私と離婚してください。

koyumi

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そばに3

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 ※高原サイド

 本当なら、今日は大事なプレゼンがある予定だった。
 だが、急遽クライアントが体調を崩し、プレゼンの日程が1週間もズレた。
 はっきり言って、大事な場面で体調管理のできない輩は、この先の伸び代が少ないんじゃないかと思ってしまう。
 どちらの会社が大きいかではなく、為すべき目標が一緒なら、切磋琢磨しながら突き進んでいくべきだ。
 だが、このクライアントは、以前から問題が多い。特に、時間にルーズな点は、僕には許しがたいことで、すぐにでも縁を切れるように、保険はとってある。

 
 高原は、ビジネスに関してはシビアな人間だった。
 先見性に富んだやり手だともっぱらその世界では有名だったが、女性に関してはさっぱりだった。

 世にゆうイケメンの部類に入る容姿からモテることはモテたが、それは社会人になってからで、学生時代までは、シャイで奥手。そして話せば難しい話題ばかりで、すぐに女性は散らばっていった。
 そんな彼が開花したのは、やはり、アメリカやイギリスでの生活があったからだろう。視野も広がったが、世には様々な人がいて、自分も例外ではなかったが、それでいいのだと自信を得ることができたからだ。

 依子と上手くいくとは思っていなかった。
 大体、不倫が原因で離婚したとしても、その相手と結ばれることは少ない。
 今回は、自分と会う前から婚姻関係が破綻してはいたが、結果的に夫が離婚を承諾したのは、自分が依子と密な関係になったことが引き金だ。

 そして駄目元で告白し、依子を求めても、答えはノーだった。

 こんなところで先見性の鋭さなど発揮させたくなかったが、ふられてからの運命の動きは、全く予想だにしないものばかりだ。

 アメリカに行けと言われた時、3か月だが、あちらの計画によって、半年は確実だろうと思われた。今までに3か月とか中途半端なものは無かったからだ。
 
 運命の悪戯のように、様々な歯車が噛み合って、素晴らしいほどスムーズにことが運んで3か月ピッタリで帰国できた。

 そこからは、忘れるつもりの依子と、忘れてはいけないかの如く縁が繋がっていく。

(どうしろと言うんだ?)

と、掴めない空気を前に幾度となく思った。

 そして今日、一連の都合があり、休日出勤を返上するかのように『休め』と上司に指示された。
 急に休めと言われても、仕事以外に趣味がない自分は、いつものコンビニで弁当を買うくらいしかすることがない。
 つまならい男だ。

 スーツに仕立ての良いロングコートを羽織っていても寒さを感じる。そんな中、マスクをして、震えるように、いつも通る道沿いにあるクリニックから出てきた人がいる。

『ドクン』

 急にスピードを上げた鼓動。
 歩調も必然的に速くなる。

 近づいても俯いていて、顔ははっきりわからないが、見たことのあるコートに確信する。

「あれ?依子ちゃん?」

 自分の声に見上げた顔に、鼓動が更に速くなった。

 顔色が悪い。

 よく見れば、カバンからは薬袋が覗いている。

 そこからはもう、自分の立場など客観視することはできなかった。
 どう思われてもいい。
 ただ譲れなかった。

 そばにいたい。

 この気持ちは、拒否されても覆すつもりはない。

 彼女も最初は戸惑っていたが、やはり体調が良くないのか、最後は運んだベッドで吸い込まれるように眠りついた。
 
 久しぶりに入ったこの部屋は、相変わらず自分が落ち着く要素を持ち合わせている。そこに彼女がいて、彼女の私物があれば尚更。

 時折苦しそうに顔を歪める様子に気づけば、額にのせるタオルを替えたり、汗を拭いたりした。
 何かあった時のために、体温の記録もとった。

 どうにかこうにか目覚めた後は、随分顔色が良くなった。
 だが、油断してはいけない。
 
 できれば今夜はここで彼女を見ていたい。


 『ピピ』

 やっぱりな……。

 また呼び出しだ。
 タイムリミット。

 お粥は食べたし、薬も飲んだ。
 今はぐっすり眠れている。

 依子ちゃん……。

 このまま一緒に過ごせたら、僕はどんなにか救われるだろうか。

 初めて彼女に会った時、そこだけ違う空気が流れていると思った。目が離せなかった。
 あの場で彼女だけが既婚者だったが故の雰囲気なのかと思った。

 それだけじゃない。
 
 今までの理想のタイプなど崩れ去った。
 自分の好みは彼女自身になった。
 だから、ふられても、簡単には忘れられない。
 こんなにも偶然が重なった今は、忘れるつもりもない。
 時間がかかっても、手に入れたいんだ。
 君の隣を。
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