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余話

薄い本(1) ※

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スライムシリーズのスピンオフ、作中で発売された薄い本の抜粋(という名の短編)です。
なお、スライムについてはケラハー家のトップシークレットですので、実際の営みでは大活躍しておりますが、作中には登場しません。
スライムシリーズ、とは。
広い心でお読み頂けましたら幸です。

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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「あ、あ、あッ」

 最初は正面から、次は背後から。散々蹂躙され、たらたらと白濁をこぼす淫らな後孔。ギースは再び彼の身体を覆すと、左脚を持ち上げて、ジェイドのそこに剛直を突き入れた。そしてそのまま、無遠慮にズコズコと抽送を始める。

「ジェイド。君は本当に、何度教えても自覚しないんだね」

「ひあッ、ご、ごめ、なしゃ」

 シーツを掴んでぼろぼろと涙を溢すジェイドに、ギースは苛立ちを隠さない。彼が聞きたいのは、壊れた魔道具のように繰り返される無意味な謝罪ではない。全く、この可愛いつまは、すぐに自分の立場を忘れる。さあ、また一から念入りに躾けなければ。



 きっかけは夜会だった。この度、正式に騎士団長の職と子爵位を授かったギースは、つまのジェイドと共に久々に王城に赴いた。第二王女の成人祝いと隣国王子との婚約披露とあって、会場は多くの招待客で賑わっている。各所では華やかな男女が談笑し、婚活に勤しむ者もいれば、情報収集やマウントを取り合う者、貴族学園時代の旧交を温め合う者もいる。

 ジェイドは、学友に取り囲まれて質問攻めに遭っている。彼は在学時から既に秀才で鳴らしていたが、結婚後は自領と騎士団とで数々の功績を重ね、今や時の人だ。鼻が高いと同時に、旧友に囲まれて幸せそうに微笑む彼に、ギースはチリチリと胸が灼かれる。

 皆、表面上はギースの叙爵を祝いつつ、その実ジェイドと交流を深めたい者ばかり。ギースは寛大な夫を演じ、ジェイドを残して中庭に足を伸ばした。夜風がホールの熱気を冷ましてくれる。俺以外にその可憐な笑顔を見せるな、などと、いかにも器の小さい男だ。ギースは自嘲しつつ、冴え冴えとした月を見上げた。

「———こちら、よろしいかしら?」

 ふと、背後から声が掛かる。躊躇なくベンチの隣を陣取る淑女は、騎士学園時代の「親しい友人」の一人だった。

「可愛いひとを捕まえられましたのね」

 随分と含みのある言い方だが、お互い割り切った関係だったはずだ。彼女は貴族令嬢ながら奔放で、自分の他にも数多くの浮き名を流していた。事態を重く見た当主に「留学」させられ、隣国の豪商に嫁いだと聞いていたが。

 そこからは、腹の探り合いだ。迂遠な言い回しの応酬を繰り広げつつ、彼女がギースに要求したこと。それは、ジェイドや実家の侯爵家と豪商の顔繋ぎ。見返りは、愛人契約。

「いかに優秀な部下を抱え込むためにつまに据えられたとはいえ、男性ではお慰め出来ない部分もおありでしょう?」

 大胆に胸の開いたドレスを見せつけながら、彼女はギースにしなだれかかる。

 ギースは、彼女が嫌いではない。貞操と血筋を重んじる貴族の妻としては不適格だが、快活な性格に明晰な頭脳。相手を飽きさせない話術に、旺盛な好奇心。容姿もスタイルも極上で、「親しい友人」としては、これ以上ない資質を備えている。

 しかし、「男性ではお慰め出来ない部分」について、ギースは同意しかねる。普段隣国に拠点を置く彼女は、情報収集が不十分だったのか、それともギースのジェイドへの溺愛を甘く見ていたのか。彼がジェイドを入念に囲い込み、滅多と表舞台に出さないという評判は、国内外でも有名だ。貴族学園の同窓生なら、彼の異常とも言える執着を目の当たりにしている。それは、来る者拒まずで若い性を発散していた騎士学園時代の彼しか知らない者からすれば、にわかには信じ難い評判だったかも知れない。



 ともかく、彼の行動原理は、全て愛するつまのジェイドに帰結していた。彼がなぜ、この女の過剰な接触を許していたかというと。

「———!」

 ホールの方角から、視線を感じる。彼は腐っても騎士だ。人の気配には敏感である。して、愛しいつまのものならば。

 ギースを追いかけて来たジェイドが、ベンチで女と抱き合っている夫を見て、言葉を失っている。彼女の肩越しにちらりと見遣れば、柱の陰で口に手を当てて、澄んだ碧の瞳に見る見る涙が溢れている。

 ギースはひどく気分が良かった。皆から慕われ、愛され、ひっぱりだこのジェイドが、ギースを探して中庭まで追いかけてきて。そしてギースを愛する余り、女と抱き合うギースを見て、傷ついて泣いている。ジェイドの泣き顔は、この世の何よりも美しい。そして、何よりもギースを高揚させる。

(ああ、可愛いジェイド。君の泣き顔を堪能したら、俺は颯爽と君の元に駆け付け、あれは誤解だよと宥めながら、今夜はたっぷり愛してあげよう)

 しかし、彼の笑みはしばらくののち、かき消えた。

(いかがなさいましたか)

 巡回の近衛が、柱のそばで震えるジェイドに気付いた。

(い、いいえ…何でも…)

(お気分が優れないように見受けられます。侍医を呼んで参りましょうか?それともお帰りの馬車の手配でも)

 見目麗しい若者が、馴れ馴れしくジェイドに肩を貸し、身体を支えるのを目にした途端、ギースの理性は全て弾け飛んだ。

「その必要はない」

 ギースは女を無造作に押し退け、つかつかとジェイドの元へ歩み寄った。近衛は一瞬怯んだが、相手が騎士団長と悟り、素直にジェイドを引き渡した。

つまは私が介抱する。職務ご苦労」

 は、と短く応えて礼を取る近衛を尻目に、ギースは目を丸くするジェイドを軽々と抱き上げ、王宮に用意された控えの間へと、足早に去って行った。



 王宮には、催し物の中で気分が悪くなった者、もしくは気分が「高揚してしまった」者に対して、控えの間が用意されている。ギースはジェイドを抱いたまま、控えの間の一つに滑り込むと、ガチャリと内鍵を掛けた。

「大丈夫かい、ジェイド」

 戸惑った表情のまま、「あ」だの「う」だの溢すジェイドを、彼はドサリとベッドに降ろす。

「あのっ、僕っ、大丈」

 大丈夫ですから、と続けようとしたジェイドの唇を乱暴に塞ぎ、ギースは口内を無遠慮に蹂躙する。許さない。可憐な泣き顔を他の男に晒し、あまつさえ肩に腕を回され、腰を抱かれ。

「駄目じゃないか、ジェイド。具合が悪いなら、僕を呼ばないと」

「だってっ、ギース様っ…あ」

 ギースはジェイドのクラバットをくつろげ、性急にシャツのボタンを外すと、鎖骨をちゅうっと吸った。

「可愛いつまが他の男に介抱されるなんて、許せないな」

「っ…ごめん、なさい…」

 ジェイドは言葉を詰まらせて、またぽろぽろと涙を流し始める。彼はきっと、ギースが何に対して怒っているのか理解していない。

(許さない。その泣き顔を愉しむのは、俺だけでなければならない)

 ギースはジェイドの甘い首筋を味わいながら、手早く着衣を剥いで行く。快楽に弱いつまは、突然始まる情事に戸惑いつつも、その肉体はギースの愛撫に従順に応える。どこもかしこも開発し尽くされ、調教し尽くされ、彼の味を叩き込まれ。物欲しそうにぴんと尖った胸の飾りを舌で転がされる頃には、ジェイドの雄芯は蜜を滴らせ、その奥の密やかな蕾は、ひくひくとギースの到来を期待している。

 仕切り直しだ。すっかりギースを受け入れる準備が整ったつまに、濃厚なキス。長い舌を差し入れ、絡め合って誘い出してみれば、彼もおずおずとそれに応じる。お互いに舌を伸ばし、ぴちゃぴちゃと卑猥にねぶり合いながら、ギースは香油を纏った指をジェイドの後孔へと滑り込ませる。

「へ…あッ…じゅるっ…」

 ギースの腕に手を沿わせ、形ばかりの抵抗を示しながら、ジェイドはくぷり、くぷりと差し込まれる夫の指の動きに合わせて腰を揺らし、淫らに踊る。二人分の唾液を美味しそうにゴクリと飲み干しながら、雄々しく猛ったギースのものに自らのそれを擦り付ける。ギースの躾けた通り。よく出来たつまだ。



「!」

 ギースが指を引き抜き、改めて彼の脚を大きく開かせた時、ジェイドは息を呑んだ。ギースの胸元には、先ほどの女の紅と白粉がべったりと付いている。ギースの愛撫にうっとりと花開いていた身体は強張り、碧玉からは再び大粒の涙が、ぽろりぽろりと溢れ出す。ジェイドは瞳を固く閉じ、ギースから顔を背けながら、それでも震える身体を従順にギースに差し出す。まるで怪物に捧げられた生贄のようだ。

 そんなジェイドの様子に、ギースは酷くそそられた。凶暴な嗜虐心が疼く。彼の首元も胸元も、連日ギースが刻んだ赤い所有印が散らばっている。頭のてっぺんからつま先まで、ジェイドはギースのものだ。もちろんギースもジェイドのもの。その愛を疑うなど、いけないつまだ。全身全霊をもって愛を注いで、思い知らせてやらねばならない。

 ギースはあやすように、時間を掛けて周りから攻めて行った。可愛いつまを嫉妬に狂わせた、女の匂いのついた衣装を脱ぎ捨て、素肌をぴったりと付けて、腕の中に閉じ込める。改めて、滾った砲身でジェイドの雌穴をちゅくちゅくとなぞってやると、そこはもう、ギースを喰みたくてパクパクしている。

 ぬちゅり。

「———!」

 ジェイドは白い喉を晒し、はくりと息を飲む。長大なギースがずぶずぶと沈み込むのに合わせて、白い肢体は弓なりにしなり、大きく開かれた脚はつま先までぴんと伸びて、微かに震える。挿入だけで絶頂を迎えた彼は、二人の腹の間で勃ち上がるペニスから、たらたらと蜜を溢す。

 肉の凶器を根元まで収め、ギースは満足そうに溜め息をいた。元はと言えば、ギースが女の接近を許し、ジェイドを傷付けたのがいけないのだが、ジェイドはこともあろうに、ギースの愛を疑い、近衛の若者の腕に落ちた。一瞬であろうと許せない。ああ、可愛いジェイドに、存分に思い知らせてやらねば。ジェイドは一体誰のもので、そしてギースは一体誰のものなのか。

 その肉体に、存分に愛を注ごう。

「ああっ、やぁっ、ギース様っ、ギーズざっ…あ”はあああ!!」

 美しく結い上げた髪を振り乱して、ジェイドが泣き叫ぶ。さあ、君にまた、しっかり教えてあげよう。僕たちはまだまだ、お互いを理解し合わないといけない。ギースは優しく囁きながら、次第に苛烈にジェイドを揺さぶっていった。

 正面から、背後から、側面から。密室とはいえ、誰に訊かれるか分からない王宮の控えの間で。ジェイドは夫に散々陵辱され、また横抱きで王宮を辞した後、しばらく別邸から解放されることはなかった。

 そして王宮では、結婚後何年経っても熱烈な夫夫ふうふとして、改めて評判になったという。



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なお、この本が某子爵領に届いた時、伝説の暗殺者がアップを始めた。

しかし同梱された「息子は血祭りに挙げました」という心の友からのカードと、文字通り血祭りに挙げられた赤髪の男の絵姿を見て、辛うじて溜飲を下げたという。
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