私と離婚してください。

koyumi

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変わらないこと

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「友達っていうのは、そのままの意味なんだよね?“友達から”とは違う……。」

 仕方がないな、という風に、目尻を下げながらそう話す高原さん。
 微笑んだように見えたのは、私が都合よく考えてしまったからだろう。
 繋ぎ止めたいって思いが、心の何処かにあるってこと、わかっているから。


「ごめんなさい……多分、違う。」

「多分って……そんな曖昧だとこのまま連れ去っちゃうよ?いいの?今、どこにいるかわかってる?」

 ハンドルをぽんと叩いて、また私に微笑む姿に、(いいよ、連れてって)って言えたらどんなにか楽か。

 
 少しの間、黙り込んでしまった。


「わかった……もう、依子ちゃんを困らせたりしないよ。僕はアメリカに行く。3ヶ月あればきっと忘れられるはずさ。……でも……僕がいたこと、依子ちゃんは忘れないで。君は、もっと自信持っていい。わかった?」

 ポロっと、涙が出た。
 高原さんがいるからこその涙。
 一度出てしまうと、それはもう次から次へと溢れてきて止められない。

 もう会えない。
 もう会わない。
 諭に比べたらほんの僅かな時間を共にしたけれど、すごく贅沢な時間だった。
 出会えてよかった、ありがとう。

「……ありがとう、ありがとう、高原さん……元気で……」

 そっとハンカチを差し出され、受け取る。
 ハンカチは、別れのプレゼント。
 返す時はまた会いたい時。


 翌日、高原さんはアメリカに行った。3ヶ月という期間が、どれだけ延びるかわからないけれど、きっともう会うことはない。

 その後、高原さんは私が住むマンションを売り、買手である北見さんが私の大家さんになった。
 そしてそのまま引っ越しはせず、たちまち節約した生活を送ることに決めた。
 諭には一度だけ電話をして、「引っ越さない」ことを告げた。諭は諭で急な出張が決まり、離婚後2週間ほど不在だった。

 高原さんも、諭もいない日常。
 私は、本当に1人になった。
 それは思っていたよりも穏やかに、新鮮な空気に満ちていて、自分が変わっていける気がした。
 何に囚われもせず、縛られもせず、『本原依子』として生きる。自分だけの意思で。


 諭が出張から帰ってきてから数日後、正式に弟の結婚式の招待状が送られてきた。
 諭と夫婦のフリをして出席をするなど、決心はしたがやはり避けたいと思う。とはいえ、私が何を思おうが家族としては既にそのつもりで段取りを組んでいるので、反故にはできない。

 離婚報告以来、初めてあの喫茶店に入った。諭に直接メールをしてもいいのだが、この2週間という時間が、諭と距離を広げたように思えてできなかった。
 
「ーーえっ?辞めた?」

 なんと、出張先からマスターに電話があり、諭は喫茶店でのアルバイトを辞めたという。
 突然の連絡で、マスターも困惑していたようだ。
 ただ、どことなく私には、“出張の2週間”の間に感じたことが、然るべきものからきたものだと思え、アルバイトを辞めた理由に見当がついた。

 私は喫茶店を出たその足で、諭がいるであろうマンションへと向かった。かつての2人の住居へと。

『ピンポーン』

『……はい……』

『あ、諭?開けてくれない?ちょっと話があるんだけど』

『ごめん、今ちょっと取り込み中で、大事な電話があるんだ。また、明日でもいいか?』

『あっ、そうなの?……わかった、じゃ、明日また来るね。』

『うん、ごめんな、じゃ。』

 
 諭は嘘をついている。
 20年の歴史を馬鹿にしないでほしい。
 その声色、スピード、何か隠しているか、マズイことをしている時の声だ。

 諭はやっぱり諭なのだ。
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