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余話

薄い本(2) ※

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スライムシリーズのスピンオフ、作中で発売された薄い本の抜粋(という名の短編)です。
なお、スライムについてはケラハー家のトップシークレットですので、実際の営みでは大活躍しておりますが、作中には登場しません。
スライムシリーズ、とは。
広い心でお読み頂けましたら幸です。

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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「僕を…殺して下さい…」

 鎖に繋がれたジェイドは、確かにギースにそう言った。



 ギースの父は侯爵、母は隣国の王女。燃えるような赤髪に、鍛え上げられた肉体。洗練された物腰と、ハッと人目を惹く精悍な美貌で、社交界では一二を争う高嶺の花であった。その彼が選んだのは、地味で勉強しか取り柄のない、辺境の子爵家の息子。いかに同性婚が認められたこの国であっても、良家の子女たちは納得が行かなかった。ギースのつまへの溺愛ぶりは有名であったが、ギースに付き纏う女も、またジェイドに向けられる敵意も、後を絶たなかった。

 ジェイドとて、自分がギースに釣り合わないことは、よく分かっていた。彼女らの「忠告」の通り、ジェイドには華やかな魅力もなければ、子をすことも出来ない。家柄が良いわけでも、財力があるわけでもなく、自分をつまに選んで、ギースを利することなど何もない。

 そんなジェイドを選んでくれたギースに報いようと、彼はずっと必死だった。ギースの補佐として事務官を務め、時に治癒師として、時に薬師として、少しでも役に立ちたくて。しかし、ギースの隣に美しい女が侍り、彼がその肩を親しげに抱き寄せているのを目撃すると、ジェイドの心は簡単に折れてしまう。

 彼を本当に愛しているなら、彼のために身を引くべき。繰り返し吹き込まれた言葉が、ジェイド心の中でこだまする。それは彼自身が一番そう思っている。だけど、何度ギースの元を離れようとしても、彼はその度にジェイドを捕らえ、ぐずぐずに甘く溶かす。

 夜会の後、邸宅に連れ帰られて、もう何日か。ジェイドは鎖に繋がれ、ギースの寵愛を受け続けていた。彼によってすっかりメスに作り変えられた身体は、長大なギースを歓んで咥え込み、わななき、いやらしく子種を強請ねだる。ギースの上に馬乗りにさせられ、時折童貞ちんぽから白濁を撒き散らしつつ、へこへこと腰を振って快楽を追い求める、無様なジェイド。彼の肉体はもう、ギースの味を知る前には戻れない。飽きられ、捨てられ、他の女のものになってしまう前に、愛しい男の腕の中で死ねたら、どれだけ幸せなことだろう。それはジェイドがずっとずっとこいねがっていたことだ。



「あ、あ、アクめっ…アクメ、しま、した…!あひッ…!」

 背を弓なりに反らし、白い喉を晒して震えながら、彼は律儀にギースに告げる。そうしろと言われたからだ。しかしギースの抽送は止まらない。痙攣して収縮する胎内を押しつぶすように、尚も力強くジェイドを貫く。

「あい”い”ッ、アグッ、アグメ”ッ、アグメ”ぇ!」

 ギースは片方だけ口角を持ち上げ、「だから何だ」という表情でジェイドを見上げている。腹の上で若魚のように跳ねるジェイドの腰をがっしりと掴み、下からガンガンと突き上げる。M字に大きく脚を開き、ペニスをびたびたと大きく震わせながら、淫語を繰り返すジェイドの痴態に、ギースは大いに満足した。「あへェ”ェェ!!!」と絶叫するジェイドの中に、たっぷりと雄汁を注いでやる。

 とはいえ、ギースは激怒していた。彼らの間に何らかの横槍が入るたび、ジェイドはいつもギースを置いて去ろうとする。彼が、自身を男であり、ギースには相応しくないと悩んでいるのは知っている。そしてそれが、ギースへの献身的な愛から来るものだということも。しかし、毎度どれだけ肉体言語を叩き込み、屈服させ、快楽で雁字搦めに縛ろうとも、彼はその網をするりと潜り抜け、ギースへの思慕の涙を流しながら、小鳥のように飛び去る。しかも今回は、「殺してくれ」ときた。

 そうか。そんなに死にたいなら、死んだ方がマシだというほど可愛がってやる。

「ヒッ…」

 ギースが手にした玩具が何なのか、ジェイドは知っている。それは過ぎた快楽をもたらし、気が狂いそうになりながら、何度も赦しを乞うた凶器。

「あ…あ…ギース、様ッ…ごめんなさい…ごめんなさい…」

 絶頂を重ね、どこもかしこも敏感になった肉体。雄膣には、射精を終えてなお力を失わないギースが、みっちりと詰まっている。カタカタと恐怖に震え、萎縮するアナルがギースをより猛らせる。

「ジェイド。君は、死にたいんだろう?」

 ギースはニイ、と嗤って、それをジェイドのペニスに、ゆっくりと突き立てた。



✳︎✳︎✳︎



「あ、あ、ああ…!」

 にゅるっ、にゅるっ。

 わずかに抜き差ししながら、それはギースのペニスに深く潜り込んで行く。

「あはっ。上手に飲み込めるようになってきたじゃないか」

 天蓋のフックから吊るされた鎖、そこに繋がれた手首。鍛え上げられた見事な肉体が、まるで子犬のように震えている。M字に大きく開かれた脚の間には立派なものが備わっているが、彼は今、そこに銀色の細い玩具を受け入れていた。

「ごめんなさい…も、それ、嫌だぁ…」

「嫌だ、じゃないよ。お仕置きでしょ?」

 ずぶっ。

「あギッ!!」

 ブジーを捩じ込まれ、たまらずギースが跳ねる。その動きが皮肉にも、彼の尿道に銀色のブジーを更に深く迎え入れる。同時に、彼の後孔に咥え込んだ若い雄のペニスをきゅんと締め上げ、既に何度も達した肉体は、それだけで軽く絶頂を迎える。

「ははっ、もう。そんなに喜ばれちゃったら、お仕置きにならないね」

 ギースの下で、まるで妖精のように儚い美貌を湛えたジェイドが、楽しそうに嗤う。苦手なブジーを挿し込まれ、小刻みに震えながら耐えているギースに満足した彼は、それをぬこぬこと出し入れし始めた。

「あ…やぁ、だぁ…ジェイ、ぞれッ…ぐッ…!」

 苦悶の表情を浮かべ、脂汗を垂れ流すギース。しかし本人の様子とは裏腹に、彼のアナルはジェイドをひくひくと締め上げ、貪欲にみ、ジェイドを求めている。

「いっやらしっ…みんなの憧れの騎士団長が、おまんこにおちんちん挿れられて、こんな立派なここにこんなものを入れられて、善がって啼いてるなんて」

「ぐぅッ…」

 ギースは唇を噛みながら、瞼をきつく閉じた。快楽と恥辱で頬が濡れている。しかしジェイドの卑猥な挑発はギースの肉体をさいなみ、ブジーを受け入れる男根がまた芯を持ち始める。その様子が、ジェイドのくらい欲望の炎に油を注ぐ。

「———ねぇ。死にたいんでしょ?僕を捨ててさ。酷いよね」

「違っ、そんな、つもりはッ」

 ギースはかぶりを振ってジェイドを見つめた。断じて違う。

 誰からも賞賛され、今や時の人となったジェイド。彼を強引に口説き落とし、半ば陥れるようにして結んだ婚姻。しかし自分でも分かっている。このようなむくつけき大男が、彼の伴侶として相応しくないことくらい。このままでは、遅かれ早かれジェイドに飽きられ、捨てられ、婚姻を解消されて、手の届かない存在になるだろう。

 それでもギースは騎士団長だ。私生活で何が起ころうとも、何事も無かったかのように振る舞い、毅然と騎士たちを率いて行かなければならない。国民と騎士たちの命を預かり、守る。大事な責務だ。ジェイドのいない砂漠のような未来を、ギースは生き抜かなければならない。分かってる。

 しかし、秘所を貫く猛った雄肉。肉体に叩き込まれたメスの快楽。そして、ギースの心を鷲掴みにする、蠱惑の碧玉ジェイドの瞳。身を焦がすように愛しいジェイドという男を失い、飢えて渇いて生きていくくらいなら、いっそ彼の腕の中で死んでしまいたい。それは、ギースの偽らざる本音だ。

 しかし。

「そんなに死にたいんなら、僕が何やったって、いいよねぇ?」

 カチリ。

「ん”あァ”!!!」

 ヴーーーン…

 微かな音を立てながら、ブジーがギースの中で振動を始めた。彼はたまらず身をよじり、結果ブジーと雄肉がギースの中を抉り上げる。

「あァあ”!!!あ”ア!!!アぎァあああ!!!」

 彼は髪を振り乱し、ガチャガチャと手枷を鳴らしながら踊った。自らの腹の上で繰り広げられる卑猥ダンスに、ジェイドの興奮は最高潮に達する。

「ははっ、はは。素敵だよ、ギース。さあ、踊って踊って。———死ぬまでね」

「ア”ーーーッ!!!ア”ーーーッ!!!ア”あァァァ!!!」

 飛び散る汗と涙を浴びながら、ジェイドはギースの痴態に合わせて淫らに腰を突き上げた。ブジーが刺さったままの巨根がビタンビタンと腹を叩き、彼の雄マンコは大喜びでジェイドに媚びる。

「捨”でないで!!!ジェイドぉ”!!!捨”でない”でェ!!!お”ォオオ!!!」

 過剰な快楽に泣き叫び、みじめに寵愛を乞うギースが、愛しくてたまらない。そうだ。最初からそうやって、本音で媚び縋っていればいいのだ。ギースはジェイドのもの。そんなに死にたいなら、死ぬまで可愛がってやる。

「さあ、もっと無様なイキ顔を晒して、媚びろ媚びろ!」

「ん”ァああああ”!!!」

 見事な尻肉でぎゅんと締め付け、白目を剥きながら、ギースはアクメした。そしてきつく痙攣したマンコに更に追撃を加え、ザーメンを叩き込んでやると、彼は無言でビクビクと跳ねてから、だらりと意識を失った。鎖に繋がれたまま吊るされた裸体が、酷くセクシーだ。ジェイドは深くため息をき、汗と涙で濡れたギースの頬を撫でた。

 可愛いギース。君はずっと僕のものだ。大丈夫、死ぬまでたっぷり可愛がってあげるよ。



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 北西の辺境にて。1冊目「囚われの妻は夫の苛烈な愛に溺れる」を読んで、とある子爵夫人は愛用の苦無くないを研ぎ始めた。盟友たる姫将軍には申し訳ないが、今度こそ仕留め損なう訳には行かない。

 子リスのような可憐な容貌に、禍々しい魔王の瘴気を纏った妻。夫のグリズリー、もとい子爵は、その背後であわあわと慌てていた。彼は筋骨隆々を通り越して、歩く小山のような大男だったが、気は優しくて力持ち。味方が傷つくのが嫌で、代々タンクを務める家系だ。獲物は厳つい戦斧だが、これは狩のついでに間伐も行うから。外見に反して極めて温厚な彼は、愛しい妻に、同梱された2冊目の「華麗な貴公子は健気なつまを苛烈に愛でる」を手渡した。

 本当は、こんな世界、知りたくなかった。しかし三男が侯爵家に嫁いだ前後から、いずこからともなく問い合わせが増える。幼少期はどんなお子さんだったんですか、とか、絵姿はありますか、とか。そして息子がよく遊んだブランコ、小川、果樹園などを、「てぇてぇ」などと言いながら「聖地巡礼」する子女が後を絶たなくなった。こんな辺境にだ。おかげで村の宿屋が3軒に増え、連日満室が続いている。

 そのうちその原因が、侯爵家から毎月のように送られてくる荷物にあると知ることとなる。妻から手渡された薄い本を読んで、子爵は卒倒しそうになった。小さい頃から風邪一つ引かなかった彼が、三日寝込んだ。

 一体うちの息子はどうしてしまったんだ。あの子は色事にとんと疎く、奥手だったはずなのに。そして夫たるキース君は、結婚式の時にはごくごく爽やかな好青年に見えたのだが。いや、婚姻を結ぶとは、情を交えるということだ。分かってはいたのだが、同性同士の婚姻は、純粋に政略目当ての、白いものも少なくない。信じたくない。息子が、彼に可愛がられているのか。それとも、あんなふうに彼を可愛がっているのか。

 そんな子爵の苦悩を他所よそに、夫人は2冊目の冊子を手に取り、しばらくして苦無をドレスの下のホルダーに戻した。そして夫を振り返り、にっこり微笑むと、そのまま自室へと戻って行った。これから、他の新作とともに、読書に耽るのだろう。そして丁寧に感想をしたためて、侯爵家へ送るに違いない。使用人たちは、残りの献本を作業部屋に運び込んだ。大部分は寄り親の辺境伯家へ、これは政治的なカードとして使われる。そして残りは妻の親族と、個人的な親交のある子女へ。もちろん、使用人にも取り置かれ、書庫は解放されている。

「あら、皆が幸福ではありませんか。何か問題でも?」

 いくつになっても可憐で美しい妻。彼女が微笑むと、子爵は何も言えなくなってしまう。しかし、本当にこれでいいのだろうか。彼は今も、答えの出ない問題に、頭を悩ませている。



 南東の侯爵領では「浮気未遂をした挙句、可愛い嫁に監禁陵辱とは何事か」と、凄まじい折檻が行われていた。折檻を受けた当の本人は、「合意の上」「愛ある営み」などと供述し、折檻は更に激化。訓練場は鮮血に染まった。

 なお犯人ホシは、リバの献本を読んだ際には「そうそう、こん時ジャスパーが「捨てないで」って泣いたんだよな」などと鼻の下を伸ばし、真っ昼間であるにもかかわらずつまを執務室に連れ込んでさかり、翌朝まで出てこなかったという。

 あの時、前後不覚になったジャスパーが、初めてキースに縋った言葉。いつも追いかけて追いかけて、捕まえたと思ったそばから逃げて行く。そんなジャスパーが、別れてではなく、離さないでと言った。あの一言が、どれだけキースを満たしたか、ジャスパーは知らない。



 一方、本の売れ行きは凄まじく、印刷工場は増刷に次ぐ増刷で、デスマーチが更に加速。次々と新しい工場が建設されるが、未だ需要に追いつかない。作家陣は、思いがけないリバの需要に考えを改め、一部の過激派によるニッチな嗜好から、れっきとした一大ジャンルへ格上げ。結果、更なる部数の伸びと、架空の俺様ジェイドファンクラブ、及びワンコ受けギースファンクラブが爆誕し、近隣のケインズ公爵領ではクリスティン女公が爆笑、公配のケネスはこめかみを押さえた。

 余談だが、皇国から度々「帰省」するローレンスも、母や義姉から勧められ、何冊か手に取ると、遠い目をしていたという。
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