悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

雨宮ソウスケ

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第3部

第七章 救出作戦②

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「……ひっく。コウタのばかあ……」


 少女の泣き声が部屋に響く。
 そこは魔窟館の四階。メルティアの寝室だ。
 天蓋付きの大きな丸いベッドの端では、部屋の主人たるメルティアが枕を抱きかかえた状態で、帰宅してからずっと嗚咽を上げていた。周囲には心配そうな様子のアイリと、零号を筆頭にした数機のゴーレム達がいる。


「あ、あんまりです……」


 ぐすん、とメルティアが鼻を鳴らす。
 まさかあんな光景を見せられるとは想定もしていなかった。


「……コウタのばかあ……」


 メルティアは横に倒れると、ぼふんと枕に顔をツッコみ、再び少年に文句を言った。が、すぐに不機嫌顔で頭を上げる。瞳を覆ってしまうと、嫌でも脳裏にあのシーンばかりが再現されるからだ。


「…………うぅ」


 メルティアは再び上半身を上げると、ギュッと枕を掴んで呻く。
 そして数時間前の公園で出会った女の子を思い浮かべる。
 いきなり現れ、コウタを呼び捨てにし、キスまでしていった女。

 一体あの女は何者だったのだろうか。
 クラスでは見たことはない。初めて見る女だった。コウタの様子を見る限り、あの女を知っているようだった。どこであんな女と出会ったのだろうか。

 メルティアは、むうと頬を膨らませた。
 そんな嫉妬混じりの疑問が、ずっと頭から離れない。


「…………ううぅ、コウタぁ」


 ベッドの端に座ったまま、再び枕に顔を埋めるメルティア。
 と、その時だった。
 不意にコンコンと寝室のドアがノックされたのだ。
 メルティア、そしてアイリとゴーレム達も視線をドアに向けた。
 こんな時間に誰だろうか? コウタは恐らく今日は来ない。ならば可能性としては執事長のラックスか、それとも父であるアベルだろうか?

 と、悩んでいる内にアイリがドアに向かった。


「……私が開けるね」


 そう言って少女はドアを開ける。
 そして軽く目を瞠った。


「……コウタ?」

「あ、うん。こんばんは、アイリ」


 と挨拶して、笑みを見せる来客はコウタだった。
 彼を門前払いしてから、まだ一時間も経っていない。まさかこんなにも早く再び訪れてくるとは思ってもいなかった。


「……どうしたの?」


 と、アイリが尋ねると、コウタは真剣な表情を浮かべた。
 それから意を決したように言葉を放つ。


「実はメルに用があるんだ。少しいいかな?」

「…………」


 アイリはコウタを見上げて、じいっと少年を観察した。
 彼の顔はとても真剣だった。一時間前も真剣ではあったが、その時とは少し違う。何と言うか、覚悟のような意志が加わったような感じだ。

 アイリは少し考えてから「……いいよ」と了承した。


「ありがとう、アイリ」


 コウタは少女に礼を言うと寝室に入った。
 そして少年は真直ぐベッドの端に座る部屋の主人の元へ向かう。
 対するメルティアは、その状況に目を丸くした。


「コ、コウタ……?」


 メルティアは困惑した表情を見せる。アイリが、あっさりコウタを通したことにも驚いたが、コウタの顔つきが普段と大分違っていたからだ。
 眉根を寄せるメルティア。
 と、そうしている内に、コウタは彼女の前に立った。


「………メル」


 少年が彼女の名を呼ぶ。
 続けて、すっと右手をメルティアの肩に当てる。
 コウタの体は何故か緊張しており、少しだけ震えていた。


「え、コ、コウタ……?」


 メルティアはいきなりのことに少し動揺する。
 一方、コウタは手で彼女の肩に触れたまま、ちらちらとアイリとゴーレム達、そしてメルティア本人を見て目を泳がせていたが、


「……よ、よし」


 小さくそう呟くと、覚悟を決めた。
 それから一度だけ大きく息を吐きだすと、メルティアの肩をしっかりと両手で掴み、ゆっくりと顔を近付ける。


「え、え?」


 メルティアは困惑した。そして温かい感触が彼女の額に触れた。
 当人であるメルティアは大きく目を見開き、アイリとゴーレム達は「……おお」「……コウタガヤッタ!」と驚きの声を上げている。


「……あ……」


 一瞬遅れてメルティアは、自分の額に『キス』をされたことを理解した。
 カアアアァと頬が熱くなる。全身が一気に硬直した。
 鼓動が激しく高鳴っている。


「……今日は本当にごめん、メル」


 そう言って、コウタはメルティアの頬から手を離した。
 彼女の顔はすでに真っ赤だった。


「一応、約束だからね。そ、その、し、親愛の証だよ」


 と、コウタは気恥ずかしげに笑う。それから少年はそそくさと立ち上がると、額を両手で押さえて未だ呆然とするメルティアをよそに、「そ、それじゃあボク用事があるから!」と言って寝室から早足で去って行った。

 メルティアはもちろん、アイリやゴーレム達も困惑していた。
 が、しばらくして、まずアイリがクスリと笑った。


「……良かったね、メルティア」


 小さなメイドは、トコトコとメルティアの元まで近付いて言う。


「……まさか、コウタがこんな力技をするなんて思わなかった」


 演劇などでは浮気のばれた男が、激怒する女の唇を強引に奪って黙らせるという定番のシーンがあるが、今回の行為はそれに近かった。まあ根本的には何一つ解決していないのだが、結局相手の男が好きならば案外それで誤魔化せる場合もある。

 あの奥手なコウタにしては不自然なぐらい大胆な手段ではあるが、ともあれ、これでメルティアの機嫌は一気に改善するだろう。

 アイリはホッとした表情を浮かべるが、メルティアの様子は少しおかしかった。
 最初は顔を真っ赤にしていたが、時間が経つにつれて青ざめていくのだ。


「……どうしたのメルティア?」


 流石に訝しんだアイリが声をかけると、そこでようやくメルティアは硬直状態から完全に再起動した。
 そして慌ててベッドから立ち上がると、


「零号! 零号はいますか!」


 最も頼りにしている最古のゴーレムの名を呼ぶ。
 すると、部屋にいた零号が手を上げ、


「……ココニイル。メルサマ」


 と、自分の存在をアピールする。メルティアは緊張した面持ちで金の冠を掲げるゴーレム隊の隊長機を見やると、


「急ぎ全機を集めて下さい!」

「……メ、メルティア?」


 いきなりそんな指示を出すメルティアに、アイリは眉根を寄せた。
 それには構わず、メルティアは言葉を続ける。


「コウタがこんなことをするなんて、只事ではありません!」


 メルティアは正確にコウタの心情を見抜いていた。
 コウタ自身は約束を果たしたつもりなのかもしれないが、伊達に幼馴染をしている訳ではない。彼が何かを覚悟していることなど一目瞭然だった。

 簡潔に言ってしまえば、と思うほどの事件が彼の身に起きているのだ。だからこそコウタはこの部屋に来た。

 しかし、あれではまるで今生の別れのキスである。
 された方としては心配で堪ったものではない。
 メルティアは切迫した声で零号とゴーレム達に命令を下す。


「零号! すぐにコウタの後を追います! ゴーレム隊に出陣を!」
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