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鴨井さん
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諭は久しぶりに鴨井あすかと会っていた。
彼女と諭の最初の出会いは結婚式場だった。
鴨井あすかは童顔ゆえに若く見られるが、28歳という、スイも甘いも経験した大人の女性であった。
諭は同僚の結婚式に出席し、その時の花嫁が鴨井あすかだったのだ。
つまり、鴨井あすかは既にバツイチなのだ。
蘭丸こと、蘭ちゃんもその旨はバーで話した時に知っていたが、あえて他言しなかった。
諭の同僚は結婚して1年経たず、嫁に逃げられたと嘆いていた。
諭がもうすぐ24の時である。
最近にしては早婚の2人は、お互いの嫁自慢が日課だった。諭のくせにである。
同僚の憲一は、誠実、清潔、背高の3S揃いで、早婚してなければ間違いなくバラ色の社会人生活を送れただろうと諭は思っていた。
そんな憲一をあっさりと捨てた鴨井あすか。
あすかは、結婚式場で諭を見た時、あろうことか一目惚れしたのだ。
友人の余興でワンフレーズ歌った声に惚れ、諭の甘いマスクにズキュンと胸を撃ち抜かれたのだ。
とはいえ、新婚旅行も新婚生活もそれなりに憲一と仲良く過ごした。
だが、会社の打ち上げの飲みで酔っ払った憲一を介抱し、自宅に連れ帰ったのが諭で。その時、二言ほど話しただけで、ズキュンと撃たれた想いが蘇ってしまったのだ。そして、諭の隣でヘロヘロになっているみっともない夫、憲一の姿に、別れを決意したのだという。
所謂、思い込んだら突っ走るタイプのあすかは、嘘をついて依子に対峙したことなど、これっぽっちも悪気を感じていなかった。
依子の誕生日が今日だということは調査済みだ。
妻の大切な誕生日に、浮気をさせる魂胆まるわかりのメールに、諭は辟易していた。
「あすかさん、やめてもらえませんか?俺たちを離そうと策を仕掛けていること。」
2人が会っているのは、なんてことないファーストフード店の小さなテーブル席である。
「なんのことかしら?さっぱりわからないけど。俺たちって…諭くんと奥さんのことかしら?」
ここは喫煙席があるテリトリー。
鴨井あすかは慣れた手つきでタバコに火をつけた。
「あの、俺、禁煙席にしてくださいっていいましたよね?」
「そうだった?ごめんね、最近我慢してたから。」
当然だ。ここ最近は万が一依子に出くわした時のために、タバコは控えていたのだ。
だが、諭の様子からして、依子は自分の嘘に気付いていると悟った。
「あすかさん…もしかして、依子に会いました?」
「依子?あぁ、貴方の奥さんね。まさか、どうして?」
「…いや、特には…あの、もう連絡しないで欲しいんですけど。それを聞いてほしかったんです。」
諭はあすかの色仕掛けに、懲り懲りしていた。
今、目の前にいるあすかの服装も、コートを脱ぐと、どこの店の客引きかと思うような際どい胸元のカットだ。
依子が自分だけのために着るのなら、100歩譲って許せるが、他の女の露出はあまり好きではない。
諭に惚れたあすかは、憲一と離婚成立するなり、すぐに行動した。
諭の職場の近くをウロつき、憲一のいない隙を狙って諭を呼び出した。
『憲一に渡し忘れたものがあるけど、直接渡せないから貴方からお願いしたい』と、控えめな口調だったが、実際に待ち合わせた先は半個室のダイニングバーで、テーブルの下でスキンシップに挑んできた。
諭は友人の女には手を出さなかった。それが、別れた相手でも。
だから、あすかを拒否したし、あすか自体に魅力を感じたこともなかった。
そんなことが2度続き、3度目からは電話もメールも無視を貫いた。
憲一を介抱した時、もしまた同じようなことがあったら番号を教えておいた方が安心だろうと配慮したが為に、今、こんな事態になっている。
諭はため息をついた。
「とにかく、俺はあすかさんに興味ないんで、俺の連絡先を目の前で消してもらえます?迷惑なんで。」
ばっさりと拒絶の意思を伝えた諭の顔を、あすかは挑むような目で睨んだ。
そして、
「バッカじゃない?自惚れるのもいい加減にして。番号なんてほら………ね、削除完了。別にあんたレベルの男、幾らでもいるし、私はその辺困ってないわ。」
と、潔く諭の連絡先を消去した。
その様子を見届けた諭は、表情1つ変えずに席を立ち、あすかを顧みずに店を出た。
残されたあすかは、テーブルの下で組んだ足を小刻みに揺らし、爪を噛んでいた。
その格好は、中年の酔っ払ったおじさんになら、かろうじて色っぽく映ったかもしれないが、昼下がりのファーストフード店にいる学生や主婦達にとっては男に振られたただの不審な女だった。
彼女と諭の最初の出会いは結婚式場だった。
鴨井あすかは童顔ゆえに若く見られるが、28歳という、スイも甘いも経験した大人の女性であった。
諭は同僚の結婚式に出席し、その時の花嫁が鴨井あすかだったのだ。
つまり、鴨井あすかは既にバツイチなのだ。
蘭丸こと、蘭ちゃんもその旨はバーで話した時に知っていたが、あえて他言しなかった。
諭の同僚は結婚して1年経たず、嫁に逃げられたと嘆いていた。
諭がもうすぐ24の時である。
最近にしては早婚の2人は、お互いの嫁自慢が日課だった。諭のくせにである。
同僚の憲一は、誠実、清潔、背高の3S揃いで、早婚してなければ間違いなくバラ色の社会人生活を送れただろうと諭は思っていた。
そんな憲一をあっさりと捨てた鴨井あすか。
あすかは、結婚式場で諭を見た時、あろうことか一目惚れしたのだ。
友人の余興でワンフレーズ歌った声に惚れ、諭の甘いマスクにズキュンと胸を撃ち抜かれたのだ。
とはいえ、新婚旅行も新婚生活もそれなりに憲一と仲良く過ごした。
だが、会社の打ち上げの飲みで酔っ払った憲一を介抱し、自宅に連れ帰ったのが諭で。その時、二言ほど話しただけで、ズキュンと撃たれた想いが蘇ってしまったのだ。そして、諭の隣でヘロヘロになっているみっともない夫、憲一の姿に、別れを決意したのだという。
所謂、思い込んだら突っ走るタイプのあすかは、嘘をついて依子に対峙したことなど、これっぽっちも悪気を感じていなかった。
依子の誕生日が今日だということは調査済みだ。
妻の大切な誕生日に、浮気をさせる魂胆まるわかりのメールに、諭は辟易していた。
「あすかさん、やめてもらえませんか?俺たちを離そうと策を仕掛けていること。」
2人が会っているのは、なんてことないファーストフード店の小さなテーブル席である。
「なんのことかしら?さっぱりわからないけど。俺たちって…諭くんと奥さんのことかしら?」
ここは喫煙席があるテリトリー。
鴨井あすかは慣れた手つきでタバコに火をつけた。
「あの、俺、禁煙席にしてくださいっていいましたよね?」
「そうだった?ごめんね、最近我慢してたから。」
当然だ。ここ最近は万が一依子に出くわした時のために、タバコは控えていたのだ。
だが、諭の様子からして、依子は自分の嘘に気付いていると悟った。
「あすかさん…もしかして、依子に会いました?」
「依子?あぁ、貴方の奥さんね。まさか、どうして?」
「…いや、特には…あの、もう連絡しないで欲しいんですけど。それを聞いてほしかったんです。」
諭はあすかの色仕掛けに、懲り懲りしていた。
今、目の前にいるあすかの服装も、コートを脱ぐと、どこの店の客引きかと思うような際どい胸元のカットだ。
依子が自分だけのために着るのなら、100歩譲って許せるが、他の女の露出はあまり好きではない。
諭に惚れたあすかは、憲一と離婚成立するなり、すぐに行動した。
諭の職場の近くをウロつき、憲一のいない隙を狙って諭を呼び出した。
『憲一に渡し忘れたものがあるけど、直接渡せないから貴方からお願いしたい』と、控えめな口調だったが、実際に待ち合わせた先は半個室のダイニングバーで、テーブルの下でスキンシップに挑んできた。
諭は友人の女には手を出さなかった。それが、別れた相手でも。
だから、あすかを拒否したし、あすか自体に魅力を感じたこともなかった。
そんなことが2度続き、3度目からは電話もメールも無視を貫いた。
憲一を介抱した時、もしまた同じようなことがあったら番号を教えておいた方が安心だろうと配慮したが為に、今、こんな事態になっている。
諭はため息をついた。
「とにかく、俺はあすかさんに興味ないんで、俺の連絡先を目の前で消してもらえます?迷惑なんで。」
ばっさりと拒絶の意思を伝えた諭の顔を、あすかは挑むような目で睨んだ。
そして、
「バッカじゃない?自惚れるのもいい加減にして。番号なんてほら………ね、削除完了。別にあんたレベルの男、幾らでもいるし、私はその辺困ってないわ。」
と、潔く諭の連絡先を消去した。
その様子を見届けた諭は、表情1つ変えずに席を立ち、あすかを顧みずに店を出た。
残されたあすかは、テーブルの下で組んだ足を小刻みに揺らし、爪を噛んでいた。
その格好は、中年の酔っ払ったおじさんになら、かろうじて色っぽく映ったかもしれないが、昼下がりのファーストフード店にいる学生や主婦達にとっては男に振られたただの不審な女だった。
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