【R18BL】転生したらドワーフでした【後日談更新中】

明和来青

文字の大きさ
36 / 45
後日談の後日談 その1

第3話 決勝

しおりを挟む
「さあ栄えある決勝戦!ディッテンベルガー子爵対ボス・ゲースト太公代理。S級パーティー「オペルマハト」夢のパーティーメンバー対決です!本日はもうお一方ゲストをお呼びしております。同じくパーティーメンバーのバルドゥルさん?」

「はぁい、皆様ご機嫌よう。バルドゥルです」

「バルドゥルさんは現在『巡礼の聖人』としてのご活躍で有名ですね。バルドゥルさんからご覧になって、この二者の対決はいかがでしょう?」

「そうですね!竜人ならではの火力と瞬発力、タフさが売りのディルク君に対して、前衛から後衛までマルチな才能を誇るアールト君。彼の引き出しの多さに、ディルク君がどれほど食いつくことが出来るかが、勝負の鍵になりそうです」

「こちらからは以上です!」

 おい、魔王陛下。何をノリノリで解説してやがる。

「はい、現場のベルタさんからでした。いよいよ世紀の対決が始まります。静かに睨み合う両者に興奮が止まりません」

 あれっ、バルナバスさんて解説じゃなかったっけ。実況引き継いじゃってるんですが。

「ふん、わざわざ負け戦に挑もうとは酔狂なことだ」

「へっ、男がここまで来て引き下がれるかよ」

 超美麗おエルフ様対、ワイルドクソイケメン。絵になる構図だ。少年漫画ならラスボス戦。そして二人の尋常じゃない闘気のうねりが肌にビリビリ来る。オーラが見えるようだ。

 やがてディルクが戦斧に手を掛け、アールトが剣をチャキリと構える。オリハルコンのパーツを組み込んだ強靭な斧に、総ミスリル剣。鍛治師の技と技の対決でもある。ドワーフだけに、ちょっとワクワクしてる。

 ディルクが斧を握ったのが早いか、アールトが剣を振り払ったのが早いか。アールトの剣の先から放たれた雷撃を、ディルクが斧で受け止める。これが開始の合図となった。多彩な攻撃手段を持ち、リーチを稼ぎたいアールトに、近距離に詰めたいディルク。両者とも伊達にトッププレイヤーじゃない。尋常じゃない体力に機動力。重装備を身につけたまま、恐るべきスピードで詰め寄るディルクに、舞い踊るようなステップで華麗な剣技を披露しながら、その重い一撃一撃を受け止め往なすアールト。流石に弓の出番はないが、手甲やピアス、体中の装飾品から精霊石が浮かび上がり、ディルクに容赦のない猛攻を浴びせる。

「くッ…相変わらずえげつねェな!」

「馬鹿げた耐久力。厄介な竜人め、さっさと焼け死ね!」

 ちゅちゅちゅちゅちゅちゅどーん。

 レーザーのような雷撃の雨嵐。さすがのディルクも、全ては防げない。希少な飛龍の革を使った革鎧を纏っていても、露出部分はチリチリと焼けて血が出ている。一方、アールトとて盤石な戦いではない。精霊石は多く操れば操るほど集中力を必要とし、おびただしいMPを消費する。ディルクの斧撃をかわしつつ、雷精にMPを供給しながら、的確な演算処理を長く続けることは不可能だ。

 一撃でディルクを削り切る切り札を持たないアールトと、一撃が入らず防戦一方のディルク。両者は拮抗して見える。手に汗握る戦いに、観客が固唾を飲んで見守る中。

「フハハ、見つけたぞ。そこだ!」

 一瞬ガードが緩んだディルクの眉間に、アールトが雷撃を集中させる。たまらず斧を上げるディルク。しかしアールトの剣が、ディルクの心臓を捉える。

「ぐはッ!!」

 全てがスローモーションに見えた。とすっ、と沈む剣先、見開かれたディルクの目。一方のアールトは、鬼神のような表情をしている。

「お前の龍核コアはここ。これでしまい、だ!」

 そのままアールトは、心臓を貫いた剣をぐりん、と回した。ディルクの巨体が、ゆらりと揺らぎ、そのまま闘技場の舞台の上にくずおれた。

 嘘でしょ。ディルク、死んじゃった、のか。

「何をもたもたしている、バルドゥル。蘇生だ。審判!」

「し、勝者、」

 ———その時。

 舞台に倒れ伏したディルクの指がピクリと動いたかと思うと、異様な熱気が集まってくる。ディルクの背中がモリモリと盛り上がり、やがて革鎧を突き破り———

 グオオオオオオオ!!!

 彼の巨体が独りでに起き上がり、仁王立ちしたディルクが放つ強大な咆哮。彼の背からは強靭な翼が生え、額からは一対の角。手足の指先からは立派な爪、そして腕や頬には艶やかな白銀の鱗。

龍の咆哮ゲビュール・ヴァン・ド・ドラーク…」

 アールトの小声が、観客席まで届いた。なぜなら聞く者全てを震撼させ、ひれ伏させる威圧。この場で言葉を発することができる者など、一握りしかいない。

 龍の咆哮ドラゴンズロア。竜族のうち、龍神の域に到達した者だけが放つことができる、王者の雄叫び。ディルクは竜人ドラゴニュートの血を汲む英雄の子孫だと聞いたことがある。しかし、竜人は亜竜のすえ。龍どころか竜にすら遠く及ばない、竜の身体能力を多少宿した人間族ヒューマンに過ぎなかったはずだ。そんな彼が、どうして。

「へっ。弱っちい肉体なんざ要らなかったのさ。悪ィな、アールト」

「…貴様、私を利用したというのか…」

 アールトはギリギリと歯噛みしながらディルクを睨みつけている。何だろう。一定ダメージで覚醒的な?体は龍神を目の前にして本能的な恐怖に震えながら、あまりに非現的な展開に、頭はやけに冷静だ。前世のゲーム知識が効いているのかもしれない。

 観客席も審判も、龍神の龍気と神気に威圧されて身動きが取れない。そんな中、

「———私とて龍神を敵に回すほど愚かではない。野ネズミはくれてやろう」

 そう言ってアールトは踵を返し、選手入場口から去って行った。



 しんと水を打ったように静まり返った闘技場。どうするんだ、この空気。しかし立派な翼を生やしたディルクが俺を見つけると、バッサバッサと飛んで来た。

「よぉ。勝ったぜ」

「お、おめでとう、ございます?」

 衆目が集まる中、ディルクは俺の前にひざまずく。

「我、汝に乞う。我が妃となりて、永遠とわの愛を受け取り給え。返事や如何いかに」

「へっ?えっ?」

 ちょっ、何この空気。みんな見てる。みんな見てるよ。これってその、断るとかそういう感じじゃないっつうか。しかしディルクは、相変わらず跪いて上目遣いに俺を見つめている。どうしよう。逃げたい。逃げられない。仕方ない。伝家の宝刀を抜くしか。

「あっあのっ、お友達、から?」

 そう言って、俺はディルクの手を取った。するとディルクは「いよっしゃあ!!」と叫んで拳を突き上げ、それに合わせて観客からポツポツと拍手が。やがてそれは、大歓声となって闘技場を包んだ。鷹揚にギャラリーに手を振るディルクと、ディルクに腰を抱かれて固まる俺。一体これ、どんな罰ゲーム。

 やがて歓声が収まったところ、ベルタがすっとディルクに拡声魔道具マイクを手渡す。

「っあー、これでコンラートは俺の嫁だ。証人はお前ら。異存はねェな?」

 えっ。俺、友達からって言ったよ?しかし再びの大歓声が、俺の声をかき消す。ちょっと。

「コンラート。お前は俺のつがいだ。もう離さねェ」

 そう言ってディルクは、さっきアールトに刺されてグリグリやられたところに生えた赤い鱗をブチッと引きちぎった。そしてそれを口に含んで、俺に口付ける。

「んんッ?!んんんんーーーッ!!!」

 暴れる俺を抱きすくめ、衆人環視の中でブチュッと熱いキス。唾液と一緒に砕けた鱗を飲み込むや否や、体がブワッと熱くなり、俺の意識は遠くなる。

「おおっと!ここでディルク選手、コンラートに逆鱗を飲ませました!!ここにビッグカップル誕生だぁ!!!」

 ワーーー!!!

 そんな歓声が聞こえた気がする。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

処理中です...