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2.騙されてますよ
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「! シア……!」
母親や友人達に守られるように座り込んでいる妻の姿を認めたサベルトは、素早くその傍に駆け寄ってひざまずいた。
「サ、サベルト様、助けて……! あ、あたし、アリシア様に虐められて……!」
「無礼者! この方に近寄るな!」
無遠慮にサベルトへ近寄ろうとした短髪の少女を彼に付いていた近衛騎士がすかさず遮った。
「きゃっ」
「キャロル!!」
「貴様! 近衛のくせに、なぜ未来の王妃にそのような無礼を働く!」
「………………は?」
よほど衝撃だったのだろう。しばしの沈黙の後、訳が分からないというように、王子の怒声を浴びた近衛騎士は固まった。いや、国王とモートン公爵、後から来た王妃もあまりのことに固まっていた、つまり王家はこんな茶番を予期出来てなかったようだ。
近衛騎士の一声は王族の総意だと思う。
「……バルス、血迷ったか。その平民の娘が未来の王妃だと申すのか?」
「もちろんです! わたしを選ばなかったアリシアなどより、キャロルはずっとその地位にふさわしい!」
表情を消して重々しく国王が問うと、バルス王子は愚かにもそう答えた。
その途端、周囲の貴族達がざわめく。
『あの不作法な娘、平民ですって』
『なぜ平民がここにいるんだ』
『信じられないわ』
「ひ、酷い! 確かにあたし、平民だけど、そんなふうに言うなんて酷いわ!」
浅ましく泣き真似をするキャロルに騙されて、デニス王子とその取り巻き達は一斉に彼女を慰めにかかる。
「キャロル、大丈夫だ! おまえを悪く言ったやつらはみな処」「式典の招待客は伯爵家以上のはずだが? それなのに、なぜ平民がここにおるのだ」
バルス王子の言葉を遮って、国王が厳しく追及する。
それも当然と言えば当然。国賓も招いた式典に平民が紛れ込んでいるのだから。
「キャロルは、王太子であるわたしの妃になる娘です! ですから……」
「──この、愚か者が!!」
バルス王子に最後まで言わせずに、会場中に響く大音量で国王が怒鳴った。
「王太子だと!? おまえがいつ王太子になったのだ! 本日立太子されるのは、おまえではなくノエル公だ!」
「そんな馬鹿な!!」
驚愕の事実に、バルス王子達は目を剥いた。──いや、それはこちらのセリフだと思う。
「馬鹿なのはおまえ達だ。国にとって重要な式典で、このような騒ぎを起こすとは! それとも王位継承権を持つ資格なしとされたことへの当てつけか!?」
「えっ!?」
「……それだけではありませんわ、陛下。そこの王子がアリシアに婚約破棄するなどと妄言を吐いて、しまいには聖女であるアリシアを突き飛ばす始末。倒れたアリシアをそこの無礼な者達と嘲笑していたさまは、まるでヒトではなく魔物のようでしたわ」
「……まあ!」
モートン公爵夫人から暴露されたバルス王子達の所業に、なんてこと、と呟いて王妃が失神してしまった。それを傍にいた近衛騎士二人が慌てて受け止める。
「──よくもふざけた真似をしてくれたものだ。わたしの妻をこのような目に遭わせたこと、後悔させてくれる」
それまで彼らの話には入らずに、アリシアらことのあらましを聞いていたノエル公サベルトが痛々しい彼女を抱え立ち上がった。
そして、普段の穏やかな彼を知る者からしたら信じられないような鋭い目で、サベルトが罪人達をゴミ……いやそれ以下の存在を睨んだ。
その視線に、バルス王子とその取り巻き達が竦み上がる。
──しかし、殺気もわからない阿呆、ある意味裸の勇者が一人いた。
「サベルト様が王太子様なんですか~!? キャロル、びっくり! でも、アリシア様が奥さんって、おかしいと思います! だって、アリシア様はあたしを虐めるような人なんですよ! きっと、平民なのにみんながあたしをたたえるから、嫉妬しちゃったんですね! でもその罪は、サヴェリオ様に離婚されて、アリシア様が反省することで消えると思います!」
キャロルは懲りもせず、いや先程よりも嬉々とした様子で、不快を隠しもしていないサヴェリオに話しかけている。
「キャ、キャロルッ!」
今や恐ろしいほどの殺気を放っているサヴェリオに恐れをなしたバルス王子の取り巻き達が慌てて止めにかかる。
アリシアはといえば、自分の夫のかつて見たことのない怒りを目の当たりにして、息を呑んでいた。
「でも、サベルトさまぁ~。お妃様がいないと寂しいでしょう? だからぁ、あたしがあなたのお妃様になってあ・げ・る!」
黙りこくっているサヴェリオに、キャロルが体をくっつけ気持ち悪い媚びを売る。そのあまりの不敬さに取り巻き達がひっと叫んだ。そしてデニス王子は、妃にと望んだ少女の堂々とした浮気に、魂が半ば抜けている。
「──黙れ、この淫乱が」
嫌悪を露わにしたサベルトが、キャロルを憎しみの目で射ぬいた。
それに応えるかのように、近衛騎士達がキャロルを取り押さえる。
「えっなんで、はっ、離してよ! あたしにこんなことしていいと思ってんの!?」
「……そこの愚か者達も捕らえて、どこぞの部屋へと閉じこめておけ。後で詳しく尋問する」
酷く頭痛がするのか、額をぎゅっと押さえながら国王が近衛騎士達に命じる。
──そして、不届き者達に滅茶苦茶にされた立太式は、改めて仕切り直すこととなった。
母親や友人達に守られるように座り込んでいる妻の姿を認めたサベルトは、素早くその傍に駆け寄ってひざまずいた。
「サ、サベルト様、助けて……! あ、あたし、アリシア様に虐められて……!」
「無礼者! この方に近寄るな!」
無遠慮にサベルトへ近寄ろうとした短髪の少女を彼に付いていた近衛騎士がすかさず遮った。
「きゃっ」
「キャロル!!」
「貴様! 近衛のくせに、なぜ未来の王妃にそのような無礼を働く!」
「………………は?」
よほど衝撃だったのだろう。しばしの沈黙の後、訳が分からないというように、王子の怒声を浴びた近衛騎士は固まった。いや、国王とモートン公爵、後から来た王妃もあまりのことに固まっていた、つまり王家はこんな茶番を予期出来てなかったようだ。
近衛騎士の一声は王族の総意だと思う。
「……バルス、血迷ったか。その平民の娘が未来の王妃だと申すのか?」
「もちろんです! わたしを選ばなかったアリシアなどより、キャロルはずっとその地位にふさわしい!」
表情を消して重々しく国王が問うと、バルス王子は愚かにもそう答えた。
その途端、周囲の貴族達がざわめく。
『あの不作法な娘、平民ですって』
『なぜ平民がここにいるんだ』
『信じられないわ』
「ひ、酷い! 確かにあたし、平民だけど、そんなふうに言うなんて酷いわ!」
浅ましく泣き真似をするキャロルに騙されて、デニス王子とその取り巻き達は一斉に彼女を慰めにかかる。
「キャロル、大丈夫だ! おまえを悪く言ったやつらはみな処」「式典の招待客は伯爵家以上のはずだが? それなのに、なぜ平民がここにおるのだ」
バルス王子の言葉を遮って、国王が厳しく追及する。
それも当然と言えば当然。国賓も招いた式典に平民が紛れ込んでいるのだから。
「キャロルは、王太子であるわたしの妃になる娘です! ですから……」
「──この、愚か者が!!」
バルス王子に最後まで言わせずに、会場中に響く大音量で国王が怒鳴った。
「王太子だと!? おまえがいつ王太子になったのだ! 本日立太子されるのは、おまえではなくノエル公だ!」
「そんな馬鹿な!!」
驚愕の事実に、バルス王子達は目を剥いた。──いや、それはこちらのセリフだと思う。
「馬鹿なのはおまえ達だ。国にとって重要な式典で、このような騒ぎを起こすとは! それとも王位継承権を持つ資格なしとされたことへの当てつけか!?」
「えっ!?」
「……それだけではありませんわ、陛下。そこの王子がアリシアに婚約破棄するなどと妄言を吐いて、しまいには聖女であるアリシアを突き飛ばす始末。倒れたアリシアをそこの無礼な者達と嘲笑していたさまは、まるでヒトではなく魔物のようでしたわ」
「……まあ!」
モートン公爵夫人から暴露されたバルス王子達の所業に、なんてこと、と呟いて王妃が失神してしまった。それを傍にいた近衛騎士二人が慌てて受け止める。
「──よくもふざけた真似をしてくれたものだ。わたしの妻をこのような目に遭わせたこと、後悔させてくれる」
それまで彼らの話には入らずに、アリシアらことのあらましを聞いていたノエル公サベルトが痛々しい彼女を抱え立ち上がった。
そして、普段の穏やかな彼を知る者からしたら信じられないような鋭い目で、サベルトが罪人達をゴミ……いやそれ以下の存在を睨んだ。
その視線に、バルス王子とその取り巻き達が竦み上がる。
──しかし、殺気もわからない阿呆、ある意味裸の勇者が一人いた。
「サベルト様が王太子様なんですか~!? キャロル、びっくり! でも、アリシア様が奥さんって、おかしいと思います! だって、アリシア様はあたしを虐めるような人なんですよ! きっと、平民なのにみんながあたしをたたえるから、嫉妬しちゃったんですね! でもその罪は、サヴェリオ様に離婚されて、アリシア様が反省することで消えると思います!」
キャロルは懲りもせず、いや先程よりも嬉々とした様子で、不快を隠しもしていないサヴェリオに話しかけている。
「キャ、キャロルッ!」
今や恐ろしいほどの殺気を放っているサヴェリオに恐れをなしたバルス王子の取り巻き達が慌てて止めにかかる。
アリシアはといえば、自分の夫のかつて見たことのない怒りを目の当たりにして、息を呑んでいた。
「でも、サベルトさまぁ~。お妃様がいないと寂しいでしょう? だからぁ、あたしがあなたのお妃様になってあ・げ・る!」
黙りこくっているサヴェリオに、キャロルが体をくっつけ気持ち悪い媚びを売る。そのあまりの不敬さに取り巻き達がひっと叫んだ。そしてデニス王子は、妃にと望んだ少女の堂々とした浮気に、魂が半ば抜けている。
「──黙れ、この淫乱が」
嫌悪を露わにしたサベルトが、キャロルを憎しみの目で射ぬいた。
それに応えるかのように、近衛騎士達がキャロルを取り押さえる。
「えっなんで、はっ、離してよ! あたしにこんなことしていいと思ってんの!?」
「……そこの愚か者達も捕らえて、どこぞの部屋へと閉じこめておけ。後で詳しく尋問する」
酷く頭痛がするのか、額をぎゅっと押さえながら国王が近衛騎士達に命じる。
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