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後日談

結婚前日譚(キース) ※

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今回はキース視点です。

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 ジャスパーとの新婚生活も、やっと軌道に乗ってきた。人気者の彼は引っ張りだこだ。特に母上が彼を異様に気に入り、俺から引き離そうとする始末。確かに彼との馴れ初め、特に婚約のくだりは褒められたものではない。その後も度々拉致監禁を働き、彼を半ば性奴のように調教してしまった自覚はある。だがしかし、彼も喜んでそれを受け入れ、配下の女騎士やケラハー家の裏の作家陣たちも大歓喜のもと創作に励んでいるのだから、ウィンウィンではないか。

 しかし彼の人気はそれだけに留まらない。事務官として報告制度を一新し、それらのフォーマットはケラハー方式として国を跨ぎ、文官仕事のスタンダードとなった。治癒師は彼一人で事足りて、領内の重篤患者は全て治してしまう始末。挙句、医学や薬草学にまで手を染めて、ナイトリー領は製薬業が主要産業の一つになりつつある。

「ジャスパーを引き抜けなかったのは痛いな」

「だから申し上げましたのに。本当に抜け目のない男ですこと」

 ケインズ夫妻には悔しそうにボヤかれたが、それがまた俺の優越感をくすぐる。そうだろう、そうだろう。俺の嫁は世界一だ。



 彼は友好的で従順に見えて、婚約から結婚までが大変だった。彼の謙虚な点は美徳だが、なんせ謎の自己肯定感の低さで、何かあるとすぐに身を退こうとする。

「君にはまだ、俺の気持ちは伝わらないのか?」

 ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちゅっ。

 その度に、例の離れで理解わからセックスだ。尋問や洗脳は、相手の思考力を奪うのが基本。彼が目覚めては、食事を与えて延々と責め立てる。しかも「仕置き」と称して、試してみたかったプレイを続々投下。彼は柔軟に順応し、どんどん淫らな才能を開花させていく。拘束、目隠し、ボールギャグ。リング、ディルド、アナルプラグ。まあ大体のそういった玩具は、ロームが容易に再現してくれるわけだが、実際に卑猥なおもちゃで嬲られているという認識と、視覚効果は侮れない。ジャスパーはそれらを恥じらいながら受け入れ、飲み込み、はしたなく昇り詰め、情欲に濡れた瞳を向けてくる。

 もはやこれは儀式だ。彼が俺から去ろうとするたびに、奪われようとするたびに、俺は彼を捕獲して閉じ込め、肉体から躾け直す。それが今や、目的にすり替わっていると錯覚することすらある。彼が俺を想って涙を浮かべながら乗合馬車を待っている姿を見た時、俺の股間は痛いほどたかぶった。俺の要求する屈辱的なプレイを、焦点の合わない目つきで従順に受け入れる姿も。激しい情交で、無様なイキ顔を晒して痙攣している姿も。彼も彼で、罰と称して俺の要求が苛烈になるたびに、ペニスを勃起させて先走りの蜜をいやらしく垂らしている。仕置きの間、俺がつい「俺」と呼んだ時、彼の身体はびくりと跳ね、一瞬で甘イキした。リードを引いた時もそうだ。彼は被虐癖を隠し持ち、俺の嗜虐癖をくすぐり、満たす。ああ、俺たちは何て相性がいいんだろう。

 二人を引き離す妨害イベントは、もはやハードな調教プレイへの前戯、もとい愛を深め合うセレモニーと言ってもいい。

「さあジャスパー。理解わかるまで、何度も、教えて、あげよう、ね」

「あ、あ、あ、あ」

 パンパンパンパン。

 あー、来る。あー、来る。蕩け切った名器を思う様に突いて、パクパクと物欲しそうにしている雄子宮にとどめの一撃。

 ごりゅん。

「あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 ああ、可愛いなあジャスパー。スライムと一緒に監禁陵辱調教セックス、たまらん。



 そんな俺たちの結婚式だが、事前に立てた計画は、大きく変更を余儀なくされた。なんせ、招待客以外からの出席希望者が殺到したからだ。理由は分かっている。元々、ケラハー家うちには我が家で起こった恋愛劇を恋愛小説にして小銭を稼ぐ使用人がいた。

 しかも母上がジャスパーを気に入った挙句、取り巻きのオバ…姫騎士という名の年齢不詳の淑女たちが、彼に心酔を始めたのだ。冒頭でも触れたが、彼の絵姿が出回り、真実に基づいたり基づかなかったりする恋愛小説、そして過激な二次創作の薄い本が、表沙汰にならない市場で大量に出回っているらしい。

 当のジャスパーは、美貌にますます磨きが掛かってきた。元々地味に目立たないように立ち回っていただけで、顔の造形や身体つきは整っていたのだ。頬に残っていたそばかすも、今ではすっかり消え失せて、いよいよ母の好みドストライクな王子様に仕上がっている。幼さの残る蕾のような彼に、いけないことを仕込む過程も素晴らしかったが、俺の寵愛を浴びるほどに受け、見事に開花した彼の立ち昇るような色香。それでいて、昼は勤勉で有能な切れ者だ。よく、昼は淑女で夜は娼婦などと言われるが、そんなものでは言い表せない俺の至宝。彼が、貴腐人どもの妄執と創作意欲を掻き立てるのも、必然と言えよう。

 過激な本になると、当然明け透けなベッドシーンも挿入されているのだが、それが現実にとても忠実であったり、なかったり。一応、各屋敷の「例の部屋」は、何重にもセキュリティを施され、何ならヴィンスに防音結界を張らせてあるのだが、ケラハーや姫騎士軍団の諜報員にとっては、有って無いようなものだろう。当然、完全に創作で、現実にはあり得ないシチュエーションのものもある。だが、彼らの発想の豊かさは賞賛に値する。

 何故そんなことを知っているかって?それは、俺にそっと献本が贈られて来るからだ。彼らは、俺が彼らの創作に対して理解があるのを知っている。第三騎士団次期団長として、哨戒と演習のために遠征に出ている間、俺の夜のお供はこれらの本だ。天幕の中で、ジャスパーの姿のロームに奉仕されながら、エロ本を嗜み、ジャスパーとの「通信」を待つ。そしていざ本番を迎えると、彼らが覗き見ている前提でジャスパーを責め立て、時折過激にサービスしてやったりする。特に、創作のシーンを再現してやると、彼らは泣いて喜ぶ。数日もすると、涙でインクの滲んだ礼状と共に、新作が献本されて来たりする。仕事はっや。

 話が逸れたが、そんなこんなで、とある国の騎士と補佐官の恋愛小説がバカ売れしたせいで、結婚式はてんやわんやだった。ほとんどの来賓は「記念品を贈る」という一文で引っ込んだが、卒業記念パーティー同様、絵姿魔道具を持った来賓がケラハー邸に押し寄せた。



 その結婚式で、ジャスパーの家族に初めて面会することになった。結婚まで漕ぎ着ける間、彼らとは頻繁に書状でやり取りしたものの、王都を挟んで反対側にある辺境。彼らは彼らで、辺境伯家の寄り子として、強力な魔獣の出没地域を押さえる領主だ。おいそれと領地を空けることはままならない。それを、次期領主の長男を残し、子爵夫妻と次男が、祝福に駆けつけた。

 グリズリーだ。グリズリーがいる。二頭。

「父上、母上、兄上。お久しぶりです」

 盛装したジャスパーが、頬を染めて嬉しそうに迎える。いや、義母上だけは、ジャスパーにそっくりだ。亜麻色の髪に碧玉の優しげな瞳、女性にしても小柄で可憐、森の小動物のよう。こんな可愛い子リスから、どうしてあんなグリズリーが生まれたのか。

 ジュール子爵は、一応貴族らしい装束でまみえたが、色々縮尺がおかしい。ドワーフ族は、小柄だが筋骨隆々とした種族だが、それをそのまま縦横倍ほどにした感じだ。悪夢でしかない。しかも、領に残した長兄も、次兄と同じく、彼に生き写しらしい。

 しかし、見た目のインパクトとは裏腹に、彼らは非常に物静かだった。特にグリズリーたちは、ドワーフと違い、酒を浴びて暴れ出したりしない。子リスのような義母上も同じく。会場の端で、慎ましくお茶を啜っている。

 各テーブルを挨拶回りしていた俺とジャスパー、そして侯爵夫妻。身内は最後トリだ。ジュール子爵は簡単に挨拶すると、それきり押し黙る。会話にならない。彼に代わり、夫人が卒なく通り一遍の挨拶をこなす。

「このたびは、おめでとうございます。息子が素晴らしいお家に縁付いて、私共としましては望外の喜びにございます」

「こちらこそ。ジャスパー君は既にめきめきと頭角を表して、我が家としましても有り難い限りです」

 しばらく和やかに言葉が交わされる。そして席を離れようとしたその時。

「キース殿。ジャスパーを、くれぐれも、よろしくお願いしますね」

 小柄な子リスから、魔王のような殺気が放たれた。会場の気温が氷点下に下がり、他の参列客が一斉に振り向く。しかし、

「ご安心召されよ、母上。我らが命に代えても、ご子息をお護り致しますゆえ」

 母上が軽く膝を折るのに合わせ、周囲の姫騎士軍団も同様に。そしてそこには、謎の一体感が生まれていた。きっと彼女にも、既に献本が贈られているに違いない。

 後で分かったことだが、魔王子リスは辺境伯家の傍系の子女で、西北の聖教国と共闘して対峙するノルト王国の姫将軍として、母上は彼女の名前だけは知っていたとのこと。

 あっちはあっちで、うちと変わらぬ武闘派なのだ。あの小柄で温和そうな夫人が、優雅に茶を啜るだけのか弱い貴婦人であるわけがない。母上は、「恐らく我らと互角、いやあるいは」などと呟いていたが、物騒な発言は控えて欲しい。

 ただし、かといって我が家の文化には理解がないわけではなく、母上は「思わぬ知己を得た」と言っている。うちの母上同様、ジャスパーと乳繰り合うのは構わんが、不埒は許さんといったところか。孫は見たいが娘は渡さん、みたいなややこしいオヤジのようだ。



 結婚式の後は、初夜に決まっている。初夜と言っても、婚約時にずっぽりと、いや、前々からロームを介して散々味わい尽くして来たジャスパーだが、婚礼衣装はまたひとしおだ。同じことを、卒パでも言っていた気がする。湯浴みをして身支度を整える前に、控え室で「僕、幸せです」なんてはにかんで微笑むジャスパーを見て、誰が我慢出来ようか。贈った衣装は、脱がせるためにある。精緻な刺繍が施された逸品が汚れてしまう、としきりに気にするジャスパーから、無理やりジャケットを剥ぎ取り、シャツを引きちぎり、その上で唇を塞いで組み敷く。抵抗する彼の弱点を、ロームと共に徹底的に責めて、内鍵の掛かった控室のドアを侍女がしきりにノックする中、俺たちが燃え上がったのは言うまでもない。

 当然翌日には、宿泊した出席者を見送った後、俺だけ血祭りに挙げられた。しかし、ジャスパーだってノリノリで善がっていたじゃないか。一月後には、婚礼衣装ファックものの新作もバカ売れしているだろう。俺は善い仕事をしたと思う。
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