私と離婚してください。

koyumi

文字の大きさ
33 / 89

変化

しおりを挟む
 週末、ひょっとしたらと思ったけど、高原さんは来なかった。あれ以来連絡がない。私からアクセスすることもできず、このままフェイドアウトするならその方が楽だとも思えた。

 だか、週明けての月曜日、仕事が終わり帰宅すると、マンションの前に高原さんがいた。

「依子ちゃん、ちょっといいかな?」

 誘いは唐突だったが、「ごめん、時間が全然ないんだ。」と言われ、高原さんの車に乗って駐車場で話をすることになった。部屋に押しかけないことで、何かが変わったのだとわかった。

「あれから離婚したんだってね。柴坂さんに聞いたんだ。」
「柴坂さんってマスターのことなんだね。知らなかったわ。」
「経済界では有名な人だよ。アメリカにいた時も彼の噂を耳にしたことがあるくらいね。それより、離婚は本当なんだよね?」

 本当に時間がないらしく、早口で問いかける高原さんの目は真剣そのものだ。

「はい。離婚、しました……。」

 私がそう返事するとその目は和らぎ、目尻にシワがよる様は相変わらず人を癒すなぁと思う。

「……俺さ、明日からアメリカに行くんだ。3ヶ月の予定なんだけど、もしかしたらそれ以上になるかもしれない。だから行く前に、もう一度君に伝えたくて。」

 アメリカ?また行くんだね。そっか、そういうこともあるのか……。

「この前の北見さんに会わせたのも、こういう事態を想定していたから、依子ちゃんのことは確かなことにしたくて、1人で焦ってしまってた、ごめん。」

「……そっか……。」

「それで、きっと伝えても良い返事が貰えるとは思えないけど、言わせてくれる?」

 そう言うと、背筋を伸ばして一呼吸した高原さん。そして、

「依子ちゃん、俺と正式に付き合ってください。俺は、君が考えている以上に、君のことが好きなんだ。」
と、緊張した声で私に告白してくれた。

 もう高原さんとは会ったりするのはやめよう、そう決めていたのに、こんな告白をされると気持ちが揺らいでしまう。
 強引なやり方には、いつかはアメリカに再び行かなきゃいけないっていう、きちんとした理由もあったのだ。

「あの、私のどこがいいの?……自分では全くわからないのよ……。」

 だってあれほど浮気をされ続けた私に、何か魅力があるとは思えない。諭はそれでも私がいいとか言っているけれど、口からはなんとでも言えるのだ。
 高原さんは、諭のように嘘をつくとは思えない人だけど、だからこそ、ひょっとしたら体の関係を持ってしまったことに責任を感じているだけかもしれないと、またここでも疑ってしまう。

「依子ちゃんは、きれいだよ。心も、体も、すごくきれいだ。それを上手く出しきれていないところも好きだ。もっと周りに頼っていいのに、自分1人で解決しようとする姿も守ってあげたいと思う。」

「……私は、そんな人間なの?」

「あぁ、僕が決めることではないけれど、僕の目にはそう映るし、心にはそう響く。もっと我儘を言ってる君も見てみたいし、泣いてる君も知りたい。もちろん、笑っていてほしいけど、それは僕の目標だから。」

 そう言って、高原さんは“俺”から“僕”に呼称を変え、思いを伝えてくれた。“慣れない”ことを言っているんだなってわかる。わかりやすい癖だ。
 
 私の笑う顔が好きだからとかじゃなく、私が笑うことが目標だという。

 そんな風に誰かに言われたことはなくて、私の体内で何かが動いた感じがした。
 
「僕と付き合ってほしい。依子ちゃんは、ゆっくりでいいから。僕はアメリカに行くし、案外暴走して嫌われないで済むかもしれないと前向きに考えているんだ。」

 自嘲気味に笑う高原さんを見て、私にはもったいないくらい素敵な人だと思った。この人を信じてみたいとも思えた。
 胸がドキドキして、返事につまる。
 もう、高原さんとは縁を切ろうと思っていたのに。

「……と、友達、で……。」

 言ってしまった。勝手に口から出たような小さな呟き。
 『付き合ってください』の返事に、『友達から』なんて、あり得ないと思っていたのに。そんな、その場を繕うだけの返事をしたらいけないと思っていたのに。
 
 高原さんの目尻のシワがまた増えた。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...