ダーティーホワイトエルブズ 〜後日談&番外編〜

きさまる

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§ そにょ2 ☆男の本分と本能☆

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※ コ ロ ナ 前に書いていた話です。


*****


 笛藤 智恵フェットチーネが風邪をひいた。
 体温も思ったより高くなってる気がする。インフルエンザかもしれない。
 二、三日前からマスクをして鼻をグスグスさせていたが、とうとうぶっ倒れてしまった。
 無理せず寝てろってあんだけ言ったのに。

 あまり流行らないお好み焼き屋なのに、こういった「流行」はウチにもしっかりやってくるのは、なんか理不尽な気がする。
 しかしそんな不満を頭の中でぐるぐるさせても仕方が無い。
 俺は布団に寝転がるフェットに声をかけた。

「おい智恵……フェット、大丈夫か!?」

「……う~……」

 本気でヤベエ。
 俺達みたいな異世界人でも、黙って診察してくれる医者が居たな。連れて行くか。
 ……たしか日本は国民皆保険で安く医療が受けられるんだったか。そういう部分はステイツよりも素敵だ。
 フェットは確か住民票を持ってるんだったな。「ホケンショウ」は何処どこだったか。

 ビッグママが、無理してクラムや他の皆にも身分証明を偽造するはずだ。
 こんな生存に関わる事が、比較的平等に近い形で国民みんなが受けられるのは凄い事だからな。

 元の世界やステイツでさえ、いや日本以外のほとんどの国は、医療とは高いもの、王侯貴族や金持ちだけが受けられるものだった。
 何しろ、ステイツでは虫歯の治療を一本するだけで、日本円にして十万円以上もかかるのだ。
 少なくとも今の俺には、この保険制度が涙が出るほどがたかった。

「フェット、いっぺん医者に診てもらお? 車を店の前に出すし、ちょい待っててくれ」

「…………あ~…………」

 ……声を出すのも辛そうだ。
 俺は急いで車を取りに行った。



「ほらフェット、医者に行くで。しっかりしいや!」

「……うーっ」

 ん? なぜ俺が関西弁で話してるかって?
 俺はまだ、日本は関西以外行った事が無いんだよ。
 これ以外日本語知らんねん。しゃーないやろ。

 俺は、なんとか上半身を起こしたパジャマ姿のフェットに、マスクを付けさせコートを羽織はおらせてから立たせる。今にも膝が崩れて、またすぐに倒れそうだ。
 一旦、椅子を持ってきて腰掛けさせる。
 そうしておいてから、フェットの前に後ろ向きでしゃがんで声を掛けた。

「ほらフェット。おぶってやるさかい医者行くで。俺の首んところに腕を回して……そうそう」

 ぐったりと力ない動作ながら、どうにか手を俺の首元に回して、フェットが体重を背中に預けてきた。
 フェットの太腿を抱えて持ち上げると、軽く身体を上下に揺すって重心を調整。表の自動車まで歩いて行った。
 左手が無いから少し足を抱えにくいな。
 助手席にフェットを乗せると、フェットの舎弟の一人に電話をかけた。

「もしもし? 俺や、笛藤の亭主。フェットが……嫁が風邪引いてダウンしたし、医者に連れてくわ。すまんけど、店番しといてくれるか?」




 そして医者に到着。
 車からフェットを降ろす時も少してこずったが、なんとか抱きかかえて医院の中へ入る。幸い、待合に患者は居なかった。
 待合のソファーにフェットを座らせ受付へ。

 名前を呼ばれて診察室に。
 そのまま抱きかかえた状態で、フェットを中へ連れて行く。
 女性が胸をはだけるからと、待合に戻り、ソファーに座る。
 とりあえず、ひと段落ついた事でほっとしたのか、少々脱力感に襲われた。
 改めて、先ほど背中に背負せおった時と抱きかかえた時の事が思い出される。

──フェット、こっちの世界に来ても鍛錬たんれんをちゃんとやってたんだな。手足の奥にしっかりした筋肉が付いてた。

 そしてフェットを背負った記憶から連想して、いつかステイツの街でタリスに出会った事を思い出す。
 その時にタリスを、バイクの後ろに乗せた事も。

──あの時もタリスの身体が背中に密着してたっけ。タリスの方が身体の弾力があったな。フェットの場合は、身体が凄い柔らかくてその芯に発達した筋肉って感じだ。

 ほっとして脱力して眠気が少し出てきた。
 だんだん思考が取りめの無いモノになっていく。

──あの時のタリスと今のおんぶしたフェット……背中に当たった感触はやっぱりフェットが良いな……。足が一番素敵だけど胸の感触も良かったな……。元気になったらまたあの胸に顔を埋めて……。

 あっヤベェ。
 フェットよりも先に俺の方が「元気」になってきちゃったよ!

 ヤベェ! ヤベェ! ヤベェ!
 ええい静まれィ我が「息子」よ!
 そうだ俺よ! 変な映像思い浮かべて落ち着かせるのだ!
 よし、それで「息子」をえさせるんだ!

 ビッグママが一人、ビッグママが二人、ビッグママが三人……。そういえばママのそばにタリスもよく居るよな……やっぱりあのスッポンポンみたいな格好そのままで……ああっしまった畜生! 余計“元気”になりやがった!!


 そう俺が内なる敵と激しい戦いを繰り広げていると、フェットが診察室からふらふらとしながら戻ってきた。
 そして俺の隣に座ると、辛いのか俺にぐったりと撓垂しなだれ掛かる。

「……なんか連鎖球菌が……どうこうって言うてたわ。……まぁ心配要らんねんてさ、ショウ……」

 あっすみません奥さん、ちょっと戻られるタイミングが早すぎます! もっと戦いの趨勢すうせいが落ち着いた時に戻られないと!
 ああっ困ります奥様。
 奥様! 奥様ああぁぁッッ!?

 何という事だろう。
 男にとって、こんなつらい生殺しの地獄があるだろうか!?(いや、無い:反語)

 フェットの体温が、汗ばんだ彼女の匂いが、もたれ掛かってくる身体の柔らかさが、俺の理性を攻撃する!
 必死の形相で硬直する俺。
 くっ、駄目だ頑張れ俺の理性!

──理性将軍、敵の本能軍の援軍が現れました!

──狼狽うろたえるな! フェットチーネの安全を守る最終防衛線は我々だけなのだ! 弱音を吐いている場合では無いぞ!

──しかし……。

──味方は少なし敵多し。この戦いではよくある事だ。しかし我々はそれでも勝たねばならん! 敵は本能寺にあり!!

──分かりました、兵にもそう伝えます! 勝ちましょう!!

──ふっ、人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり……か。

──将軍、我々はエルフです! そして今の時代は人間百歳まで生きるのも珍しくはありません! 更にそれは負けフラグです!!

 などと脳内で葛藤かっとうしながら硬直を続ける俺。
 それを、無情にも受付が呼び出す。

「笛藤さーん、お会計でーす」

「あっ……ハイすみません、ちょっと待って頂けませんか?」

「?」

「あの……主にボクの体勢が、この状態から動かせないとイウカ……」

「腰を痛めたのですか?」

「いえ……腰を痛める間接的原因の一つを、何とか治めようとしているというか……」

「……? あっ! ……最低」

 何かを察した受付の女性が、冷たい視線で俺を見下ろす。
 スミマセンスミマセンスミマセン!!



 俺は泣きながらたかぶりに耐えた。
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