ダーティーホワイトエルブズ 〜後日談&番外編〜

きさまる

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§ そにょ3 ☆心の闇に勝ってパワーアップは定番☆

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※次回作にほんのりリンクしてます。


*****


 俺は闇の中を歩いていた。
 いつからかは覚えていない。
 気がついたら歩いていた。

 右手にはいつ呼び出したのか、紅乙女を握っている。
 服は安物のトレンチコート。『裏』の仕事をする時の定番の格好だ。
 だが俺は、『裏』の仕事など請け負った記憶が無い。

 やがて前方に光が見えて周囲が洞窟なのが分かってきた。
 更に進むと、洞窟の出口に滝が落ちている。どうやらここは、滝の裏の洞窟だったらしいな。

 滝を潜って通り抜ける。
 どうやら滝は大した大きさではなかったらしい。二、三メートルぐらいか。
 だから滝壺も大した深さでは無かった。
 深いところでも膝まであるかどうか。

 抜け出た先は、だだっ広い空間。滝壺以外は芝生のような草が延々と生えている。
 周囲には霧のようなものが立ち込め、ここが野外なのか洞窟の中なのか建物の中なのか分からなくなっている。

 俺は滝壺から上がると、何故かコートに入っていたバーボンのパイント瓶を取り出す。
 紅乙女を左の脇にはさむと右手につかんだバーボンの瓶の蓋を、歯で捻って蓋を開ける。
 そしてひと口、グビリと飲んだ。

 その時、この空間に人がたたずんでいるのに気がつく。
 誰だろう? 見覚えが無いけど、見覚えがある気がする。
 更にソイツに近寄る。ソイツは少しいぶかしげな顔で俺を見た。何だ?
 ソイツは驚くような事を俺に告げた。

「お前が……俺の意識の闇の部分?」

「はぁ!?」

 驚き桃の木気になる木だ。
 一体全体、コイツは何を言っているんだ、と改めてコイツの顔をじっくりと見る。
 何だか見覚えがある顔。
 昔、どこかでよく見た顔だ。
 そう、俺が右目を失う前に鏡で……。

「あああ!? お前はもしかして、もしかしなくても昔の俺!?」

「昔? 何を言ってるんだお前。ここは精神を鍛える……何とかって名前の場所だ」

「うお、興味無い部分は適当に流すクセ! そっかぁ、昔の俺って外から見たらこんな感じだったのかぁ」

「さっきから昔、むかしって何をわけ分からん事を言ってるんだ。お前は俺の心の闇の部分なんだろ?」

「闇って……。そりゃ確かにミトラぶっ殺す為に、『嵐をもたらす者』を呼び出す為に、闇堕ちみたいなマネしたこたぁあるけどよ」

「そうだ、ミドラーをいつかぶっ殺す為に闇の部分であるお前を……ん? 今、何つった!?」

「ミトラをぶっ殺す為に『嵐を齎らす者』って名前の、ヤバい地獄の魔剣呼び出したんだよ。んで何だかんだあって、ミトラを無事に消せた」

 昔の俺は、驚愕に目を見開いた。

「ミドラーを……消した!?」

「おう。まぁそうだ。おかげで右目と左手が無くなっちまったけどな」

「右目はすぐに分かったけど、左手は分からんかったな。そんなにミトラは強かったのかよ?」

「ん~……。まぁ一応、強いっちゃあ強いんだが、何とか出来る程度だったよ。ただ問題は……」

「ああ、例の“力”か」

「そうそう、それだ」

 俺は軽く頭を掻いて、続けて言った。

「ちなみにあの“力”の名前は“主人公属性”ってんだ。まるで物語の主人公のように悪運が強くなるって能力だ」

「“主人公属性”……」

 昔の俺は、ようやく全てがに落ちた、という顔をした。
 うんうん、分かるぜその気持ち!
 ついでに俺は、ミトラの例の情報を昔の俺に伝える。

「あとアイツは、ミトラは“転生者”だ。別世界の人間の魂が、記憶を引き継いであの身体に生まれ変わったのさ」

 俺は、昔の俺の顔を見た。
 理解出来ているだろうか?

「なるほど、ミドラーが転生者……。何かおかしな感じはしていたんだ。そうか、血はつながってるけど、中身は……魂は全然関係ない他人って事か」

「さすがは俺だ、話が早い」

 そこまで来て、昔の俺は改めてしげしげと俺の顔を見た。
 そして少し戸惑いをふくんだ複雑そうな声音で俺に話す。

「しかし……。俺の闇の部分との対決を予想して待ち構えてたんだけど、何というか……えらい友好的で面食らったよ」

「そうは言っても、俺はダークサイドの具現化じゃねーからな。言ってしまえば、俺は未来のお前だ。」

「いや、何かこう『お前の心の闇に打ち勝つんじゃー!』って言われてココに来たからなぁ。どんだけ俺に敵意を持った奴が出てくるのかって身構えてたよ」

「ま、こういうパターンもあったって良いんじゃねえか?」

「うーん、まぁそう言われればそうか」

 そこまで会話してから俺は修行なのを思い出し、昔の俺に聞いてみる。
 信じてくれるかなぁ。俺もロングモーンに言われてもピンと来なかったからなぁ。

「ところで俺よ、例の能力はもう把握はあく出来てんのか?」

「例の能力?」

「魔物と契約して、使役する事ができる能力さ。まだ気付いてないか?」

「何だそりゃ!? そんな作り話みたいに、都合よく隠された才能なんて有るわけ……」

「有ったんだよ」

「いやそんな分かりやすい嘘なんて……」

「有ったんだよ」

「……」

「紅乙女、ちょっと人の姿になってくれるかい?」

「分かりました、ご主人様」

 俺の願いに紅乙女がそう答える。
 俺の右手の刀が光り輝き、それが収まるとそこには着物を着た少女の姿の紅乙女。
 そのまま紅乙女は、向こうの俺に頭を下げた。

「改めてお初にお目にかかります、まだ私と契約されていないご主人様。こちらのご主人様の忠実なる退魔の刀、紅乙女と申します」

 向こうの俺が苦笑いしながら言う。

「こっちとか向こうとかややこしいな。俺の名前はショウだ」

「俺の名前もショウだよ」

「頭が混乱しそうだ。そもそも闇のアンタ固有の能力、って可能性とか無いのかよ」

「俺を倒して俺のこの能力を手に入れるってか? 物語なら定番だが、残念ながら俺は俺でお前だ。そうだな、じゃあ紅乙女にも見てもらおうや」

 そう言って俺は紅乙女に視線を向ける。
 紅乙女は不敵に笑うとゲンコツを作って親指を立て、俺に向けてサムズアップ。
 そしてしばらく向こうを見つめて話す。

「心配しなくても、バッチリ貴方も能力持ってますよ。ここから戻ったら、バンバン契約していってくださいね♫」

「よし、お前の懸念けねんもこれにて一件落着。そうだ、記念にこの酒をやるよ。美味いぜ」

 そう言って俺は、過去の俺にバーボンのパイント瓶を投げた。
 受け取った昔の俺は蓋を開けると、鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。すぐに顔をしかめた。

「うわ、なんだこれキッツイな」

「一気に飲むなよ。ひと口だけ口に含んで、口の中でモニョモニョやるんだ」

「はぁ~なんかもう、確かにコレぐらい強い酒飲まなきゃ、やってらんねえかもな」

 そうボヤいて昔の俺は、瓶に口をつけるとひと口くいっと口に入れた。
 俺に言われた通りに、そのまま口をモゴモゴさせる。しばらくすると、顔を輝かせた。
 ゴクリと飲み込むと、俺に興奮したように話しかける。

「何だコレ!? めちゃくちゃ美味いじゃねえか! って何だ? 飲んだ後も喉の奥から良い香りが鼻に……。おおお、凄えなこの酒。ほんのり甘味もあるし凄え!」

「ウイスキーってんだ。元の世界から飛ばされた先で作られてた酒さ」

 昔の俺が動きを止めた。
 訝しげに俺を見つめる。

「飛ばされた?」

「ああ。ロングモーンと戦ってる最中に、ミトラに騙し討ちを受けてな。特大の火球魔法を喰らって……今の世界の地球アースに飛ばされたんだよ」

 ……ん?
 俺はようやく今の状況のおかしさに気がつき始めた。

「どう言う理屈か分かんねーけど、俺とミトラとフェットチーネが飛ばされて、まぁ今の世界でミトラを消せた」

「フェットチーネが!?」

「ああ、今は普通にフェットと一緒に暮らせてるよ。俺にとっちゃ良い世界だ」

 魔力が無くてみんな魔法が使えず、俺みたいに魔法を使えないのが当たり前だしな。
 だが昔の俺は驚愕したように言った。

「フェットチーネと!?」

「あ……。そうかお前、今はまだパンチェッタと付き合ってる時期だっけ?」

「いや……。パンチェッタは俺を裏切ってミドラーになびいた。この隷属の首輪を俺にめたのも彼女だ」

「はぁ? 何だそりゃ!? いくらパンチェッタがミトラに取られたからって、彼女がそんな事するはずが……」

 これで確信に変わった。
 俺は昔の俺に確認を取る。

「待て。……そういえばさっきから気になってたんだが、ミドラーって何だよ。もっとはっきりミトラって言えよ」

「ああ!? ミドラーはミドラーだろ! お前こそミトラなんて変な気取り入れてアイツを呼んでんじゃねーよ! 弟大好き野郎かよ!!」

 俺はそう言われて、さっきの違和感を忘れて激昂げきこうする。

「ああ!? そっちこそミトラはミトラだろ! 何がミドラーだ、本当はボクの弟は強いんでちゅよってか!? ふざけてんじゃねえぞボケが!!」

 ボカっ!

「痛ってえ! とうとう俺とる気になったか! こっちは最初からお前をぶっ倒すつもりだったんだ、やってやんよ!!」

 ボカボカっ!

「痛ててっ! テメエ有益な情報教えてやったのに、恩を仇で返しやがって! やってやんのはこっちのセリフだ馬鹿野郎!!」

 ボカボカボカ!!

 ボカボカボカボカボカボカっ!!


 結局、俺たちは素手で殴り合いを始めた。
 紅乙女がのんびりと俺達に声をかける。

「ジャッジは私がしますから、心おきなくやり合って下さいね、ご主人様たち!」


*****


「よう、帰ってきたか穀潰ごくつぶし。ちゃんと強くなれたのかよ」

「……ああ、多分」

「何だそのつら。その様子じゃあんまり効果は無かったみたいだな。無能はやはり伸びしろすら無かったか。役立たずが」

 そう言って俺に背を向けたミドラー。
 だが俺の耳元にささやく声がした。

「その顔は、会えたんですね。未来から来たあの人に」

 ギョッとしてそちらを向くと、新入りの女魔法師が素知らぬ顔をして通り過ぎた。
 こいつの名前は何と言ったか。そうだフェットチーネと言ったはず。
 ……まあ俺には関係無いか。
 そう考えて俺はため息をひとつ吐くと、ミドラーを追いかけた。


 この後しばらくしてから、この男に手酷い裏切りを受ける事を知らずに。


*****


「……で結局は、完全には昔のショウって訳じゃなかったんだ?」

「ソウナンデス。ヨク似タ世界ノ俺デシタ」

 俺は殴られて痛むほほをさすりながら、そう言った。
 昼寝してて急に腕を振り回して暴れた俺を止めるために、フェットが鉄拳制裁を俺の顔に叩き込んだのだ。
 だから断じて向こうの俺にやられた訳じゃ無い!

「向こうに勝ったのか負けたのかなんて、どうでも良いわ。ショウが無事ならね」

 俺の表情を読んだフェットが、俺の頬を突つきながら言う。
 俺は借りてきた猫のようになって答えた。

「アリガタキ幸セデス」

「だってそんな精神を鍛える神殿なんて、私達は行った覚えがないもの」

「ソウデスネ」

「そのもう一人のショウも、何かを掴んでくれてたら良いんだけどね」

「ソウデスネ」

 俺はフェットへの相槌あいづちをうちながら、明日のブランへの言い訳を必死に考えていた。
 れた頬の言い訳を。
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