私と離婚してください。

koyumi

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第2章

壁の花

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 ーードクっ



 心臓が鷲掴みされたように、一度大きく唸り、喉元をつかえさせた。


 ーー依子が、いる……!


 給仕係の俺は、用もないのに彼女に近づけやしない。
 まして、彼女の視線はずっと1点を捕らえたまま。
 
(変わらない……いや、変わったか?)

 紺色のツーピースを身に纏い、さり気なくつけたネックレスがよく輝いている。
 様々な会社の上役達が集う中、余裕さえ感じられる雰囲気は、依子が元々もっていたものだろう。
 
 じっと見つめてしまう。

 見てはいけないとわかっているのに目が離せない、どうしたものか……。


「冨樫さん、こっちをお願い。」
「あ、はい。」

 ぼんやりと依子を見ていたことがバレたのか、三条さんから声をかけられた。
 一瞬名前を呼ばれたことで、依子に気付かれるのではないかと冷やっとしたが、その声は届いていなかったようだ。

 俺は裏に入った。

 一旦下げた食器類を洗浄に持っていく。
 ガシャガシャと慌ただしく音がするが、会場の様々な会話音はさらに大きい。


「大丈夫?知り合い?」

 いつの間にか三条さんが真後ろにいた。

「いえ、ただ、似ていただけです。幼馴染に。」

「幼馴染……。そっか。」


 聞いてどうなるわけでもないだろうに。
 まるで、俺に気があるかのような態度に少しイラっとした。

 

 だが、『幼馴染』という言葉は余計だったらしく、それから三条さんは依子の近くに待機するようになったのだ。

 依子は三条さんを意識はしていないが、俺はとにかくハラハラしていた。

 そして、その時は突然訪れた。

「すみません、少し気分が悪くなったので退場したいのですが、あの、あそこにいるネイビーのスーツに同色のネクタイの男性が来たら、それを伝えてほしいのです。お願いします。」

と、依子が三条さんに声をかけたのだ。

 俺は離れた場所から見ていただけなので、内容は聞き取れなかったが、落ち着かなかったのはいうまでもない。

 そしてそのすぐ後、高原が三条さんの近くに行き、一言交わすと依子の行った方に足を向けたのだ。

 一体何が起きたのか?

 気になって仕事どころではない。
 だが、やらなければならない。

 興味のない会話を耳に挟みながら、片付けや給仕に勤しむ俺は、少しだけでも変われただろうか?


 やがて親睦会も終わり、たんまりと残った料理に眉を顰めながら後片付けをしていると、またもや三条さんが目の前に現れた。

「幼馴染さん、体調悪いのかしらね?出て行ったきり戻ってこなかったわね。それに、追いかけたパートナーの方は大丈夫だったのかしら?久しぶりに気になるカップルと出会えたわ。」

 とにかく俺に伝えたいのだろう。
 依子を幼馴染だと言い切ったのだ。
 俺は人違いだと否定したのに。

「……あの2人は、夫婦です。やっぱり知り合いでした。」
 
 
 


 
 
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