたい」

 月子もそう告げる。
 かなたと刀歌は、互いの顔を見合わせた。

「何をしておきたいのです?」

 代表してかなたが尋ねた。すると、燦も月子もニコリと笑って。

「「《魂結びの儀ソウルスナッチ・マッチ》」」

 ………………………。
 ………………。
 数秒の間。

「それは大人になりすぎです!」

 珍しくかなたが叫んだ。その白い頬には朱が入っていた。
 刀歌の方も顔を赤くして「何を言っているんだ!」と動揺している。

 一方、燦たちはキョトンとしていた。
 が、すぐに、燦も月子も顔を赤くして。

「ち、違うよ! 第一段階の話だよ!」

 と、燦が叫び、

「だ、第二段階までは、流石にまだ……」

 月子の方も、慌てた様子でそう告げる。

「かなたたちは第一段階の隷者ドナーなんでしょう? ならあたしたちもそうなっておきたいの」

「うん。第一段階までなら、私たちの歳でもしている人は多いから……」

 と、双姫は補足するが、かなたと刀歌は神妙な表情を浮かべるだけだった。
 当然である。
 彼女たちは、魂を繋げたあの夜を経験しているのだから。

「ダメだ……」刀歌がかぶりを振った。「とても許容できない」

「えっ!? なんでっ!?」

 燦が目を剥いた。月子も驚いた顔をしている。
 二人とも、これを拒否されるとは思っていなかったのだ。

「お前たちを妃として認めていない訳ではない。これはエルナも同意見だ。だが、《魂結びソウルスナッチ》だけはまだ許可できない。できないんだ」

 刀歌が、耳を赤くして告げる。

「流石にアウトだ。お前たちには早すぎる……」

「ええっ!? なんでっ!? 第一段階の話だよっ!?」

 燦が愕然とした声を上げた。月子はおろおろとしている。
 すると、かなたが部屋の隅に移動して、月子を手招きした。

「か、かなたさん?」

 よく分からなかったが、月子はかなたの元へと駆け寄った。

「いいですか。月子さん。これから話すことをよく聞いてください」

「は、はい」

 こくんと頷く月子。
 かなたは、腰を少しだけ屈めて、月子に耳打ちする。
 最初、月子は静かに聞いていたが、みるみる内に顔を赤くさせていった。

「え? え? それって授業で習ったのと全然違います……」

「真刃さまは特殊だそうです。そうですね。分かりやすくその体感を告げると……」

 耳元でひそひそと語る。月子は、蒼い瞳を見開いた。

「う、うそっ!? あれ・・よりもっ!?」

「……いえ。あれ・・どころではありませんでした。当然です。直にあの人の温もりを感じるのですから。そして、それだけでは終わらないのです……」

 かなたは、小声でさらに耳打ちする。
 ふわふわして、激しくて、いずれ呼吸もままならなくなって……。
 そうして。

「ひゃあっ!?」

 月子が、ボンっと頭を爆発させた。
 自分の唇を両手で覆って、かなたを凝視した。
 かなたは普段通り無表情だったが、頬だけは微かに赤くして頷いた。
 月子は、ふらふらと燦の元へと戻ってきた。
 それから、燦の両肩を強く掴み、

「ムリ」

「え?」

 燦が目を瞬かせる。
 月子は、グルグルと回った瞳で告げる。

「私たちにはまだムリ。ムリムリ。まだ早いヨ。サンチャン」

「つ、月子……?」

 燦は、ひたすら困惑した。
 一方で、

「……かなた」

 自分の元に帰ってきたかなたに、刀歌が苦笑いを零していた。

「教えたのか? 私たちが経験したあの夜のことを」

「はい」かなたは頷く。「今はまだ幼くとも彼女たちもまた妃ですから。いずれは避けては通れないことです。ですが……」

「ああ。そうだな……」

 弐妃と参妃は、同時に嘆息した。

「「あれは流石にまだ早い」」

「えええ~っ! 月子、なんでええっ!」

 燦が月子に向かってそう叫んだ、その時だった。
 ――ぞわり、と。
 かなたと、刀歌。燦も、月子も。
 全員の表情が一変する。
 一斉に外に目をやった。
 そして、

「え? なんで?」

 燦が、茫然と呟いた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実
キャラ文芸
う、嘘でしょ。 こんな生き物が、こんな街の真ん中に居ていいの?! 私の目の前に現れたのは二本の角を持つ鬼だった。 バイトを首になった私、雪村深月は新たに見つけた職場『赤星探偵事務所』で面接の約束を取り付ける。 その帰り道に、とんでもない事件に巻き込まれた。 鬼が現れ戦う羽目に。 事務所の職員の拓斗に助けられ、鬼を倒したものの、この人なんであんな怖いのと普通に戦ってんの? この事務所、表向きは『赤星探偵事務所』で、その実態は『赤星陰陽師事務所』だったことが判明し、私は慄いた。 鬼と戦うなんて絶対にイヤ!怖くて死んじゃいます! 一度は辞めようと思ったその仕事だけど、超絶イケメンの所長が現れ、ミーハーな私は彼につられて働くことに。 はじめは石を投げることしかできなかった私だけど、式神を手に入れ、徐々に陰陽師としての才能が開花していく。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...