私と離婚してください。

koyumi

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札はボロボロに

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「う、そ………!?」

仕事終わり、私はあの喫茶店にいた。
マスターが、誕生日のお祝いに、私の好きなコーヒー豆をプレゼントするというから。

「彼女は相手にされなかったんだよ。」

頭に響く強打する言葉。
私、やっと離婚できると思ってた。
この1週間、荷造りは捗ったし、いい物件も見つけた。
それなのに、

「旦那さんは、やっぱり依子ちゃんが好きなんだね。」

鴨井さん、妊娠してないだなんて…

「彼女はブルーマウンテンを僕に頼んだんだよ。しかもそれとわかっても飲んでいた。」

この喫茶店は、コーヒーにニックネームをつけてメニュー表を作っている。
注意書きの欄もあるが、なんせ常連さんが多いから誰も見ていない。
鴨井さんは『青山』という、ベタなニックネームを授けられたブルーマウンテンコーヒーを注文し、出てきたものを確認しても尚それを飲んだ。

普通、妊娠初期はカフェインの摂取を抑えようとコーヒーを避ける。
まして、彼女の中でNo.1ライバルのわたしを前に、「妊娠してるからカフェインはちょっと…」とのアピールをするのには絶好の鼻高々チャンスだったろう。
だが、それをせずに堂々と飲み干した。

中には、ストレスになるのもいけないから、1日1杯くらいは飲むという人もいるだろう。
ただ、鴨井さんはそういうタイプに見えない。ピンクのカーディガンが似合う、いかにも周りが気を遣いたくなるような子だ。

「それに、蘭ちゃんがさ、バーで彼女と話して、裏付けも取れたよ。」

蘭ちゃんとは、蘭丸博さんという68才のダンディな元アパレル会社社長だ。喫茶店の常連である。
私が鴨井さんと話をした日も店に居て、彼女の顔は確認済みだ。社長だっただけあって、彼らの記憶力は素晴らしい。
ここで、社会人向けのビジネス塾でも立ち上げたら良いのにと思う。

「蘭ちゃんがたまに行くバーに彼女が女友達と居たみたいで、それとなく会話が聞こえてきたってさ。
もちろん、彼と君の話だよ。
君は上手く騙せそうだけど、彼の方が全く相手にしてくれないってさ。」

その後も裏付けを立証する訳をつらつらと述べられ、私はガックリと肩を落として帰宅した。

だが、こんなゴタゴタに巻き込まれるのは御免だし、浮気ばかりするくせに私を好きだという諭の神経は理解できない。
あんなに可愛い鴨井さんに、諭の妻役を引き継ぐのは心苦しかったが、結局鴨井さんには無理そうだ。
諭も一応人間で、誰でも良いという訳じゃないことが身にしみた。

だったらどんな女なら、諭の浮気を本気にできるんだろう?
私の立場を引き継ぐ人はどんな人で、引継ぎ式はいつになるのか?



その夜、諭は帰宅せず、翌朝目を覚ますと同時に言ってやった。
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