アルファポリスへようこそ

橋本禰雲

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第一章 ポル・ポルック

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「ポルさまお待ちしておりました。今年は三日も遅かったので心配しました」
「待たせて悪かったのぉ。ちょっと寄るところがあってな。もう三人ばかし客人を誘ったのじゃよ」

「そうですか。どんなおもてなしをしたらよいのやら」
「何もせんでええわい」

 ポルは笑顔で言った。

「最近は市長ですら私を迎えに来たりしない。三人が来たらこちらから出向くしかないのお」

「ポルさま。大変申し訳ございません。今すぐ呼んで参りましょうか?」
「よいよい。私はブークさえ迎えに来てくれたら満足じゃ」

 ブークは額についている小さなライトをちかちか光らせて喜んだ。

「おや」

 ポルはつぶやいた。

「ブーク。おぬし感情センサーの光り方に少し偏りがあるのお。どこか具合が悪いのではないか?」
「……じつは…ポルさま。右腕の調子が悪いのです」

 ポルはそれを聞いて杖をブークの右腕に振りかざした。

「どれどれ……ブークよ。オイルを絶やしちゃだめだぞ。錆び付いておるわ!」
「ひえええ。ポルさま。どうしましょう」

 ポルは杖をブークの右腕に当てて考え込む様子。

「どうやら故障しているわけではなさそうじゃ。オイルを射さないとは、機械には一番悪いんじゃぞ」
「……」

「どうしてそんな不摂生をする?理由を話してみなさい」
「で、電子マネーが底をつきそうなんです……」

「なんじゃと。オイルも挿さずに何に無駄使いをしておるのじゃ」
「無駄使いなどしていません」

「ではどうしてじゃ」
「手当が……大幅にカットされてしまいまして」

「なんじゃと!」

 ポルは足を踏みならして怒った。

「魔法電池の守人の手当をカットじゃと!?」
「はい……」

「おぬし、何か不手際があったのか?」
「そのようなことはありません!毎日欠かさずに電池を確認しています。しかけに応じて配置変えも毎日欠かさず」

「わけがわからぬ。真面目に働く者の手当を減らすなどあり得るのか?」
「実は……」

 ブークは本当に困っているという顔…ではなく感情ランプの光らせ方をした。

 ちなみに普段はブークの額でピカピカひかっているだけの感情センサーを読み取れるのはポル・ポルックただ一人だった。

「市長が変わってしまいまして」

「変わった?どういうことじゃ。何か心変わりをしたのか?」
「いえ、市長が別の者に変わってしまったのです」

「!!……あの市長が変わるとは思わなんだ。ちゃんと選挙はやったのか?」
「はい。選挙は問題なく行われました。それで改革派のシギが市長になりました」

「知らぬ名じゃ。あとで会いに行ってみよう」

 緋色のほうの石がぴかぴかと光った。

 ブークは驚いた。ポルさま以外にも誰か来る!ポルさまが言ってた客人かな。

 パッと三人現れた。

 一人は黒ずくめの服を来た大きな男。
 一人は金髪の少女。
 もう一人は赤毛の少女。

「来たな。正木」

 黒ずくめの男はポルを見下ろしたが礼儀正しく挨拶した。

「ポルさま。こんにちは」

 そう言ってから辺りを見回す。

「ポルさま~」

 二人の少女は嬉しそうにポルの近くに寄り、抱きつきながら挨拶した。二人とも十五歳くらいでポルよりも頭ひとつ分くらい背が高かった。

 一番小さなポルが一番敬われている不思議な光景だったが、ポルが何者かを知っているブークにとっては不思議でもなんでもなかった。

 ポル・ポルックは約百個の銀河にある、魔法界に属する惑星を、すべて統括している魔法評議会議員の六人のうちの一人なのだ。

 事情があってこの電脳浮遊都市アルファポリスと魔法評議会との間で結ばれた魔法契約を、年に一回履行するために評議員自らやって来るのだ。

 恐れ多いことだ。
 ブークは常日頃思っていた。

 外見は小さくて可愛くて……正直に言うと可愛さでは金髪の少女に少し負けてしまうかもしれないが……それはポルさまには黙っておこう。可愛さはさておき、と、とにかくすごいお方なのだ。

 ポルさまが仲間の魔法使いを連れてきたのは今までなかったことだ。

 そして新しい市長は魔法契約を軽視していてポルさまに会いに来ようともしない。

 ブークは心配だった。

 ポルさまを怒らせたらどうなってしまうのだろう。
 アルファポリスがのんきに浮かんでいられるのは魔法契約とポルさまのおかげなのに!


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