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第10話
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運ばれてくるもの全てが美味しく、私は手が止まらなかった。
幸い、テーブルマナーは母親に仕込まれていて、恥ずかしく思う場面はなかった。音もそれ程たてずに食せたと思う。
「さすが名波さんだね。綺麗な所作だよ。」
「ありがとうございます。ご飯の時間は緊張する程厳しく言われることもあったので。米粒一つ残してはならないと叱られました。」
今夜のメニューにお米は無かったが、うちの食卓ではよく飛び交った言葉だ。
「素晴らしいことだよ。生きる上で基本だからね。それに引き換え、慶大は好き嫌いが激しくてね。随分と少食だな。」
隣の夫を見ると、確かに半分以上を残しては下げさせていた。
「申し訳ありません。昨夜は深い時間までBコーポレーションの副社長に付き合わされていたもので。少々胃が弱っております。」
「うむ。そうか、あそこの副社長は焼肉好きだからな。滅多に焼肉を食べないお前にはキツイ時間だったろうな。」
「はい。胸焼けがして、先ほどようやく少し楽になっていたくらいです。」
……親子なのに、なんでこんな余所余所しい会話なんだろう。
まるで会社の中みたいだ。
舅と姑の良いところをもらって形成された夫の容姿から、2人の子であることは確かだ。だが、それにしても隔たりがありすぎる。
「……あのう、いつも、こんな感じなんでしょうか?」
「こんな感じとは?」
「親子でも、敬語で話すというか、硬い言葉遣いだなぁというか、余所余所しいっていうか」
きっとまた空気が硬くなっている。
そうなることを見通しての発言だ。
だが、しつこいようだが最初が肝心。今のうちに聞けることを聞いておきたい。
「おいっ、余計なことを口にするな。それに、お前はもう少し言葉遣いを丁寧にしろっ。」
夫はすぐに私を窘めたが、
「まあ、無理も無いわね。うちは一般家庭とは程遠い環境だから。慶大、もう少し優しく話してあげなさい。今日が初日なんですよ、詩豆ちゃんは。」
と、姑は優しく諭してくれた。
「そうだ。戸惑って当然だよ。気にしなくていいよ、詩豆ちゃんは。名波の家で過ごしたようにいればいい。逆に、慶大にはその詩豆ちゃんの見方や考え方が必要だと思っている。
そうだね、同じ敷地内ではあるが、昔から私達は離れて暮らしていたからね。
今は事務的なことで、本館に慶大の部屋があるが、昔は別館が慶大の家だった。本館には、大事な行事の時しか足を踏み入れていない。
ここは見ての通り、生活の場としては相応しくない。毎晩のように業界の人間と会議をしたり、談笑したり、取引を行なっていた謂わばビジネスの館だ。
だから私達は慶大に親として構ってやれなかった。1人で寂しかっただろう。」
うわ、ちょっと涙もの?こいつの人生に同情心がわいてしまう。
「会長、この場でそういった話はやめてください。従者達もおりますので。」
「うむ。そうだな。まあ、詩豆ちゃん、あまり張り切らず、楽に過ごしてくれ。慶大は少々癖が強いが、親から見てもいい男だ。2人の子供はさぞ可愛らしいだろうなぁ。」
「子供!?」
「ブッ!」
思わず吹き出してしまった。
だって、今日初めて会ったような奴との子供なんて、全く考えられない。
「まあ、旦那様ったら。慶大も詩豆ちゃんも恥ずかしがってビックリしているわ。今今気楽にって言ったばかりなのに。ごめんなさいね。意外とデリカシーがないのよ。」
「は、はぁ……」
この会話を機に、食後のデザートとデカフェをいただいて、本日は解散となった。
ああ、どうなることやら……
幸い、テーブルマナーは母親に仕込まれていて、恥ずかしく思う場面はなかった。音もそれ程たてずに食せたと思う。
「さすが名波さんだね。綺麗な所作だよ。」
「ありがとうございます。ご飯の時間は緊張する程厳しく言われることもあったので。米粒一つ残してはならないと叱られました。」
今夜のメニューにお米は無かったが、うちの食卓ではよく飛び交った言葉だ。
「素晴らしいことだよ。生きる上で基本だからね。それに引き換え、慶大は好き嫌いが激しくてね。随分と少食だな。」
隣の夫を見ると、確かに半分以上を残しては下げさせていた。
「申し訳ありません。昨夜は深い時間までBコーポレーションの副社長に付き合わされていたもので。少々胃が弱っております。」
「うむ。そうか、あそこの副社長は焼肉好きだからな。滅多に焼肉を食べないお前にはキツイ時間だったろうな。」
「はい。胸焼けがして、先ほどようやく少し楽になっていたくらいです。」
……親子なのに、なんでこんな余所余所しい会話なんだろう。
まるで会社の中みたいだ。
舅と姑の良いところをもらって形成された夫の容姿から、2人の子であることは確かだ。だが、それにしても隔たりがありすぎる。
「……あのう、いつも、こんな感じなんでしょうか?」
「こんな感じとは?」
「親子でも、敬語で話すというか、硬い言葉遣いだなぁというか、余所余所しいっていうか」
きっとまた空気が硬くなっている。
そうなることを見通しての発言だ。
だが、しつこいようだが最初が肝心。今のうちに聞けることを聞いておきたい。
「おいっ、余計なことを口にするな。それに、お前はもう少し言葉遣いを丁寧にしろっ。」
夫はすぐに私を窘めたが、
「まあ、無理も無いわね。うちは一般家庭とは程遠い環境だから。慶大、もう少し優しく話してあげなさい。今日が初日なんですよ、詩豆ちゃんは。」
と、姑は優しく諭してくれた。
「そうだ。戸惑って当然だよ。気にしなくていいよ、詩豆ちゃんは。名波の家で過ごしたようにいればいい。逆に、慶大にはその詩豆ちゃんの見方や考え方が必要だと思っている。
そうだね、同じ敷地内ではあるが、昔から私達は離れて暮らしていたからね。
今は事務的なことで、本館に慶大の部屋があるが、昔は別館が慶大の家だった。本館には、大事な行事の時しか足を踏み入れていない。
ここは見ての通り、生活の場としては相応しくない。毎晩のように業界の人間と会議をしたり、談笑したり、取引を行なっていた謂わばビジネスの館だ。
だから私達は慶大に親として構ってやれなかった。1人で寂しかっただろう。」
うわ、ちょっと涙もの?こいつの人生に同情心がわいてしまう。
「会長、この場でそういった話はやめてください。従者達もおりますので。」
「うむ。そうだな。まあ、詩豆ちゃん、あまり張り切らず、楽に過ごしてくれ。慶大は少々癖が強いが、親から見てもいい男だ。2人の子供はさぞ可愛らしいだろうなぁ。」
「子供!?」
「ブッ!」
思わず吹き出してしまった。
だって、今日初めて会ったような奴との子供なんて、全く考えられない。
「まあ、旦那様ったら。慶大も詩豆ちゃんも恥ずかしがってビックリしているわ。今今気楽にって言ったばかりなのに。ごめんなさいね。意外とデリカシーがないのよ。」
「は、はぁ……」
この会話を機に、食後のデザートとデカフェをいただいて、本日は解散となった。
ああ、どうなることやら……
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