悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

文字の大きさ
54 / 399
第2部

第七章 悪党の矜持③

しおりを挟む
『おらおらおらァ! 邪魔なんだよ!』


 ――ガゴンッッ!

 轟音と共に手斧が振るわれる。
 ワイズの愛機・《ダグン》の一撃は、追手の鎧機兵の頭部を弾き飛ばした。


『弱い野郎が立ち塞がってんじゃねえよ!』


 そこは森の中。ワイズは単騎で逃亡中だった。
 木々の間を縫うように走り、時に追撃する追手を返り討ちにする。
 それを繰り返して、ワイズはどうにか捕縛を免れていた。

 ――しかし。


『待て! 逃げても無駄だ!』


 また一機、追手の鎧機兵――正確には伏兵の鎧機兵が立ち塞がる。
 どうやら伯爵の配下は館周辺のみならず、二重三重に包囲していたらしい。
 こうして後方の追手だけではなく、前方からも敵が現れるのだ。
 ワイズは忌々しげに舌打ちする。


(ふん! 随分と用意周到じゃねえか! 伯爵の旦那よ!)


 しかも、よく見れば一機でない。木々の間からもう二機、姿を現した。
 全機が長剣と盾を装備した騎士型の機体だった。ちらりと《万天図》を確認すると、どの機体も恒力値は四千ジン前後である。


『けッ、ザコどもが! お呼びじゃねえんだよ!』


 ワイズが吠え、その覇気に応えるように《ダグン》が疾走する。浅黒い機体は髪のような鎖の束をジャラジャラと鳴らしながら、無造作に間合いを詰めた。


『く、くそッ! 舐めるな!』


 敵の一機が、反射的に長剣を突き出したが、それはあっさり《ダグン》の右手の斧に弾かれる。さらに《ダグン》は左手の斧を振るい、敵機の頭部を破壊した。


『おねんねしときな!』


 そしてその場で反転。頭部を失った敵機の胴体を尾で殴打した。
 敵機は為す術なく吹き飛び、木に衝突して沈黙する。
 その光景に、残りの二機が怒気を上げる。


『おのれ! 犯罪者の分際で!』

『伯爵さまに逆らうか! この盗人が!』


 しかし、その程度の怒声に、ワイズは怯んだりしない。


『けッ! てめえらも似たようなもんじゃねえか!』


 そう嘯くと、再び《ダグン》を疾走させた。続けて敵の間合いの外で高く跳躍し、唖然とする敵の一機の両肩に、二つの斧を叩きつける!

 メキメキメキッ――

 斧は深く両肩に喰い込んだ。両断とまではいかないが、肩を支える鋼子骨格は完全に破壊した。これでこの機体の両腕はもう使いモノにならないはずだ。
 《ダグン》は敵の肩から斧を引き抜くと、ダメ押しに頭部を破壊した。その勢いで敵機はゆっくりと後ろに倒れ込む。これで三機の内、二機が戦闘不能となった。


『これで後はてめえ一人だ。どうするよ?』


 表情を凄惨に歪めて、ワイズが問うと、


『ひ、ひいいィ!』


 残った一機は、形振り構わず背中を向けて逃亡した。
 ワイズは「ふん」と鼻を鳴らした。
 どうせ、ワイズの居場所は《ダグン》の恒力値で知られている。
 わざわざ逃げる敵を追う気はなかった。


『さて、急ぐか』


 ワイズがそう呟くと、《ダグン》は逃走を再開した。
 《万天図》で敵機を警戒しつつ、木々の間を走り抜ける――が、


(くそったれが)


 思わずきつく眉をしかめる。
 包囲網は、予想以上の規模だった。
 どの方向に逃げても必ず壁にぶち当たる。
 正直なところ、これを突破するのは難しいだろう。その上、確認する限り、恒力値・七万二千ジンの光点が凄まじい速度で接近してきている。
 どうやら、あの怖ろしい怪物まで追ってきているようだ。


「……おいおい、俺に一体何の用だよ。クソガキが」


 戦闘中に聞いた声からして、あの怪物の操手は黒髪の少年に違いない。
 ズキズキと疼く右目を抑えつつ、ワイズは悪態をついた。
 全くもって最悪だ。
 前門には狼の群れ。後門には煉獄の魔竜がいるらしい。
 もう笑うしかないような状況だった。
 どう足掻いても生き延びることは出来ない。嫌でもそう察してしまう。
 だが、この状況でも、なお挽回する方法があるとしたら――。


「……けッ、そういうことかよ」


 ワイズは、再度《万天図》を一瞥して皮肉気に笑った。
 機体内部。胸部装甲の内側に映る円形図には、後ろから追ってくる怪物以外にも一機だけ別格の恒力値が記されている。しかも単独のようだ。
 苛立ちを込めて歯を軋ませるワイズ。
 結局、最後の最後まで、あの男の手の平の上ということか。


(だがよ、何もかも上手く行くと思うなよ)


 ワイズは獰猛に笑った。悪党にも意地や矜持はあるのだ。
 ただいいように使われて終わるなど、簡単に受け入れるつもりはない。


「ああ。このままじゃあ、終われねえよなあ……」


 ワイズは強く操縦棍を握りしめる。
 そして決意を秘めた声で、淡々と呟くのだった。


「あんたの誘いに乗ってやるよ。悪党の矜持。とくと見やがれ」


       ◆


 ――月明かりが注ぐ森の中。
 ハワード=サザンは一人、静かに待っていた。
 待ち人は一人だ。
 かつて自分の執事をしていた男。グリッド=ワイズである。
 ハワードは、彼がここに来るのを待っていた。
 自分の用意した包囲陣は、完璧――と言うよりも過剰だった。
 たかだが五十名程度の盗賊団の捕縛に導入するような人数ではない。
 ワイズは粗野ではあるが強かな男だ。すぐに逃亡は不可能だと察するはず。
 となれば、生き延びる方法は一つしかない。
 この軍団の指揮官――すなわちハワードを捕え、人質にするしかない。
 だからこそ、ハワードは一人でこの場にて待っているのだ。
 無論、人質になるためではない。
 この手でワイズを始末するためにだ。


「……ふん」


 ハワードは月を見上げて、ふっと笑う。
 何だかんだで、数年間は付き合いのあった男。
 せめて自分の手で討ち取ってやりたい……などと言う感傷ではない。


「……あの男は中々の強者だからな」


 戦えば多少の刺激にはなる。ただ、それだけのことだった。
 ハワードは愛機《ラズエル》の中で腕を組み、瞑目した。
 こんな深夜でも虫の声や梟の声だけは聞こえてくる。
 普段は意識して聞くようなものではないが、こうしてみると中々風情がある。
 ハワードは、しばしその静かな声に耳を傾けた。
 そうして、数十秒ほど経った時。

 ――ズズゥン、と。

 突如、森の広場に鳴り響く轟音。
 しかし、ハワードは少しも動じることなく、ゆっくりと双眸を開いた。


「……ほう。流石だな。随分と早かったじゃないか」


 そう呟き、静かに前方を見やる。
 そこには一機の鎧機兵が、前傾の姿勢で佇んでいた。
 両手に手斧。鎖の束を髪のようになびかせる浅黒い機体だ。
 まるで山賊そのものの鎧機兵に、ハワードは思わず口元を綻ばせた。
 鎧機兵は主人に似ると言うが、まさにその通りのようだ。
 ハワードは操縦棍を握りしめ、《ラズエル》を一歩前に進めた。
 すると、浅黒い機体――《ダグン》が軽く肩をすくめて、


『いやはや、お待たせしましたかね。サザンの旦那』

『ふふっ、待ってなどいないさ。我が執事よ』


 二人は互いの愛機の中で笑みを浮かべて、会話を交わした。
 その声には親愛さえ宿っているようだった。
 こうして、月夜の森の広場にて。
 元盗族団の頭目と、サザンの領主である伯爵。
 全く立場の違う二人が、対峙したのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

処理中です...