【R18BL】転生したらドワーフでした【後日談更新中】

明和来青

文字の大きさ
41 / 45
後日談の後日談 その3

第2話 はるばるふたり旅

しおりを挟む
 旅が始まると、森の民アールトのスパダリっぷりが半端ない。彼は過酷な旅を続けて来ただけあってめちゃくちゃ健脚だった。一方の俺は、体力自慢のドワーフのくせにインドア派。五キロも歩いたらヘバり、十キロほどで動けなくなってしまう。その度にアールトはポーションを飲ませてくれて、限界を迎えると野営になるのだが。

「ウサギを狩って来た」

 アールトと囲む食卓は、思った以上にワイルドだ。彼は野草や果物、獣なんかをいとも簡単に採集してくる。野外活動といえばソロキャン動画を見たことくらいしかない俺は、圧倒されっぱなしだ。俺はナムナムと合掌してから、捌いたウサギ肉に香辛料をまぶし、スキレットで蒸し焼きにしていく。

 俺の持ち物のほとんどは、魔道具だ。特にこのカセットコンロならぬ携帯用魔導コンロは必需品。何でも小型軽量化しちゃう日本人魂で、折りたたみ将棋板みたいなサイズになった。燃料は魔石なんだけど、それもアールトが供給してくれる。なんて優れたS級冒険者だろう。ありがたみがてぇてぇ。今夜はウサギステーキに野草サラダ、旬のカットフルーツ添えだ。

「お前といると、旅をしているということを忘れそうだ」

 アールトがボヤきながら、上品にステーキを口に運ぶ。しかし不機嫌そうな表情をしながら、俺の料理や魔道具を評価してくれているのは知っている。うふふ、ツンのアールトもてぇてぇ。どんなおエルフ様もサマになる。

 旅に出て一番変わったことといえば、アールトが手出ししなくなったことだ。ほとんどが野営なのでセックスどころじゃないのもあるし、俺も毎日歩き通しでへとへとだ。しかし領都にいた頃は、毎週末工房にお邪魔して、最後の方は三日に一度くらい「囲む会」で囲まれまくっていた。あの鬼のようなアールトが嘘のようだ。

 彼はもう、俺に興味を失くしたのかもしれない。何となく分かる。アールトは俺の持つ異世界の知識に興味があっただけで、セックスはその副産物に過ぎない。彼には思い出せるだけの神仏の情報とチャームを渡した。これら一つ一つがとんでもないアーティファクトらしいが、俺を大公国に連れて行く目的といえば、この知識をエルフの間で共有、もしくは秘匿することだろう。あちらでチャームを一定数量産して納入、もしくは製法を譲渡すれば、俺の利用価値はなくなる。そうすれば、俺はお役御免で本国に帰されるか、それとも領都か。下手をすると幽閉?それとも口封じかもしれない。しかしそしてそれだけのリスクを冒しても、一度は訪れてみたかった。憧れのエルフの里、ファンタジーの定番。

 なによりそれ以上に、アールトについて行きたかった。類稀たぐいまれな美貌、洗練された知性、そして他を圧倒する武芸。彼は俺の憧れと理想そのものだ。もはや崇拝。彼に醜い欲望を抱く人間は掃いて捨てるほどいるが、俺が一番気持ち悪い自覚はある。だけど、彼が俺に利用価値を認めている以上、それを利用してでも側にいたい。ああ、俺にねっとりと熱視線を送られて、バツの悪そうなアールト。そんな彼もこの上なくふつくしい。そしててぇてぇ。



 そんなこんなで、俺は生まれて初めての長旅を存分に楽しんだ。前世を通じて、こんなに心躍る経験はなかった。なんせ憧れのエルフ様との二人旅だ。こんな幸せでいいんだろうか。

 俺たちは大陸の東端の港町まで到着した。これから船で列島伝いに東の大陸を目指す。アールトは船酔いのポーションを大量に用意してくれたが、ドワーフの丈夫さはここでも発揮された。アールトと同室なのに、ゲロ吐かなくてよかった。

 そう、アールトと同室だ。ここは特等船室。

「ボス・ゲースト太公代理ですね。どうぞこちらへ」

 国家元首に準じるVIPであることと、S級冒険者であること。海にも魔物は事欠かないが、主属性が雷であるアールトは海上では無類の強さを誇る。これまで何度も大物を討伐したことがあるらしく、アールトは船乗りの英雄らしい。俺たちは問答無用で最上級の部屋へ通された。彼が乗っていれば、絶対安全も同然。陸上はともかく、海上でアールトに不埒を働くような輩はいないそうだ。

「ふおおアールト…すげぇてぇてぇ…」

「てぇてぇはやめろ」

 船上のアールトは、ちょっとよそ行きモードだ。旅装ではなく、絹のシャツにドレスパンツ。物腰も貴族らしいものに。ああ、アールトは何をしててもてぇてぇ。

 船旅は暇だ。俺はひたすら弾丸の改良をしている。海の魔物のほとんどは水属性、水属性は風属性と雷属性に弱い。雷属性の魔物は希少なので、おいそれと魔石は手に入らないが、風属性ならば在庫がある。弾頭に魔石を削って埋め込み、水属性キラーに。

 俺は最初、銃自体に需要は厳しいと見込んでいた。だってこの世界には魔法があり、普通に魔法をブッパする方が強いからだ。しかし銃は、弾丸を加工することで自属性と違う属性の攻撃を可能にする。しかも銃自体の射程や精度も向上している。銃の貫通力と風属性の魔力。上手くすれば、船員や水辺を狩場にする冒険者にヒットするかもしれない。

 改良には、アールトも協力してくれた。彼は船長や同乗する他のVIPからひっきりなしにお誘いを受けたが、全て断って、俺と一緒に弾丸いじりをしている。彼が扱うのは主に精霊魔法だが、一般的な魔術にも精通している。彼も銃という新しいおもちゃに興味津々だ。銃身に魔法陣を組み込んではどうかとか、いっそ銃に大黒様とスカンダを彫ってこれだけでエンチャント可能にとか。俺から見たらひいじいちゃんよりも長生きで、何でも知ってるアールトだけど、新しい試みにはアイヴァン以上にワクワクするらしい。



 そしてその夜。

「———お前は私に気味が悪いほどの崇拝を示しながら、私を求めて来ない。一体何を考えている?」

「はい?」

 ひとしきり銃を改造し、船尾から海中にぶっ放し。今日も一日キャッキャウフフと楽しんで、さあおやすみなさいって段になって、アールトがぽつりとつぶやいた。隣のベッドを振り返ると、アールトは体を起こしたまま俺をじっと見ている。窓の外からは眩しいほどの月明かり。アールトの左目に射したそれがキラリと反射して、幻想的なまでの美しさ。

「てぇてぇ…」

「だからそれだ」

 珍しくアールトが苛立っている。一体何がお気に召さないのだろう。

「あれだけ仕込んでやったろう。なのにお前は誰も選ばなかった。かといって、私にのこのこ付いて来たと思ったらひたすらままごとに興じている。一体お前は何なんだ」

「え、だって」

 何なんだ、と言われましても。これまで散々言われてきた通り、俺はモブ以下の野ネズミだ。こうしてエルフ様と連れ立って旅に出るだけでも畏れ多い。イエス、美エルフ、ノータッチ。

「だからその崇拝が気持ち悪いと言っているんだ!」

「ですから俺は三等船室にでも行きますって…ふあッ?」

 アールトは激昂して立ち上がり、俺のベッドに乗り込んでくる。

「私を馬鹿にするのもいい加減にしろ。野ネズミめ、改めて一から躾け直してくれる」

 馬鹿になんてしてませんけど?!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...