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第四話 剣士クラス
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「剣士のクラスに転職をしたいのだが」
「はい、一次クラスの剣士へのジョブチェンジ希望ですね? 少々お待ちください」
王都、正式名称"グランバニエール"に着いた後、門番に初期アイテムの貴重品枠であるギルド証を見せた後、真っ直ぐに冒険者組合依頼斡旋所グランバニエール支部を訪ねて今に至る。
「お待たせ致しました。それではこちらを持って神殿を訪ねて下さい、担当の神官が後は説明してくれますので」
にっこりと営業スマイルを浮かべる受付嬢に背を向け、剣鬼は冒険者組合依頼斡旋所グランバニエール支部、通称冒険者ギルドを後にする。
王都の中央大噴水広場、その東に位置する冒険者ギルドは、その権勢を示すように大きくそして豪奢だ。
向かいに見える、NPCによる王都駐屯所を凌ぐほどだと言えばどれほどか伝わるだろう。
ゲーム内唯一の宗教団体とも密接な関係があると、公式では示唆されており、背景ストーリーはその手の解析班を賑わせているとかなんとか。
そもそもSFOには明確なグランドストーリーが今のところ明示されていない。
精々が近年魔物の動きが活発だと、NPC間に噂として流れている程度だという。
依頼受注も冒険者ギルドを介してのものから、一般市民から直接というケースも多い。
ベータテストの検証班からの情報では、NPCとプレイヤー間には好感度が設定されているというのが定説だ。
また、この好感度にも大枠みたいなのがあるとされている。
顕著なのが、アライメントが悪に寄る事で受注出来るとされる、犯罪依頼。
これは同時に犯罪組織以外の好感度に、マイナスの補正があると考えられている。
個人や派閥に対して高い好感度を条件に発生するクエストの多くは特殊な内容が多く、比例して報酬が美味しいというのが共通見解だが、その必要労力と見合うかは微妙というのがベータテスト時の結果だ。
自分ならその時間を鍛錬、つまりは狩りに当てるだろうなと自重しながら、視界に映った壮麗な神殿に瞠目する。
ゴシックとロマネスク、そこに敬虔たる神への祈りがあまねく行き渡ればあるいはこのような佇まいとなるだろうか。
中央広場から南、王城とは反対に位置する場所にその神殿は厳かに建っていた。
大きさこそ先の冒険者ギルドの半分にも満たないが、どこか静謐で厳かな空気が迎える者を確かに圧している。
「冒険者様、とう神殿に何事か御用がおありでしょうか」
独特の雰囲気にさてどうしたものかと悩むまでもなく、近くで床の掃き掃除をしていた神官の1人がこちらに声をかけてきた。
神職の位には疎い剣鬼だが、その質素な法衣姿から下位職なのだろうとあたりをつけてしかし驚く。
その身分で、いや、だからこそなのか神を篤く信仰する心を確かにその声音から感じ取ったのだ。
どうじ馬鹿なと己を自重する。
––––如何に高度なAIといえど、信仰心などと……
「はい。今日は剣士の職に転職をしたく参りました。冒険者ギルドからの推薦状はこちらに」
「……確かにこちらは冒険者ギルドのものですね。畏まりました、それではご案内します」
そうして案内されたのは、神殿内でも恐らく最奥に近い場所だろう。
途中同じような転職希望のプレイヤーを多く見かけたが、この場には誰もいない。
いつ間にインスタンスに進入したのかと考えていれば、案内役の女性神官が立ち去り別の神官が部屋に入ってくる。
「初めまして冒険者様。わたくしが本日転職の儀を行なわさていただく、カリーナと申します」
そう言って楚々に頭を下げるその細面には、薄く透けたヴェールが容姿を隠している。
先程の神官とは違い衣装もどこか神秘的であり、神官というよりは巫女、だろうか。
「それでは先ずは確認事項ですが、一度転職されますと、原則前の職に戻ることは出来ません。また、前の職で覚えたスキルに関してはアクティブスキルが2つ、パッシブスキルは3つまでしか継承出来ませんので、十分な修練を積んでからの転職をお勧め致します」
そこで一度カリーナは話を区切り、問題ありませんか? と問うてきたので、大丈夫だと答える。
旅人の覚えられるスキルに、少なくとも剣鬼が欲しいものはない。
「また、クラスレベルは1に戻りますので、最初は受け継いだスキルと転職後の初期スキルのみでの戦闘になりますので、十分御注意下さい。基本事項は以上になりますが、あなたはそれでも今転職を望みますか?」
答は変わらず、是。
是非も無い。
随分回りくどい演出だと思いながら、剣鬼は頷いた。
「それでば、一歩前へ進み、女神像の手前、はいそこで大丈夫です。そのまま片膝をついて、手は思うがままの祈りの形に。そして瞳を暫し閉じるのです」
言われるがままに、部屋の奥、女神像と呼ぶにはいささか簡素な女性像の前で膝をつき、手を精神修行に用いるそれへと組み替える。
瞑想の要領で瞳を閉じれば聞こえてくるは、巫女の呼びかけであった。
––––今ここに、相応しき者が、あるべきクラスへと希い願いたもう。彼の者に、剣士としての権能をどうか授け給え……
同時、視界の隅でクラスが剣士へと変更されましたというテロップが流れる。
「……終わりました。確かにあなたは剣士の権能を得た筈です。驚くべき事ですが、あなたの先にはまだ可能性が広がっているようですね、何れは名をはせる事もあるでしょう」
「あっ、旅人におけるスキル継承は心の中で念じれば神が導いてくれますよ」
––––それではあなたに全知全能たる我等が神の恩寵たることを。
そう呟いてカリーナと名乗った巫女は、ヴェール越しからも分かるほどに笑みをはいて部屋を後にした。
「プレイヤーではない場合、一次職で一生を終わる場合もある。そんな設定といったところか」
とかく、折角転職したのだから早速レベル上げだと息巻いて剣鬼は部屋を後にする。
––––と、途端に、静謐は失われ複数のプレイヤーが神殿内を歩き回る風景に切り替わった。
周囲にも多数、転職を終えたばかりのプレイヤーが見られたが、その人数かしましさに違和感をNPCが覚える様子はない。
ある程度の線切りがされてるんだろうと納得し、元来た道を折り返し神殿を後にするのであった。
「はい、一次クラスの剣士へのジョブチェンジ希望ですね? 少々お待ちください」
王都、正式名称"グランバニエール"に着いた後、門番に初期アイテムの貴重品枠であるギルド証を見せた後、真っ直ぐに冒険者組合依頼斡旋所グランバニエール支部を訪ねて今に至る。
「お待たせ致しました。それではこちらを持って神殿を訪ねて下さい、担当の神官が後は説明してくれますので」
にっこりと営業スマイルを浮かべる受付嬢に背を向け、剣鬼は冒険者組合依頼斡旋所グランバニエール支部、通称冒険者ギルドを後にする。
王都の中央大噴水広場、その東に位置する冒険者ギルドは、その権勢を示すように大きくそして豪奢だ。
向かいに見える、NPCによる王都駐屯所を凌ぐほどだと言えばどれほどか伝わるだろう。
ゲーム内唯一の宗教団体とも密接な関係があると、公式では示唆されており、背景ストーリーはその手の解析班を賑わせているとかなんとか。
そもそもSFOには明確なグランドストーリーが今のところ明示されていない。
精々が近年魔物の動きが活発だと、NPC間に噂として流れている程度だという。
依頼受注も冒険者ギルドを介してのものから、一般市民から直接というケースも多い。
ベータテストの検証班からの情報では、NPCとプレイヤー間には好感度が設定されているというのが定説だ。
また、この好感度にも大枠みたいなのがあるとされている。
顕著なのが、アライメントが悪に寄る事で受注出来るとされる、犯罪依頼。
これは同時に犯罪組織以外の好感度に、マイナスの補正があると考えられている。
個人や派閥に対して高い好感度を条件に発生するクエストの多くは特殊な内容が多く、比例して報酬が美味しいというのが共通見解だが、その必要労力と見合うかは微妙というのがベータテスト時の結果だ。
自分ならその時間を鍛錬、つまりは狩りに当てるだろうなと自重しながら、視界に映った壮麗な神殿に瞠目する。
ゴシックとロマネスク、そこに敬虔たる神への祈りがあまねく行き渡ればあるいはこのような佇まいとなるだろうか。
中央広場から南、王城とは反対に位置する場所にその神殿は厳かに建っていた。
大きさこそ先の冒険者ギルドの半分にも満たないが、どこか静謐で厳かな空気が迎える者を確かに圧している。
「冒険者様、とう神殿に何事か御用がおありでしょうか」
独特の雰囲気にさてどうしたものかと悩むまでもなく、近くで床の掃き掃除をしていた神官の1人がこちらに声をかけてきた。
神職の位には疎い剣鬼だが、その質素な法衣姿から下位職なのだろうとあたりをつけてしかし驚く。
その身分で、いや、だからこそなのか神を篤く信仰する心を確かにその声音から感じ取ったのだ。
どうじ馬鹿なと己を自重する。
––––如何に高度なAIといえど、信仰心などと……
「はい。今日は剣士の職に転職をしたく参りました。冒険者ギルドからの推薦状はこちらに」
「……確かにこちらは冒険者ギルドのものですね。畏まりました、それではご案内します」
そうして案内されたのは、神殿内でも恐らく最奥に近い場所だろう。
途中同じような転職希望のプレイヤーを多く見かけたが、この場には誰もいない。
いつ間にインスタンスに進入したのかと考えていれば、案内役の女性神官が立ち去り別の神官が部屋に入ってくる。
「初めまして冒険者様。わたくしが本日転職の儀を行なわさていただく、カリーナと申します」
そう言って楚々に頭を下げるその細面には、薄く透けたヴェールが容姿を隠している。
先程の神官とは違い衣装もどこか神秘的であり、神官というよりは巫女、だろうか。
「それでは先ずは確認事項ですが、一度転職されますと、原則前の職に戻ることは出来ません。また、前の職で覚えたスキルに関してはアクティブスキルが2つ、パッシブスキルは3つまでしか継承出来ませんので、十分な修練を積んでからの転職をお勧め致します」
そこで一度カリーナは話を区切り、問題ありませんか? と問うてきたので、大丈夫だと答える。
旅人の覚えられるスキルに、少なくとも剣鬼が欲しいものはない。
「また、クラスレベルは1に戻りますので、最初は受け継いだスキルと転職後の初期スキルのみでの戦闘になりますので、十分御注意下さい。基本事項は以上になりますが、あなたはそれでも今転職を望みますか?」
答は変わらず、是。
是非も無い。
随分回りくどい演出だと思いながら、剣鬼は頷いた。
「それでば、一歩前へ進み、女神像の手前、はいそこで大丈夫です。そのまま片膝をついて、手は思うがままの祈りの形に。そして瞳を暫し閉じるのです」
言われるがままに、部屋の奥、女神像と呼ぶにはいささか簡素な女性像の前で膝をつき、手を精神修行に用いるそれへと組み替える。
瞑想の要領で瞳を閉じれば聞こえてくるは、巫女の呼びかけであった。
––––今ここに、相応しき者が、あるべきクラスへと希い願いたもう。彼の者に、剣士としての権能をどうか授け給え……
同時、視界の隅でクラスが剣士へと変更されましたというテロップが流れる。
「……終わりました。確かにあなたは剣士の権能を得た筈です。驚くべき事ですが、あなたの先にはまだ可能性が広がっているようですね、何れは名をはせる事もあるでしょう」
「あっ、旅人におけるスキル継承は心の中で念じれば神が導いてくれますよ」
––––それではあなたに全知全能たる我等が神の恩寵たることを。
そう呟いてカリーナと名乗った巫女は、ヴェール越しからも分かるほどに笑みをはいて部屋を後にした。
「プレイヤーではない場合、一次職で一生を終わる場合もある。そんな設定といったところか」
とかく、折角転職したのだから早速レベル上げだと息巻いて剣鬼は部屋を後にする。
––––と、途端に、静謐は失われ複数のプレイヤーが神殿内を歩き回る風景に切り替わった。
周囲にも多数、転職を終えたばかりのプレイヤーが見られたが、その人数かしましさに違和感をNPCが覚える様子はない。
ある程度の線切りがされてるんだろうと納得し、元来た道を折り返し神殿を後にするのであった。
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