私と離婚してください。

koyumi

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キス

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 不意にされたキスにどうしていいか戸惑ったが、それは男の性で、依子の後頭部に手を添えた。

 互いに熱を持った唇は、言葉にするよりも早く気持ちを伝えるのに十分といえる。

 そっと唇を離し、

「こんな時に、ズルイな君は。」

と言って、再び自ら求めた。

 ずっと我慢していた。
 好きな女性と2人きり、密室にこもるなど願ったり叶ったりの状況で、よく耐えれたものだと思う。
 それに、こんなにも偶然が重なれば、それは必然なんだと思ってもいいだろう。

 彼女が快復したら、一か八か、もう一度2人が重なるべく、一歩でも二歩でも前進させるつもりでいた。
 それが、明け方から変異した喉の調子と、こめかみにズキっとくる痛みに、次は自分の番なのだと気付いた。
 それでも、昔から苦手な病院に行く気はさらさらないし、寝ていれば治るものだと安易に考え、彼女のもとへと急いだ。

 元気そうな彼女の顔を見ると、安心したのか急に疲れがドンと膝を折り、腰を据えた。隣に彼女を座らせれば、その肩に重い頭を預けた。

 そこから先の記憶はほとんどなく、悲しくも、耳に染み付いた会社からの着信音に目が覚めた。
 心配そうにこちらを見る彼女を、抱きしめたくてたまらない。そうやって、ずっと見ていてくれたのだと感動すらする。

 電話を切り、彼女に言われるがまま、かつて自分が気に入って購入したベッドに横たわる。相変わらず体に合う。しかも、彼女の残り香がなんともいえない心地よさを誘う。そしてそのまま吸い込まれるように眠りについた。



 どのくらい寝たのだろう。
 体中がベタベタして、その不快さにきづき始めた時、ガチャっとドアが開く音が聞こえ、柔らかな空気が流れた。
 目を開けないで、その流れに身を任せていると、額にフワっとタオルの感触があり、愛しい人が来てくれたんだと気付く。
 
 戻って来てくれた。

 ふと、あの時、強引に取り仕切った北見さんとの食事の場で逃げていく彼女が蘇る。
 だけど今、もう2度と掴めないと思ったその手が、自分の体を労ってくれている。

 ありがとう。

 好きでいさせてくれて。
 
 もしかしたら、目を開けると、不甲斐にも涙が流れそうだ。
 こんなに弱かったのか?
 いや、今はそう、熱のせいだ。

 その時だ。

 ドクン……。

 これは……唇?

 





「汗、気持ち悪いな。」

「うん、ちょっと待ってて。蒸しタオル持ってくるから。着替えは……どうしよう……。買ってくるわ。」

「着替えならあるよ。もしかしたら依子ちゃんがまた具合悪くなったらいけないから、泊まるつもりだった。」

「高原さん……意外と勝手よね。」

「依子ちゃん限定でね。悪いけど、もう抑えるつもりはないから。」

 ーー自分でも驚くくらい、君に関しては攻撃力を緩められない。
 それにもう、今更断ることはさせないよ。
 再び火を灯したのは、君だろう?

 そんな思いをこめて、また彼女の後頭部に手をやり、引き寄せると唇を重ねた。
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