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光道真術学院【マラナカン】編
二十一
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ロニーは購買部に向かっていた。
あの場所に留まり、ネチネチと文句を言われるのは、精神衛生上よくないと判断した結果である。
途中で数人ほど、見慣れない顔とすれ違う。
不振には思ったが、この学院に長く勤めている訳ではない、考えすぎと思う事にした。
面識がない出入りの業者や、営業関係の人間という可能性もある。そう自らを納得させ、気にせず通り過ぎる。
購買部で用事を済ませた後、階段を下る途中の踊り場で、珍しい組み合わせの三人が、何やら話し混んでいる。
足早に戻っても、と言う気持ちに加え、組み合わせの面白さというものが加味され、ロニーは声を掛ける。
「おまえら知り合いだったんか?」
踊り場で話す三人は、直前から彼が近づいて来るのを気付いていたせいもあり、特に驚いた様子はない。
その三人とは……アリスとミスティ、そしてクラウディオである。珍しいと感じたのは勿論クラウディオだ。
彼が教室外で誰かと話すという、そんな光景を見たのはこれが初めてであった。
外見は、人当たりのよさそうに見えるのだが、不思議と教室外で誰かと行動を共にする、そのような行為を好んでいないようにも見えた。
そんな彼を不思議に感じていたという事もあり、声をかけるにいたった。
「……そうですね。アリスさんがあまりにも魅力的でしたので声をかけさせてい貰いました?」
クラウディオの返しに「もう、上手いんだからっ」とアリスが手を叩いて喜ぶ。
美少女と言えるミスティではなく、どちらかというと……の方をチョイスするとは、モテるであろう男の行動に、なんとなく納得の行かない納得を強いられるロニーであった。
「あぁ、そう。邪魔したな……」
自身の体から漂う負け犬臭……声を掛けなければよかったという後悔に苛まれ、その場を後にしようと――その時、信じられない爆発音が四人の鼓膜と校舎を震わせた。
「ドオオォォーーーン!」
瞬時に、爆発音の方へ駆け出すロニー。
呆気に取られていた他の三人も、つられてロニーを追いかける。
「先生!何が」
アリスが叫ぶ。
「知るかよ。お前らついてくるな!」
ロニーは、走る速度を落とすことなく、三人の生徒に注意する。
「人道的な被害が出ているのであれば、一人でも多い方がいいと思いますが」
「……」
あくまで冷静なクラウディオの忠告に、ロニーは自身の浅慮を反省しつつ思い直す。
「そうだな……でも状況次第では直ぐに引き返せよ」
爆発音がした校舎へ近づく四人。
生徒の驚きの叫びは聞こえて来るのだが、不幸中の幸いか、爆発音のした校舎は高等部・中等部が使用している為、生徒が巻き込まれたという事はなさそうだ。
近づくにつれ、煙にまみれ、進行方向への視界が極端に狭く悪くなり、全力で駆け抜ける事は不可能に。
しばらく進むと、ようやく全貌が見え始めた。
校舎の上部は半壊しており、美しいと言われていたマラナカンは見るも無残な姿に。
「酷い…」
ミスティの感想に、残りの面子も頷くのみ。
「とにかく、要救助者が居ないか確認だ。幸い、炎が燃え盛っているわけでも――」
言葉にしたロニーは勿論の事、クラウディオ、アリス、ミスティは同時にあることに気づく。
「「「「(火が出ていない!)」」」」
四人の背筋に嫌な汗が流れるのと同時に、ロニーが「避けろ!」と叫ぶ。
四人はそれぞれの判断で散開。
瞬間、突如現れた青白い炎が、けたたましい破壊音を引き連れて、四人の居た場所を蹂躙していく。
炎の軌道上に、設置されていた机からは白煙が立ち上り、破壊された部分は綺麗と言えるほどに、鋭く抉り取られ、その姿を変えていた。
だが……不思議な事に火が燃え盛るという事はない。
この現象が示す理由は一つ。
四人は白煙が揺らぎ、薄く消えゆく【ソレ】を見る。
白煙の向こうにユラユラと揺れる影――ぼんやりと映り始めていくシルエットは人の二倍程の大きさをもった。
「救災害……」
誰が呟いたのか、四人の緊張感は最大限に高まり張り詰めていた。
「チッ、逃げろ!」
ロニーの苦し紛れの台詞に、先んじて先手を取ったのはシルエットだ。
呆気に取られていたアリスの思考は鈍り、逃げる機会が喪失する。
表れたその姿は輪郭のおぼろげな羆のような何かであった。
一番の特徴は頭部、まるで道化師のペイント。醸し出す恐怖と馬鹿馬鹿しさが同居する異形。
例えていうなら羆。その形を持つ異形は、幹のように太い腕を振りあげ、鋭利な爪牙をアリスに対し振り下ろす。
「…アリス…ちゃん!」
ミスティの悲鳴と同時に、アリスは恐怖から両目を閉じてしまう。
生存本能からか、少しでも衝撃をやわらげる為に体を丸めた。
鈍重な衝撃がアリスの体を吹き飛ばす、弾き飛ばされた体は横の壁に直撃する。
大きな音を立て、打ち付けた体の痛みに耐えながら、アリスは違和感を抱く。
鋭い爪にやられたにしては肉の裂かれた実感がない。
あまりの酷さに脳内麻薬が溢れだしているのかも知れない等と、意外と冷静な思考の途中に【パンッ】と頬を叩かれる。
「何やってんだ、早く立て!」
恐る恐る目を開けた先にはロニーが。
彼はすぐさま振り返り、相手と対峙。
アリスの瞳に映る彼の背中は、肩から腰に掛けて裂かれ、血だらけの様相。
あの瞬間に、アリスを襲った鈍重な衝撃は、異形によるものではなく、自らを顧みずに突き飛ばしたロニーによるものであった。
「あんた……」
だが、異形が空気を読んで待つということはない。
もう片方の手を上げ、ロニーに爪牙を振り下ろそうと踏み込む。
瞬間、ロニーのつま先が発光。
異形の踏み込む足が地面に付く瞬間に、ロニーはしゃがみ込みながら回転蹴りで足を払う、着地する筈の地面を失った異形は、盛大な音を立てながらバランスを崩し倒れこむ。
「(流石ですね……つま先にのみ、光道力を集めることで顕現せずに対応しますか……しかし、それもどこまで持つか……)」
その立ち位置を狙ったわけではないが、比較的遠い場所に立つクラウディオは、ロニーの流れるような体技に感嘆の声を上げる。
「逃げるぞ!」
すでに立ち上がっていたアリスを促し、異形から距離を取る。
「私が言うのもなんだけど、大丈夫?痛そうだけど」
「大丈夫ではない!イタイ……」
「…先生…つかま…って…」
駆け寄ってきたミスティは心配そうな表情でふらつくロニーを支える。
「まぁ、でも傷はいつか治るからね、大丈夫よ。男だし」
「てめぇ……」
アリスは既に冷静さを取り戻したらしい、いつもの雰囲気に戻っていた。
「お前な……他に言う事無いのかよ。助けてやったんだぜ」
ふらつきながらも異形と距離をとる事には成功したのだが……。
倒れていた異形はゆっくりと起き上がった。
「ウウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーーーーーーーーアアアアアアアアアアアアアアア!」
如何とも形容しがたい禍々しい獣の咆哮。
「怒ってらっしゃる。こりゃ、やべえなぁ……」
ロニーにとって先ほどの蹴りが現状できる精一杯の抵抗。だが、異形は攻撃を受けたロニーに標的を絞る。
「(こりゃヤバいな……)おい、二人とも離れろ!」
アリスとミスティは、彼が覚悟を決めて自分たちを助けようとしていることを感じ取った。
「…でも…」
「ちょっと、何かないわけ。あんた四番隊の副隊長だったんでしょう?」
驚いたロニーがアリスに顔を向けた。
「良く調べたな……」
「調べるも何も、超有名な話みたいじゃない。聞いてもいないのにペラペラペラペラ、この街の人はおしゃべりかよ!」
「たまたまだろ」
「なにも、あんな言い方しなくても……ごめん」
ロニーは微笑む、こいつでも気を使うんだなと――アリス達が、その話を聞いたという事は、同じように自分の違う話も聞いたのだろう。謝罪はそういう意味だと捉えた。
「……見たんだろ?俺の背中」
アリスの表情が曇り、絶句し俯く。
正直、彼の背中は血まみれで【それ】の確信は持てなかったのだが、彼の言葉は最悪の予想を肯定した。
【罪人の印・ギルトマーク】罪を犯した者が施される光道力を制御又は封印される術式。
ミスティは直接的には【それ】を見てはいない。しかし、二人の会話と噂されている事を合わせると、ある程度の予想はついてしまう。
「最後なんてこんなもんさ、お前らがもし一桁騎士団に入隊出来たら【真実】も分かるかもな……」
覚悟を決めたロニー。
勝てないまでも多少の時間稼ぎならば出来るであろう。
残りは駆けつけてくるはずのアンドレアに任せればいい。
おやっさんと女将さんには申し訳ないが――ここで逃げるという選択肢は選べない……彼は思う、最後の最後で誰かを守ってというのは、最高の終わり方なのかもな、と。
「…そん…な…」
「ちょ……」
「いけ!早くっ!」
近づく異形の体からあふれ出た禍々しさがピークに達する。
微笑んだロニーが二人の背中を押した、その時――
「あのー、盛り上がっているとこ申し訳ないんですけど、たぶん大丈夫ですよ」
クラウディオのいつもと変わらぬ声に三人は間のぬけた表情を浮かべる。
「我世界に問う、その真実を――【顕現・けんげん】――」
光道真術は、この世界において救災害に唯一対応できる手段である。
それは誰もが出来る事ではなく、マラナカンなどで厳しい修練の後に体得するものであった。
しかし、クラウディオは【世界の理】と呼ばれる経を唱えたのだ。
彼の背後に現れる光の兵士、その光にのみ込まれるよう彼の輪郭がぼやけていく。
フラッシュが焚かれたよう発光の後に白銀の兵士は降臨した。
「……使えるなら最初から使えよ」
怪我の影響か、そうぼやくのが精一杯のロニーであった。
突如現れた新たな敵に、異形は狙いを変更し、獰猛な口を限界まで開く。
集約する青い炎が吐き出された。
「―【舞い踊れ、風の意味を知れ】―」
クラウディオに向かい放たれた炎は、着炎する寸前で停止。炎に纏わりついた風がそれ以上の進行を許さない。
そうあることが有り得ない光景は、幻想的な時間を作り出した後、炎を霧散させた。
「……出来るんなら、初めからやれよ!」
「すいません。これでも一応、この事は隠さないといけない事情もありますので。それに、ある程度予想していたんでしょう?」
顕現中のクラウディオからは、表情が読むことは出来ないのだが、あからさまに楽し気な口調に、今の彼がどのような表情なのかは分かってしまう。
「わかるかよ……」
二人の会話だけを聞いているのであれば、とても穏やかな時間が流れているみたいに感じるだろう。
現にアリスとミスティは、自分たちが置かれている立場を一瞬忘れかけていたほどだ。
馬鹿にされたと感じたわけではないであろうが、異形が咆哮……しかけたが。その身体は微かに震えるだけで、自らの身体が動ない事に気づく。
「一応聞くけど、そのまま殺れんの?」
クラウディオは聞くまでもないでしょうと肩を竦めた。
「……だよな」
異形の周りには、クラウディオの操る風の層が幾重にも重なり、その身体を絡めとっていた。
そのまま、クラウディオが拳を握る仕草に合わせて、その風は鋭利な刃となり徐々に異形を切り裂き、空気の壁が質量を圧縮していく。
唸り苦しみの声を上げる羆の形をした異形は、数秒後に光る石を残し跡形もなくなってしまった。
過ぎ去った危機的状況に、身体から力が抜け落ちる三人。
疲れ切ったロニーは、その場に座り込む。
誰も何も言わない静かな時間……その時、隣の教室から【ドンッ】という人が倒れたような音が聞こえる。
【素面・しらふ】クラウディオが解呪の経を唱えると瞬時に元の姿に。
「では行きましょうか」
クラウディオの問いかけに「何処に?」とは誰も言葉にすることはなかった。当然の事として隣の教室に向かう。
「ああ、そうだロニーさん。怪我をなさっているのでしたね、どうです肩をお貸ししましょうか?」
にっこり微笑み手を差し伸べてきたクラウディオの腕をはじくと、ロニーはゆっくりと歩き出した。
「悪いけど男と寄り添う趣味は無いんでな」
そう言うとロニーはミスティ寄りかかる。
「キャッ」という可愛らしい悲鳴と、「え?あたしじゃね」という不満の声。
「そうですか、残念ですねー」
それがどういう意味だか、三人は真意を測りかねる。
ロニーは色々な意味でうすら寒さを感じるのであった。
あの場所に留まり、ネチネチと文句を言われるのは、精神衛生上よくないと判断した結果である。
途中で数人ほど、見慣れない顔とすれ違う。
不振には思ったが、この学院に長く勤めている訳ではない、考えすぎと思う事にした。
面識がない出入りの業者や、営業関係の人間という可能性もある。そう自らを納得させ、気にせず通り過ぎる。
購買部で用事を済ませた後、階段を下る途中の踊り場で、珍しい組み合わせの三人が、何やら話し混んでいる。
足早に戻っても、と言う気持ちに加え、組み合わせの面白さというものが加味され、ロニーは声を掛ける。
「おまえら知り合いだったんか?」
踊り場で話す三人は、直前から彼が近づいて来るのを気付いていたせいもあり、特に驚いた様子はない。
その三人とは……アリスとミスティ、そしてクラウディオである。珍しいと感じたのは勿論クラウディオだ。
彼が教室外で誰かと話すという、そんな光景を見たのはこれが初めてであった。
外見は、人当たりのよさそうに見えるのだが、不思議と教室外で誰かと行動を共にする、そのような行為を好んでいないようにも見えた。
そんな彼を不思議に感じていたという事もあり、声をかけるにいたった。
「……そうですね。アリスさんがあまりにも魅力的でしたので声をかけさせてい貰いました?」
クラウディオの返しに「もう、上手いんだからっ」とアリスが手を叩いて喜ぶ。
美少女と言えるミスティではなく、どちらかというと……の方をチョイスするとは、モテるであろう男の行動に、なんとなく納得の行かない納得を強いられるロニーであった。
「あぁ、そう。邪魔したな……」
自身の体から漂う負け犬臭……声を掛けなければよかったという後悔に苛まれ、その場を後にしようと――その時、信じられない爆発音が四人の鼓膜と校舎を震わせた。
「ドオオォォーーーン!」
瞬時に、爆発音の方へ駆け出すロニー。
呆気に取られていた他の三人も、つられてロニーを追いかける。
「先生!何が」
アリスが叫ぶ。
「知るかよ。お前らついてくるな!」
ロニーは、走る速度を落とすことなく、三人の生徒に注意する。
「人道的な被害が出ているのであれば、一人でも多い方がいいと思いますが」
「……」
あくまで冷静なクラウディオの忠告に、ロニーは自身の浅慮を反省しつつ思い直す。
「そうだな……でも状況次第では直ぐに引き返せよ」
爆発音がした校舎へ近づく四人。
生徒の驚きの叫びは聞こえて来るのだが、不幸中の幸いか、爆発音のした校舎は高等部・中等部が使用している為、生徒が巻き込まれたという事はなさそうだ。
近づくにつれ、煙にまみれ、進行方向への視界が極端に狭く悪くなり、全力で駆け抜ける事は不可能に。
しばらく進むと、ようやく全貌が見え始めた。
校舎の上部は半壊しており、美しいと言われていたマラナカンは見るも無残な姿に。
「酷い…」
ミスティの感想に、残りの面子も頷くのみ。
「とにかく、要救助者が居ないか確認だ。幸い、炎が燃え盛っているわけでも――」
言葉にしたロニーは勿論の事、クラウディオ、アリス、ミスティは同時にあることに気づく。
「「「「(火が出ていない!)」」」」
四人の背筋に嫌な汗が流れるのと同時に、ロニーが「避けろ!」と叫ぶ。
四人はそれぞれの判断で散開。
瞬間、突如現れた青白い炎が、けたたましい破壊音を引き連れて、四人の居た場所を蹂躙していく。
炎の軌道上に、設置されていた机からは白煙が立ち上り、破壊された部分は綺麗と言えるほどに、鋭く抉り取られ、その姿を変えていた。
だが……不思議な事に火が燃え盛るという事はない。
この現象が示す理由は一つ。
四人は白煙が揺らぎ、薄く消えゆく【ソレ】を見る。
白煙の向こうにユラユラと揺れる影――ぼんやりと映り始めていくシルエットは人の二倍程の大きさをもった。
「救災害……」
誰が呟いたのか、四人の緊張感は最大限に高まり張り詰めていた。
「チッ、逃げろ!」
ロニーの苦し紛れの台詞に、先んじて先手を取ったのはシルエットだ。
呆気に取られていたアリスの思考は鈍り、逃げる機会が喪失する。
表れたその姿は輪郭のおぼろげな羆のような何かであった。
一番の特徴は頭部、まるで道化師のペイント。醸し出す恐怖と馬鹿馬鹿しさが同居する異形。
例えていうなら羆。その形を持つ異形は、幹のように太い腕を振りあげ、鋭利な爪牙をアリスに対し振り下ろす。
「…アリス…ちゃん!」
ミスティの悲鳴と同時に、アリスは恐怖から両目を閉じてしまう。
生存本能からか、少しでも衝撃をやわらげる為に体を丸めた。
鈍重な衝撃がアリスの体を吹き飛ばす、弾き飛ばされた体は横の壁に直撃する。
大きな音を立て、打ち付けた体の痛みに耐えながら、アリスは違和感を抱く。
鋭い爪にやられたにしては肉の裂かれた実感がない。
あまりの酷さに脳内麻薬が溢れだしているのかも知れない等と、意外と冷静な思考の途中に【パンッ】と頬を叩かれる。
「何やってんだ、早く立て!」
恐る恐る目を開けた先にはロニーが。
彼はすぐさま振り返り、相手と対峙。
アリスの瞳に映る彼の背中は、肩から腰に掛けて裂かれ、血だらけの様相。
あの瞬間に、アリスを襲った鈍重な衝撃は、異形によるものではなく、自らを顧みずに突き飛ばしたロニーによるものであった。
「あんた……」
だが、異形が空気を読んで待つということはない。
もう片方の手を上げ、ロニーに爪牙を振り下ろそうと踏み込む。
瞬間、ロニーのつま先が発光。
異形の踏み込む足が地面に付く瞬間に、ロニーはしゃがみ込みながら回転蹴りで足を払う、着地する筈の地面を失った異形は、盛大な音を立てながらバランスを崩し倒れこむ。
「(流石ですね……つま先にのみ、光道力を集めることで顕現せずに対応しますか……しかし、それもどこまで持つか……)」
その立ち位置を狙ったわけではないが、比較的遠い場所に立つクラウディオは、ロニーの流れるような体技に感嘆の声を上げる。
「逃げるぞ!」
すでに立ち上がっていたアリスを促し、異形から距離を取る。
「私が言うのもなんだけど、大丈夫?痛そうだけど」
「大丈夫ではない!イタイ……」
「…先生…つかま…って…」
駆け寄ってきたミスティは心配そうな表情でふらつくロニーを支える。
「まぁ、でも傷はいつか治るからね、大丈夫よ。男だし」
「てめぇ……」
アリスは既に冷静さを取り戻したらしい、いつもの雰囲気に戻っていた。
「お前な……他に言う事無いのかよ。助けてやったんだぜ」
ふらつきながらも異形と距離をとる事には成功したのだが……。
倒れていた異形はゆっくりと起き上がった。
「ウウウウウウウウウウウウウーーーーーーーーーーーーーーーーアアアアアアアアアアアアアアア!」
如何とも形容しがたい禍々しい獣の咆哮。
「怒ってらっしゃる。こりゃ、やべえなぁ……」
ロニーにとって先ほどの蹴りが現状できる精一杯の抵抗。だが、異形は攻撃を受けたロニーに標的を絞る。
「(こりゃヤバいな……)おい、二人とも離れろ!」
アリスとミスティは、彼が覚悟を決めて自分たちを助けようとしていることを感じ取った。
「…でも…」
「ちょっと、何かないわけ。あんた四番隊の副隊長だったんでしょう?」
驚いたロニーがアリスに顔を向けた。
「良く調べたな……」
「調べるも何も、超有名な話みたいじゃない。聞いてもいないのにペラペラペラペラ、この街の人はおしゃべりかよ!」
「たまたまだろ」
「なにも、あんな言い方しなくても……ごめん」
ロニーは微笑む、こいつでも気を使うんだなと――アリス達が、その話を聞いたという事は、同じように自分の違う話も聞いたのだろう。謝罪はそういう意味だと捉えた。
「……見たんだろ?俺の背中」
アリスの表情が曇り、絶句し俯く。
正直、彼の背中は血まみれで【それ】の確信は持てなかったのだが、彼の言葉は最悪の予想を肯定した。
【罪人の印・ギルトマーク】罪を犯した者が施される光道力を制御又は封印される術式。
ミスティは直接的には【それ】を見てはいない。しかし、二人の会話と噂されている事を合わせると、ある程度の予想はついてしまう。
「最後なんてこんなもんさ、お前らがもし一桁騎士団に入隊出来たら【真実】も分かるかもな……」
覚悟を決めたロニー。
勝てないまでも多少の時間稼ぎならば出来るであろう。
残りは駆けつけてくるはずのアンドレアに任せればいい。
おやっさんと女将さんには申し訳ないが――ここで逃げるという選択肢は選べない……彼は思う、最後の最後で誰かを守ってというのは、最高の終わり方なのかもな、と。
「…そん…な…」
「ちょ……」
「いけ!早くっ!」
近づく異形の体からあふれ出た禍々しさがピークに達する。
微笑んだロニーが二人の背中を押した、その時――
「あのー、盛り上がっているとこ申し訳ないんですけど、たぶん大丈夫ですよ」
クラウディオのいつもと変わらぬ声に三人は間のぬけた表情を浮かべる。
「我世界に問う、その真実を――【顕現・けんげん】――」
光道真術は、この世界において救災害に唯一対応できる手段である。
それは誰もが出来る事ではなく、マラナカンなどで厳しい修練の後に体得するものであった。
しかし、クラウディオは【世界の理】と呼ばれる経を唱えたのだ。
彼の背後に現れる光の兵士、その光にのみ込まれるよう彼の輪郭がぼやけていく。
フラッシュが焚かれたよう発光の後に白銀の兵士は降臨した。
「……使えるなら最初から使えよ」
怪我の影響か、そうぼやくのが精一杯のロニーであった。
突如現れた新たな敵に、異形は狙いを変更し、獰猛な口を限界まで開く。
集約する青い炎が吐き出された。
「―【舞い踊れ、風の意味を知れ】―」
クラウディオに向かい放たれた炎は、着炎する寸前で停止。炎に纏わりついた風がそれ以上の進行を許さない。
そうあることが有り得ない光景は、幻想的な時間を作り出した後、炎を霧散させた。
「……出来るんなら、初めからやれよ!」
「すいません。これでも一応、この事は隠さないといけない事情もありますので。それに、ある程度予想していたんでしょう?」
顕現中のクラウディオからは、表情が読むことは出来ないのだが、あからさまに楽し気な口調に、今の彼がどのような表情なのかは分かってしまう。
「わかるかよ……」
二人の会話だけを聞いているのであれば、とても穏やかな時間が流れているみたいに感じるだろう。
現にアリスとミスティは、自分たちが置かれている立場を一瞬忘れかけていたほどだ。
馬鹿にされたと感じたわけではないであろうが、異形が咆哮……しかけたが。その身体は微かに震えるだけで、自らの身体が動ない事に気づく。
「一応聞くけど、そのまま殺れんの?」
クラウディオは聞くまでもないでしょうと肩を竦めた。
「……だよな」
異形の周りには、クラウディオの操る風の層が幾重にも重なり、その身体を絡めとっていた。
そのまま、クラウディオが拳を握る仕草に合わせて、その風は鋭利な刃となり徐々に異形を切り裂き、空気の壁が質量を圧縮していく。
唸り苦しみの声を上げる羆の形をした異形は、数秒後に光る石を残し跡形もなくなってしまった。
過ぎ去った危機的状況に、身体から力が抜け落ちる三人。
疲れ切ったロニーは、その場に座り込む。
誰も何も言わない静かな時間……その時、隣の教室から【ドンッ】という人が倒れたような音が聞こえる。
【素面・しらふ】クラウディオが解呪の経を唱えると瞬時に元の姿に。
「では行きましょうか」
クラウディオの問いかけに「何処に?」とは誰も言葉にすることはなかった。当然の事として隣の教室に向かう。
「ああ、そうだロニーさん。怪我をなさっているのでしたね、どうです肩をお貸ししましょうか?」
にっこり微笑み手を差し伸べてきたクラウディオの腕をはじくと、ロニーはゆっくりと歩き出した。
「悪いけど男と寄り添う趣味は無いんでな」
そう言うとロニーはミスティ寄りかかる。
「キャッ」という可愛らしい悲鳴と、「え?あたしじゃね」という不満の声。
「そうですか、残念ですねー」
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それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま
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僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
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本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
家庭菜園物語
コンビニ
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お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。
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