私と離婚してください。

koyumi

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第2章

元嫁ですと

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 俺の言葉を理解すると、三条さんは(やっぱり…)という表情で顔をしかめた。そしてすぐに下を俯き、
「……そのわりには……。」
と呟いた。

 俺は三条さんが見世物のように依子を扱ったことが気に入らなかった。
 少なくとも、彼女のイメージにそんな卑しさはなかったから。
 ホテルに勤務する者として、個人情報はもちろん、客のプライバシーに関わる不用意な発言はするものではない。
 三条さんは特に、そういったことをしない清廉された人だと思っていた。
 だから余計ガッカリしたのかもしれない。

「そのわりには、何ですか?」

「う、ん……ごめんなさい。余計なお世話が仇となるパターンだわ。ただちょっと、冨樫さんが誰かをずっと見ている姿って珍しくて。いや、ほんとにごめんなさい。仕事に戻るわ。」

 なんとなく、いや、きっと当たってるんだけど……。

 三条さんは俺に気がある。

 今まで俺は様々な立場の女性と繋がってきた。だから、俺に気があるかどうかくらい一言二言交わせばわかる。
 三条さんと仕事以外の話をしたのは初めてだ。その中でわかったこと。

 三条さんは俺をよく見ている。
 三条さんは俺の視線を追っている。

 それはつまりーー、そういうこと。

「元嫁です。」
と、言えたらどんなに楽だろうか?
 過去になる言葉を、軽く言えたら、深い関係だったという言葉を、笑い流せながら言えたら、どんなに穏やかだろうか?

 胸の動きが治らない。
 

 依子はどうして出ていったのだろう?
 その時の表情を見たかった。
 気分が悪い?何故だ?
 手に持っていたワイングラスから、妊娠しているようには思えないし。


 その日の仕事を終え、帰宅した後も、俺の頭の中は依子の姿でいっぱいだった。
 あの女性を、俺は裏切り続けていたんだ。泣かせ続けていたんだ。
 こんなにも今、胸が苦しいのに……。
 もう想わないと決めたのに……。


 翌日は宴会の予定が少なく、俺が出勤する時間帯はもうなかった。
 その為、普段はできないクロス類の整理や、備品の不備をチェックしていた。

「えー、昨日そんなことがあったんだ?で、大丈夫なの?その人。」
「さぁ、どうして倒れたのかはわからないけど、意識はあるようだったわ。すぐに連れの男性が来て、部屋まで付き添ったみたいだけど。」

 学生のアルバイトの2人は、三条さんやマネージャーがいない時はおしゃべりに励む。今日は特に2人が会議でいない上、宴会もないので気持ちが緩んでいるようだ。
 いつもなら特段気にしない俺だが、この会話だけは気にせずにいられなかった。

「ーーその話、詳しく教えてくれない?」

 おかしいとは思っていても、なりふり構っていられなかった。
 だってどう考えても、それは依子の話だったから。
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