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変化
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週末、ひょっとしたらと思ったけど、高原さんは来なかった。あれ以来連絡がない。私からアクセスすることもできず、このままフェイドアウトするならその方が楽だとも思えた。
だか、週明けての月曜日、仕事が終わり帰宅すると、マンションの前に高原さんがいた。
「依子ちゃん、ちょっといいかな?」
誘いは唐突だったが、「ごめん、時間が全然ないんだ。」と言われ、高原さんの車に乗って駐車場で話をすることになった。部屋に押しかけないことで、何かが変わったのだとわかった。
「あれから離婚したんだってね。柴坂さんに聞いたんだ。」
「柴坂さんってマスターのことなんだね。知らなかったわ。」
「経済界では有名な人だよ。アメリカにいた時も彼の噂を耳にしたことがあるくらいね。それより、離婚は本当なんだよね?」
本当に時間がないらしく、早口で問いかける高原さんの目は真剣そのものだ。
「はい。離婚、しました……。」
私がそう返事するとその目は和らぎ、目尻にシワがよる様は相変わらず人を癒すなぁと思う。
「……俺さ、明日からアメリカに行くんだ。3ヶ月の予定なんだけど、もしかしたらそれ以上になるかもしれない。だから行く前に、もう一度君に伝えたくて。」
アメリカ?また行くんだね。そっか、そういうこともあるのか……。
「この前の北見さんに会わせたのも、こういう事態を想定していたから、依子ちゃんのことは確かなことにしたくて、1人で焦ってしまってた、ごめん。」
「……そっか……。」
「それで、きっと伝えても良い返事が貰えるとは思えないけど、言わせてくれる?」
そう言うと、背筋を伸ばして一呼吸した高原さん。そして、
「依子ちゃん、俺と正式に付き合ってください。俺は、君が考えている以上に、君のことが好きなんだ。」
と、緊張した声で私に告白してくれた。
もう高原さんとは会ったりするのはやめよう、そう決めていたのに、こんな告白をされると気持ちが揺らいでしまう。
強引なやり方には、いつかはアメリカに再び行かなきゃいけないっていう、きちんとした理由もあったのだ。
「あの、私のどこがいいの?……自分では全くわからないのよ……。」
だってあれほど浮気をされ続けた私に、何か魅力があるとは思えない。諭はそれでも私がいいとか言っているけれど、口からはなんとでも言えるのだ。
高原さんは、諭のように嘘をつくとは思えない人だけど、だからこそ、ひょっとしたら体の関係を持ってしまったことに責任を感じているだけかもしれないと、またここでも疑ってしまう。
「依子ちゃんは、きれいだよ。心も、体も、すごくきれいだ。それを上手く出しきれていないところも好きだ。もっと周りに頼っていいのに、自分1人で解決しようとする姿も守ってあげたいと思う。」
「……私は、そんな人間なの?」
「あぁ、僕が決めることではないけれど、僕の目にはそう映るし、心にはそう響く。もっと我儘を言ってる君も見てみたいし、泣いてる君も知りたい。もちろん、笑っていてほしいけど、それは僕の目標だから。」
そう言って、高原さんは“俺”から“僕”に呼称を変え、思いを伝えてくれた。“慣れない”ことを言っているんだなってわかる。わかりやすい癖だ。
私の笑う顔が好きだからとかじゃなく、私が笑うことが目標だという。
そんな風に誰かに言われたことはなくて、私の体内で何かが動いた感じがした。
「僕と付き合ってほしい。依子ちゃんは、ゆっくりでいいから。僕はアメリカに行くし、案外暴走して嫌われないで済むかもしれないと前向きに考えているんだ。」
自嘲気味に笑う高原さんを見て、私にはもったいないくらい素敵な人だと思った。この人を信じてみたいとも思えた。
胸がドキドキして、返事につまる。
もう、高原さんとは縁を切ろうと思っていたのに。
「……と、友達、で……。」
言ってしまった。勝手に口から出たような小さな呟き。
『付き合ってください』の返事に、『友達から』なんて、あり得ないと思っていたのに。そんな、その場を繕うだけの返事をしたらいけないと思っていたのに。
高原さんの目尻のシワがまた増えた。
だか、週明けての月曜日、仕事が終わり帰宅すると、マンションの前に高原さんがいた。
「依子ちゃん、ちょっといいかな?」
誘いは唐突だったが、「ごめん、時間が全然ないんだ。」と言われ、高原さんの車に乗って駐車場で話をすることになった。部屋に押しかけないことで、何かが変わったのだとわかった。
「あれから離婚したんだってね。柴坂さんに聞いたんだ。」
「柴坂さんってマスターのことなんだね。知らなかったわ。」
「経済界では有名な人だよ。アメリカにいた時も彼の噂を耳にしたことがあるくらいね。それより、離婚は本当なんだよね?」
本当に時間がないらしく、早口で問いかける高原さんの目は真剣そのものだ。
「はい。離婚、しました……。」
私がそう返事するとその目は和らぎ、目尻にシワがよる様は相変わらず人を癒すなぁと思う。
「……俺さ、明日からアメリカに行くんだ。3ヶ月の予定なんだけど、もしかしたらそれ以上になるかもしれない。だから行く前に、もう一度君に伝えたくて。」
アメリカ?また行くんだね。そっか、そういうこともあるのか……。
「この前の北見さんに会わせたのも、こういう事態を想定していたから、依子ちゃんのことは確かなことにしたくて、1人で焦ってしまってた、ごめん。」
「……そっか……。」
「それで、きっと伝えても良い返事が貰えるとは思えないけど、言わせてくれる?」
そう言うと、背筋を伸ばして一呼吸した高原さん。そして、
「依子ちゃん、俺と正式に付き合ってください。俺は、君が考えている以上に、君のことが好きなんだ。」
と、緊張した声で私に告白してくれた。
もう高原さんとは会ったりするのはやめよう、そう決めていたのに、こんな告白をされると気持ちが揺らいでしまう。
強引なやり方には、いつかはアメリカに再び行かなきゃいけないっていう、きちんとした理由もあったのだ。
「あの、私のどこがいいの?……自分では全くわからないのよ……。」
だってあれほど浮気をされ続けた私に、何か魅力があるとは思えない。諭はそれでも私がいいとか言っているけれど、口からはなんとでも言えるのだ。
高原さんは、諭のように嘘をつくとは思えない人だけど、だからこそ、ひょっとしたら体の関係を持ってしまったことに責任を感じているだけかもしれないと、またここでも疑ってしまう。
「依子ちゃんは、きれいだよ。心も、体も、すごくきれいだ。それを上手く出しきれていないところも好きだ。もっと周りに頼っていいのに、自分1人で解決しようとする姿も守ってあげたいと思う。」
「……私は、そんな人間なの?」
「あぁ、僕が決めることではないけれど、僕の目にはそう映るし、心にはそう響く。もっと我儘を言ってる君も見てみたいし、泣いてる君も知りたい。もちろん、笑っていてほしいけど、それは僕の目標だから。」
そう言って、高原さんは“俺”から“僕”に呼称を変え、思いを伝えてくれた。“慣れない”ことを言っているんだなってわかる。わかりやすい癖だ。
私の笑う顔が好きだからとかじゃなく、私が笑うことが目標だという。
そんな風に誰かに言われたことはなくて、私の体内で何かが動いた感じがした。
「僕と付き合ってほしい。依子ちゃんは、ゆっくりでいいから。僕はアメリカに行くし、案外暴走して嫌われないで済むかもしれないと前向きに考えているんだ。」
自嘲気味に笑う高原さんを見て、私にはもったいないくらい素敵な人だと思った。この人を信じてみたいとも思えた。
胸がドキドキして、返事につまる。
もう、高原さんとは縁を切ろうと思っていたのに。
「……と、友達、で……。」
言ってしまった。勝手に口から出たような小さな呟き。
『付き合ってください』の返事に、『友達から』なんて、あり得ないと思っていたのに。そんな、その場を繕うだけの返事をしたらいけないと思っていたのに。
高原さんの目尻のシワがまた増えた。
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