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ウインドウショッピング
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それは突然だった。
日本に帰ってきてから数日、私は実家に諭がいることに動揺し、純君に対する不信感も一気に上昇していた。
ボルテージが下がり続ける中、気乗りしない私は半ば無理やり純君にウインドウショッピングとやらに連れ出された。
「ここにこんなお店無かったよね~。」
と、久々の日本のストリートを探索する純君。正直、私はそれどころじゃないし。
「依子ちゃん、ちょっとここ入ろう。」
そう言って足を踏み入れた場所は、いかにも老舗の写真館。
入り口に受付のカウンターがあり、そこには同世代の女性がいた。
「いらっしゃいませ。」
「こんにちわ。14時に予約していた高原ですが。」
「はい。高原様ですね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
後ろからそのやり取りを聞いていた私は、
「予約してたの?何か撮りたいものがあるの?」
と、わけのわからない質問をしてしまった。
「やだな。撮られるのは僕達だよ。撮るのはここの人達だよ。面白いなぁ依子ちゃんは。」
純君は目を細めて笑い、そう答えた。
「撮られる?僕達って……純君と私?」
「ああ、そうだよ。だから、依子ちゃんはこの女性について行ってね。僕はこっちだから。」
純君はそう言って右側にあるドアの中へ、私を置いて入ってしまった。
ほんと、なんのつもりなんだろう。いきなり写真館に連れてこられ、撮られるなんて。
(……もしかして、会社のPRかな?)
私はそう思いつき、それならそうと言って欲しかったな、などと考えながら受付にいた女性についていった。
「こちらでございます。どうぞ。」
ネームプレートに岡崎と書いてあるその女性は、満面の笑みを浮かべながら白木で作られたドアをあけ、私に入るように促した。そこにあるものは、間違いなく女の子の憧れであり、プリンセスを約束するものであった。
「……これ……ウエディングドレス?どうして……。」
純白のドレスが、5着ほど用意され、その全てが輝いていた。
一歩引いてしまった私の背中を押してくれたのは、誰よりも私にとって暖かい手を持つ母だった。
「ひゃっ!ーーっえ?か、母さん?なんでここに!?」
「逃げたらダメよ依子。しっかり受け止めなさい。これが現実なのよ。羨ましいったらありゃしないわ。」
振り返って見えた母は、すでに黒の着物を身につけていて、普段はあまりしないお化粧もきれいに施されていた。
「お、お母さん!どういうこと?これが現実って……。」
「あら?わからないの?私がこの着物を着て、依子はウエディングドレスを着るのよ。」
母の答えに益々パニックになる。
手が震えてきた。
瞬きをする度、まつ毛が重たくなってきた。
「泣いちゃダメよ。今から綺麗にしてもらうんだから。ね?ドレス、どれがいいかしらね?あんまり時間はないからさっさと決めて、お姫様になりましょ。」
頷くことしかできない私に、母は5着のドレスをそれぞれ私にあて、3着を選び、2着に減り、最後に合わせる小物を比べて、着るべきものを選んでくれた。
「さあ、始めてください。この子は磨けば綺麗になりますから、よろしくお願いしますね。」
頭を下げだ母に、岡崎さんも「もちろんです。私にお任せください。」と、自信に満ちた笑顔を向け、おじぎをした。鏡の前に座らされた私は、着せ替え人形のようにあれやこれやと花嫁になるべく施されていった。
私がメイクをされている間に、母はこの経緯をざっと話してくれた。
純君は、アメリカに渡ってから、何度かうちの両親に手紙を出していたこと。
その文面に“結婚します”という言葉があることを願っていたが、なかなかその言葉は出てこず、親としてはやはり安心しきれなかったという。が、前回の帰国の際に、純君は単身でうちの両親に挨拶に行き、私との結婚の許しを得たのだという。
「それで九州に行ったってわけね。」
日本に帰ってきてから数日、私は実家に諭がいることに動揺し、純君に対する不信感も一気に上昇していた。
ボルテージが下がり続ける中、気乗りしない私は半ば無理やり純君にウインドウショッピングとやらに連れ出された。
「ここにこんなお店無かったよね~。」
と、久々の日本のストリートを探索する純君。正直、私はそれどころじゃないし。
「依子ちゃん、ちょっとここ入ろう。」
そう言って足を踏み入れた場所は、いかにも老舗の写真館。
入り口に受付のカウンターがあり、そこには同世代の女性がいた。
「いらっしゃいませ。」
「こんにちわ。14時に予約していた高原ですが。」
「はい。高原様ですね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
後ろからそのやり取りを聞いていた私は、
「予約してたの?何か撮りたいものがあるの?」
と、わけのわからない質問をしてしまった。
「やだな。撮られるのは僕達だよ。撮るのはここの人達だよ。面白いなぁ依子ちゃんは。」
純君は目を細めて笑い、そう答えた。
「撮られる?僕達って……純君と私?」
「ああ、そうだよ。だから、依子ちゃんはこの女性について行ってね。僕はこっちだから。」
純君はそう言って右側にあるドアの中へ、私を置いて入ってしまった。
ほんと、なんのつもりなんだろう。いきなり写真館に連れてこられ、撮られるなんて。
(……もしかして、会社のPRかな?)
私はそう思いつき、それならそうと言って欲しかったな、などと考えながら受付にいた女性についていった。
「こちらでございます。どうぞ。」
ネームプレートに岡崎と書いてあるその女性は、満面の笑みを浮かべながら白木で作られたドアをあけ、私に入るように促した。そこにあるものは、間違いなく女の子の憧れであり、プリンセスを約束するものであった。
「……これ……ウエディングドレス?どうして……。」
純白のドレスが、5着ほど用意され、その全てが輝いていた。
一歩引いてしまった私の背中を押してくれたのは、誰よりも私にとって暖かい手を持つ母だった。
「ひゃっ!ーーっえ?か、母さん?なんでここに!?」
「逃げたらダメよ依子。しっかり受け止めなさい。これが現実なのよ。羨ましいったらありゃしないわ。」
振り返って見えた母は、すでに黒の着物を身につけていて、普段はあまりしないお化粧もきれいに施されていた。
「お、お母さん!どういうこと?これが現実って……。」
「あら?わからないの?私がこの着物を着て、依子はウエディングドレスを着るのよ。」
母の答えに益々パニックになる。
手が震えてきた。
瞬きをする度、まつ毛が重たくなってきた。
「泣いちゃダメよ。今から綺麗にしてもらうんだから。ね?ドレス、どれがいいかしらね?あんまり時間はないからさっさと決めて、お姫様になりましょ。」
頷くことしかできない私に、母は5着のドレスをそれぞれ私にあて、3着を選び、2着に減り、最後に合わせる小物を比べて、着るべきものを選んでくれた。
「さあ、始めてください。この子は磨けば綺麗になりますから、よろしくお願いしますね。」
頭を下げだ母に、岡崎さんも「もちろんです。私にお任せください。」と、自信に満ちた笑顔を向け、おじぎをした。鏡の前に座らされた私は、着せ替え人形のようにあれやこれやと花嫁になるべく施されていった。
私がメイクをされている間に、母はこの経緯をざっと話してくれた。
純君は、アメリカに渡ってから、何度かうちの両親に手紙を出していたこと。
その文面に“結婚します”という言葉があることを願っていたが、なかなかその言葉は出てこず、親としてはやはり安心しきれなかったという。が、前回の帰国の際に、純君は単身でうちの両親に挨拶に行き、私との結婚の許しを得たのだという。
「それで九州に行ったってわけね。」
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