私と離婚してください。

koyumi

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「姉ちゃん離婚したんか?」

 昼下がり、その電話はかかってきた。
 張りのある声は、どっちの気持ちを表しているのだろう。怒り?期待?

「悠介久しぶりだね。元気なの?」

 これは正直にまず聞きたい。質問返しになるけれど、姉としての性なんだ。

「いや、俺より姉ちゃんだろ?俺は元気だけど、母さんは参ってるぞ。」
「うん。そうか、悠介は元気なんだね。」 
 知ってる。諭のお母さんに聞いたから。報告に行った時、こっそり耳打ちされたんだ。「依子ちゃん、一度九州行ってみたら?」って。母さん泣いてたからって。

「今度有休もらってそっち行くよ。今はまだいろいろとしなきゃいけないことがあるから動けなくて……。父さんは?」

 諭のお母さんは、うちの父さんについては何も言ってなかった。すっかり田舎暮らしが定着して、わりと地域の活性化のための集まりとかにも積極的に参加しているみたい、とは前に母さんに聞いていたけれど。

「父さんは特には何も。いつかこうなるとは思ってたみたいな事は言ってたけど、姉ちゃんと諭にぃが決めたなら口出しはできんって。」
「……そっか。」
「ほんとにええんか?まぁ、だいたい諭にぃに原因があるのはわかるけど……。」

 そうか、悠介も知ってるんだね。悠介は諭のこと、最初は嫌ってたけど、高校生くらいから仲良くなって、思春期を共に過ごしたこともあるから微妙だろうね。

「俺さ、結婚するんだよ。」

「結婚?悠介が?」

「うん。大学から付き合ってた子と、ちょっと前にプロポーズしてたんだ。」

「へえー、良かったじゃん。姉ちゃんは嬉しいよ。」

「大丈夫か?なんかさ、姉ちゃんがこんなときに悪いかなって思ってたんだけど。」

「悪いわけないじゃん。嬉しいに決まってるよ。どんな子なの?」

 電話の向こうの弟は、私が諭と悪夢の結婚生活を送っている時に、可愛い彼女と愛を育んでいたようだ。そりゃあこっちには戻らないよね。
 ただ、1つ問題が起きた。

「母さんがさ、姉ちゃんの離婚は先方には隠せっていうんだ。だから、結婚式にーー」

 諭と出席してほしいというのだ。
 相手方が一人娘で地主ということもあり、所謂、世間体を気にしてのことである。

 正直それなら結婚式に参加しなくてもいいかなと思うけれど、たった1人の弟の晴れ舞台に出席しないわけにはいかないし、家族間の不信にも繋がるかもしれない。どこかが欠ければ、つつきたい輩がいることも事実。家族にそんな思いをさせたくはない。

 悩んだ結果、私は諭にお願いすることにした。諭がどうとるかはわからないが、1日限り夫婦のふりをして欲しいと言うのだ。
「はぁー」否が応でも溜息が出る。
 ようやく離婚したっていうのにまた夫婦としていなきゃいけないなんて、運命はどうして私を諭から離さないように仕向けるんだろう。

 優しいよ、頼れるよ、でも、信じられないんだよ。

 しかも、離婚したのは私を失いたくないからという諭のエゴ。確かにあのままいれば、私は高原さんに限らず、誰かの腕に抱かれることを良しとして過ごしていたと思う。そこに、諭への当て付けが入っていなかったとは言えないのかもしれない。

 やっぱりダメだ。1人でいると、ついつい諭のことを考えてしまう。諭のいない場所に行かなければと思う。
 諭の為に流す涙は、もう一滴もないのだから、悲しみや悔しさを体の中に溜めていたくない。
 あのマンションには引っ越さない。至る所に感じる夫婦であった空気を吸いながら暮らすなどあり得ない。

 とりあえず、4ヶ月先の結婚式をクリアすれば、後はすっぱりと切ろう。

 私もそのまま九州に越すのもいいかもしれない。両親と同じように田舎暮らしもいいだろう。
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