Heart ~比翼の鳥~

いっぺい

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番外編 睦月の夜

第29話 後編1(※)

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 ――晶の部屋。
 ベッドに潜って唸っているのは晶だった。氷枕に載ったその顔は赤く上気している。横には直人が膝立ちになって、晶の顔を覗き込んでいた。

「晶、つらい? …ごめんね、俺の所為で…」

「…何言ってんだよ。直人の所為なわけねぇだろ。…悪りーのは俺じゃねぇか。元々は、俺が引き留めたから帰んの遅くなったわけだし……」


 電話の後すぐに駆け付けた秀一は、晶の服を携えていた。それを直人に着せ、早々にその場を引き揚げたのだが、晶からの電話で「俺の服をひと揃え持って来てくれ」とだけしか言われなかった彼は、何も聞かなくてもその状況だけで全てを察したようだった。
 家に着いて、何事か口にしようとした秀一に直人を預けると、晶は玄関に倒れ込んだ。無理に動き回った為、発熱がピークに達していたからだった――。


 遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえる。現場を離れる際に秀一が呼んだ警察が、例の強姦魔二人組を連行しているのだろう。
 直人が晶の額に浮かぶ汗を冷たいタオルで拭ってやっていると、そこへ秀一が入ってきた。

「どうかな? 様子は」

「あ…秀兄ぃ。悪りーな、いろいろ面倒掛けて…」

 殊勝な言に、秀一は目をすがめて意地悪そうな笑みを浮かべる。

「まったくだ。勝手に外へ出たりして。ちょっとは私の迷惑も考えてくれないと」

 しゅんと黙り込む晶に息をついて、いつもの笑顔に戻った。

「…なんて嘘だよ。迷惑だなんて思っちゃいない。怪我人や病人の手当ては私の仕事でもあるんだし、それに君のその無謀さが直人君を助けたんだからね。――熱はもう少ししたら引き始める筈だよ。平熱に戻るまでは安静にすること。……にしても、本当に無茶をしてくれたもんだ。腕の傷、手持ちの器具で縫っておいたけど、もし出血が酷かったら病院行きになるところだった」

 それから直人の方に目を向ける。

「直人君も、本当に大事なくて良かった…。傷はどう? 消毒しとかなくていいかな」

「はい。さっきシャワーをお借りしましたから大丈夫です。…すみません、ご心配をお掛けしちゃって……」

 直人の言葉に優しく頷くと、ドアのノブに手を掛ける。

「ああ、左頬。まだ腫れてるから、ちゃんと冷やしておくんだよ。それと、私はこれから母さんと一緒に出掛けてくる。急な法事の連絡があってね。何かあったら、携帯にメールするように。いいね?」

 そう言って、秀一は部屋を出て行った。



 玄関を施錠する音が聞こえる。
 直人は冷水に浸したタオルを絞って、晶の首元へ宛がおうと腕を伸ばした。それを晶の熱い手が掴む。

「…俺はいいから、自分の頬っぺた冷やせよ。ちっとも腫れが引かねぇじゃん」

「平気だよ、このくらい。明日には赤みも取れるから」

「…良くねぇ。お前は俺のもんなのに、あんなクソ野郎に傷付けられるなんて許せねぇよ……」

 晶は直人の手を離すと、彼が着ている自分のトレーナーをたくし上げる。そこから見える白い肌には、所々に擦り傷が散っていた。襲われて抵抗した時に付いたものだ。シャワーを浴びるまで、それは赤い血を滲ませていた。
 擦り傷の一つを指で撫でる晶。滑らかな肌の中で、そこだけが淡く毛羽立った感触を与えていた。

「…お湯、沁みなかったか?」

「うん、少しね。でも掠り傷だから…。晶の方こそ、腕、まだ痛むだろ?」

 毛布の上に投げ出された、晶の左腕に巻かれた包帯が痛々しい。包帯の端から覗く指に、直人は自分の指を絡ませる。

「気にすんなって。秀兄ぃが打ってくれた薬もまだ効いてるし、今んとこ痛みはねぇから。…それよりさ……」

 チラリと時計に目を遣ると、午後10時半。

「泊まってくだろ? 勿論。タクシーで帰るとか言わねぇよな?」

「あ、うん。晶を放っては行けないし、何より…今は一人になるのが怖い……」

 伏せがちになる顔を捕らえて軽いキスをする。浮いた頭の下に置かれた氷枕の中で、解け掛けの氷がコツコツと音を立てた。

「…一人になんかしねぇさ、絶対に。ずっと傍にいろよ……」

 言ってもう一度唇を合わせる。その時、あることに気が付いた。

「こんなことしてたら、お前にも風邪が感染うつっちまうんじゃ…。あ、でも俺のは馬鹿の風邪だから、直人には感染んねぇか」

 それを聴いた直人が漸くクスッと笑う。その綺麗な笑みを見た晶は、こんな状態にも関わらずどうにも抑制の利かない欲求を感じた。

「…直人。この枕元の棚の上にさ、ちょっと取って欲しいもんがあんだけど」

「え? どれ?」

 直人は身体を起こすと、ベッドの上に身を乗り出すようにして宮板に作り付けられた棚を覗き込む。その胸部がちょうど晶の目の前に来た。

「ねぇ、晶。どれを取れば……あっ」

 トレーナーの中に潜り込んだ晶の右手が胸の突起を弄る。指で転がすように嬲られて、直人の肩が震えた。

「やっ…。晶、駄目…っ」

「なんで?」

「…傷に障る…。それに…熱だって…、んっ」

「熱なんか、ヤったら吹っ飛んじまうって」

 熱が既に下がり始めているのか、先程までボンヤリと濁っていた晶の目に光が戻っている。身体の動きからも鈍さが抜けていた。

 駄目だと言いながら、直人は身体を離すことが出来ない。腹の下にある晶の左腕を気にしてのことだった。それを幸いに晶は愛撫をエスカレートさせる。トレーナーを首まで捲り上げ、薄く色付いた突起を口に含んだ。唇で挟み込み舌先で何度も圧迫する。その度に、直人の口から艶めいた吐息が漏れた。

「あ…、や…んっ、あぁ…っ」

 無理な姿勢で愛撫を受ける直人の腰が砕けそうになっている。笑い始めた膝に気付いて、晶は彼の腰に右手を廻すと勢いを付けて身体を反転させた。ドサリと落ちた直人の細身がベッドの壁際で揺れる。上下が逆になった位置で、晶は恋人の紅潮した白面を見詰めて艶やかに微笑した。

「さっきまでは全然勃たなかったんだけど、もう俺は準備万端だ。――直人も欲しくなったろ? 体は正直なんだぜ」

 勃ち上がり始めたことを示すズボンの張りに手を伸ばす。トレーナーと対になったズボンの腰は、紐で留められている。それを解いて下着の中へと手を滑り込ませた。

「は…あぁ…」

 強姦犯に撫でられた時には嘔吐感しか感じなかったそこが、晶の手の温もりによって軽い痺れと安心感を与えられる。直人はその温かさに身を委ねた。
 若々しい熱さを孕むそれを撫で上げながら、晶は直人の唇を啄む。浅く、次第に深く。より深淵で繋がろうと互いを求める舌が水音を立てながら絡み合い、その甘さが二人の内を溶かしていった。

「…ふぅ…ん…っ」

 自分の体内で蕩けた熱の全てが下半身へと集中していく。堪り兼ねて、晶は手の中にある直人の分身を強く握った。

「あっ!」

 突然の刺激が強過ぎたのだろう。ビクリと身体を震わせて、直人は無意識に下腹の手を払おうと腕を振った。それが晶の左腕の傷に当たったから堪らない。


「いっ―――っっ!!!」


 幾ら鎮痛剤を打っていようが、これほど直接衝撃を受ければとんでもなく痛いに決まっている。晶は飛び起きて左腕を押さえた。目尻に涙が滲む。

「晶! ごめんっ、大丈夫?」

「…大丈夫じゃねぇっ…」

 慌てて身を起こし謝る直人。晶は必死に痛みを耐えた。



 ★★★次回予告★★★

エロ本番。ただし長いです、ダラダラと(汗)。
ひたすら謝る直人。意地悪な晶が彼に要求したのは――?
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