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第二章 異世界編
第6話 ーもう君がいないー…ある男の独白
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以前にこの国に封印されていたドラゴンが復活して、国のあちこちを荒らし回った事を、俺は思い出す。
あの時は国中の冒険者が集まって、軍隊に協力したっけ。
多大な犠牲を払って、封印場所かつ寝ぐらに追い込んで、やっと倒れると思った時だ。
最後の足掻きとドラゴンが暴れたのだ。
最初はみんな防戦一方で、打つ手が見つからなかった。
だがそのうち、その場に居た冒険者の人や国の軍の兵士や長の何人かが、俺と同じ箇所を見ているのに気付いた。
彼等が、邪竜の首の後ろの辺りを注視するのを見て、俺が気にしていた事が間違いでは無かったと確信した。
首の後ろの急所の辺りに、鱗が剥がれている場所がある!
俺はパンチェッタを含めた、その場に居た治癒師にありったけの治療を俺自身にかけてもらい、ドラゴンの背に乗って首の急所を攻撃する事にした。
弟も他の魔法師も、もう魔力が枯渇していたからだ。
竜の鱗は魔法を弾いて殆ど効かない、という注意を無視した弟につられて、みんな散々無駄撃ちしたからな。
俺よりも強い前衛は冒険者にも兵士にもたくさん残っていたが、背中に飛び移って攻撃出来る身軽さを持っているのは、その場には俺と弟だけだった。
だが、弟だってボロボロな状態だったし、……何より、俺は兄貴だから弟も守らないといけないと、条件反射的に思ったからだ。
隙を見て背中に飛び乗り、頭の後ろの鱗が剥がれた箇所を狙って剣を突き刺しに行く。
俺は、暴れ回るドラゴンから振り落とされないように苦労しながら首をよじ登り、何とか目的地に辿り着き、剣を突き立てた。
攻撃は成功し、ドラゴンは絶命。
俺は地面に降り立ちドラゴンが倒れるのを注視した。
何も問題ないはずだった。倒れる竜の爪の下に、弟を治療するパンチェッタの姿が無ければ。
俺は急いで駆けつけ二人を突き飛ばす。
二人は助かったが、倒れる竜の爪はギリギリ俺を引っ掛け、俺の背中を切り裂いていた。
次に目覚めた時は養生所のベッドの上で、傍には涙を流すパンチェッタ。
目覚めた俺の無事を喜び、弟に頼まれたからとは言ってもあの場所で治療するべきでは無かった、と泣きながら謝る。
それから、竜に最後のトドメを入れたのはミトラという事になったと憤慨していた。
彼女曰く、俺と顔が似てるのを良い事に、自分がトドメを刺したとアイツが声をあげた、という事だ。
またか、と俺は思った。昔からそうだった。
子供を使って見栄を張りたい母の影響も強いのだろうが、アイツは他人の功績を横取りするのが常だ。
正確には他人の手柄を横取りしてでも、他人から優越したい、だが。
それをいつしか拗らせて、自分は動かずに他人の手柄を横取りするだけで良い、になってしまった。
それを諌めなかったのか、だって?
諌めたら、お前は兄貴なのにそんな事を言うな弟には優しくしろ、と全ての人が止めるんだよ。
何も言わなきゃ、お前は兄貴なのに何故止めない、だ。
どうすりゃ良いってんだよ、馬鹿野郎。
そもそも……魔力が無い、魔法が使えない俺の話なんか聞きゃしないがな、ミトラは。
最初は、二人とも別々に見舞いに来ていた。
彼女も、元々あまり好意を持てない弟から距離を取っていたから、そう不思議ではなかった。
……だが。
「アイツ、私と二人きりになろうと口説いてくるのよ。貴方が動けないっていうのに最低だわ」
「あんまりしつこいから、一度だけ会ってやったわ。お兄さんが死にかけたのはアンタのせいだから絶対に許さないって言って、すぐに帰ったけど」
「アイツ今日は私の前で、兄さんに償いたい、あの時の事は悔やんでも悔やみきれない、って言って泣き出したのよ。そんな言葉で許されるはずないのにね。でもさすがにエルフね、泣き顔も絵になるのはズルいわ」
「さっき療養所の入り口で、偶然アイツに会ったわ。貴方の見舞いに来るのだけは感心よね。そういえばアイツ、この前ゴロツキに絡まれてた人を助けてたのよ。少し見直したわ」
「申し訳なかったけど、アイツと一緒に王都へ行ったの。動ける冒険者だけでも叙勲したいって王様がね。でも馬子にも衣装ね。アイツ意外と格好良かったわ」
「早く怪我を治して元気になってね。……ごめんなさい、この後ちょっと用事があるから、少し早いけど彼ともう帰るわね」
いつの間にかここへの見舞いにも、二人一緒に来ることが当たり前になっていた。
「村を潰した落ちこぼれの分際で、竜殺しの名前を取ろうとしたり、女を作ったりなんて生意気なんだよ」
ある時パンチェッタを先に帰らせた後で、ヤツは俺にそう言ってせせら笑った。
*****
「あの時怪我さえしなければ……。いや、もっと早く駆けつけていれば、アイツなんかに……。」
「やめとけよ、仕方の無い事だったんだ。それにアイツだって、お前に悪いって思ってた気持ちが彼女に通じたってだけだろ。
お前は兄貴なんだから、それぐらい大目に見てやれよ。弟を信じてやれよ」
“お前は兄貴なんだから” “弟を信じてやれ”。弟が絡む時の、皆の決まり文句。
「それに……本当に魔法の使えないお前が邪竜を殺ったのか?
邪竜殺しの名前を横取りしようとしているのはお前なんじゃないのか?」
「嘘じゃねえよ。……もういいよ、帰るわ」
結局は、最後はコレだ。
俺が結局は悪い事に話が落ち着いてしまう。
……分かっていた筈だ。分かっていた筈なのに、口が滑って愚痴が出た俺が悪い。
俺は顔をしかめてグラスの脇に代金を置き、酒場から立ち去った。
*****
「パンチェッタが死んだ? どういう事だ!!」
俺は弟の胸倉を掴んでそう怒鳴った。そんな俺を、仲間が必死に羽交い締めにして止めている。
「お前が付いていながら! あんな簡単な依頼で何でそうなるんだ!!」
弟をはじめ、俺の制止にまわらずに済んでいるメンツは、皆一様に微妙な表情を浮かべる。
何だその顔は! 例え別れたって彼女は俺の大切な人に違いは無いんだ!
「なに怒ってるんだよ、仕方無かったって言ってんだろ」
微妙な表情のまま弟が答える。だが、その顔に罪悪感が欠片もないのは一体何なんだ!
しかも苦笑いまで浮かべてるじゃないか!
「だから! どんな状況になったら! 彼女が死ぬのが仕方ないなんて事が起こるんだと聞いている!!」
「おい、そんなにミトラを責めるな、兄貴だろ。それに言うならこれは私達皆の責任だ。
これだけは言える。私達から見ても、あれは仕方の無い状況だったんだ」
弟を無闇に庇うばかりで、俺の疑問に何一つ答えてない無意味なフォローを、仲間の新入り女戦士が俺に言い含めようとする。
その時初めて俺は、新入り三人が全員女なのに気がついた。パンチェッタと別れてから、パーティーのメンツが集まる場に顔を出す気になれなかったからな。
俺は改めて、この場にいるパーティーのメンツの顔を見渡した。弟以外は全員女。そして全員が全員とも、弟に気がある素振りを見せていた。
「それに、そこまで言うなら何故パーティーに同行して、パンチェッタを守ってあげなかったの?」
と、マルゲリータ。
俺は一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。
彼女の言葉が咀嚼出来た時、俺は信じられないものを見る目で彼女を睨みつけ、食ってかかった。
「俺がパーティーに参加したら、チームワークが崩れて全滅する危険が跳ね上がるからって、俺を排除したのはそっちだろ!?」
「それでも、彼女が本当に大切だったら、私達の事なんて無視して、弟の事なんて気にしないで、無理矢理にでも参加して彼女を守ったはず。
そこまで出来なかったって事は、貴方の彼女への気持ちはその程度だったって事よ」
「何を言っている!?」
──ダメだ、話にならない。
もし彼女が言う通りに無理矢理参加していたとしても、今度は無理な参加が原因で失敗した、と結局は俺が悪者にされるだけだ。
俺は掴んでいた弟の胸倉を乱暴に振りほどき、俺を抑えていたマルゲリータと新入り女を押し退けてその場を立ち去った。
あの時は国中の冒険者が集まって、軍隊に協力したっけ。
多大な犠牲を払って、封印場所かつ寝ぐらに追い込んで、やっと倒れると思った時だ。
最後の足掻きとドラゴンが暴れたのだ。
最初はみんな防戦一方で、打つ手が見つからなかった。
だがそのうち、その場に居た冒険者の人や国の軍の兵士や長の何人かが、俺と同じ箇所を見ているのに気付いた。
彼等が、邪竜の首の後ろの辺りを注視するのを見て、俺が気にしていた事が間違いでは無かったと確信した。
首の後ろの急所の辺りに、鱗が剥がれている場所がある!
俺はパンチェッタを含めた、その場に居た治癒師にありったけの治療を俺自身にかけてもらい、ドラゴンの背に乗って首の急所を攻撃する事にした。
弟も他の魔法師も、もう魔力が枯渇していたからだ。
竜の鱗は魔法を弾いて殆ど効かない、という注意を無視した弟につられて、みんな散々無駄撃ちしたからな。
俺よりも強い前衛は冒険者にも兵士にもたくさん残っていたが、背中に飛び移って攻撃出来る身軽さを持っているのは、その場には俺と弟だけだった。
だが、弟だってボロボロな状態だったし、……何より、俺は兄貴だから弟も守らないといけないと、条件反射的に思ったからだ。
隙を見て背中に飛び乗り、頭の後ろの鱗が剥がれた箇所を狙って剣を突き刺しに行く。
俺は、暴れ回るドラゴンから振り落とされないように苦労しながら首をよじ登り、何とか目的地に辿り着き、剣を突き立てた。
攻撃は成功し、ドラゴンは絶命。
俺は地面に降り立ちドラゴンが倒れるのを注視した。
何も問題ないはずだった。倒れる竜の爪の下に、弟を治療するパンチェッタの姿が無ければ。
俺は急いで駆けつけ二人を突き飛ばす。
二人は助かったが、倒れる竜の爪はギリギリ俺を引っ掛け、俺の背中を切り裂いていた。
次に目覚めた時は養生所のベッドの上で、傍には涙を流すパンチェッタ。
目覚めた俺の無事を喜び、弟に頼まれたからとは言ってもあの場所で治療するべきでは無かった、と泣きながら謝る。
それから、竜に最後のトドメを入れたのはミトラという事になったと憤慨していた。
彼女曰く、俺と顔が似てるのを良い事に、自分がトドメを刺したとアイツが声をあげた、という事だ。
またか、と俺は思った。昔からそうだった。
子供を使って見栄を張りたい母の影響も強いのだろうが、アイツは他人の功績を横取りするのが常だ。
正確には他人の手柄を横取りしてでも、他人から優越したい、だが。
それをいつしか拗らせて、自分は動かずに他人の手柄を横取りするだけで良い、になってしまった。
それを諌めなかったのか、だって?
諌めたら、お前は兄貴なのにそんな事を言うな弟には優しくしろ、と全ての人が止めるんだよ。
何も言わなきゃ、お前は兄貴なのに何故止めない、だ。
どうすりゃ良いってんだよ、馬鹿野郎。
そもそも……魔力が無い、魔法が使えない俺の話なんか聞きゃしないがな、ミトラは。
最初は、二人とも別々に見舞いに来ていた。
彼女も、元々あまり好意を持てない弟から距離を取っていたから、そう不思議ではなかった。
……だが。
「アイツ、私と二人きりになろうと口説いてくるのよ。貴方が動けないっていうのに最低だわ」
「あんまりしつこいから、一度だけ会ってやったわ。お兄さんが死にかけたのはアンタのせいだから絶対に許さないって言って、すぐに帰ったけど」
「アイツ今日は私の前で、兄さんに償いたい、あの時の事は悔やんでも悔やみきれない、って言って泣き出したのよ。そんな言葉で許されるはずないのにね。でもさすがにエルフね、泣き顔も絵になるのはズルいわ」
「さっき療養所の入り口で、偶然アイツに会ったわ。貴方の見舞いに来るのだけは感心よね。そういえばアイツ、この前ゴロツキに絡まれてた人を助けてたのよ。少し見直したわ」
「申し訳なかったけど、アイツと一緒に王都へ行ったの。動ける冒険者だけでも叙勲したいって王様がね。でも馬子にも衣装ね。アイツ意外と格好良かったわ」
「早く怪我を治して元気になってね。……ごめんなさい、この後ちょっと用事があるから、少し早いけど彼ともう帰るわね」
いつの間にかここへの見舞いにも、二人一緒に来ることが当たり前になっていた。
「村を潰した落ちこぼれの分際で、竜殺しの名前を取ろうとしたり、女を作ったりなんて生意気なんだよ」
ある時パンチェッタを先に帰らせた後で、ヤツは俺にそう言ってせせら笑った。
*****
「あの時怪我さえしなければ……。いや、もっと早く駆けつけていれば、アイツなんかに……。」
「やめとけよ、仕方の無い事だったんだ。それにアイツだって、お前に悪いって思ってた気持ちが彼女に通じたってだけだろ。
お前は兄貴なんだから、それぐらい大目に見てやれよ。弟を信じてやれよ」
“お前は兄貴なんだから” “弟を信じてやれ”。弟が絡む時の、皆の決まり文句。
「それに……本当に魔法の使えないお前が邪竜を殺ったのか?
邪竜殺しの名前を横取りしようとしているのはお前なんじゃないのか?」
「嘘じゃねえよ。……もういいよ、帰るわ」
結局は、最後はコレだ。
俺が結局は悪い事に話が落ち着いてしまう。
……分かっていた筈だ。分かっていた筈なのに、口が滑って愚痴が出た俺が悪い。
俺は顔をしかめてグラスの脇に代金を置き、酒場から立ち去った。
*****
「パンチェッタが死んだ? どういう事だ!!」
俺は弟の胸倉を掴んでそう怒鳴った。そんな俺を、仲間が必死に羽交い締めにして止めている。
「お前が付いていながら! あんな簡単な依頼で何でそうなるんだ!!」
弟をはじめ、俺の制止にまわらずに済んでいるメンツは、皆一様に微妙な表情を浮かべる。
何だその顔は! 例え別れたって彼女は俺の大切な人に違いは無いんだ!
「なに怒ってるんだよ、仕方無かったって言ってんだろ」
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「おい、そんなにミトラを責めるな、兄貴だろ。それに言うならこれは私達皆の責任だ。
これだけは言える。私達から見ても、あれは仕方の無い状況だったんだ」
弟を無闇に庇うばかりで、俺の疑問に何一つ答えてない無意味なフォローを、仲間の新入り女戦士が俺に言い含めようとする。
その時初めて俺は、新入り三人が全員女なのに気がついた。パンチェッタと別れてから、パーティーのメンツが集まる場に顔を出す気になれなかったからな。
俺は改めて、この場にいるパーティーのメンツの顔を見渡した。弟以外は全員女。そして全員が全員とも、弟に気がある素振りを見せていた。
「それに、そこまで言うなら何故パーティーに同行して、パンチェッタを守ってあげなかったの?」
と、マルゲリータ。
俺は一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。
彼女の言葉が咀嚼出来た時、俺は信じられないものを見る目で彼女を睨みつけ、食ってかかった。
「俺がパーティーに参加したら、チームワークが崩れて全滅する危険が跳ね上がるからって、俺を排除したのはそっちだろ!?」
「それでも、彼女が本当に大切だったら、私達の事なんて無視して、弟の事なんて気にしないで、無理矢理にでも参加して彼女を守ったはず。
そこまで出来なかったって事は、貴方の彼女への気持ちはその程度だったって事よ」
「何を言っている!?」
──ダメだ、話にならない。
もし彼女が言う通りに無理矢理参加していたとしても、今度は無理な参加が原因で失敗した、と結局は俺が悪者にされるだけだ。
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