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第6章:いつものルーティン

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スーパーの粗末な総菜をつまみながら、『これならうちの商品のほうが美味いな。でもやっぱりちょっと値段が高いよな。アハハ。』そう独り言を言いながら時計を見ると、もうすぐ18時になろうかというところでした。清司さんが店に戻る時間までは、まだ少し時間があります。

『今日はちょっとだけ楽をさせてもらおうか』

誰に言うでもなく、仕事をさぼることを正当化するためだけの独り言を、車の中でつぶやいた住吉さんは、22時にタイマーをセットした時計をダッシュボードに乗せて、満腹になったおなかをさすりながら、車のシートを倒しました。今日はコートを持ってきていたので車のエンジンは切って、コートで隙間なく自分の体をくるんで左耳を下にしてシートに収まりました。ファミレスの駐車場にはトラックの運転手などが多く、少しくらい仮眠を取っても目立ちはしないだろうというのが住吉さんの考えで、お手洗いに行きたくなったらドリンクバーでも注文すればいいだろうとタカを括っていたのです。

遠くで子供の声が聞こえた気がしましたが、それはそうだろう、もうすぐ夕飯時だからファミレスでディナーという家族もいるだろうな、そんなことを思いながら、住吉さんは眠っているとも起きているともつかない、中途半端な状態を保ちながら、目を閉じて横になっていました。

『俺ももうすぐ還暦だからな。そうなったら清司さん夫婦とも仕事が出来なくなるな』そんなことを考えると少し寂しい気もしてきます。

『跡継ぎはやっぱり君枝さんかな。あの人はしっかりしているしアルバイトとのコミュニケーションも上手い。ただ、コンビニの切り盛りを手伝っていたせい(ということにしておくか)で、結婚が出来なかったから、長男を呼び戻して一緒に店やるのかな。』

少しおせっかいかと思いましたが、住吉さんはそんなことをぼんやりと考えているうちに、ふっと意識が遠のいて眠りについてしまいました。

20時を回ると、一旦学生のアルバイトに店を任せて英恵さんは夕飯を食べて近くのスーパーに買い物に行きました。昼間から夜勤まで働くときは、これがいつものルーティンで、21時にだいたい君枝さんが夜食を持って店に立ち寄り、英恵さんが買ってきた買い物袋を持って帰るというのが恒例行事になっていました。

夕方から夜勤前までの学生アルバイトはしっかりした子たちが多く、英恵さんも安心して店を任せられるからです。『今日はお父さんがまだ帰らないから、明日の発注だけ見ておいて頂戴ね。』清司さんがいつもは担当している次の日の納品の仕事をアルバイトに任せて、英恵さんはスーパーへ買い出しに行きました。
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