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離婚できないのなら
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結果、私は望んだ誕生日プレゼントを貰えなかった。
25歳のページにもまた諭の姿が印刷されてしまうのか。
朝からお風呂でヤッてしまったから、家を出るのも遅くなり、タイムカードを通せたのは始業時間ギリギリだった。
「珍しいねー、依子ちゃんがこんなにギリギリなんて」
「あ、おはようございます。渋沢部長。」
「引越先決まった?」
「えっ?どうして部長がそれをご存知なんですか?」
慌てて来たから多分まだ髪の毛は乾いていない。なるべく10時くらいまでは誰かの近くに行かないように思案していたのだが。
「…たまたま見つけたんだよ。不動産入るとこ。で、興味あったから覗いてた。何探してんのかなって」
「覗くだなんて?!ぶ、部長!!」
「ハハハハっ。依子ちゃんはすぐに怒るね。まあ、そういう所はうちの会社にピッタリなんだけど。
で、引越すんだ?今のところじゃ狭いの?」
「…はぁ、まぁ、狭いっちゃ狭いですね。…嫌でも顔が見えるんで……あ、気にしないでくださいね。引越準備とかで仕事に手抜きとかしませんから。
それに、まだ決まってないんで、決まったら連絡しますね。総務の加藤さんでいいんですよね?」
「ぉ、おぅ…」
「あ、もし、次の人事異動があったら私、営業でも何でもやりますから、遠慮なく動かしてくださいねっ。とにかく仕事したいんで。」
「ぉ、おぅおぅ…」
「じゃ、私はこれで、失礼します。」
はぁー、どうにか渋沢部長を振り切れた。独身40歳の割とイケメン部長だが、私は苦手。
どこぞの誰かが40歳になったらあんな感じになりそう。
若い20代の女子社員を片っ端から飲みに誘って口説いてるってウワサ聞くし。
ま、私は今のところ、まだ既婚者だからそんなお誘い一度もないけど。
「あー、やだな。髪の毛が傷む。」
濡れたまましばったから、なかなか乾かないだろう。けれども、半乾きのミディアムレングスをながしたままにはできない。
「ふう~」
と、1人コピー室で午後からの資料が刷りあがるのを待った。
入社3年目。お茶汲みは卒業した。コピーも卒業したいが、後輩があまりにも機械音痴で任せられない。
家を出る前に、離婚しない条件として、生活費を頂く旨を示した文書をテーブルに置いてきた。
研修から2日休みの諭は、読んでくれただろうか?
「生活費、10万円を毎月10日、下記の口座へ振り込んでください……」
10、10万?!
生活費っていうからせいぜい5万くらいかと思っていた。
しかも、同じ場所に住んでいるのに、わざわざ振り込むなど面倒極まりない。
ーー口出し無用。
確かにそう言われたし、あのチビッこいボイスレコーダーに記録されている。
用途は聞いたらいけないのだ。
「……依子が1番なんだけどな…」
ボクサーパンツ一枚で、ダイニングチェアに座る諭は、依子が置いていった紙切れ一枚を、もう小一時間眺めていた。
諭の月収は手取りで23万円である。
それも、今回の研修でスキルアップして2万円上がったばかりである。
10万円も依子が持っていくとなれば、残金は13万円。
家賃は8万円。残り5万でどうすればいいのだろう。
光熱費は、依子の口座から引き落とされていて、イマイチ把握できていない。
「家賃は大黒柱の俺が払うべき」
とタカをくくり、この部屋を借りた。
学生時代の1DKに、社会人2人が住むのは手狭だと、卒業と同時にこの2LDKの部屋に引越したのだが、今となっては1DKで十分だったと思う。
子供が出来たら丁度いい間取りだとは思うが、まだ望んでいない。
「振り込み、か………」
よし、これだけはやめようと交渉しよう。
依子の口座がある銀行に諭は口座を持っていない。となれば、手数料は高くなるのではないか?
更に自分の手持ちが減るのはいかがなものか。
「まあいいか、案外マイホーム貯金とかしてくれるのかも。」
と、超がつく楽観的価値観を披露し、さっきから何度もホーム画面に現る、ラインの通知に返事することに思考を切り替えた。
25歳のページにもまた諭の姿が印刷されてしまうのか。
朝からお風呂でヤッてしまったから、家を出るのも遅くなり、タイムカードを通せたのは始業時間ギリギリだった。
「珍しいねー、依子ちゃんがこんなにギリギリなんて」
「あ、おはようございます。渋沢部長。」
「引越先決まった?」
「えっ?どうして部長がそれをご存知なんですか?」
慌てて来たから多分まだ髪の毛は乾いていない。なるべく10時くらいまでは誰かの近くに行かないように思案していたのだが。
「…たまたま見つけたんだよ。不動産入るとこ。で、興味あったから覗いてた。何探してんのかなって」
「覗くだなんて?!ぶ、部長!!」
「ハハハハっ。依子ちゃんはすぐに怒るね。まあ、そういう所はうちの会社にピッタリなんだけど。
で、引越すんだ?今のところじゃ狭いの?」
「…はぁ、まぁ、狭いっちゃ狭いですね。…嫌でも顔が見えるんで……あ、気にしないでくださいね。引越準備とかで仕事に手抜きとかしませんから。
それに、まだ決まってないんで、決まったら連絡しますね。総務の加藤さんでいいんですよね?」
「ぉ、おぅ…」
「あ、もし、次の人事異動があったら私、営業でも何でもやりますから、遠慮なく動かしてくださいねっ。とにかく仕事したいんで。」
「ぉ、おぅおぅ…」
「じゃ、私はこれで、失礼します。」
はぁー、どうにか渋沢部長を振り切れた。独身40歳の割とイケメン部長だが、私は苦手。
どこぞの誰かが40歳になったらあんな感じになりそう。
若い20代の女子社員を片っ端から飲みに誘って口説いてるってウワサ聞くし。
ま、私は今のところ、まだ既婚者だからそんなお誘い一度もないけど。
「あー、やだな。髪の毛が傷む。」
濡れたまましばったから、なかなか乾かないだろう。けれども、半乾きのミディアムレングスをながしたままにはできない。
「ふう~」
と、1人コピー室で午後からの資料が刷りあがるのを待った。
入社3年目。お茶汲みは卒業した。コピーも卒業したいが、後輩があまりにも機械音痴で任せられない。
家を出る前に、離婚しない条件として、生活費を頂く旨を示した文書をテーブルに置いてきた。
研修から2日休みの諭は、読んでくれただろうか?
「生活費、10万円を毎月10日、下記の口座へ振り込んでください……」
10、10万?!
生活費っていうからせいぜい5万くらいかと思っていた。
しかも、同じ場所に住んでいるのに、わざわざ振り込むなど面倒極まりない。
ーー口出し無用。
確かにそう言われたし、あのチビッこいボイスレコーダーに記録されている。
用途は聞いたらいけないのだ。
「……依子が1番なんだけどな…」
ボクサーパンツ一枚で、ダイニングチェアに座る諭は、依子が置いていった紙切れ一枚を、もう小一時間眺めていた。
諭の月収は手取りで23万円である。
それも、今回の研修でスキルアップして2万円上がったばかりである。
10万円も依子が持っていくとなれば、残金は13万円。
家賃は8万円。残り5万でどうすればいいのだろう。
光熱費は、依子の口座から引き落とされていて、イマイチ把握できていない。
「家賃は大黒柱の俺が払うべき」
とタカをくくり、この部屋を借りた。
学生時代の1DKに、社会人2人が住むのは手狭だと、卒業と同時にこの2LDKの部屋に引越したのだが、今となっては1DKで十分だったと思う。
子供が出来たら丁度いい間取りだとは思うが、まだ望んでいない。
「振り込み、か………」
よし、これだけはやめようと交渉しよう。
依子の口座がある銀行に諭は口座を持っていない。となれば、手数料は高くなるのではないか?
更に自分の手持ちが減るのはいかがなものか。
「まあいいか、案外マイホーム貯金とかしてくれるのかも。」
と、超がつく楽観的価値観を披露し、さっきから何度もホーム画面に現る、ラインの通知に返事することに思考を切り替えた。
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