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第一章 発端編
第3話 “復活、そして新たなる力”…偽りのダークヒーロー編
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“ 力が欲しいか!! ”
ミトラに何者かが話しかける。
“ 我はこの剣に降臨せし者。
本来ならお前の魂を喰らったら直ぐに戻るところだが、今回はたまさか気が向いた。
我はこの世界でもう少し暴れたい。
お前の意思次第だが ”
ミトラは思い出す。シャーロットの言葉を。
(お腹の子供の為にも……ね。“仕事”からは距離を置きたいの)
ミトラは思い出す。彼の兄の言葉を。
(だがすぐにこれから俺が殺す。腹のガキも当然一緒だ)
ミトラは思い出す。
マロニーだと思っていた兄の、小馬鹿にした笑い方を。彼女が兄に殺された瞬間を。そしてそれを行う兄を睨みつけながら、見る事しか出来なかった自分の無力さを。
だが何よりも。
『俺の踏み台役が、俺の養分役が、俺の噛ませ犬役が、俺を、俺様を見下しやがった!』
“ 力が欲しいのなら…… ”
憎い。素知らぬ顔をして、自分を騙していたあの男が。
憎い。この自分をここまでコケにした、なんの取り柄もないゴミのような兄が。
憎い。この気持ちをぶつけて晴らせるのなら、なんだって……。
“ くれてやる! ”
その瞬間、ミトラの身体は剣から逆流した闇の力に満たされ、ビクリと身体が大きく震えた。
砕けた頭部を含めた、ミトラの全ての身体の損傷が音を立てて回復していく。
やがてミトラの身体から、闇の力の禍々しい気配が溢れ出し立ちのぼる。
そして、ミトラの目が大きくカッと見開かれ、濁っていた目に急速に凶暴な精気が宿る。
ミトラは胸に剣が刺さったまま、勢いよく跳ね起きた。
ミトラは胸から引き抜いた剣の柄を手に持つと、一度ゆっくりと天を振り仰いだ。
再び目を閉じると、体内を駆け巡る闇の魔力の循環を意識する。
むしろ、復活前よりも上手く身体が動かせる予感がする。
口から溜め息が漏れ、口角から瘴気が立ちのぼる。 魔剣を両手で握りしめる。
そしてミトラは一気に目を見開いて部屋の入り口を睨みつけた。
そこに居た兄の姿は消えていた。
*****
「うおおらあああああああっ!!」
雄叫びをあげながら、ミトラは部屋の出入り口から廊下に飛び出す。
廊下には既に、兄の置き土産であろう案山子の悪魔の群れが、ギッシリとひしめいていた。
「邪魔だ!」
ミトラは剣を腰だめの位置に構え、大きく後ろに振りかぶった。
そのまま一気に横薙ぎに剣を振り払う。
振った剣尖どころか、振られた腕全体が霞んで消えるほどの速度での斬り払い。
剣尖より発生したカマイタチが前方に向かって走り去り、ひしめく悪魔を文字通り一刀両断。
その後に衝撃波が爆走して悪魔を死骸ごと、廊下の床壁天井もろとも粉砕していく。
それはまさに、ちょっとした災害クラスだった。
ミトラは剣を肩に担ぐと、悠然と破壊された廊下を進み始める。
やがてミトラの身体に、魔剣から何かが流れ込んでくる。
ミトラはさらに自らの身体に活力が漲るのを感じた。
──何だ、コレは。
そう考えたミトラに答えるかのように、手に持った剣から思考が伝わる。
“我が喰らった悪魔共の魂の一部を貴様にくれてやる”
──つまり敵を殺せば殺すほど力が増すということか。
しかし魔剣はそれに答える事なく続ける。
“貴様はなかなかに見所がある。我が最も愛しき、白子の皇子に次いでぐらいにはな”
──誰だソイツは。
“恋人殺しにして友人殺しである白面の狼こそは、我が本体を手にした多くの使い手の一人。そして、我が玩具の中でも最も遊び甲斐があり愛着のあるオモチャであった”
黒き魔剣は楽しげにミトラに思考を送り続ける。
“病弱で、先ほど見せた我が能力が無ければ、貴奴は寝所より身体を起こすどころか手を挙げることすら苦労したものよ。
我を忌み嫌いながらも、我を手放せぬ事に苦悩する姿は、いつ見ても愉快であった”
──悪趣味だな。
“我を何と心得ておる”
上に昇る階段まで来ると、ビルのそばで素早い動きにミトラが翻弄された、あの黒い影のような狼の魔物が三匹襲ってきた。
踊り場から、二階から、物陰から。
しかしミトラは黒狼との距離を難なく詰めると一匹の狼の頭を断ち割った。
残りの狼は一瞬動きが止まったが、すぐに仲間の死に興奮して凶暴な吠え声をあげる。
──こういう所が魔物だな。
ミトラはその後も一動作一太刀で、残り二匹の狼を屠って魂を喰らった。
*****
その後も廊下には悪魔案山子ぐらいしかおらず、苦も無く歩みを進める。
倒した悪魔共の魂のエネルギーで、身体の奥底から凶悪な破壊衝動が溢れそうになっている。
地下から一階に上がると出口とおぼしき方向に足を向ける。やがてあの牛頭の魔物と戦ったロビーに出た。
──あのビルの地下だったのか。
ロビーには、やはりあの巨体な牛頭の魔物が圧倒的な存在感を放ちながら鎮座していた。……そして兄も。
兄は“ニホントウ”を持っていた。
緩いカーブがかかった刀身に漂う気配から、その刀も退魔の力を持っているのだろう。
一人と一匹は臨戦態勢でミトラを待ち構えていたようだ。
まずは兄は、マロニーの拳銃をミトラに向かって四連射。
数え間違いでなければ、マロニーの拳銃の型ではこれで弾切れの筈だ。
ミトラは漆黒の魔剣でなんなく弾く。
しかしそれは兄も折り込み済みだったようだ。
ミトラが銃弾を弾いて向き直った時には、目の前まで兄の必殺の突きが迫っていた。
だがそれは今のミトラにとっては、まだまだ余裕のある距離。
大きくバックステップしてから横に躱す。
と思ったら、躱した先に魔物の拳が振り抜かれてきた。
ミトラは両手で何とか拳を受け止める。
殺しきれなかった勢いで、ミトラは大きく後退する。
そこを目がけて兄が再び襲いかかる。ミトラの脛を狙った低い横薙ぎの斬撃。
ミトラは魔物の巨大な拳の勢いを何とか横に流して、兄の斬撃に対処。
飛び上がって斬撃を躱し、その動作を利用して兄の頭へ回し蹴り。
兄も攻撃の勢いのまま倒れ込んで蹴りを躱す。
地面に倒れると同時に横に回転して、その場から遠ざかろうとする兄。
それを見てミトラもその場から大きく飛び退る。
そう動いたのは殆ど勘だ。
そしてその勘は正しかった。その場に地響きと共に撃ち下される魔物の拳。
その拳に向かって斬りつけようとしたミトラに、兄がいつの間にかリロードした拳銃で攻撃。彼は舌打ちしながら魔剣で弾丸を弾いた。
魔物への攻撃機会は逸らされた。
──くそっ! 息が合っていやがる!
兄と魔物。一対一ならミトラが勝てるだろう。
だが、ここまでタイミングを合わせた攻撃を連続で繰り出されると、なかなかこちらが攻撃に転じる事が出来ない。
ミトラは苛つく。
この男はいつもそうだ。弱いからいつも仲間を作って群れてやがる。
自分が少しちょっかいをかけたら、すぐに横取り出来る仲間や恋人のクセに。
まぁ自分に靡かない奴等は全て殺してやったが、とミトラは内心嘲笑った。
退魔銃を撃った兄が、初手と同じように銃弾の影から攻撃するそぶりをしたが、途中で思い止まるかのような動き。
──フェイントか!
そう頭に思考が浮かんだ時には、魔物の突進からの頭突きがミトラにブチ当たっていた。
彼は勢いよく壁に跳ね飛ばされ、壁を景気良くブチ壊した。
地面に倒れると、飛ばされた勢いを利用して後方回転して跳ね起きる。
そのまま身を少し屈めて足に力を込める。
撓《たわ》めた身体のバネを解放し、一気に跳ねた。
魔剣を大きく振りかぶって兄の元まで跳ね飛び、兄に剣を振り下ろす。
兄も刀で攻撃を受け止めた。打ち合わされた金属から、激しく飛び散る火花。
兄と鍔迫り合いを始めたミトラの体幹が、突然何かに包まれ締め付けられる。
魔物が背後からミトラの体を右手で掴んだのだ。
魔物はミトラを掴んだ手を大きく上に振り上げる。
ミトラは咄嗟に剣を逆手に持ち替え、魔物の手に攻撃を加えようとする。
その彼の行動と、魔物の右手が力一杯握り締められるのはほぼ同時だった。
全身の骨が砕かれる。
折れた骨のいくつかが内臓や筋肉に突き刺さった。
喉から何かが突きあがる。それを口から出すと、真っ赤な鮮血だった。
間欠泉のように勢い良く血が吹き出てくる。
「ぐはあああああああああ!!」
ミトラは断末魔を思わせる濁った絶叫をあげた。
ミトラに何者かが話しかける。
“ 我はこの剣に降臨せし者。
本来ならお前の魂を喰らったら直ぐに戻るところだが、今回はたまさか気が向いた。
我はこの世界でもう少し暴れたい。
お前の意思次第だが ”
ミトラは思い出す。シャーロットの言葉を。
(お腹の子供の為にも……ね。“仕事”からは距離を置きたいの)
ミトラは思い出す。彼の兄の言葉を。
(だがすぐにこれから俺が殺す。腹のガキも当然一緒だ)
ミトラは思い出す。
マロニーだと思っていた兄の、小馬鹿にした笑い方を。彼女が兄に殺された瞬間を。そしてそれを行う兄を睨みつけながら、見る事しか出来なかった自分の無力さを。
だが何よりも。
『俺の踏み台役が、俺の養分役が、俺の噛ませ犬役が、俺を、俺様を見下しやがった!』
“ 力が欲しいのなら…… ”
憎い。素知らぬ顔をして、自分を騙していたあの男が。
憎い。この自分をここまでコケにした、なんの取り柄もないゴミのような兄が。
憎い。この気持ちをぶつけて晴らせるのなら、なんだって……。
“ くれてやる! ”
その瞬間、ミトラの身体は剣から逆流した闇の力に満たされ、ビクリと身体が大きく震えた。
砕けた頭部を含めた、ミトラの全ての身体の損傷が音を立てて回復していく。
やがてミトラの身体から、闇の力の禍々しい気配が溢れ出し立ちのぼる。
そして、ミトラの目が大きくカッと見開かれ、濁っていた目に急速に凶暴な精気が宿る。
ミトラは胸に剣が刺さったまま、勢いよく跳ね起きた。
ミトラは胸から引き抜いた剣の柄を手に持つと、一度ゆっくりと天を振り仰いだ。
再び目を閉じると、体内を駆け巡る闇の魔力の循環を意識する。
むしろ、復活前よりも上手く身体が動かせる予感がする。
口から溜め息が漏れ、口角から瘴気が立ちのぼる。 魔剣を両手で握りしめる。
そしてミトラは一気に目を見開いて部屋の入り口を睨みつけた。
そこに居た兄の姿は消えていた。
*****
「うおおらあああああああっ!!」
雄叫びをあげながら、ミトラは部屋の出入り口から廊下に飛び出す。
廊下には既に、兄の置き土産であろう案山子の悪魔の群れが、ギッシリとひしめいていた。
「邪魔だ!」
ミトラは剣を腰だめの位置に構え、大きく後ろに振りかぶった。
そのまま一気に横薙ぎに剣を振り払う。
振った剣尖どころか、振られた腕全体が霞んで消えるほどの速度での斬り払い。
剣尖より発生したカマイタチが前方に向かって走り去り、ひしめく悪魔を文字通り一刀両断。
その後に衝撃波が爆走して悪魔を死骸ごと、廊下の床壁天井もろとも粉砕していく。
それはまさに、ちょっとした災害クラスだった。
ミトラは剣を肩に担ぐと、悠然と破壊された廊下を進み始める。
やがてミトラの身体に、魔剣から何かが流れ込んでくる。
ミトラはさらに自らの身体に活力が漲るのを感じた。
──何だ、コレは。
そう考えたミトラに答えるかのように、手に持った剣から思考が伝わる。
“我が喰らった悪魔共の魂の一部を貴様にくれてやる”
──つまり敵を殺せば殺すほど力が増すということか。
しかし魔剣はそれに答える事なく続ける。
“貴様はなかなかに見所がある。我が最も愛しき、白子の皇子に次いでぐらいにはな”
──誰だソイツは。
“恋人殺しにして友人殺しである白面の狼こそは、我が本体を手にした多くの使い手の一人。そして、我が玩具の中でも最も遊び甲斐があり愛着のあるオモチャであった”
黒き魔剣は楽しげにミトラに思考を送り続ける。
“病弱で、先ほど見せた我が能力が無ければ、貴奴は寝所より身体を起こすどころか手を挙げることすら苦労したものよ。
我を忌み嫌いながらも、我を手放せぬ事に苦悩する姿は、いつ見ても愉快であった”
──悪趣味だな。
“我を何と心得ておる”
上に昇る階段まで来ると、ビルのそばで素早い動きにミトラが翻弄された、あの黒い影のような狼の魔物が三匹襲ってきた。
踊り場から、二階から、物陰から。
しかしミトラは黒狼との距離を難なく詰めると一匹の狼の頭を断ち割った。
残りの狼は一瞬動きが止まったが、すぐに仲間の死に興奮して凶暴な吠え声をあげる。
──こういう所が魔物だな。
ミトラはその後も一動作一太刀で、残り二匹の狼を屠って魂を喰らった。
*****
その後も廊下には悪魔案山子ぐらいしかおらず、苦も無く歩みを進める。
倒した悪魔共の魂のエネルギーで、身体の奥底から凶悪な破壊衝動が溢れそうになっている。
地下から一階に上がると出口とおぼしき方向に足を向ける。やがてあの牛頭の魔物と戦ったロビーに出た。
──あのビルの地下だったのか。
ロビーには、やはりあの巨体な牛頭の魔物が圧倒的な存在感を放ちながら鎮座していた。……そして兄も。
兄は“ニホントウ”を持っていた。
緩いカーブがかかった刀身に漂う気配から、その刀も退魔の力を持っているのだろう。
一人と一匹は臨戦態勢でミトラを待ち構えていたようだ。
まずは兄は、マロニーの拳銃をミトラに向かって四連射。
数え間違いでなければ、マロニーの拳銃の型ではこれで弾切れの筈だ。
ミトラは漆黒の魔剣でなんなく弾く。
しかしそれは兄も折り込み済みだったようだ。
ミトラが銃弾を弾いて向き直った時には、目の前まで兄の必殺の突きが迫っていた。
だがそれは今のミトラにとっては、まだまだ余裕のある距離。
大きくバックステップしてから横に躱す。
と思ったら、躱した先に魔物の拳が振り抜かれてきた。
ミトラは両手で何とか拳を受け止める。
殺しきれなかった勢いで、ミトラは大きく後退する。
そこを目がけて兄が再び襲いかかる。ミトラの脛を狙った低い横薙ぎの斬撃。
ミトラは魔物の巨大な拳の勢いを何とか横に流して、兄の斬撃に対処。
飛び上がって斬撃を躱し、その動作を利用して兄の頭へ回し蹴り。
兄も攻撃の勢いのまま倒れ込んで蹴りを躱す。
地面に倒れると同時に横に回転して、その場から遠ざかろうとする兄。
それを見てミトラもその場から大きく飛び退る。
そう動いたのは殆ど勘だ。
そしてその勘は正しかった。その場に地響きと共に撃ち下される魔物の拳。
その拳に向かって斬りつけようとしたミトラに、兄がいつの間にかリロードした拳銃で攻撃。彼は舌打ちしながら魔剣で弾丸を弾いた。
魔物への攻撃機会は逸らされた。
──くそっ! 息が合っていやがる!
兄と魔物。一対一ならミトラが勝てるだろう。
だが、ここまでタイミングを合わせた攻撃を連続で繰り出されると、なかなかこちらが攻撃に転じる事が出来ない。
ミトラは苛つく。
この男はいつもそうだ。弱いからいつも仲間を作って群れてやがる。
自分が少しちょっかいをかけたら、すぐに横取り出来る仲間や恋人のクセに。
まぁ自分に靡かない奴等は全て殺してやったが、とミトラは内心嘲笑った。
退魔銃を撃った兄が、初手と同じように銃弾の影から攻撃するそぶりをしたが、途中で思い止まるかのような動き。
──フェイントか!
そう頭に思考が浮かんだ時には、魔物の突進からの頭突きがミトラにブチ当たっていた。
彼は勢いよく壁に跳ね飛ばされ、壁を景気良くブチ壊した。
地面に倒れると、飛ばされた勢いを利用して後方回転して跳ね起きる。
そのまま身を少し屈めて足に力を込める。
撓《たわ》めた身体のバネを解放し、一気に跳ねた。
魔剣を大きく振りかぶって兄の元まで跳ね飛び、兄に剣を振り下ろす。
兄も刀で攻撃を受け止めた。打ち合わされた金属から、激しく飛び散る火花。
兄と鍔迫り合いを始めたミトラの体幹が、突然何かに包まれ締め付けられる。
魔物が背後からミトラの体を右手で掴んだのだ。
魔物はミトラを掴んだ手を大きく上に振り上げる。
ミトラは咄嗟に剣を逆手に持ち替え、魔物の手に攻撃を加えようとする。
その彼の行動と、魔物の右手が力一杯握り締められるのはほぼ同時だった。
全身の骨が砕かれる。
折れた骨のいくつかが内臓や筋肉に突き刺さった。
喉から何かが突きあがる。それを口から出すと、真っ赤な鮮血だった。
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