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第10部
第八章 妖樹の王②
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(……レオス=ボーダー)
――ギシリッ、と。
強く、歯を軋ませる。
怨敵を前にして、怒りで脳が沸騰しそうだった。
すぐにでも跳びかかりたくなる……が、
「コウタ」
愛しい幼馴染の声が、コウタを正気に返してくれる。
彼女はギュッとコウタを抱きしめてくれた。
「……分かっているよ。メル」
コウタは、大きく息を吐きだした。
怒りはある。殺意もある。
けれど、まずは先に聞きたいこともあった。
『レオス=ボーダー』
コウタは拡声器を通じて、怨敵の名を呼ぶ。
『お前に、聞きたいことがある』
『……ほう。何だ?』
《木妖星》がそう返した。
コウタは一呼吸入れて、
『どうして、リーゼを狙った?』
どうして狙われたのが、リーゼだったのか?
コウタへの嫌がらせなら、他にも候補がいたはずだ。
その中から、どうしてリーゼを選んだのか。
それだけは、コウタにも、兄にも分からないことだった。
『ん? ああ、何だ。そんなことか』
すると、《木妖星》は、突撃槍を肩に担いで語り始めた。
『なに。単純な話だぞ。いわゆる消去法だ』
『……消去法だって?』
コウタは、眉根を寄せた。
《木妖星》の中で、レオスは苦笑を浮かべた。
『流石に、もう気付いていると思うが、今回の騒動の目的はお前への嫌がらせだ。お前のようなタイプは身内を傷つけられることを最も嫌うからな。そしてお前の身内の中で、特に効果がありそうな候補は五人いた』
そこで、突撃槍を《ディノ=バロウス》に向ける。
『まずは、そこにも乗っているであろうメルティア=アシュレイ。恐らく、最も効果が高い娘だ。しかし、その娘は普段から自律型の鎧機兵に守られている上に、着装型の鎧機兵にも乗っているからな。少々ドーピングした程度の輩では襲っても無意味だ』
唐突に名を呼ばれて、メルティアが少し震えた。
コウタは彼女の腕に触れて、メルティアを勇気づける。
ただ、内心では、メルティアを襲うつもりだったと聞いて穏やかではなかったが。
レオスは語り続ける。
『次にリノ嬢ちゃん。あの娘は論外だ。こちらの身内でもあるしな。今回の件を片付けたら回収する予定だ。まあ、そもそもあの嬢ちゃんなら、仮に暴漢など送っても返り討ちにするだろうがな。送るだけ無駄だ。意味がない』
一拍おいて、
『続いて、ジェシカという女だが……』
『……………』
ジェシカの名前まで出てきてコウタは、表情を険しくした。
流石は《黒陽社》。その情報収集能力には、凄まじいものがある。
『正直、お前の食指の広さには呆れたぞ。暗殺者まで手籠めにしているとはな』
レオスは、苦笑を浮かべつつ語り続ける。
『ともあれ、あの女は教団の盟主の護衛だけあって隙が無い。なかなか手強い女だ。暴漢をあしらうなど容易くこなすだろう。この女にも暴漢は意味がない。無意味で無駄な努力というのは俺が最も嫌うものでな。さて。三人まで語ったな』
ゴンゴン、と《木妖星》は突撃槍で肩を叩いた。
『残り二人。アイリ=ラストン。この娘も、メルティア=アシュレイ同様に自律型の鎧機兵に守られている。ハードルが高い……が、それ以前に惜しいと思った』
『……惜しい?』コウタは、レオスの言葉を反芻した。『どういう意味だ?』
コウタの問いかけに、レオスは皮肉気に口角を崩した。
『《黒陽社》が人身売買を母体にした組織だということを忘れたか? あの娘は希少な《星神》だぞ。用途は色々とある。好きモノに売るもよし。適齢期に売るのもよし。まあ、第6支部でそのまま確保して子を産ませるのもよしだな。《星神》同士を掛け合わせると《星神》の子を孕みやすいのはすでに実証済みだ』
そんな非道を平然と言う。
『………お前達は』
コウタは、ギリと歯を鳴らして《木妖星》を睨みつけた。
メルティアも極めて不快そうに眉をしかめている。
しかし、レオスは『そう憤るな』と言って、悪ぶれもせずに肩を竦めた。
『所詮、俺達は外道の集まりだしな。非道は当然の生業と思ってくれ。さて。それよりも最後の一人、リーゼ=レイハートだが』
ようやく彼女の名が出てきて、コウタとメルティアは、表情を厳しくした。
『あの娘は特に問題がなかった。鎧機兵の護衛もおらず、そこそこ腕は立つようだが、リノ嬢ちゃんや暗殺者の娘ほどでもない。公爵令嬢の肩書をつけて売れば、そこそこ高値にはなりそうだが、《星神》ほどの値はつかないだろう』
レオスは、ボリボリと頭をかいた。
『まあ、そういうことだ。消去法というよりも、単純にあの娘が最も狙いやすかった。価値がなかった。ただそれだけのことだな』
『………お前は』
コウタは、ボソリを呟き、操縦棍を強く握りしめた。
脳裏に、今も眠り続けるリーゼの顔が思い浮かぶ。
こんな遠い異国にまで付いてきてくれた、大切な友達。
――いや、コウタにとって、彼女はそれ以上であって……。
『俺としては以上だな。さて。他に聞きたいことはあるか?』
一方、レオスは親しげにも聞こえる声で、そう告げる。
コウタは、息を吐き出して双眸を細めた。
『……いや。もうないよ』
『そうか。ならば……』
――ズン、と。
《木妖星》が大地を踏みしめて、突撃槍を構えた。
『そろそろ、本題に入ろうか』
『ああ。分かっているよ』
――ブオン、と。
炎を纏う《ディノ=バロウス》が処刑刀を薙いだ。
『ここから先は殺し合いだ』
『ああ、そう来なくてはな』
レオスは嗤う。
『全力を見せてくれ。いや、それ以上のものをな。でなければ、わざわざ《悪竜》の逆鱗に触れた意味がない』
『……分かったよ』
コウタは、かつてないほどの険しい顔で怨敵を睨みつけた。
『お前は肉片の一つも残さない。魂まで食らいつくしてやる』
その宣告に合わせて。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!!
魔竜を象る鎧機兵が吠えた。
一斉に逃げ出す動物達。近くにいた魔獣さえも逃走した。
大気が、木々が、森全体が震える。
魔竜の怒りの咆哮に、世界そのものが怯えているかのようだった。
紅い炎が、陽炎のように揺れる。
そして――。
『行くぞ! レオス=ボーダーッ!』
《ディノ=バロウス》は跳躍した。
――ギシリッ、と。
強く、歯を軋ませる。
怨敵を前にして、怒りで脳が沸騰しそうだった。
すぐにでも跳びかかりたくなる……が、
「コウタ」
愛しい幼馴染の声が、コウタを正気に返してくれる。
彼女はギュッとコウタを抱きしめてくれた。
「……分かっているよ。メル」
コウタは、大きく息を吐きだした。
怒りはある。殺意もある。
けれど、まずは先に聞きたいこともあった。
『レオス=ボーダー』
コウタは拡声器を通じて、怨敵の名を呼ぶ。
『お前に、聞きたいことがある』
『……ほう。何だ?』
《木妖星》がそう返した。
コウタは一呼吸入れて、
『どうして、リーゼを狙った?』
どうして狙われたのが、リーゼだったのか?
コウタへの嫌がらせなら、他にも候補がいたはずだ。
その中から、どうしてリーゼを選んだのか。
それだけは、コウタにも、兄にも分からないことだった。
『ん? ああ、何だ。そんなことか』
すると、《木妖星》は、突撃槍を肩に担いで語り始めた。
『なに。単純な話だぞ。いわゆる消去法だ』
『……消去法だって?』
コウタは、眉根を寄せた。
《木妖星》の中で、レオスは苦笑を浮かべた。
『流石に、もう気付いていると思うが、今回の騒動の目的はお前への嫌がらせだ。お前のようなタイプは身内を傷つけられることを最も嫌うからな。そしてお前の身内の中で、特に効果がありそうな候補は五人いた』
そこで、突撃槍を《ディノ=バロウス》に向ける。
『まずは、そこにも乗っているであろうメルティア=アシュレイ。恐らく、最も効果が高い娘だ。しかし、その娘は普段から自律型の鎧機兵に守られている上に、着装型の鎧機兵にも乗っているからな。少々ドーピングした程度の輩では襲っても無意味だ』
唐突に名を呼ばれて、メルティアが少し震えた。
コウタは彼女の腕に触れて、メルティアを勇気づける。
ただ、内心では、メルティアを襲うつもりだったと聞いて穏やかではなかったが。
レオスは語り続ける。
『次にリノ嬢ちゃん。あの娘は論外だ。こちらの身内でもあるしな。今回の件を片付けたら回収する予定だ。まあ、そもそもあの嬢ちゃんなら、仮に暴漢など送っても返り討ちにするだろうがな。送るだけ無駄だ。意味がない』
一拍おいて、
『続いて、ジェシカという女だが……』
『……………』
ジェシカの名前まで出てきてコウタは、表情を険しくした。
流石は《黒陽社》。その情報収集能力には、凄まじいものがある。
『正直、お前の食指の広さには呆れたぞ。暗殺者まで手籠めにしているとはな』
レオスは、苦笑を浮かべつつ語り続ける。
『ともあれ、あの女は教団の盟主の護衛だけあって隙が無い。なかなか手強い女だ。暴漢をあしらうなど容易くこなすだろう。この女にも暴漢は意味がない。無意味で無駄な努力というのは俺が最も嫌うものでな。さて。三人まで語ったな』
ゴンゴン、と《木妖星》は突撃槍で肩を叩いた。
『残り二人。アイリ=ラストン。この娘も、メルティア=アシュレイ同様に自律型の鎧機兵に守られている。ハードルが高い……が、それ以前に惜しいと思った』
『……惜しい?』コウタは、レオスの言葉を反芻した。『どういう意味だ?』
コウタの問いかけに、レオスは皮肉気に口角を崩した。
『《黒陽社》が人身売買を母体にした組織だということを忘れたか? あの娘は希少な《星神》だぞ。用途は色々とある。好きモノに売るもよし。適齢期に売るのもよし。まあ、第6支部でそのまま確保して子を産ませるのもよしだな。《星神》同士を掛け合わせると《星神》の子を孕みやすいのはすでに実証済みだ』
そんな非道を平然と言う。
『………お前達は』
コウタは、ギリと歯を鳴らして《木妖星》を睨みつけた。
メルティアも極めて不快そうに眉をしかめている。
しかし、レオスは『そう憤るな』と言って、悪ぶれもせずに肩を竦めた。
『所詮、俺達は外道の集まりだしな。非道は当然の生業と思ってくれ。さて。それよりも最後の一人、リーゼ=レイハートだが』
ようやく彼女の名が出てきて、コウタとメルティアは、表情を厳しくした。
『あの娘は特に問題がなかった。鎧機兵の護衛もおらず、そこそこ腕は立つようだが、リノ嬢ちゃんや暗殺者の娘ほどでもない。公爵令嬢の肩書をつけて売れば、そこそこ高値にはなりそうだが、《星神》ほどの値はつかないだろう』
レオスは、ボリボリと頭をかいた。
『まあ、そういうことだ。消去法というよりも、単純にあの娘が最も狙いやすかった。価値がなかった。ただそれだけのことだな』
『………お前は』
コウタは、ボソリを呟き、操縦棍を強く握りしめた。
脳裏に、今も眠り続けるリーゼの顔が思い浮かぶ。
こんな遠い異国にまで付いてきてくれた、大切な友達。
――いや、コウタにとって、彼女はそれ以上であって……。
『俺としては以上だな。さて。他に聞きたいことはあるか?』
一方、レオスは親しげにも聞こえる声で、そう告げる。
コウタは、息を吐き出して双眸を細めた。
『……いや。もうないよ』
『そうか。ならば……』
――ズン、と。
《木妖星》が大地を踏みしめて、突撃槍を構えた。
『そろそろ、本題に入ろうか』
『ああ。分かっているよ』
――ブオン、と。
炎を纏う《ディノ=バロウス》が処刑刀を薙いだ。
『ここから先は殺し合いだ』
『ああ、そう来なくてはな』
レオスは嗤う。
『全力を見せてくれ。いや、それ以上のものをな。でなければ、わざわざ《悪竜》の逆鱗に触れた意味がない』
『……分かったよ』
コウタは、かつてないほどの険しい顔で怨敵を睨みつけた。
『お前は肉片の一つも残さない。魂まで食らいつくしてやる』
その宣告に合わせて。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!!
魔竜を象る鎧機兵が吠えた。
一斉に逃げ出す動物達。近くにいた魔獣さえも逃走した。
大気が、木々が、森全体が震える。
魔竜の怒りの咆哮に、世界そのものが怯えているかのようだった。
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