72 / 89
しあわせに
しおりを挟む
アメリカに同行することは、つまりいつかは生涯の伴侶になることを意味するのだとは思っていた。
ただ、一度結婚生活が破綻することを経験した私が、簡単にプロポーズを受け入れるとは誰も考えられなかったという。
私だって幸せになりたい。
だけど、現状のままでも十分幸せだとも思う。
「純君、諭君と話したのよ。軽い会話のような感じだったけど。」
母さんが言うには、純君は諭に私と結婚したいというようなことを話したらしい。詳しくは2人にしかわからないけれど、険悪なムードではなく、どこか親しみのある雰囲気だったという。
元夫と現恋人。
絶対に居合わせたくない場面だ。
だけど聞き耳立ててでも内容を知りたいものだとは思う。
「依子に直接話しても、きっと首を縦には振ってくれないから協力してくださいって言われたわ。いろいろ試行錯誤したのよ。
さぁ……依子、ほんと、幸せになるのよ。いえ、純君を幸せにしてあげなさい。2人で幸せを願うのよ。希望を持って、一度きりの人生なんだから、ダメだったらまた考えればいいのよ。後ろ振り向いたり、余所見したり、何だっていいの。結婚してください、依子。」
「お母さんがプロポーズするの?」
「願ってるのよ。私も、お父さんも、あなたが幸せになることを。私達夫婦の希望なんだから。いいでしょ?」
「プッ、花嫁をあまり笑かさないでよ。」
「あら、悲しげな顔してるよりいいわよ。今日は晴れ舞台なんだから。」
1時間程の準備が終わり、タイミングを見計らったように白木の扉がノックされた。
そっと開いた扉の向こう側には、白いスーツをスマートに纏った純君がいた。
「……依子ちゃん……ありがとう。」
一瞬間を開けて、私の姿を見た純君がくれた言葉。
その一言は、私の存在を確かに認めてくれていた。今までも何度か“ありがとう“って言われたことはある。その度に嬉しい気持ちになったこともある。だけど、今のこの瞬間の言葉として、これほど私の心を掴んでくれるものはない。
「純君こそ……本当に、ありがとう。」
純君にエスコートされ、純白のドレスを纏った私は撮影スタジオに入った。
何枚か写真を撮ってもらった後、
「君の限界を考えたら、とても披露宴とか派手なことは浮かばなかった。ただ、俺が、依子ちゃんのウエディングドレス姿を見たかったんだ。」
と、純君が顔を寄せて囁いた。
本当に、私の心の一部を共有してるのではないかと思うくらい、理解してくれている。
「だけど、やっぱりこんなに綺麗な花嫁姿は、もっといろんな人に見てもらうべきだと思うんだ。だから…」
純君がそういうなり、スタジオの扉がバンっと開いた。
「お、お父さん!悠介もっ。」
そこにいたのは、いつの間にか姿を消していたお母さん、そしてタキシードを着たお父さん、悠介、悠介の家族。そして、純君の家族。
唖然とする私は、いつの間にか涙を流していたようで、急いでメイクさんがお直しにきた。
その後はワイワイいろんなパターンで写真を撮影してもらい、夜はレストランの個室で両家で食事となった。
家族に対して、いつの間にか防御線を張っていた。諭に裏切られてから、私は家族を持つことなどできないんだと決めつけていた。誰かに愛されて生きる幸せなどに自分は靡いてはいけないと、素直さや、清らかさなど薄っぺらいものだと白い目で見ていた。
だけど、こんなにも私が幸せになることを待ちわび、喜び、また歓迎してくれる人がいる。
この先まだまだ乗り越えるべき課題はたくさんあるだろう。
だから、もっともっと信じてみたい。
純君のこと、自分のこと、家族のこと。
最期を迎える時に、『がんばったよ』って、自信を持って言えるように。
(完)
ただ、一度結婚生活が破綻することを経験した私が、簡単にプロポーズを受け入れるとは誰も考えられなかったという。
私だって幸せになりたい。
だけど、現状のままでも十分幸せだとも思う。
「純君、諭君と話したのよ。軽い会話のような感じだったけど。」
母さんが言うには、純君は諭に私と結婚したいというようなことを話したらしい。詳しくは2人にしかわからないけれど、険悪なムードではなく、どこか親しみのある雰囲気だったという。
元夫と現恋人。
絶対に居合わせたくない場面だ。
だけど聞き耳立ててでも内容を知りたいものだとは思う。
「依子に直接話しても、きっと首を縦には振ってくれないから協力してくださいって言われたわ。いろいろ試行錯誤したのよ。
さぁ……依子、ほんと、幸せになるのよ。いえ、純君を幸せにしてあげなさい。2人で幸せを願うのよ。希望を持って、一度きりの人生なんだから、ダメだったらまた考えればいいのよ。後ろ振り向いたり、余所見したり、何だっていいの。結婚してください、依子。」
「お母さんがプロポーズするの?」
「願ってるのよ。私も、お父さんも、あなたが幸せになることを。私達夫婦の希望なんだから。いいでしょ?」
「プッ、花嫁をあまり笑かさないでよ。」
「あら、悲しげな顔してるよりいいわよ。今日は晴れ舞台なんだから。」
1時間程の準備が終わり、タイミングを見計らったように白木の扉がノックされた。
そっと開いた扉の向こう側には、白いスーツをスマートに纏った純君がいた。
「……依子ちゃん……ありがとう。」
一瞬間を開けて、私の姿を見た純君がくれた言葉。
その一言は、私の存在を確かに認めてくれていた。今までも何度か“ありがとう“って言われたことはある。その度に嬉しい気持ちになったこともある。だけど、今のこの瞬間の言葉として、これほど私の心を掴んでくれるものはない。
「純君こそ……本当に、ありがとう。」
純君にエスコートされ、純白のドレスを纏った私は撮影スタジオに入った。
何枚か写真を撮ってもらった後、
「君の限界を考えたら、とても披露宴とか派手なことは浮かばなかった。ただ、俺が、依子ちゃんのウエディングドレス姿を見たかったんだ。」
と、純君が顔を寄せて囁いた。
本当に、私の心の一部を共有してるのではないかと思うくらい、理解してくれている。
「だけど、やっぱりこんなに綺麗な花嫁姿は、もっといろんな人に見てもらうべきだと思うんだ。だから…」
純君がそういうなり、スタジオの扉がバンっと開いた。
「お、お父さん!悠介もっ。」
そこにいたのは、いつの間にか姿を消していたお母さん、そしてタキシードを着たお父さん、悠介、悠介の家族。そして、純君の家族。
唖然とする私は、いつの間にか涙を流していたようで、急いでメイクさんがお直しにきた。
その後はワイワイいろんなパターンで写真を撮影してもらい、夜はレストランの個室で両家で食事となった。
家族に対して、いつの間にか防御線を張っていた。諭に裏切られてから、私は家族を持つことなどできないんだと決めつけていた。誰かに愛されて生きる幸せなどに自分は靡いてはいけないと、素直さや、清らかさなど薄っぺらいものだと白い目で見ていた。
だけど、こんなにも私が幸せになることを待ちわび、喜び、また歓迎してくれる人がいる。
この先まだまだ乗り越えるべき課題はたくさんあるだろう。
だから、もっともっと信じてみたい。
純君のこと、自分のこと、家族のこと。
最期を迎える時に、『がんばったよ』って、自信を持って言えるように。
(完)
1
あなたにおすすめの小説
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
離した手の温もり
橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる